大江戸騒動記~棟平屋の軌跡~   作:社畜のきなこ餅

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ノリと勢いで二時間ぐらいで書き上げました。
時代考証とかの細かい事は忘れて頭空っぽにして読む事推奨です。


求.悪事にどっぷり加担してしまった儂が幕府八代将軍の処刑用BGMから逃れる方法

 時は江戸時代、天下泰平の世の事。

 儂こと棟平藤兵衛は、幕府のお膝元と言える江戸の町の一等地に建てられた屋敷の縁側にて、春の陽気を一身に浴びていた。

 

 

「新右衛門よ」

 

「ハッ、何でございましょうか」

 

「正直儂な、勝ち組だと思うんじゃよ。色々不幸な事もあったが財も蓄えられたし、子宝にも恵まれたからのう」

 

「勝ち組というのが何を指すのか、浅学ながらわかりませぬがめでたき事かと存じまする」

 

 

 堅苦しい物言いを崩さない若武者のような風貌の新右衛門の言葉に、今年で33を迎えた儂は含み笑いを漏らしながら手を叩き。

 女中を呼び出すと茶と茶菓子を二人分用意するよう伝える。

 

 

「ほれ新右衛門もそんなところに立っておらずこちらに腰掛けい、天に昇る龍のように上昇志向フルスロットルな儂の屋敷に踏み込む輩など居らぬからの」

 

「……それでは失礼仕る、されどそのふるすろっとる。という言葉は?」

 

「ああ、南蛮渡来の書物に載っておったんじゃよ。向かうところ敵なしと言う意味じゃて」

 

 

 真っ赤な嘘をさらりと言いつつ、堅苦しく隣に新右衛門が腰掛けてきたタイミングで出来た女中がお茶と茶菓子を持って現れる。

 盆をそっと置いた時に女中の着物に包まれた胸もボインと揺れたのがたまらんわい。

 

 そう、儂こと藤兵衛。どこに出しても恥ずかしくない転生野郎である。

 割と風前の灯火だった商家の跡取りとして産まれた時は絶望したものだが、長く語れば自伝が5~6冊かける程度の笑いありチートあり涙ありムフフありのサクセスの末に。

 今では江戸を代表すると言っても過言ではない大店にまで、家を盛り立てたのだ。

 

 その最中でボインボインな美女を複数女中として迎え入れたり、夜な夜なよいではないかと帯回しに興じたりしているが役得だから見逃してもらいたい。

 

 

 ああしかしホント良い陽気だ、お茶も旨けりゃ茶菓子も旨い。

 生活環境も銭に物言わせて改善したし、栄養考えた食事を摂りつつ昼も夜も大運動で健康溌剌。

 数か月前に長男も生まれたし、いやあもうコレこのまま儂の人生スタッフロールが流れてもいいんじゃないかってぐらい、順風満帆。

 

 

 

 そんなたわけたこと考えていた時が、儂にもありました。

 そう、ソレは夜に屋敷一番のナイスバディなボイン女中、お玉と閨に入っていた時の事。

 

 

「た、大変です!大変でござりまする!!」

 

「えぇいどうした騒々しい!」

 

「越前後屋の主人と番頭が処罰されました!」

 

 

 マジかよ嘘だと言ってよ新右衛門!?

 え、マジ? 上様直属の武士が越前後屋の屋敷に踏み込んで大立ち回りしてアイツぶった切られたの?

 

 マジかよ、あの主人とは賄賂を贈ったり贈られたりする仲だったのに。

 

 

 この時はそのぐらいに呑気に考えておった、割と仲は良かったがアイツの女遊びの後始末の酷さに、何度こっそり捨てられた娘さんの支援とかやったかわからんかったしな。

 だけど悲しい事に、これで終わりじゃなかったのである。この騒動。

 

 

 

 

「しかしまぁ、おっかない事もあるもんじゃなぁ」

 

 

 越前後屋と通じておった老中が、その事実をどこからともなく入手してきた上様に切腹を命じられたという旨が描かれた瓦版を読みつつ。

 儂は行儀が悪いと知りながら、若い頃から懇意にしている蕎麦屋に変装して足を運び、かけそばを啜っておったんじゃが……。

 

 

「隣、失礼する」

 

「おお、気にせんでくださ……?!」

 

 

 見事な男前の髷を結った偉丈夫、身なりからどこかの旗本の息子のような男に声をかけられ少し席をずらしたんじゃが。

 

 

 隣に座って来たの、マツケンじゃった。

 

 

「どうされた? どこか体調が悪いのでは?」

 

「い、いいい、いえいえいえいえ、そんな事めっそうございませんとも。この藤ノ助生まれてこの方病を患った事がないのが自慢であるゆえ!」

 

 

 全力で不審者やってる儂を気遣うマツケン、そして全力で何事もない事を主張する儂。

 当代の将軍様が吉宗公である事は知っておったけど、まさかのマツケンかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?

 

 

「主人!代金はここに置いていくぞ!」

 

「おや藤の旦那もういいのかい? いつもならもう2杯平らげた上に天婦羅まで食ってくのに」

 

「は、ははは!そう言えば今日は女房が腕に縒りをかけて作ると言ってたからの! 然らば御免!」

 

 

 背中が汗でベッタベタな上に顔中冷や汗まみれにしながら店主に代金を渡すと、儂全力疾走で店から脱出。

 悪党スレイヤーの代名詞と言えるマツケンと同じ空間になんていられるか!儂は屋敷に戻らせてもらう!!

 

 

 

 そして脇目も振らず全力疾走の後、儂屋敷に全力でエントリー。門番に指示を出して門を閉ざすよう指示を出すと急いで仕事部屋へと籠る。

 

 

「この資料はマズイ、これもマズイ!アレもマズイというかマズイものしかねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 頭を抱えて儂絶叫、その声に釣られて新右衛門や女中がやってきたが気にするなと怒鳴って下がらせる。

 自慢じゃないが儂は全力で頚を切られる分り易い悪事はやっておらん、胸を張ってそれだけは言える。

 

 だがしかし、細かい悪事をやってないとは自信を持って言えんのである。

 

 口減らしで捨てられた子供に仕事を仕込んで、住み込みの上に薄給で働かせる事なんてしょっちゅうじゃし……。

 今も部屋の外で控えておる新右衛門なんて、思い付きで中途半端な知識を基に護衛として仕上げて便利にコキ使っておる有様じゃ。

 

 更に転生者の特権とも言える知識で、ふわっふわな知識を基に銭をばら撒いて医者をこき使って出来た抗生物質を、独占状態で売ったりしておる。

 医師達を家族ごと抱き込んで医師団みたいに便利に使っておるから技術も拡散もされておらぬわ、良心的な価格で庶民達を診るように言うてはおるけど……!

 

 トドメが、薬で治せる範囲の病に冒された遊女を安く叩き買いした上に、棟平屋傘下の茶屋で働かせてる上に……。

 店に顔を出した時はそりゃもう濃厚なサービスを受けておる、だってしょうがないじゃない男は皆スケベじゃもの!!

 

 

「これどう見ても人身売買とか独占禁止法的なものに抵触しておるよなぁ……薬の技術門外不出にして値段吊り上げておるし」

 

 

 コレどう考えても、デーンデーンデーンされる案件じゃよな。

 上様の名を騙る不届き者め、斬れい!斬ってしまえい!って言った儂がズンバラリンされるヤツじゃよな。

 

 ワンチャン、大火事の時に棟平屋傘下の店の元遊女やら抱えておる医師団やら店の丁稚フル動員して炊き出しやら、職の斡旋した事で見逃してもらえんじゃろうか……。

 いやじゃいやじゃ、ようやっと産まれた跡取り息子に店を預けるまで死ねんし。ポコジャカ女中に産ませた娘達の白無垢姿見るまで死ねんのじゃぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 しかし結局、良い手などひとっつも浮かばなんだわ。アホの考え休むに似たりとは良く言うたものじゃな。

 というわけで儂閃いた。

 

 

 翌朝新右衛門にちょっくらひとっ走りしてもらって、貧乏旗本の三男坊という触れ込みの徳田新之助をちょちょいと傘下の茶屋に呼び出してもらう。

 上様を商人が呼び出すなんて不遜極まりないしそれだけで打ち首案件な気もするが、背に腹は代えられんよな?だから儂は悪くない。

 

 この時点で大博打だったのじゃが、上手い事新右衛門が話してくれたのか呼び出しに成功。ナイスだ新右衛門、褒美は番頭に預けておるからちゃんと受け取っておけよ。

 

 

「こちらでお客様がお待ちでございます、旦那様……本当に往かれるのですか?」

 

「うむ、世話になったのう牡丹。はよう良人を見つけるんじゃぞ」

 

 

 茶屋の奥間、いわゆる秘密の会談をする為の部屋の隣にて準備万端の儂に元遊女の牡丹が、今にも泣きそうな顔で問いかけてくる。

 正直後ろ髪引かれるってレベルじゃないが、もうこれしかねーと思うんじゃよ儂。

 今の儂の恰好? 身を清めて死に装束状態じゃよ。

 

 

「客人、失礼するよ」

 

 

 ともあれ天下の将軍様を待たせるワケにもいかんので、一声かけて中へと足を踏み入れる。

 新右衛門は見事な仕事をしたようで、ちゃんとマツケンを呼び出してくれたようじゃ……長年の勘じゃがコレ、屋根裏に誰か知らんが忍びが居るな。

 

 

「っ……まさか、そこまでの覚悟があるとは」

 

 

 マツケンが小さく息を呑み、何かを呟くが一杯一杯の儂にはよく聞き取れんかったわ。

 いやじゃー死にたくない!死にたくなーい!とは今でも思っておるもん。

 

 

「この度は突然の呼び立て、大変失礼致しました」

 

 

 軽く深呼吸しマツケンの対面に座り、平伏する。

 ド派手にやらかして散って息子に継がせる棟平屋を潰すワケにはいかん、故にこその『儂の首一つでどうか赦してチョンマゲ』作戦!!

 さぁ、言うぞ。覚悟を決めて。

 

 

「虫の良すぎる話だとは思いますが、どうか儂の首一つでお許し下され。すべては儂の責任で店の者も家族にも咎は背負わせておらぬのです」

 

「民の為に心を砕く棟平屋の主人である其方が、そこまで思い詰めるとは一体何があったのだ?」

 

 

 ……へ?

 

 

「……は?」

 

「……む?」

 

 

 平伏してた顔を上げてマツケンの顔を見上げれば、ハトが大砲食らったかのような唖然顔。多分儂も同じ顔。

 

 

「あの……儂の悪行を、お裁きになられないので?」

 

「淫蕩に耽る事はどうかと思えど、お主の命を取るような裁きを下す事はないのだが……」

 

 

 

 

 

 盗み聞き対策としてしっかり締め切ってる筈の、茶屋の奥間に一陣の風が吹き抜けた気がした。

 

 

 首を差し出す覚悟した儂の純情と覚悟返して。

 

 




コレは果たして被殺願望杯作品と言えるんだろうか(根本的な疑問)

現在の設定構築に伴い、藤兵衛の年齢が40から33に変更となりました(2021年7月25日)

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