今後もこんな感じに不定期な更新になるかもしれませんが……完結までは走ります!
時は江戸時代、天下泰平と言うものは考えるのではなく感じるものだと思い始めた今日この頃。
儂こと棟平藤兵衛は貧乏旗本の三男坊と言い張っているマツケンと、今日も今日とて見回りと称したサボりにやってきた八丁堀の旦那こと野生の中村様と共に飯屋にて料理に舌鼓を打っておった。
しかしこう、中村様……徳田新之助が当代将軍である事気付いておるっぽいのに、もはやサボりを隠そうとしてないのは図太いのか逞しいのかようわからんのう。
「今日は儂の奢りじゃぁ!じゃんじゃん飲み食いするが良いぞぉ!宵越しの銭は無粋じゃからな!!」
「よっ大将!太っ腹ぁ!」
「どうせなら、見てみたい藤の一つ蔵!!」
「構わんわい!何なら隣も向こう隣の店もまとめて奢ってやるわ!」
儂の景気の良い啖呵に店に居合わせた江戸っ子達は拍手喝采、どこからともなく飛んできた口上にも叫ぶように返してやれば万雷の拍手と共にヤンヤヤンヤと騒ぎ出す江戸っ子達。
そんな儂の様子に共に顔を見合わせて苦笑いをしている上様と中村様であるが、江戸の経済活動を全力でぶん回してるんだからお目こぼししてほしいのじゃよ。
決して長女と新右衛門の祝言を見届けた興奮と感動とやるせなさが一週間経っても消えず、テンションがぶっとんだままなんかじゃないのじゃよ。いやほんとじゃよ藤兵衛嘘つかない。
ちなみに新右衛門は新婚なので強制的に休みを取らせておるわい、というか棟平屋全体がお祭り騒ぎでどんちゃん騒ぎ状態じゃ。
「しかしよぉ棟平屋、俺としては願ったり叶ったりだけどよぉ……毎日のようにこんな大騒ぎして大丈夫なのか?」
ちびちびと料理をつまみながら酒を味わってた中村様がそんな事を儂に聞いてくる、まぁ確かに連日連夜こんな感じじゃからぶっちゃけ財布へのダメージは決して軽くはないのは事実じゃ。
そう、いつもの儂の財布事情、ならば。
何があったかと言うと、コツコツと準備を進めてきたとある事業が漸く始まったんじゃが…………これがとんでもない爆発的な利益を叩き出しよったんじゃよ。
始まるまでの各所への調整やら牧場の経営やらを考えたらトータルで見るとまだ元は取れてないのは内緒じゃが、今後の利益を可能な限り低く見積もったとしても元が取れるのはそう遠くないという始末と言うのが末恐ろしい。
「競馬、だったか……俺も覗いてみたがあれは凄いな」
「あー……あの馬を競争させるやつ、仕込みは棟平屋だったんだな」
笑みを浮かべながら御猪口の中身を呷り、感想を述べてくれる上様。実はめっちゃ内心ハラハラしておったんじゃけども、こう言ってもらえると色んな意味で安心じゃな!
もし上様とかに悪行としてジャッジされたら、最悪デーンデーンデーン待ったなしじゃもん。
むしろこう、うむ、初動で爆発的な利益を叩き出しすぎたのが恐ろしすぎて……ぶっちゃけて言うとめっちゃ怖え。
自慢じゃないがそれなりに利益を叩き出してる大店の主人である儂がこう言う程の銭なわけで、そうなると変な事考える輩が出かねないわけじゃよ。
それが恐ろしくて敵わないので、全力で散財しながら江戸中に金ばら撒いておるってのもあるんじゃよ。江戸っ子が味方になってくれたら最悪の事態を予防できる可能性が上がるからの。
他にも布石は勿論打ってはあるが取れる手段は全部とっておくくらいが安心じゃからな、最悪儂一人がくたばるなら……いや死にたくはないんじゃが、子供達や嫁達になんかあったら悔やんでも悔やみきれん。
「まぁその内同じような事を始める者も出るでしょうし、そうしたら儲けも減るでしょうな」
「良く言う、仮に真似をしたとしても棟平屋ほどの規模で競馬をやれる店など早々ないだろう」
「……俺も今度見に行ってみるか」
とはいえ初動フィーバーが終われば緩やかに儲けも減る事は想像に難くない故に、お二人にこそっと話してみたら上様に苦笑いされたでござる。
あ、中村様が上様に仕事中は控えた方が良いぞと笑いながら言われて気まずそうにしてる、さすがにそこは止めるんですね。
そんな具合に三人揃って和やかに飲み食いし、かわるがわるやってくる江戸っ子達に酒を注がれたり返杯したりしていたら、店の者が声をかけてきた。
「すいません藤の大旦那様、いつもこの店を贔屓にしてくれてる方がいらしてまして……ご一緒したいと仰られているのですが、よろしいでしょうか?」
「おう? ええぞええぞ、どんとうぉーりーどんとこいじゃよ!」
「棟平屋、お前さんこの前ベロンベロンに酔っぱらった挙句攫われたんだろ? 少しは抑えとけよ……」
店の者の言葉に、がっはっはと笑いながら快諾したら中村様から半ば呆れたような様子で突っ込まれる儂、解せぬ。
大丈夫じゃよまだ儂は意識飛んでおらんし、遊び人の金さんが北町奉行だと気付かないようなレベルであっぱらぱーになっておらんからセーフじゃセーフ。
ともあれそんな儂の様子に店の者はどんとうぉーりー?などと不思議そうに首を傾げつつも、年季の入った所作で下がると一人のかっちりとした着こなしの男性を連れてきた。
その顔、そして立ち姿。
どう見ても加藤剛です、本当にありがとうございました。
すぅぅぅ、と冷える儂の頭。噴き出る冷や汗。
いやいやいやいや待てマテまだ慌てるような時間じゃない、もしかすると相席してきた剣客商売な人かもしれん!いや待てソレはソレでマズイな!!
チラリと上様と中村様へ視線を送る儂。
上様はとても気まずそうにしており、中村様は目を見開き冷や汗を儂と同じレベルで流し小声でお奉行と呟く始末。
どう考えても大岡越前守忠相ですね、なんだこの芸術的としか言えないエンカウント。
……ちょっと待って?今のこの状況って……上様を悪の道に引きずり込んだ上に定町廻り同心と癒着してる悪の商人としか見えなくね?
これ、詰んだかもわからんね。
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月が天に上った夜更け時、江戸の町にある武家屋敷の一室にて二人の男が向かい合って座っている。
一人は徳川幕府当代将軍徳川吉宗、そして南町奉行大岡越前守忠相である。
「忠相、不正に富くじの当たりを操作して詐欺を働いていた者共の仕置はどうなった?」
「はっ、全て恙なく落着しております」
何故二人がこのような場で話をしているのか、それは最近江戸で起きたとある事件が関係している。
時は遡る事藤兵衛が黒檀屋に簀巻きにされ、北町奉行所で遠山金四郎の桜吹雪を目撃して目玉が飛び出る程の衝撃を受けていた頃。
一等ならずとも二等、三等ですら法外な額の銭が当たると評判であった富くじの当たりを引き当てた町民が謎の死を遂げた事があった。
当初は金額に目の眩んだ破落戸の犯行と見られたが、調査の中で違和感を感じた吉宗が大岡忠相に件の富くじについて精査を頼んだところ……。
過去に当たりを引き当てた者は、富くじを運営している寺社の縁者ばかりである事が判明したのである。
そこからは芋蔓式に過去の富くじの不正が暴かれ、『不運』にも当たりを引き当てた事で命を落としてしまった町民の家族の無念は晴らされて一件落着となった。
しかし、内容が内容だけに江戸っ子で手を出していなかった者はいなかった富くじで大規模な不正が行われていたという話は千里を駆け巡ったのである。
その結果、のど元過ぎれば熱さ忘れる江戸っ子とはいえあまりの事件の内容に富くじに流れる筈だった銭は止まり、それがどこに流れたかと言えば。
「しかし……江戸の評判もありますが、今日会って話をしていなければ富くじの事件に棟平屋が絡んでいたのではと、そう思ってしまう程度には競馬とやらの盛況ぶりは凄まじいですな」
「当の本人が一番恐れ戦いているのだ、勘弁してやってくれ」
そう、藤兵衛肝煎りの競馬に射幸心旺盛な江戸っ子達が殺到したのである。
目新しい祭じみた賭け事と言うだけでも江戸っ子の心が大いに擽られるというのに。
日々の暮らしにおける商売や働き口、更には災害時に仏のように世話をしてくれる棟平屋の太鼓判つきとくれば、言わずもがなと言えよう。
実は吉宗は馬術が達者な浪人や御家人の為に馬を用いて平和的に行う勝負事を新興しようと考えていたのだが、それ以上に大規模でかつ愉快な物を友と思っている藤兵衛が仕上げてくれてかなり大満足している。
「そう言えば上様も競馬に随分とご夢中のようですが……徳田新之助と言う名前で、競馬に参加しようなどとは考えておりますまいな?」
「……馬鹿を言うな忠相、そのような事考えるわけがないであろう」
「そう仰られる割に、棟平屋から献上された輝くような白毛の馬で競馬場を意識したように乗馬をされていると。とある筋から聞いておるのですがな」
大岡忠相の言葉に、ぐぬぅという呻き声を漏らしながら口を噤む吉宗。
平たく言うと図星であった。
しかしこの時二人は思いもしていなかった。
後日、め組の親分が一目惚れして手に入れた……立派な鹿毛の馬に乗って競馬に出て欲しいとめ組の親分が吉宗に頼み込むという珍事件が発生する事を。
正史では富くじが江戸で流行ったのは1800年ぐらいらしいですが、暴れん坊将軍本編でも富くじ回があったそうなので結果的にセーフ理論!
……多分セーフ!!
ちなみに余談ですが、吉宗公は騎馬の訓練として打毬(だきゅう)という競技を推奨したというのが実際の歴史であるそうです。
その辺りから、競馬に興味津々なマツケンが出来ました。不思議!!