何時も周囲を振り回してる藤兵衛、しかし周囲も振り回されるばかりではないのです。
志村藩が治める街でありつつも、支配者は江戸の大商人棟平藤兵衛と言われる風変わりな町がある。
その町はまるで京の町のように碁盤状になるよう奇麗に整理された街作りがされている上、適時区画整理がされる事で流動的に今も進化を続けている。
中心部は街の管理を行う役所や研究に学問や医学、それを取り巻くように商業区や居住区。
そして郊外には物流や工業に農畜産業と、効率化を最優先したその作りは江戸の時代においては一線を画すると言っても過言ではない完成度であった。
なお街の区画や配置に初期は藤兵衛も盛んに口を出しては、江戸時代シムシティたーのすぃーー!とテンションアゲアゲであったものの。
途中からは自分が何も言わなくても最大効率を求めるかのように拡張し区画整理されていく街の有様に、少しばかり恐怖しているのは内緒である。
「畑から採れたての新鮮な赤茄子だよ!煮込んでもいいしそのままでも美味しいよ!」
「ちょっとやそっとじゃ折れない欠けない包丁だよ!こんな名品滅多に出ないよ!」
そしてそんな街は今日も滅多に手に入らない、この町ならではの珍品を求めて賑わいを見せている。
しかし一方で、郊外に当たる工業区では作業によって騒然としていながらも人々の喧騒とは離れた空気を保っている。
コレは物珍しさで外から来た連中に技術を盗み見られたくないという職人たちの意地であり、弟子育成ならともかく技術盗用は良くないよなと感じた藤兵衛の計らいによるものであり。
研究区や工業区などは街の中でも壁と門で仕切られており、足を踏み入れられるものは限られているのだ。 そしてよく忍び込もうとした連中が警備部門のモノに捕縛されてはボコられている。
だがしかし、今日この日に限ってはいつもの秩序だった騒がしさとは異なる熱気に工業区は包まれていた。
「新右衛門殿で大体二間、志村の殿様で大体三尺ほどか」
「新右衛門殿は例外としても、あのお殿様でそこまでなら完成……いやそうは言いたくねえなぁ」
藤兵衛思い付き技法により爆誕した鉄筋コンクリート製工房の中で、鉄打ちの親方と絡繰り細工の親方が机に広げた図面を見下ろしながら言葉を交わしている。
「鉄打ちよぉ、お前ならどうする?」
「どうするって言ってもよ、頑丈にすればもっとぶん回せるのはわかるが……重くなっちゃ意味がねえだろ」
「そこなんだよ、かと言って竹や布だと限度があるんだよな」
ちなみにこの二人は自分に任された仕事が無いのを良い事に、やりたい放題に没頭している。
「すいません、遅くなりました!」
「おうおうやっと来たか」
「医学の勉強もあるのにてえへんだな、順之助もよう」
そこに汗だくになって駆け込んでくる少年から青年になろうとしているくらいの男子。
名を西順之助と言い、蘭方医の息子であり西洋医学最先端を突っ走っている棟平の学塾に通っている若き天才だ。
ちなみに藤兵衛はその事を知った時……うちに順之助君居たの?!と心底たまげたらしい。
「人力飛翔機械一号の完成はお前さんの発想あってのモノだったからな、今回も頼りにしてるぜ」
「が、頑張ります!」
「まぁその一号は志村の殿様が覗きに使おうとして盛大にぶっ壊したらしいけどな」
絡繰りの親方がバンバンと盛大に順之助の背中を叩く。
ちなみに絡繰り親方は一度強引に順之助を自分の弟子にしようとし、彼に学問を教えている医療方の教諭に盛大にしばかれた過去を持っている。
「さて、それじゃあまずは設計の洗い直しだ。俺としちゃぁ、ここのクランクと歯車を鉄製に変えてえし回転翼の骨格も鉄にしてえ」
「べらんめえ、だからさっきもソレやると新右衛門殿でも飛ばせないぐらい重たくなるってぇ言っただろうがこのすっとこどっこい!」
「あぁん? やんのかオォン?」
「ぶっ飛ばすぞコルァ!毎日鉄叩いてる親方舐めんじゃねえ!」
「あ、あわわ、落ち着いてください!」
そして始まる何時もの売り言葉に買い言葉な親方同士のメンチの切り合い。
慌てて二人の間に挟まって止めようと頑張る順之助。
そんな彼の奮闘の姿に、自分もあんな感じに振り回されたなぁと言葉を発することなく控えていた見習い少年喜助は工房の天井を見上げた。
「で、でも一番激しく動く漕ぐクランクと歯車は確かに鉄製にしたいですね」
「んでそうなると骨格も鉄にせにゃならん、竹じゃあ間違いなく途中でへし折れる」
「だけどよぉ、鉄ってのは重てえもんだ。竹より頑丈で鉄より軽い素材なんてぇもんがありゃぁいいけどなぁ」
順之助のとりなしで落ち着いた親方二人、そして彼の言葉に絡繰り親方も鉄打ち親方もそれはそうと頷いて頭を抱える。
「なぁ鉄打ちのよう、骨格とか歯車とかよぅ。限界まで鉄薄くしつつ中身空っぽにできねえ? 竹みてえによ」
「そんなん出来るわっきゃねえだろうがべらんめえ! 良くて歯車は木と鉄を組み合わせるにしても、そんな都合の良い加工できるわけ……」
「そっかー、できんのかぁ。この町一番の鉄打ちってぇのは飾りだったかぁ、ごめんな!」
「やってやろうじゃねえかこの野郎!!」
微妙に前に進みながら設計と素材が決まっていく中で、突如絡繰り親方から飛び出す無茶ブリ。
余りにも突拍子もないその内容に鉄打ち親方ができるわけねえと返せば、絡繰り親方がソレはもうがっかりしたと言わんばかりに言葉を吐き出す。
その言葉が鉄打ち親方の誇りと怒りに火をつけたのは言うまでもない。
「おい喜助ぇ! このクソ爺がおったまげるような鉄打つぞ!」
「は、はいぃ!!」
そして安全圏に居ると思っていた喜助、まさかの被弾。
彼はこれから地獄の試行錯誤に付き合わされることとなる。
「よしコレで骨格は大丈夫じゃな」
「ひ、酷い光景を見た気がする……」
「まぁそんな事はさておき、そもそも人が足で漕ぐのも効率悪い気するんじゃよな……」
「また変な事言い出したよこの人」
鉄打ち親方のやる気に火をつける事に成功しほくそ笑んだ絡繰り親方は、更に突拍子もない事を言い出す。
脚で漕ぐんじゃなければどうやって動かすのだ、そう言わんばかりの目を順之助が向けるのも無理はないだろう。
「なぁ順之助やい、蘭学の学術書になんか丁度良いのなかったか?」
「あるわけないじゃないですか……あ、でももしかすると……」
絡繰り親方突然の無茶ブリが自分にも飛んで来たことに順之助は眉を顰めつつも、何かを思いついた顔をする。
「親方、エレキテルって知ってます?」
「あー、あの平賀源内とやらが何か見世物やってたーって絡繰りだろ。それがどうかしたのか?」
「思ったんですけど、あれって摘まみを回転させたらバチっとするんですよ。逆に考えると……」
「あのバチッッてなるヤツさえ何かわかれば、絡繰りを回転させる力を取り出せるかも……ってか? おもしれーじゃねえか」
順之助の思い付きによる言葉に絡繰り親方はにやりと笑うと、順之助に何とか平賀源内に渡りを付けられないか考え始める。
そう遠くない内に新たな発明家がこの工房に訪れるのは想像に難くないであろう。
なお後日の話となるが。
「ダメ、これ以上の研究禁止」
「そ、そんなご無体な大旦那! 何とか、何とか許可を!」
「ダメったらダメじゃい!こんな天狗か妖術としか思えんブツをお役人にどう説明せえと言うんじゃ!人力飛翔機械でもぎりっぎりだったんじゃぞ?!」
平賀源内を加えた開発チームが、人こそ乗れないがエレキテルの応用で自動的に浮き上がる飛翔機械を完成させソレを藤兵衛に見せた瞬間。
セウトどころかぶっちぎりでアウトじゃーい!と藤兵衛は白目をむきながら叫び……。
職人たちの夢と暴走の産物に対して全力で開発停止を命じるのであった、いつの世も天才の発明というのは理解されないものである。
いやもしかすると理解したからこそ藤兵衛はストップをかけたのかもしらんね。
ちなみに色々と考えたりAIに聞いたりして見たけど、江戸時代に空を飛んだらどんな法律に引っかかるのか結局結論というか明確な答えは導き出せなかった模様。