そして、ボーイミーツガール杯にて出ていた『華の大江戸騒動記』
実は作者が書いておりました、セルフ三次創作と言う暴挙(一応BMG杯規約違反ではない)
時は大江戸天下泰平の時代。
棟平屋の主人こと棟平藤兵衛が、上様こと徳川幕府当代将軍徳川吉宗公と蕎麦屋で遭遇する少し前の事である。
「ふむ、今回も出島から届く荷物の警護。見事やり遂げてくれたのう」
「大旦那様からのねぎらいの言葉……感激でございます」
「いやそんな畏まらなくても良いんじゃぞ? 昔のように親父と呼んでくれてもええのに」
「そ、そんな恐れ多い事とてもとても……」
江戸の町から遠く離れた長崎の出島にて仕入れた数々の品物を積んだ、儂の店の船が入港したと聞いて新右衛門を伴ってすっ飛んできた儂こと藤兵衛は今。
荷下ろしする人足らの邪魔にならん場所にて、貴重品を積んだ船を荷物含めそこなう事無く送り届けた警備責任者を労っておった。
こやつも最初は生意気な孤児じゃったが、新右衛門曰く光る才能があると言う事で預けたらメキメキ頭角を現してのう……。
今では棟平屋が抱えておる用心棒の中でも五本の指に入る強者になっておるわ。
「大旦那様より預かった、この藤の鎧羽織に恥じぬ働きをせねばと言う想いだけで……」
「そんな気負う必要ないんじゃがのう……ほれボーナスじゃ、部下らを労ってやっておくれ」
「ぼーなす……? こ、これ以上頂いてはバチが当たります!」
「えぇい景気の悪い事言うでないわ、良い働きには相応の報酬をと常々言うておるじゃろ」
恐縮し渋る警備責任者に金子の入った巾着を押し付けると、仕事が残っているのに呼び止めた事を詫びて港にある棟平屋の蔵へ新右衛門と共に向かう。
しかしこう、なんで儂の部下は皆特別ボーナスを渡そうとするとしきりに恐縮するんじゃろ。
ちなみにアヤツが言っておった藤の鎧羽織って言うのは、ふわっとした前世知識を基に嫁の実家である呉服屋や抱えておる職人で作った厚手の羽織じゃ。
今は少なくなったが昔は同業者やらヤクザ者と色々あったからのう、新右衛門を筆頭に用心棒にしとる子らが怪我せぬよう何か出来ないかという考えの下に作ったんじゃが……。
有事の際に邪魔にならず軽く刃を徹さぬという儂の無茶ぶりに見事応えた、鎧羽織という大仰な名前に恥じぬ代物になっておる。
しかしこう、気が付いたら儂の知らぬところで羽織の背中部分に藤の一文字が入れられておった、なんかユニフォームみたいで恥ずかしいのう。
「大旦那様、今回も大荷物でございますが……何を仕入れられたのですか?」
「ん? いつもの医療用の阿片に舶来品の薬品、それに南蛮で使われておるという食材や種じゃよ」
新右衛門の声に我に返った儂は、目録を確認しながら質問に答える。
儂の食材や種という言葉に、新右衛門が悪食はほどほどになさってくださいませ。とか言うてきおったが素知らぬ顔で口笛を吹く儂である。
そんな事言いつつ、お主も成功作には仏頂面を緩ませて舌鼓打っておる事知っておるんじゃぞ……目を逸らすでないわ。
「小判揚げは、美味でありますが故」
「お主ほんとアレ好きじゃよなぁ……そう言えば色々と無茶ぶりして酷使させてしもうとる医者達は、なんか言うてきておるかの?」
「そう言えば……また大旦那様の智慧を得たいと言っておりましたな」
「智慧言うてものう……」
正直儂がやったの、衛生概念の伝播やらふわっとした知識を基にした薬剤やら抗生物質の概念言うた程度じゃもん。
ソレを形にしてまとめた医者らのが、今や儂をとっくの昔に追い越しておるというのに……何を話せばいいんじゃろ?
なお後日、医者らの嘆願に折れた藤兵衛は医者らに世間話のノリで妊娠中の性交の危険性と、悲惨な事故を回避する為に個人的に注意してる事。
子が出来たら都合が悪い場合の避妊のコツについてなどを話したところ。
大真面目に書物にまとめられ、自身の性事情が広まり頭を抱えたらしい。
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ところ変わり、場所は棟平屋本店の隣に建てられた医療所。
その中では清潔な着物に身を包んだ医者達が、建物の中でも厳重に締め切られた部屋で所狭しと慌ただしく今日も仕事に励んでいた。
「そう言えば今日だっけか、麻酔用の阿片が届くの」
「ああ、有難いことにな。丁度切らしそうだったから渡りに船たぁこの事だぜ」
本日来院する予定の患者用の薬剤の調合が終わり、一息ついた医者達が雑談に興じ始める。
彼等に共通している事は先にも述べた清潔な着物に身を包んでいる事、そして口元を清潔な布で覆っている事であった。
「『六文儲け』はどんぐらい仕上がった?」
「結構出来てきてる、けど作れば作るほどどこも欲しがるもんだから足りやしねぇ」
「吉原は言わずもがな、余命幾ばくもない病人も助かる妙薬だしな。しょうがないさ」
医者の一人が壁の棚に所狭しと並んだ、藤の華が刻印された陶器の瓶に視線を向け。
進捗を聞かれた医者は溜息と共に答える。
『六文儲け』とは、藤兵衛のふわっとした知識と湯水のように注ぎ込まれた銭によって作り上げられた抗生物質。
そう、時代を先取りするにもほどがある存在、ペニシリンの別名で……。
名前の由来は、黄泉の川を渡る際に必要とされる六文銭が不要になる事、死人も蘇るという逸話からつけられた名前である。
なお藤兵衛本人は、何それカッコイイと少年のような眼差しで江戸っ子のネーミングセンスに太鼓判を押したらしい。
「黴の煮汁だとか最初は言われてたが、今じゃどこも欲しがるから不思議なもんだなぁ」
「命が大事なのはどこも変わらねぇからな」
言葉を交わしながら医者達は調剤室と札が掲げられた部屋から退出し、責任者が厳重に施錠して食堂へと向かえば。
既にそこには医療所で働く医者や入院している患者の家族らが、昼食にありつこうと混雑していた。
どうしたものかと中を見回す医者達であったが、その時一人の女性……日本人とは明らかに、文字通り毛色の違う人物が医者達を大声で呼び手招きする。
彼女のいる机は空いており、医者達が座る分には問題がなさそうだった。
「これはしーら様、相席失礼させてもらいますよ」
「ドウゾドウゾー!」
平均的江戸っ子男性である医者よりも背の高く、鮮やかな赤毛の女性は片言気味でありながらも流暢な日本語で医者達を呼び。
どこか恐縮してる彼等を気にする事なく、オ先ニ頂キマースと言いながら自身の好物である天丼を平らげ始める。
彼女の名はシーラ、医者を志していたが故郷オランダでは社会的事情から叶わず。
極東の国ジャパンで医療を学べば親も文句は言わない筈と言う、とんでも理論で豪商である親の船に無理を言って乗り込み日本にやってきたトンチキ南蛮人である。
本来ならば豪商である父についてきたものの、夢かなう事なくそのまま帰国するしかなかったのだが……。
何の偶然かその時丁度出島に来ていた藤兵衛と話が弾み、彼女の熱意と黒船来航案件な豊満な乳房に負けた藤兵衛は彼女の受け入れを決めたらしい。
ちなみに藤兵衛の舶来品の仕入れ先は、主に彼女の父親が経営している商会を経由しているそうな。
「毎日ガ新鮮デス、学ベルコトガトテモ嬉シイデス」
「そうですか……」
しかしさすがに異人の女性、それも大旦那の妾である女性と気安く話せと言うのは江戸っ子医者軍団には少々難易度が高かったらしい。
そんな彼女の仕事は蘭学書の翻訳と、現代でいう看護士であり……激務であるが日々充実しているとの事である。
なお既に彼女は一児の母である、シーラに子供が出来た時は江戸っ子男児達も藤兵衛の射程の広さに仰天したとかしてないとか。
ちなみにオランダ人美女(たゆんぼいん)は、今作でも色々と資料とか何やらでお世話になってる方の熱い希望で登場しました。
「だって旦那だぜ?外国ボイン美女にせがまれたら断れないやろ」
「……せやな!!!!」
と言う、酷い話だ。