大江戸騒動記~棟平屋の軌跡~   作:社畜だったきなこ餅

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皆様先週は更新できず申し訳ありませんでした。
コロナではなかったものの、突然の高熱とウィルス性皮膚炎が炸裂し寝込んでおりましたが……復帰致しました。

皆も体と心を大事にね!


職人達から見た棟平藤兵衛という男

 時は大江戸天下泰平の時代。

 江戸中で評判の棟平屋の主人である棟平藤兵衛が先の副将軍こと、ちりめん問屋の御隠居を名乗る老人と遭遇して暫く後の事である。

 

 

「おお、今回も中々に面白いモノばかりじゃのう」

 

「そうでございますか」

 

「一部の口さがない連中はこの定期発表会を道楽などと嘯くが、この蛇の細工の作りに構造資料なんて見事じゃぞ新右衛門」

 

「恐れながら浅学な身には、その良さはわかりませぬ」

 

 

 何のかんの色々あって建て直した我が屋敷、その中でも来客やら宴会やらで結構な人数が来ることが多い為広く作った広間には今。

 所狭しと並べられた、棟平屋の傘下にいる従業員が創り出した製品、ないし知識や技術をまとめた資料が陳列されていた。

 

 

「何のかんの言うてこの催しも両手の指で数えられない程度にはやっとるしの、発表品も洗練されてきておるわ」

 

「……失礼ながら大旦那様、どのあたりがでしょうか?」

 

「ふぅむ、例えばコレじゃよ新右衛門。六文儲けの大量抽出が出来るようになる可能性の報告資料とかそうじゃて」

 

「僭越ながら大旦那様、その技法を発見したならともかく……不確定な情報を発表するというのは、聊か詰めが甘いのでは?」

 

「まぁそう言うてやるな新右衛門、軽く目を通したところ職務の中で試すにゃ時間も銭もいるようじゃし……何よりもじゃな」

 

 

 失敗や叱責を恐れず、自身が気付いた内容やひらめきを信じて資料にまとめて提出する気概は賞賛されるべきじゃて。

 資料も理路整然としておるしな、まぁ失敗したら儂の目が節穴だったという事じゃからそん時はそん時じゃわい。

 

 お、これは傘下の茶屋で働いとる女中……いや連名で出された新たな茶菓子のレシピか、ふむふむ……中々に旨そうじゃの。

 今度飯炊きに作らせてみるか、あやつも儂がしょっちゅう無茶ぶりするせいかめっちゃ順応したしの。

 

 

「……そう言えば、小判揚げの新作も昨年ここで出ましたしな」

 

「ほんと新右衛門アレ好きじゃよなぁ、酒のつまみも小判揚げばっかりじゃし」

 

 

 儂が見ていたレシピの資料を覗き込んできた新右衛門が顎に手をやりながら、この集まりも有意義ではあるんですなぁなどと呟く。

 お前割と食欲強い上に脳筋じゃよな、新右衛門。

 

 ちなみに新右衛門お気に入りの小判揚げというのは……コロッケが食べたかった儂の要望で飯炊きに作らせたら。

 コロッケになれなかったハッシュポテトが爆誕、しかし齧ったらコレが美味かったせいで広まってしまった代物である。

 

 

「ついでに、油を大量に仕入れられるようになったのも……職人達が考案した、新たな油絞り機と。協力してくれてる百姓の油菜大量生産チャレンジのおかげじゃしなぁ」

 

「ちゃれんじ?」

 

「ああ、南蛮の言葉で挑戦するという意味じゃよ」

 

 

 いかんなぁ、油断すると横文字が飛び出てしまうわい。

 上様やらご隠居に不審がられないように、注意せんといかんわ。

 

 しかしまぁそんな事は横に置くとして。

 今回もめぼしいモノの報告書や資料にはハンコを押してやり、特別手当出してやらんとのう。

 いやぁ、儂も転生者のはしくれとして技術チートとか思い浮かべたものじゃが……概念だけじゃどうにもならん事が、機械工学やら物理工学は多すぎて困るわい。

 

 今生きてる時代でも、上手い事やれば有効活用できそうな際どい技術は忘れる前に書物にまとめて、厳重に封はしてあるが。

 アレはぶっちゃけ単品でまともに使えるかわからん代物じゃし、万が一合ってたら儂が危険な技術広めたとか言われて首がすっ飛ぶ事確定じゃわい。

 ……まぁ、焼き捨てるのも何かこう勿体ないのでそのままにしとるのもヤベーかもしれんけど。

 

 

 

 

 遥か遠い未来、藤兵衛が没した後に見つけられた厳重に封がされた鉄の箱。

 その中から見つけられた、藤兵衛曰く合ってるか自信ないけど合ってたらクソヤベー技術や概念が解き放たれた時。

 ソレはもう、大変な事になったのだがその事を藤兵衛は知る由もないのであった。

 

 

 

 

 

 

 ところ変わり、江戸から少し離れつつも言うほど遠くなく、しかし近いとは言い切れない何とも言えない微妙な距離関係にある土地。

 その土地に江戸の大店こと棟平屋の資本と人員が大量に投入された職人町と呼ばれる町があり、この町は半ば藤兵衛の支配下にあると言っても過言ではなかった。

 

 無論大店の主人であるとはいえ、一介の町人である棟平藤兵衛が土地を有しているというワケではない。

 では何故このような事態下にあるかと言うと……。

 まだ藤兵衛が若かりし頃……正妻と祝言を挙げる前にまで話は遡る事となる。

 

 この土地を治めている大名の殿の父、先代の殿が死病に倒れた折。

 どこからともなく話を聞きつけた藤兵衛が、自身が最も信頼している医師団を伴って殿への治療を申し出たのだ。

 先代が健在な頃も藤兵衛は先代には販路や商品で非常に世話になっており、己を可愛がってくれた先代を自重を投げ捨てて救おうとしたのである。

 

 他に類を見ない大手術、しかも見た事も聞いた事も無い胡乱な内容と言う事で当然一悶着あったものの、結論から言えば先代はその治療を受ける事を快諾。

 そして手術も大成功し大名縁者は胸をホッと撫でおろし、文字通り己の頚を賭けて挑んだ藤兵衛は二度とこんな危ない橋渡らねえと新右衛門にだけ呟いて騒動は幕を閉じた。が。

 ここで藤兵衛への褒美はどうするかと言う話が浮上し、色々と政治的事情やら商売的事情やら藤兵衛の助兵衛事情やらが複雑に絡み合った結果……。

 

 名義上だけとある大名家の支配下にありながら、実質一人の町人が支配者と言える町が爆誕した。

 現在は資本流入に伴い人口も増加、郊外には藤兵衛肝入りの農場や牧場まで存在する始末である。

 冷静になった藤兵衛はコレ幕府にバレるとやばくね?と冷や汗を流しているが、今更な話である事は言うまでもない。

 

 

「親方ぁ!鉄が届きましたぁ!」

 

「そこらに置いとけぇ! 折角だ喜助!テメエに打ち方教えてやるからこっち来なぁ!」

 

「! は、はい!!」

 

 

 木造ではない、されども漆喰塗とも違う時代にしては異質な大きな建物の中で親方の一人が声を張り上げ、弟子である元孤児の少年が返事をしながら元気に汗水流して働く。

 今彼らが働いている建物は、鉄筋入りコンクリートで建てられた大型の職人用複合建築物である。

 そして言うまでもないが、藤兵衛の無数あるやらかしの一つでもある。

 

 

「だけど親方、いいんですか?打ち方なんて秘伝じゃ……」

 

「あん? 大将からは見込みあるヤツにどんどん教えろって言われっからしょうがねえだろ、その分銭も出るしな」

 

 

 恐る恐ると言った様子で口を開いた喜助の言葉に、親方と呼ばれている職人はじろりと視線を向けながらぶっきらぼうに言い放つ。

 職人の矜持とも言える口伝と秘伝をどんどん教え、切磋琢磨しろという藤兵衛の言葉は雇用主ではあるが親方自身も心から納得しているとは言い難い。

 しかし、その分支払われる銭が桁違いな上藤兵衛本人から語られた言葉。

 

『一子相伝で教えるのはまぁまだよいにしても……は?十年単位で見て覚えろとかアホじゃろ?ソレに教える前に当人がぽっくり逝ったらどうすんじゃい。呆気なく失伝してロステク一直線じゃろ』

 

 という言葉にぐうの音も出なかったというのが大きいらしい、親方もろすてくという言葉の意味はさっぱり理解は出来ていないらしいが。

 ちなみに藤兵衛本人は、金と権力にモノを言わせて職人の誇り穢してる儂めっちゃ悪徳商人してる。とか考えていたらしい、実に酷い話である。

 

 

「おーい喜助ぇ!ちょっとこっち手伝ってくれぇい!」

 

「馬鹿言ってんじゃねぇぞ爺! 喜助は今こっちで鉄の打ち方教えてんだ!順番守りやがれ!!」

 

「おーん?生意気言ってんじゃねぇぞ小僧? お前さん昨日も一昨日も喜助使ってんじゃねぇか、お前さんこそスジ通ってなくね?」

 

 

 鉄を打つ時の力加減、水の温度や窯の温度を実地で……言葉乱暴ながら教える親方の教えに必死に学ぶ喜助と言う少年。

 スジの良い少年に親方は乱暴な口調ながら、しっかり教えて弟子を育てるってのも悪くねぇやななんて思ってたら他所からかかってきた喜助を呼ぶ声に、眦を吊り上げて怒鳴り返す。

 

 喜助を呼んだ老人は老人で、大旦那こと藤兵衛とこの地を治める殿へ献上する為の肝要りの作品を拵えている真っ最中であり。

 自身の専門であるからくり細工の教えを忠実に吸収してくれる、将来有望な少年喜助を後継者にしようともくろんでいた結果。

 親方同士の仁義なき口喧嘩は、予測可能回避不能な流れで勃発するのであった。

 

 いつの時代も将来有望万能な若手と言うのは容赦無用の争奪戦なのである。

 

 

 

 

 

 余談であるが、後日届いた職人親方とからくり親方の合作になった作品……原始的な熱交換を用いた冷蔵庫を献上された藤兵衛は。

 コレどうすんべと、ひんやりした箱の前で膝をつき頭を抱えたらしい。




ちなみに作者は藤兵衛のマル秘ノートがヤバイと思ってましたが……。
色々と資料やら相談に乗ってくれてる人曰く……。

識者「藤兵衛、江戸時代の構造資料読み解けるとかこいつの前世クッソハイスペックだな!?」
作者「そこはほら、前世より現世が長いから……」
識者「ちゃうねん、資料の書き方や読み方も秘伝やねん」
作者「……てことはこのスケベ商人、当時の概念的にクッソヤベー事してねぇか?」
識者「してるよ?と言うか製法とかレシピとか、絶対紙に残すよね」
作者「残すね、間違いなく。ロストしそうなテクノロジー保護とか趣味でやりそう」
識者「しかもきちんと原本保管するよね?」
作者「するね、蔵じゃなくて地下倉庫とかに」
識者「はい、ほぼ確定で現代失伝している古刀の製造方法が生き残る事確定しました」
作者「ファー?!」

作者も勘違いしていくスタイルの勘違いモノですが、今後ともよろしくお願いします。
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