大江戸騒動記~棟平屋の軌跡~   作:社畜だったきなこ餅

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お待たせしました、悪党ジェットストリームアタック案件の完結編となります。
今回めちゃくちゃ難産でした……。

それと、前回本作の三次創作を書いて下さったとりなんこつ先生が、またもや三次創作を書いて下さりました。
https://syosetu.org/novel/263475/
『花魁恋歌! 藤兵衛吉原に消ゆ!? の巻』
めっちゃ面白いのでオススメです。


求.上様と副将軍に目をつけられた儂が仕事人の必殺から逃れる方法・終幕

 

 月が天に輝く夜更け。

 大名白川家の屋敷の一室にて、年がいった女性と一人の男が向かい合い言葉を交わしていた。

 

 

「貴方は自慢の弟ですよ信貞、おかげで随分と計画も楽に進める事が出来ました」

 

「いえいえ姉上、姉上の才覚あってこそでございます」

 

 

 上機嫌そうに言葉を交わす二人の顔が行灯に照らされ、悪意に満ちた笑みを曝け出す。

 やがて二人の会話はたくらみ事の内容へと移り変わっていき……。

 

 

「しかし憎いは殿の寵愛を受けた女が産んだ娘よ、あやつが生きている限り我が子が安心して家を継げぬではないですか」

 

「姉上ご安心下さい、邪魔者が入りましたが諸共始末してみせます」

 

「貧乏旗本の三男坊とやらが、忌々しい……」

 

 

 心から恨めしそうに呟く女性。

 彼女こそは大名白川家の正室であり、邪魔者である側室の女や殿も始末した以上白川家における最大権力者である。

 だがしかし、その悪行がいつまでも許される事はなく。

 

 部屋の外、中庭の方から一人の男の声が二人へとかけられた。

 

 

「その邪魔者の三男坊とやらは、俺の事か?」

 

「何奴?!」

 

 

 突然の見知らぬ声に、男……南町奉行所筆頭与力間村は刀を手に障子を開け放つ。

 そこに立っていたのは。

 

 

「大名白川の殿を毒殺するのみならず、罪なき民や子供達を苦しめ命をも狙う所業。断じて許すわけにはいかん」

 

「藪から棒に、急に押し入って何を言うかと思えば……ここをどこと心得るか!」

 

 

 凛々しい風貌の偉丈夫の言葉に間村は不快そうに眉を顰め、誰何の声を上げる。

 だが男は風を受ける大樹のように佇み、厳しい視線を間村へと向けて口を開いた。

 

 

「南町奉行所筆頭与力……間村竜右衛門信貞、其の方民を守り法を律する立場にいながら阿片売買や人身売買を揉み消すだけに飽き足らず、罪なき家族を襲い幼子達の命を狙うとは何事ぞ」

 

 

 間村へ厳しい目を向けながら語るその言葉に間村は刀の柄に手を置いたまま、気圧されたかのように後退る。

 そして追い詰めるように一歩踏み出した男は、続けてその視線を白川家正室へ向ける。

 

 

「大名白川家奥方、其の方家を守り民を慈しむ立場にありながら。我が子を跡取りにしたい余りに道を踏み外すとは言語道断」

 

「何を偉そうに。 貴様、一体何者だ!!」

 

「何を言う間村竜右衛門信貞……余の顔、見忘れたか」

 

 

 男の言葉に改めて、まじまじと踏み入って来た不審者極まりない偉丈夫の顔を間村は見詰め。

 とある折にて、尊顔を拝見した事のある公方吉宗公である事に気付き、震える声で口を開く。

 

 

「上様……!?」

 

「南町奉行所筆頭与力、武士の一門であるならば潔く腹を切れ。正室である其の方においては頭を丸め仏門に下るがいい」

 

 

 平伏する間村と奥方、だが容赦ない沙汰を下す男こと当代将軍徳川吉宗の言葉に二人揃って覚悟を決めた表情を浮かべると。

 

 

「えぇい上様であろうが知った事でありますか! 者共であえであええーーい!」

 

「この上様の名を騙る不届き者を斬ってしまえぃ!」

 

 

 奥方が壁に掛けられていた薙刀を手に取って構えながら、屋敷に詰めている武士やニンジャを大声で呼び出し。

 間村もまた腰に下げていた刀を引き抜いて徹底抗戦の構えを見せる。

 

 じりじりと吉宗に迫る、刀を抜いた武士やニンジャ達。

 しかし吉宗は臆することなく黒呂鞘から来国俊を引き抜くと、そこに現る鈨刻まれるは三つ葉葵。

 吉宗は命を奪われそうになった幼子達、命を奪われ虐げられた無辜の民を胸に想い、静かな怒りと共に威風堂々と八相に構えると、ゆるりと刀の峰を翻した。

 

 

 

 徳川幕府当代将軍吉宗公が配下の者達と共に、仕置きに入った頃。

 鳴海屋の屋敷の中庭には今、威風堂々とした佇まいの御老公の前に鳴海屋とヤクザ者の権蔵、そして破落戸達が平伏していた。

 

 己の利益以外は平気で踏み躙る輩が平伏する理由、それは……御老公の傍に控える偉丈夫が手に掲げる、三つ葉葵の印籠にあった。

 

 

「こちらにおわす方をどなたと心得る! 恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公であらせられるぞ!」

 

 

 そして鳴海屋達が恐れていた事態は現実となり、格さんと巷では呼ばれている男の言葉に今一度鳴海屋達は額を地面へと擦り付ける。

 棟平屋への実力行使から阿片取引に人身売買を聞かれ、口封じとばかりに光圀公へ刃を向けた身である以上、少しでも罪を軽くするために彼らもまた必死であった。

 

 

「民の生活に心を砕く棟平屋の主人を罠に嵌めるべく罪のない店の者の家内と子息を人質にとるばかりか、御禁制の品である阿片を取引しそればかりかうら若き娘達まで食い物にする所業……断じて許してはおけません」

 

 

 平伏する鳴海屋、権蔵を普段の好々爺然とした表情と打って変わり、為政者としての厳しい顔で見下ろす光圀公。

 その顔と言葉には嘘偽りも、これからの権勢も断じて許さないという厳しさが滲み出ていた。

 

 

 

 

 空に浮かぶ満月に雲が時折かかる朧月夜。

 一人の同心が建築途中の大寺院の中を、ゆっくりと歩んでいく。

 

 本来ならば大寺院の主である妙光尼の手のモノである忍が控えている大寺院であるが、今宵は異なる場所に配置されている事もありその中は不自然なぐらいに静まり返っていた。

 やがて同心……中村主水は、目的の人物がいる部屋の前に立つと障子の戸を軽く叩き、中へと声をかける。

 

 

「こんな夜更けに申し訳ありません、南町奉行所の中村と申します」

 

「中村様でございますか、如何なされましたか?」

 

 

 本来今宵は、この大寺院に己の甥や便利に使っていた商人達を集めて会合を開く予定であったのだが、不自然なまでに誰も集まらず。

 妙光尼が気を張り詰めさせていた中やってきた来客が、昼行燈で幾らでも騙しようのある中村と気づきにこやかな仮面を被って応対を始める。

 

 

「いえ、実は家内にこんな夜中であるにもかかわらず妙光尼様の有難い話を聞いてこいと、尻を蹴っ飛ばされまして……」

 

 

 今も妙光尼の前で、ばつが悪そうに後ろ頭を掻いている同心には警戒を誘う要素は一欠けらもなく。

 故にこそ、万が一に備えての肉壁に使おうと内心ほくそえみながら人々の為に心を砕く尼として接する。

 

 

「素晴らしい奥方ですね、それでは……」

 

「その前に私から一つお尋ねしたい事があるんですけどね」

 

 

 学のない町人を簡単に感激させ、己の信者へと転ばせた説法を始めようと妙光尼が口を開いたその時。

 とぼけたような口調で、中村は妙光尼の言葉を遮って語り始めた。

 

 

「人は死ぬとあの世へ行くと言いますが……妙光尼様は、地獄へ堕ちるんでしょうねぇ」

 

「……何?」

 

「いえ、あれだけ殺しちゃぁ……到底極楽へは行けまいと思いまして」

 

 

 とぼけた気の抜けるような口調の中に潜む、鋭い刃のような言葉に妙光尼は背筋に氷柱を突きさされたかのような錯覚を覚える。

 失礼極まりない言葉をぶつけてきた昼行燈と有名な同心の目を、妙光尼は改めて真正面から見据えた時。

 

 その時になって漸く、妙光尼は己の目の前に立つ同心が昼行燈などという仮面を被った悍ましい何かであると理解した。

 

 

「貴様……ただの昼行燈ではないな!?」

 

 

 先手必勝とばかりに、懐に潜ませていた南蛮渡来の短銃を引き抜いて目の前に立つ何かを排除しようと、妙光尼は怯えと恐怖に突き動かされながら動く。しかし。

 それよりも早く中村は刀を引き抜くと、一足飛びに妙光尼へと駆け寄り。

 

 逆手に構えた刀を、妙光尼の胸へと深く突き立て、その刃は玄人の妙技によって骨に当たる事無く臓腑を切り裂き妙光尼を一撃にて絶命せしめる。

 目を見開き体を痙攣させる妙光尼を、虫けらを見るような目で中村は見詰めると返り血を浴びないようにしながら刀を引き抜き、血振りをして鞘へと納めた。

 

 

「……説教は、地獄の鬼共にしてやるんだな」

 

 

 妙光尼の描いた計画によって殺された人々、深き悲しみに落とされた人々を想い呟かれた中村のその言葉は。

 中村の手によって手早く証拠隠滅がなされ妙光尼の死体以外は暗闇の広がる大寺院の中に、消えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 儂がニンジャが放った毒で倒れ、目覚めたその日の夜にそりゃもう色々と大騒ぎだったらしく。

 まぁ平たく言うと、今回の騒動の悪党どもが軒並み成敗され……ついでに外国船に売り飛ばされる寸前だった娘さん達も無事救出されたらしい。

 ちなみに儂は、江戸中から届いたお見舞い品の返礼やら整理やらで、全部終わってから事の顛末を新右衛門から知らされる始末じゃったわい。

 

 そんなこんなで少しばかり時間は流れ、全体的に落ち着いた頃の昼下がり。

 

 

「いやぁ、急に来たのに茶だけじゃなく茶菓子まで出してもらって、すまねぇな旦那」

 

「いえいえ気になさらないで下さい中村様」

 

 

 見回りの途中で立ち寄ったとか言って、ふらっとやってきた八丁堀の旦那と対面で座りながら茶を啜っております。

 やべぇよやべぇよ、これもしかして仕事人の事知ってるかどうかとか探りに入れに来たんじゃね?下手すると儂トランペットの音と共に始末されね?

 

 

「実は旦那に相談があるんだが……」

 

「何でありましょう?」

 

 

 内心ひやひやしてる儂とは裏腹に、どこか言い辛そうにしている八丁堀の旦那。

 そして意を決したのか、がばっと頭を下げてきた。

 

 

「カカァとババァに後継ぎせっつかれてんだけど一向にできやしねえんだ……旦那なら、何とか出来ねえか?」

 

「なるほど……」

 

 

 セーーーーフ!圧倒的セーフ!

 八丁堀の旦那の腹の底はともかく、とりあえずはセーフじゃ儂!

 

 ともあれ、子作りでお困りでしかも儂を頼って来たとあらば、応えて差し上げねば名折れと言うモノ。

 

 

「そうでありますなぁ……まず前提の話になりますが、女人には子ができやすい時とできにくい時が……」

 

「大旦那様、来客でございます」

 

「む? 待ってもらう事はできんかのう?」

 

 

 薬やらなんやらも大事だが、まずは周期的サムシングが大事故そこから中村様に伝授しようとしたところ。

 襖をあけて新右衛門が来客を報せにきた、とりあえず中村様今おるし……え? 後回しでいいから気にせんでほしい?

 

 まぁ中村様がそう言うならええけど……この昼行燈、相談しつつついでに見回りでサボってね?

 

 そんな事を考えつつ新右衛門に来客を通すよう話をして暫し後、やってきたのは。

 

 

「失礼する、忍の手によって毒を盛られたと聞いた時は驚いたが……壮健そうで何よりだ、棟平屋」

 

「うむ、心配したんですぞ」

 

 

 上様と御隠居じゃった、何で二人揃ってやってきてんの?そんなに儂にギャラクシー猫フェイスさせたいの?

 あ、中村様が二人の顔を二度見しておる、あの様子……気付いてしもたようじゃの。

 

 中村様、SANチェックのお時間でございまする。

 

 

 




殺陣のシーン何回も書こうとしたんですけどね、無理でした。
上様の殺陣のシーン、見れば見るほど発見あるんですよ。
あの動きの文章化は、どう頑張っても作者の技量では無理でした。
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