「まだまだ甘いぞォ!少年!」
中尉はそう叫び、ありえない体勢から蹴りを放って来る。
それを間一髪で避けながら、俺は機体を前へと出す。
「っらあ!」
右手のビームサーベルを真横、やや上方に振り、相手にしゃがませる事を誘発、逆手に持った左手のビームサーベルで突き刺そうとする、が…
「その程度…ッ」
しゃがんだまま、中尉のフラッグはスラスターを全開、こちらへと体当たりをしてくる。
まともに食らった俺のアストレアは場外へと吹き飛んだ。
「ありがとうございました、中尉」
バトルシステムから光が消え、ガンプラが動かなくなる。それを確認した俺は中尉にそう礼をする。
やはり、まだまだ弱いんだ俺は。
宮樹が誰と俺を戦わせたいのかはわからない。だが、きっと今の俺じゃ勝てないんだ。
義理や恩義で強くなろうとしてるわけじゃない、いや、最初の頃はそうだったかもな…でも俺は、少なくとも今の俺はただ強くなりたい、誰にも負けないくらい強くなりたい。その一心で中尉に訓練をしてもらっている。
「……?……ねん! 少年!」
「は、はい!」
「どうした?心此処にあらずといった様子だったが」
急に声をかけられた俺は声を上ずらせながら返事をする。そこまで集中してたのか…気をつけないと。
「いえ、今後の事を思案しておりました」
「今後?」
「はい、私は、自分の為に強くなろうとしています。それは私の傲慢で、正義はあるのかと…」
そう言いながら俯く俺。
宮樹から授かった機体、アストレア。それは正義の女神を意味するという。
他人の為でなく自分のため。自己中心的な考えなのではないか。そんな不安が胸中を覆い尽くす。
「なに、気にする事はない」
中尉のその言葉に、俺は顔を上げる。
「結局皆、自分の為なのだ。人の為、世の為、何かを守りたい、幸せにしたい。それは全て己を満たす為だ。それらは全て、己の為なのだよ」
「しかし、それはエゴとも呼べます。私はそのエゴを認め、己の内に秘め、己が力にする事は…!!」
「少年」
熱くなっていたのだろう、自分の言葉が自分の物でないような感覚がした。意識をしてから発したのではなく、心が叫ぶ、そんな感覚。
「君は、何を思ってガンプラバトルを始めた?」
「それは…恩人に、恩を返したかったからです…」
「その恩返しを、その人が望んでいなかったとしたら?」
たしかにそうだ。
俺の一方的な押し付け、自己満足だったのではないか。
だが、あの時宮樹はこうも言ったはずだ、私の専属ガンプラファイターになってほしい、と。
「君は勘違いをしているのだ。エゴが間違い。その発想が間違っている。人はエゴの塊だ。己の欲を制し、聖人君子のように振る舞う者もいるのだろうが、私はそのような者に背中を預ける気にはなれないな。強くなりたい。それは間違いではないのだ」
宮樹が、俺に求めたのは、力。
俺が求めているのも力。
なら、これはいいのだろうか。
エゴではなく、いや、エゴだったとしても、俺自身が強くなりたいと思う意思は間違いでは、ないんだろうか。
「それに、私は我慢弱く、落ち着きがない。それは聖人君子とは程遠いだろうな」
「中尉…俺…その……ありがとうございます!」
「ふっ。やはり君に敬語は似合わんな」
「え?」
「何でもない。こちらの話だ。さあ、訓練を再開するぞ!」
「はい!」