奇妙な男の後ろをついて行き、辿り着いた先はまだ夕方だというのに暗く、人気のない場所だった。そこに佇む一軒の店。
男、グラハムはその店のドアを慣れた手つきで開け中へと入って行く。
「あ、中尉!」
店に入ると早速グラハムに店の中にいた人々が話しかけてきた。グラハムはそれに応え、俺の方へと向く。
「諸君。今日からこの隊に配属となった者だ。よろしくしてやってくれ」
「こいつが?中尉、こんな奴が我らフラッグファイターと共に戦えるんですか?」
横から口を出してきたその男の言葉にカチンとしながらも平静を装う。
そして宮樹が作ってくれたガンプラを取り出し、バトルシステムにセットした。
「試してみればいいだろ。俺の実力がどうだか」
俺のその言葉を挑発と素直に受け取ったのだろう。先程の男は怒りを隠すことなく自らのガンプラ。オーバーフラッグを取り出しバトルシステムにセットした。
機械的な音声と共にバトルシステムが光を放つ。
現れた操縦球を握り、アストレアを宙へと飛翔させる。
「相手はガンダムか、不足はねぇ!」
宙へと踊り出た瞬間に、ライフルとミサイルが飛来する。
避けるか、いや…。
俺は左腕のプロトGNソードを展開させ、直撃コースのミサイルを切り、ライフルは避けてゆく。背後の爆風で更に加速し、敵機との距離を詰めてゆく。
「もらった…!」
相手の首を狙った一撃は、見事にヒットし、メインカメラが虚しく宙を舞う。
返す刃で俺は相手の上半身と下半身を切り離した。
「なんだ、こいつ…」
相手がそう呟くのが聞こえると共にバトルシステムの光が消える。身体に溜まっていた息を吐き、少し伸びをする。
するとグラハムがこちらに向かって来た。
「ナンセンスだな」
「え?」
「君の戦いはナンセンスだと言っているのだよ。少年」
グラハムが言った言葉に疑問を持ち聞き返す俺にグラハムはほんの少し眉尻を上げ答える。
「どこがいけないんだよ」
「君は機体の扱い方がなっていない。戦う者に敬意を持ってすらいない」
何を言っているのかがわからない。戦う者に敬意を持つ?
倒すべき相手に敬意を持ってどうするのか。
「私と戦え、少年」
そう言いながらグラハムは懐から自らのフラッグを取り出す。グラハム専用フラッグカスタム。外見は変わっていないが中身はきっと別物なんだろうな。
俺はまたアストレアファキオをバトルシステムにセットする。
宙に躍り出て索敵をすると、あろうことか漆黒のフラッグは飛行形態でこちらに一直線へと向かってくる。俺は両腕のバルカンをフラッグに向けて斉射する。しかし、フラッグに向かっていく弾丸は当たる事はなかった。相手のフラッグが全速力からの空中変形を行ったのだ。無数の弾丸を回避した敵機はメイン武装である新型試作ライフル、XLR-04の銃口を向ける。数度銃口が光を放ち、アストレアの肩、膝の装甲が僅かに削れる。
「くそ!」
距離を取ったままじゃ不利だ。プロトGNソードを展開し、一気にフラッグへと肉薄する。
フラッグの武装には通常のグラハム専用カスタムフラッグとは差異があった。それは試作型ライフルであるXLR-04の銃に展開式の剣が追加されていた。相手はそれを即座に展開、袈裟斬りに振った俺の剣を受け止める。
眩い火花が俺のアストレアと相手のフラッグを照らす。
鍔迫り合いを続けたまま、馬力で吹き飛ばそうとするが、グラハムのフラッグも中々の完成度らしく力押しが効かない。
俺は空いた右手で腰のビームサーベルを引き抜き、フラッグに向けて振りかざす。
「墜ちろ!」
しかし、振りかざした光刃は空を切る。相手のフラッグが鍔迫り合いを弾き返したのだ。
追撃するべく、サーベルを横に凪ぐ。しかしそれすらもフラッグは身体を丸め、こちらの懐に入り込むことで回避する。
「身持ちが硬いな!」
フラッグはプラズマソードを逆手に持ち、こちらのコックピットへと向けて突き刺そうとしてくる。
「やらせるかよ!」
全力でバックステップをし、寸での所で回避に成功する。
「同じ左利き相手はやりにくかろう」
「んな事ねーよ」
精一杯の強がりを吐き出し、操縦球を握り直す。
全身のスラスターを吹かし、全速力でフラッグに接近する。
「今度こそ…っ」
両肘に増設されたスラスターの左肘の出力を上げ、必殺の威力を孕んだ一撃を見舞おうとする。
「抱きしめたいなァ!ガンダムッ!」
同じくグラハムも全速でこちらへと向かってくる。プラズマソードを持ち、俺の一撃をプラズマソードで受けると、俺のアストレアの腕が切り飛んでいた。
その瞬間、何が起きたのかわからなかった。
ただその瞬間を理解出来ているのはグラハムだけであった。相手のアストレアのプロトGNソードにプラズマソードを当てた瞬間にソードを解除、機体を半身横にずらし相手の必殺を回避、再びプラズマソードを展開し、相手の左腕を切り飛ばしたのだ。
そのままアストレアはグラハムのフラッグに組み伏せられ、勝敗は決した。
「なんで…負けたんだ…」
グラハムがこちらへと歩み寄ってくる。
俺は胸ぐらを掴み、睨みかかる。
「よくも…俺の…宮樹が作ったアストレアを…ッ!」
身を焦がすような怒りを抑える事が出来ずに怒気を孕んだ声でグラハムに訴える。
するとグラハムは俺を真っ直ぐに見据えこう答えた。
「皆、同じなのだよ」
あ…。
「やられた者、負けた者は皆同じ気持ちなのだよ」
俺は…そんなことも知らずに今まで…相手の機体を壊して、壊して、壊して。
「最低だな、俺は」
「気づけたのだからよいのだ。君はそこに気づき、後悔をしている」
諭すようにグラハムが言う。
「少年。君はまだ強くなれる」
「…はい。それと…」
「何かな?」
「俺に稽古をつけてくれませんか?」
俺は、強くならなくちゃならない。
宮樹のためにも。
居候させてくれるからじゃない。
恩義からじゃないんだ。
想う人の為になりたい、力になりたい。
「その旨を良しとする!」
俺はまだ強くなれる。
その言葉を疑わない。
疑ってはいけないんだ俺は。
強くなるために。