ヒトと神と争いのお話。
※思い付いた設定の供養代わりに

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とある異世界のお話

 

 朽ちた神殿の地下に、どす黒い繭が幾つも並んでいた。繭には血管のような赤い線が浮かんでおり、辺りに漂う黒い靄が繭に取り込まれる度に脈動している。

 

 そんなおぞましい部屋に、足を踏み入れる者がいた。

 赤い瞳に黒い髪、そして同じく黒い尻尾と翼、それに角。鋭利な尻尾を揺らしながら、コウモリに似た翼を閉じた彼女は、一際大きな繭に日焼けした指を押し付け、にっと笑う。

 

「うんうん、これはそろそろ産まれるかな?」

 

 楽し気に笑いながら、つんつんとつつけば、繭は応じるように脈動する。

 その度に辺りの靄が吸い込まれ、徐々に部屋の靄が薄れていく。

 彼女の近くに位置する壁には、ヒトから溢れ出た靄が異形へと変化する経過が刻まれていた。

 

「……邪神。負の感情を取り込み浄化する役目を担った、世界の浄化装置……なのに、ヒトはそれを忘れてしまった」

 

 くるりと、回るよう踵を返すと、女性はそのまま牙を剥いて笑う。

 

「魔は邪神という装置でもってしても蓄えきれなかった、余剰エネルギーが臨界点へと達することにより産まれた存在。それはヒトの悪意の結晶……それを忘れたヒトは、邪神を魔の支配者と見なし、邪神の一つを討ち滅ぼした」

 

 くるり、くるりと、女性は回る。

 彼女の近くに刻まれた壁画には、異形が集めきれなかった靄が醜悪な獣に変わる過程が記されている。

 

「邪神が死ぬとき、浄化のエネルギーがその身の内より弾け、靄は打ち消される。

 短期的に見れば、確かに靄は減るだろう」

 

 異形が膨れ、内側から白い光が溢れ出し辺りを包む光景が刻まれている。

 

「しかし、それはあくまでも一時的なもの。

 そしてそれは、長期的な目で見れば靄の総量自体を増やしてしまう。

 ……何故なら、ヒトがある限り靄は産まれ続けるから。何故なら、邪神が失われれば処理速度は低下するから」

 

 残った異形と、白き翼を持つ者が狼狽える姿が描かれている。

 ヒトはその数を増やし、処理のしきれない靄がどんどん世界を覆っていく様が描かれている。

 

「そして再び臨界点を上回る。魔の再来。以前より強くなった魔が、ヒトを襲い始める」

 

 靄から魔が産み落とされ、異形は必死に靄を吸おうとし、白き翼を持つ者はヒトへ何かを伝えようとしている様が刻まれている。

 

「使徒はヒトへと御言葉を授けた。汝、憎むなかれと。隣人を愛し慈しめば、魔の勢いは衰えようと。

 ヒトは解釈した。再来した邪神を討つ為に、ヒト同士は一致団結すべきだと。

 そうしてヒトは国を越えて手を取り合い、邪神を討ち払うべく力を集めた」

 

 慌てたように手を伸ばす白き翼を持つ者を背に、ヒトの王達が手を取り合う姿が描かれている。

 

「そうしてまた一柱、邪神は滅ぼされた。

 靄が消え、魔が産まれ、邪神が滅ぼされる。それが何度も繰り返された。

 浄化が追い付かなくなった世界はどうしようもなく濃い靄に覆われ、此処に至って、ヒトは邪神を倒しても靄が消えないことに気付く」

 

 異形の数が減っていく様が刻まれている。

 

「使徒は残った邪神と相談し、創り世の神の御許へ向かう。

 使徒は神に進言した。このままでは世界が滅びてしまうと。

 神は使徒に力を与えた。靄を喰らい、邪神を産み出す力を。

 しかし、その力は使徒の身に余るもの。使えば使徒はその身を失い、ただ邪神を産み出すだけの装置となり果てる。

 使徒はそれを知らされた上でなお、力を行使した。光の輪が世界を包む」

 

 神々しい何かに、白き翼を持つ者が力を授けられ、行使する光景が刻まれている。

 力の行使により世界が光に包まれている。

 

「そうして使徒は失われ、代わりに邪神が産み出される。

 邪神は靄を……邪念を喰らい、浄化していき、世界はまた一度の安らぎを得た。

 ここに至り、ヒトは自らの過ちを知った。

 ヒトは忘れてしまった過去を悔い、身を呈して自らを救った使徒と邪神に許しを乞う。しかし使徒はもう居ない。何度もヒトに声を掛け、方策を提示した曾ての邪神もまた、その数は減っている。

 ヒトは二度と忘れぬよう、経緯を記した神殿を建てた。

 邪神が靄を浄化する流れと、使徒が身を呈して守った流れと、邪神の御言葉を授かった巫女を殺めてしまった忌まわしき歴史も載せて」

 

 異形を前にひれ伏したヒトと、ヒトが神殿を建てる光景が描かれている。

 

「そうして……そうしてまた、ヒトは過ちを繰り返す。

 使徒を失い、啓示を無くした教会は衰退し、神殿は朽ち果て、ヒトにとって都合の良い神が……存在しない神が作り上げられ、それをヒトは信仰した。

 そうしている内に靄から魔が産まれ、存在しない神の名の下に、邪神が再び討たれ始めた。

 此処に至って、創り世の神はこの世界を見放した。

 此度の流れにより、最後の使徒は失われ、それでもまた過ちを繰り返すヒトに、創り世の神は失望したのだ」

 

「創り世の神が消えた世界で、創り世の時より生き続けた邪神は、遂にあと一柱を残すだけとなった。

 最後の邪神は、使徒がその身を犠牲に産み出した最初の邪神に御言葉を残し、ヒトに討たれた。

 曰く、何時か一際大きな邪神の身に宿り、創り世の神に今一度の赦しを願う為に使徒が甦ると。そうすれば世界もヒトも邪神も、全てが救われると」

 

「……そうして残った第2世代の邪神が、使徒により産み出された最初の邪神が、このボクだ……ってね。

 『一際大きな邪神』の誕生……永かったなぁ……でも、これでようやくボクも休める。

 でも……こんな世界、本当に救われるのかな?」

 

 ヒトの訪れなかった朽ちた神殿に、ヒトの大軍がやってくる音がする。殺気立ったヒトの声が。

 

邪神(ボクたち)の製造拠点はヒトにバレてしまった。魔は世界の8割を呑み込んだ。産まれる筈だった邪神も大半は強すぎる靄に身が持たず溶け出す始末。生きた邪神はもうボクだけ……ねぇ、使徒様(お母様)……本当に世界は……ううん、ヒトは、救われるべきなのかな?

 ボクには分からなくなっちゃったよ」

 

 女性はそっと、大きな繭へと身を寄せる。

 破壊音が響く。武器で、魔法で、火で、ヒトの怒りが神殿(我が家)を壊していく。

 

「もう、生きたくないよ……」

 

 そうしてヒトが地下に着いた時、一際大きな繭が割れ、中から邪神が現れた。白き翼を持つ邪神が。

 

(我が娘■■■■よ、もう大丈夫ですよ。きっとまた笑い合える時が来ます)

「ーーヒトの子よ……」

 

 神聖な声が響き渡り、ヒトが怯む。

 しかし、ヒトの代表者が一つ声を掛けると、ヒトはその目に怒りを宿し、雄叫びを上げて白き翼を持つ邪神へと襲い掛かった。その結末はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーヒトの勝利と、世界の滅びという形で現れた。

 

BAD END




邪神ちゃんが新しく産まれた邪神に先輩面しながら面白可笑しく靄回収の旅に出る話が書きたかったのに書けなかったので供養。


設定としては、こんな感じ。

邪神ちゃん:ボクっ娘。やや筋肉質で可愛い女の子。胸はぺったん。作中ではもうひとりぼっちで心が折れ掛けていた。精神も病んできて躁鬱を繰り返してたりする。平和だった頃は割とトラブルメーカー。

創り世の神:割とぽんこつだが気は長い方、チャンスは沢山与えたのにヒトがちっとも学習しないからキレた。甘いものを捧げたら仕方無いなぁと関与してくれるけどもう神殿朽ちてるし彼女について書かれた文献も徹底排除されてる。チョロい神様なのに……。

使徒:昔は一杯居たけどヒトのやらかしが起きる度に一人ずつ減っていった。最後の一柱はその身を犠牲にして世界を救ったがやっぱり世界は滅びた。両性具有。

使徒(最後の一柱):割とぽんこつだけど何度か軌道修正は出来ていた。出来ていてこうなった。
邪神転生後は必死にヒトに呼び掛けるも聞く耳持たれず。せめて邪神ちゃんだけはと助けようとするも先に邪神ちゃんが殺され邪神は自分だけに。流石にキレて全力で抵抗したが討ち取られた。

邪神達(第一世代):自然の自浄作用みたいな機能を担ってた。割と自由神だったけど世界がヤバいので不眠不休で頑張ってたらヒトに殺された。

邪神達(邪神ちゃん世代):産まれたてはあんまり靄に対する免疫がないので、使徒が甦る辺りではもう新しく産み出そうとしても身体が持たないので作中の時点でもう詰んでる。

ヒト:ヒトは過ちを繰り返すもの。そもそもの創り世の神がぽんこつ出し多少はね。エルフとかドワーフとかもいるよ。

世界:世界の意思とか居たけど靄に汚染されて死んでしまいました。結果世界の管理者不在で荒廃した大地が広がる結果に。

魔:宇宙空間でも生きられる。

以上


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