『エスタージュ(S-tage)』(「セカンドステージ;役者と監督のその後」) 作:坂村因
大河ドラマ「キネマのうた」の撮影が始まった。
周囲でスタンバイしているスタッフたち、静かな表情でカチンコの合図を待つ鳴乃皐月、同じく合図を待つ薬師寺真美は目を閉じて薄い微笑みを浮かべ皐月の正面に座っている。
皐月をじっと見つめる夜凪景。夜凪は集中力を高めて皐月と真美の二人を観察している。
カチンコが鳴らされた。
「どうして!? どうしておばあちゃんは映画が嫌いなの!?」
上々の演技を見せる皐月、まだ目を閉じたままの真美(真美がフレームに入るのはこの後)。
テイク1はここでカット、OKにはならなかった。
「よかった」と心の中で安堵の声を漏らす夜凪。
皐月の実力ならもっと良い演技が出来る。
皐月が最高の演技を引き出すまでOKテイクにはならないでほしい。
空気の緊張感を維持したまま、
…簡単にOKになるなんて最初から思ってない
皐月はそんなことを考える。
完璧な演技せなければ作戦は成功しない…
と心の中で呟く。
夜凪は今朝の大黒天での柊雪とのやりとりを思い出す。
そのやりとりは、
黒山から「大河ドラマの現場には難解な方程式がいくつかある」という伝言があった(月曜の朝に夜凪に言えって。自分で言えばいいのに今どこにいるのやら…)。
両拳を胸の前で力強くグッと握り、
「わ、わたしに解けない方程式はないわ(学校の成績はいいのよ)」
と的外れな反応を示す夜凪。
「……。」
と呆れてしまう雪は、しかしもうわかっている。
黒山からの伝言はそういう意味ではない。
そしてそのことを夜凪は理解している、と。
……というそんな内容のやりとり。
撮影現場ではテイク2が始まろうとしている。
監督の犬井五郎が、皐月に「目に気持ちを込めてみようか」と指導する。
周囲にいた他の役者から「体と気持ち両方の演技そのものが目に現れるイメージだ(嬢ちゃんにはまだ厳しいか?)」と小さく助言が入る。
「どうして!? どうしておばあちゃんは映画が嫌いなの!?」
皐月は「こういうことかな?」と思いつつ演じる。その演技はより雰囲気を引き締め、言葉の力強さも一段上がっていた。
テイク2もOKにはならなかった。
監督から「その感じ。次は迷いを捨てて」と指導が入る。
夜凪は「方程式」という言葉を思い浮かべつつ現場の観察に集中している。
出番はないが現場に来ていた環蓮はそんな夜凪を見つめていた。
表情にはすこし意地悪な笑みがあった。
心の中で「君はわかっているのかな? 今食らおうとしているものがとても恐ろしい毒だということを」と思いつつ腕組みのまま無言で立っている環。
夜凪の横顔を見ていた環は「このままじゃつまらない。なにより私のためにならない(後輩のために一肌脱ぐのが先輩の役目だしね…。さて、どうするか…?)」と悩み始める。
移動先の部屋の中で黒山は「そろそろ始まってるか」と呟く。
俺は方程式がいくつかあると言伝たが、それらを自分のものにしろとは言っていない
やっかいなのは本物が混じっているってこと
解き方も正解もある正真正銘の本物の方程式だ
そしてお前は自力で気づかなくちゃならない
その難解さに
その正体に
誰かに教わって学ぶ形じゃ駄目なんだ
心の中で、そう夜凪に語りかける。
…分厚く高く頑強な石の壁だ。見事、ぶっ壊してみせろ、夜凪!
黒山は思いを巡らせる。夜凪の才能を信じて。
撮影現場では皐月のテイク3が始まろうとしていた。
第1話「方程式」/おわり
以上が、私なりのアクタージュ「scene124」となります。
この大河ドラマ「キネマのうた」で語られる薬師寺真波は、現実の日本の役者で言うなら原節子と杉村春子を足して2で割ったような位置づけになっています。
そしてその娘である薬師寺真美が「毒」として扱われているわけです。
この「毒」が意味するものが何なのかは、容易に推測できます。
21世紀、日本の今の役者の世界に実在する毒です。
しかし、私はこの「毒」にあえて別の解釈を与えます。
原作者が「総仕上げ」と目した大河ドラマ編ですが、私はこの大河ドラマ編を【(私の独自解釈による)「毒」と夜凪が向き合うエピソード】として扱うに留める予定です。
なお、本来小説屋である私が小説作法ガン無視で書いてみました。
人称や視点がばらばらで読みづらいかとは思いますが、漫画作品を文章のみで表現するとどうしてもこの形になってしまうのです。
漫画表現におけるフキダシ内の言葉には「 」を使っています。
フキダシが無い文章や手書き文字の言葉等には( )を当てています。
地の文章では、状況や光景を説明しています。
これらのルールを厳密に守ろうとしても無理が生じる場合が出てくるでしょうが、表現法の大雑把な方針として、こんな感じで書き進めていくつもりです。