私、高町なのはは教導官になって2度目の春を迎えた。
教導官と言っても、学校の先生のような立場ではなくて、あくまで約半年というサイクルの中で、新人の魔導師や、現場の一線で活躍する魔導師の研修目的の教導が私の主な仕事だった。
たった半年。
されど半年。
その限られた時間の中、でき得る限りの多くのことを伝え、教え、学ばさせて、失敗も成功も伝えれるようにカリキュラムを組み立て、そして教導してきた。
研修を終えた魔導師たちが訓練所を後にする姿を眺めるのも、すっかり慣れていて、けれどその光景を見るたびに、現場で不幸な目に遭い怪我を負った教え子たちのことを思い出す。
その度に私は思い出すのだ。数多くの思いを。
「教官さん」
隊舎の屋上から去ってゆく訓練生たちを見つめていた私は、背後にある扉が開いた音を聞いた。振り返ると、くたびれた管理局の制服を身につけている人物が、困ったような表情をしていた。
「お疲れ様だな、高町」
教官さん。私が空から落ちる事故を起こして、リハビリと魔道士としての訓練を再開したときに専属で教導を担当してくれた魔導師。アクアブルーの髪の毛と、深緑の瞳。その眼差しを向ける彼は、屋上の扉を閉めると私の隣へとやってきた。
「肩の荷が降りた…と言うよりは満足してない顔をしているぞ?」
「そんなに顔に出ますか?私」
「出てるなぁ、そりゃもう」
毎度のことだからな、と言って教官は柵に肘を預けて隊舎の屋上から見えるミッドチルダの街並みを見つめる。
「おおかた、また自分の教導は間違ってなかったのか…とか考えてるんだろう?」
「さすがは教官だあ」
バレてたか、とサイドポニーの髪を柔らかく触ってごまかすが、教官は「何年、お前の尻拭いをさせられてきたか…」と相変わらずの様子でため息をついた。
私にとっての魔導師の先生は、初めて出会ったユーノや、愛機であるレイジングハート、そして管理局に属してから出会った教官だった。
彼には多く助けられたことも学んだこともあった。
機動六課が設立されたときも、そして「JS事件」があったときも、彼はまさに縁の下の力持ちと言った具合で、六課の後ろ盾を担ってくれた上に、市街地戦では私たちがカバーできない範囲を他の教導官たちと協力して補い、市民への被害を最小限に押しとどめてくれた。
教官は常に言う。
〝十の力を持つ者がたった一人で全てを動かすのではなく、一の力しか持たない者たちが助け合い、力を合わせることで十の力を持つ者を支え、共に戦い、存分に力を発揮できる場を整えるのが重要だ〟と。
彼の教えに多くの人たちが加わり、JS事件では壊滅的な被害が出た市街地でも驚く程に負傷者の数が少なく、ガジェットドローンを速やかに沈黙させることができた。
JS事件が終わったあとでも、私にとって教官はあの日と変わらないままの教官で居続けてくれた。
「逃げずに受け止めて、越えるべきものを見つけさせることが、人を育てる上で最も難しいもんさ。高町はそれを見つけさせる才能がある」
ミッドチルダの街並みを眺めながら、教官は腰に手を当てて当然のようにそう言った。褒めるところはしっかりと褒め、ダメなところはしっかりと指摘すると言う信条を持つ教官らしい発言だが、未だにそういうことを言われると心の奥がむず痒くなる。
「皆んなが無事に今日を迎えられたんだ。だから自信を持て、高町」
「ありがとうございます、教官」
礼を持って答えた私の絵顔を見て、教官もニッと男性らしい笑みを浮かべてから軽く私の肩を叩いた。
「と言うわけでだ、今から空いてるか?」
ちょうど娘も迎えに行く時間だろう?知り合いの店でうまい肴があるんだ。そう言って教官は笑った。
どうやらミッドチルダ首都のクラナガンで美味しい店を見つけたようだ。教官の趣味である「日本料理の食べ歩き」は呆れるほど貪欲だが、こう言ったときに役に立つことも多い。教官が紹介する店の全てが当たりなのだ。
「あ、教官!フェイトちゃんや、はやてちゃんも誘っても良いですか?」
「げぇ、アイツら容赦ないからなぁ」
高いネタバンバン頼むのは勘弁しろよ?と苦笑いでいう教官。
桜が舞い、温かな日差しが降り注ぐ中、私も屋上を後にして階段を降りてゆく教官の後に続くのだった。