高町さんの教官さん   作:紅乃 晴@小説アカ

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とあるヘリパイロットと空戦魔道士の話

 

 

俺は空が好きだ。

 

子供の頃から憧れていた空戦魔導師。自由に空を飛び、悪と戦う魔導師に俺は憧れた。身一つで空を飛んだ時の気分は一体どんな気分なのだろうか。その先に見つめるものは一体なんなのだろう。

 

彼らの向く先は、俺にはわからない。魔導師としての素質、リンカーコアと呼ばれる器官が俺には無かったからだ。17のときに受けた検査結果で、俺の夢はあっさりと砕け散った。

 

そして今も、空に向かう憧れを立ちきれずに、ヘリのパイロットなんてものになって、気がついたら結婚して、子供ができて、今ではスロットルを持ち上げて、この鋼鉄の籠を飛ばすことが俺の仕事となっていた。

 

ヘリが浮き上がる瞬間、旋回する瞬間、そして大空を切るように飛ぶ瞬間。その全ての瞬間が、自分のヘリから身一つで飛び降りてゆく空戦魔導師たちの姿を見るたびに色あせてゆく。

 

俺は何故、ああいうふうに身一つで空を飛ぶことができないのか。リンカーコアなんて呼ばれる素質の塊のような俺はひどく恨んでいた。

 

鋼鉄の籠で空を飛ぶことに慣れてきた頃、俺の腕を買って新たな部署の空戦魔導師を運ぶ役を命じられた。

 

いつものように相棒であるヘリのメンテナンスをしていると、これからお世話になると挨拶をしにきた魔導師を見て、唖然とした。

 

なんと、挨拶に来たのは年端もいかない少女だったからだ。名前は高町なのは。歳を聞くのは失礼だと思って聞きはしなかったが、あの容姿で空戦魔道師、それもトップクラスと聞いた時は自分の耳を疑った。

 

まだ遊びたい盛りの少女が?危険な任務が多い空戦魔導師をやるというのか?

 

俺が任せられる任務は、その危険な場所の手前まで魔導師たちを運ぶ「カーゴ」だ。

 

少女を連れてゆけと言うのか。そのことを思うと、胸が張り裂けそうになって、そして情けなくなった。

 

空戦魔導師という人材が枯渇しているというのは知っている。しかしだ。何もこんな少女を駆り出す必要があるというのだろうか。自分の子供のことが頭を過ぎる。俺が彼女の親だったら、とてもじゃないが耐えられない。

 

そして、そんな思いをしているのに、俺が高町なのはの代わりに危険な任務に就く実力も、才能も、能力もないということに焦燥する。

 

鋼鉄の籠の中、俺は高町なのはを乗せて空を飛ぶ。少女に危険な真似をして欲しくないと思うことと、その少女を危険な地へ運ぶ役目。こんな矛盾した役割を何度も繰り返し、いつしか俺は…

 

空が嫌いになっていた。

 

「あの、パイロットさん」

 

何度目かの任務の時、開け放たれた扉に手をかけたまま高町なのはは俺に声をかけてきた。ヘルメット越し、しかも風が唸る中であったが、彼女の持つデバイスとつながるインカムによって、その声はやけにクリアに聞こえた。

 

「なにかな?高町隊員」

 

「いえ、何かあるわけではないんですが…いつも、貴方が何故か泣いている顔で見送ってくれてるように見えて」

 

その言葉にハッとする。自分の表情がそれほど端緒なものだったとは。取り繕うように笑顔を貼り付けようとしたが、高町なのはの言葉に俺の矛盾した行為に対する精神は平静を取り戻すことはなかった。

 

「君は…怖くないのかい?そんな幼いのに…危険な地へ向かうことが…」

 

「怖いですよ」

 

風が靡く中、高町なのはは俺の言葉に簡潔に答えてくれた。その揺るがない表情からは考えられない言葉に、再び俺は呆気を取られた。

 

「怖い…けど、その向かう先に私の助けを待っている人がいるなら…助けたい。だから、私は行くんです。かけがえの無い誰かを助けるために」

 

そう言って、高町なのはは笑った。

 

ぶれることのない信念。そこから形成される言葉を、目の前にいる少女はすでに抱いていたのだ。なんと力強いものだ。自分の思いや感情移入から生まれていた俺の迷いなど霞むほど、彼女は魔導師として立派に見えた。

 

扉のランプが緑へと変わる。降下ポイントを知らせる合図とともに彼女はいよいよ飛び降りる体制へと入った。

 

「高町隊員!!」

 

俺の大声に、彼女は振り向く。その後ろ姿がやけに眩しくて、力強くて。俺は片手でサムズアップを作り、少女に笑顔を向けた。

 

「幸運を祈ってる!!」

 

そういうと、高町なのはは笑顔を向けて力強い眼差しのまま頷き、答えた。

 

「いってきます!!」

 

カンっと鉄を蹴る音と同時に彼女は鉄の籠から飛び出し、大空へと飛ぶ。見下ろすと、少女の体は光に包まれ、魔導師のバリアジャケットに身を包んで桜色の閃光と共に空へと飛び上がってゆく。

 

大空を切り裂き、身一つで空を飛ぶ。

 

鉄の籠の中で俺はその軌跡を見た。どこまでも続く青い空の中を一本の魔力光の尾が駆け抜けてゆく。

 

その日、俺は長年忘れていた空戦魔導師の夢と、彼らが見つめる先を見たような気がした。

 

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あれから数年後。

 

彼女はまだ空を飛んでいるし、俺も彼女やその教え子を乗せて空を飛んでいる。ミッドチルダは大きな事件で深い傷を負った。だが、そこから立ち上がる光を彼女たちは守り切って見せた。

 

俺は空が好きだ。

 

彼女たちが乗るヘリのパイロットととして俺は空を飛んでいる。

 

誰かのために戦う誇りある魔導師たちを乗せて。

 

 

 

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