第0節 〜索引〜
今までのあらすじ——。
俺は『レン』……いや、正確には違うが今は『レン』として生きてる女子高生だ。……ごめん、これも正確には違う。
元は俺は、ごく普通の『男子高校生』だった。
だがある日、課外授業で某英霊が戦う黄金の杯に似た『異質物』……『ロス・ゴールド』を狙うテロリストの襲撃に遭う。
そこで何があったのか俺は詳しくは知らない。だが強い衝撃を受けて気絶してしまい、目が覚めたら……世界滅亡の災害に巻き込まれてしまった。
しかもただの災害じゃない。
都市全体は廃墟になり、街は燃え盛っていた。人間は狂気に満ちた表情のまま塩の彫刻となっていて、触れただけで首が崩れ落ちる惨状が満ちていた。
俺は心から願った。
——仮に……もしも……。
——『神様』が本当に存在していれば……。
——お願いだ……すべてを夢に……。
「全て、夢であってくれ——」
————ならば、我が器になるがよい————。
眩い光に包まれて俺は目覚めた。
夢の内容は惨たらしく酷いものだったが、最後の方は朧げだった。
きっと夢だろう。『ロス・ゴールド』は突如消滅した件はあったものの、ネットニュースでも第五学園都市——つまり『新豊州』が壊滅した事実なんてなかったし、安心し切っていたんだ。
……だけど、体に異変が起きていた。
早い話が……その、何故か俺……お、女の子になっていたんだ……。
そこからはトントン拍子ながらも色んな出会いと、運命が俺を導いてくれた。
俺と同い年ながらも『魔女』である『アニー・バース』と出会い、更にはSIDの長官『マリル・フォン・ブラウン』に目をつけられた。
事情を説明したところ、半信半疑ながらもマリルは突如消失した『ロス・ゴールド』の件について、俺が深く関係してるんじゃないかと推測して、最重要人物として、非常に……ひじょ〜〜〜に手厚く保護してくれた。
彼女が自身が持つ権限をこれでもかと利用して、俺のデジタル化されているプロフィールをすべて編集……というより改竄をしてくれた。
結果として俺は『レン』という可愛らしい名前を与えられた。……名前の由来は情けなくなるから聞かないでくれ。
学校はもちろん転校して、庶民である俺とは確実に縁がないであろう超セレブリティなお嬢様学校『御桜川女子高等学校』に入学したり、アニー共々SIDの捜査員として色んな任務を受けていた。
……まあ当時の俺はあくまで候補生だったけどね。
その任務にも色んな出会い、成長、因縁があった。
身体中に無数の傷跡を残す、義眼の少女『イルカ』——。
第四学園都市、つまりは『サモントン』からの視察団代表であり、そのサモントン総督の孫娘『ラファエル・デックス』——。
俺のメイド力の低さに怒りをぶつけてきた未だ謎多きメイド『ファビオラ』——。
そしてそのメイドの主人である、とてもじゃないが歳下には見えない金髪の少女『スクルド・エクスロッド』——。
突如蘇った、かの詩人の詩に登場する魅惑のお姉さん『ベアトリーチェ』——。
まだ終わらない。そこからも色々な大事件が起きた。
青金石柱から復活した女性錬金術師『ハインリッヒ・クンラート』——。
南極で保護された悲しき過去を持つ少女『バイジュウ』——。
孤独な審判騎士『ソヤ・エンジェルス』——。
奇妙な縁で共闘(共犯?)関係になったオッドアイの少尉さん『エミリオ・スウィートライド』——。
同じく共闘関係となったエミリオの妹分『ヴィラ・ヴァルキューレ』—。
突如として俺の前に現れた謎の少女『シンチェン』——。
そして、コバルトブルーの髪色を持つ『誰か』——。
波乱と怒涛に塗れた事件しかなかった。
事件の裏には様々な思惑や意図があり、それに巻き込まれて傷ついたこともあったし、失うこともあった。
……そんな中で今でも俺が生きてるのは奇跡としか言いようがない。
だから、時々思ってしまう。
この世界は水槽に付けられた脳内の中身、仮想プログラムの世界、子供が描く空想……色々と仮説はあるけれど、この宇宙は別の誰かが見ていて、その誰かさえも別の宇宙から誰かに見られてるんじゃないかって。
もしも、本当にもしも……『俺達の先にある実際の世界』という宇宙の概念の先……。内包された宇宙の果てや、隣り合わせの宇宙とかではなく、宇宙の外まで解き放たれた存在がいたとする。
その存在がいたとしたら色々な呼び名はあると思うが、シンプルな呼称として神様と仮に定めよう。
ならば疑問に思ってしまうことがある。「どうして神は救ってくれない」かと。
神話を紐解けば個人を救う神はいないということは多い。「俺」を救う神はいない。「あなた」を救う神もいない。
だけど「俺達」を救う神がいる。「あなた達」を救う神がいる。「大地」を「海」を「物」を「魂」を救う神がいる。
されど「俺」を「あなた」を救う神はいない。神の愛は非常に虚げで気紛れなものは知ってる。問題はどうして、神様はそのように成り立ってしまう?
それは、この世界はどこかの神様が見ている夢みたいなもので、いつまでも神様は悠久な眠りを続けているんじゃないかと思ってしまう。
夢を微睡む神様に「自己」はない。「自己」がない以上「他己」もない。だから個人というものが欠損してしまうのではないかって。
ならばどうして神様は、この異質な世界を見続けているのだろうか。人間が誰しも悪夢を嫌う。この七年戦争で未だに怨恨止まぬ世界を神様はどうして見続けているのか。
答えは出るはずがない。神様は覚めない夢を見るだけ。
宇宙の中で動き続ける俺達を(あなた達を)夢の揺りかごに乗せて宇宙の外から包み込むだけ。
だが、その神様の夢がある日気紛れに変わってしまったとしたら——?
…………
……
『混沌』とした夢は終わりを『告』げた。
『白』紙となったシナリオを『演』者と観客は取り戻すため、『亡』くした物を『死』に物狂いで『算』出する。
……
…………
その果てに、同じ夢を神様は見れるのだろうか。仮に見れたとして、内包していた宇宙はどうなってしまうのだろう。
俺達がいる世界は様変わりしてしまうのか。
夢は泡となって俺達は消えてしまうのか。
もしくは俺達によく似た俺達が生まれるのか。
あるいは……もっと別の何かになるのか?
これはそんな、あり得たかもしれない『もう一つの夢』
——失い尽くした『 』は、恐れなどない——
人の夢というものは儚く。
神が見る夢は如何様なものなのか。