魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第14節 〜デュエルサイン〜

『我が名は『■■■■』——。『名状し難き者』——』

 

 

 

 ——そして時は重なる。

 

 

 

 サモントンの上空にて、変わり果てたラファエルが自らを『名状し難き者』と名乗り口上を上げると同時に、サモントンを覆う『時空位相波動』に亀裂が入り砕けた。

 

 サモントンの空に久しい陽光眩く青空が差す。それと共に地震が起き、サモントン都市部のアスファルトが木の根によって砕き別れ、入れ替わるように今度は樹木に守られるように覆われた。

 

 それは皆が求めていたXK級異質物による『天然要塞』の誕生だ。それ自体は喜ばしいことであり、セレサは心のどこかで安心している。これでモリスの負担は和らげることはできると。

 

 だが、上空にいる異形と化したラファエルの説明がつかない。それが何を意味しているのか。セレサには一寸たりとも理解できなかった。

 

「何がどうなってるの……? いや、当初の作戦は遂行したようだけど……これは……」

 

 と混乱するセレサにニャルラトホテプは役目を果たしたかのように高らかに笑って告げる。

 

「あいつは『名状し難き者』……。まあ人間でも口できるようにするなら『ハスター』とでも言っておこうか」

 

「ハスター?」

 

 聞き覚えが一切ない名前。だが名称の発音のしにくさや、雰囲気からして即座に察した。

 その『ハスター』という名は、ニャラルトホテプやセラエノ、それにシンチェンやハイイーと同じように、セラエノから聞いた『外宇宙』の生命体だということを。

 

「ああ、そうさ。アイツは『星尘』や『海伊』と同じように、このサモントンで保管されていたEX級異質物『剛合翠晶』に宿る『外宇宙』の生命体……。お前たち風に言えば『風の神格』さ」

 

「『風の神格』? だったらあれは『蒼穹』じゃないの?」

 

 セレサの疑問にニャルラトホテプは「それ自体は間違いじゃない」と付け足す。

 

「ただ理解が足りてない。マクロとミクロ……もしくは陰と陽と言えば分かりやすいだろう。あの隕石すべてには二つの表と裏の存在が内包している……」

 

 陰と陽の関係を聞いて、セレサは『華雲宮城』で提唱される『陰陽五行思想』について思い浮かべる。

 

 ——『陰陽五行思想』とは。

 正確に言うなら『陰陽説』と『五行説』の二つの思想を合わせたもの。それが『陰陽五行思想』となる。

 

 陰陽とは、『プラス』と『マイナス』のように相対する両極のどちらに属性が高いかによって二分類する考え方である。固定的なものではなく、振り子が一方に振り切れると反対方向に戻るように、そのバランスは常に変化し増減している。

 

 五行とは、大まかに『火』『水』『木』『土』『金』がそれぞれに影響し合う考え方のことだ。それを『相生』と『相剋』ともいうが、これは今は関係ない。

 

 その前者——『陰陽説』をセレサは思い浮かべているのだ。

 ラファエルが手に取った宝石——ニャルラトホテプの言う通りなら『剛合翠晶』という隕石には『風の神格』が内包しているが、それには表と裏があるのだ。

 

 セレサが『モントン遺伝子開発会社』から得た情報に間違いがなければ、その表というのがデックス博士が観測した『蒼穹』ということになる。だが、それは同時に裏側である『ハスター』という存在さえも呼び起こし、それが今のラファエルを犯して異形にしたのだと理解した。

 

 

 

 ——それを理解した時、セレサの中で一つの疑問が爆発的に生まれた。

 

 

 

 だったら、今SIDが所有するスターダストとオーシャン——改めて『星尘』と『海伊』の情報が詰め込まれた『剛和星晶』と『剛積水晶』にも——。

 

 

 

 ——それぞれに対応した『裏』の『神格』があるということではない、かと。

 

 

 

 そして——。ラファエルは『風の神格』に取り憑かれることで今の異形となったというなら——。

 

 名の通り『土』の属性を持つウリエルに、ニャルラトホテプが化けていた理由は——。

 

 

 

「アンタ……『土の神格』の『裏』ってこと?」

 

「そういうこと。そんで、基本的に『神格』同士は表側……つまり『星尘』や『海伊』とかは本能的に仲良くなる」

 

「だが」とニャルラトホテプはレンの顔に似つかわしくない表情を浮かべて饒舌に言う。

 

「俺たち裏側の『神格』は違う。基本的に独立した者同士だ。互いに無干渉を心掛けるようにしている。だが各々のやり方が違うだけで、目指すことはただ一つ。侵略の一手だ」

 

「侵略——?」

 

 その単語がセレサの中で引っかかった。

 疑問が大きく膨らむ。侵略自体は手段でしかなく、目指すべき目的への過程でしかない。

 そして『一手』とも言った。現在サモントンを混乱の渦に叩き込んでいるはずなのに、この惨状を過程であると断言した。

 

 

 

 ——だとしたら侵略の先にある『目的』は何なのか。

 

 それがセレサの中で気掛かりになっていた。サモントンを混乱させる以上の『目的』——。その意味を計りかねていた。

 

 

 

「まあ? 俺からすればレンをこの手にできれば、どんな手段と道筋を辿ろうと面白くなればなるだけいい。だからこうして手助けしたのさ、ハスターの降臨を」

 

 そこで説明を終えたのか、ニャルラトホテプは喉にまで深く突き刺さったセレサにはの刃を強引に引き抜き、悍ましいほど流血する首を瞬時に再生させて立ち上がった。まるで今まではワザと手を出していなかったと言わんばかりに軽々と。

 

「おめでとう。これでサモントンは無事に危機を脱することはできました。だが、代わりに頂いていくのさ。レンのすべてと、ラファエルのすべてをねぇ!!」

 

 さらにニャルラトホテプは腕を再生させ、さらにその一部をタコにも植物の蔦にも見えなくもないほどに手を異形化させて、容易くセレサの首を絡め取って宙吊りにした。

 

 一転してセレサは窮地に陥る。酸素が脳に渡らず、血も巡らない。一気に節々の力が抜けていく。骨が軋んで今にも折れかかっているのがセレサには分かる。

 

 人体にとって首の骨は神経に多大に繋がっており、骨折してしまえば幸いにも即死を免れたとしても、後遺症として下半身不随などによる植物状態となる。首の傷害はそれほどまでに凶悪だ。焦らないわけがない。

 

 

 

 死の運命が目前へと迫る——。

 

 本能的な恐怖がセレサの心身を蝕む。懸命に首の触手を緩めようとするが巨木の根っこ、あるいは巨漢の筋肉のように貼り固まった触手は単純な力勝負でも、技術でも抜け出すことができないほどに圧倒的だった。

 

 刀の握る手には力が入らず、足も浮かんで踏み込むこともできない。今この場において、セレサはただの無力な人間でしかない。それを痛いほどに実感した。

 

 その反応を欲していたかのように、ニャルラトホテプは薄気味悪い笑みを浮かべると、わざとらしく煽るように高々と告げた。

 

「ははは! 君みたいな強い人が、そうやってもっと強い力に屈服して恐怖するのは堪らない!! 貧弱、惰弱、脆弱ッ!! 脆すぎるよねぇ、人間ってやつは!!」

 

 心底楽しそうにニャルラトホテプは告げる。まるで擬態しているレン自身が、そのような感情を元々持っていたんじゃないかと錯覚してしまうほどに楽しく歌う。

 

 それに伴い触手の圧力は強くなる。セレサのこれ以上の対抗をさせないために四肢にも触手で覆い、両腕、両足、首を全て拘束した。

 

「がぁあああああっ!!」

 

 やがて手の指の骨が砕けた。折れたのではなく、砕けたのだ。

 触手で覆われた四肢に圧力の逃げ場はない。360°全てから力が伝達し骨は砕け散り、血管が破裂した。筋肉は極限にまで萎み、触手から解放された指がセレサの目に入った時、それは本当に人の指だったのかと疑うほどに細くなっていた。

 

「すぐには殺さない。俺を拷問したように、ジワジワと行かせてもらう。指を、腕を、肩を順繰りに砕く。足も同様だ。そのあとは歯を一本ずつ砕いて、鼻もへし折ろう。もう人間じゃないほどに惨めで不細工な面構えにして、屈辱に塗れてもらおうか。その後に嬲って、嫐って、なぶり殺す。文字通りにね」

 

 宣言通り、次は腕が砕かれ、内部では爆発したように血管から血が溢れ出る。あまりの激痛にセレサは今にも意識が落ちてしまいそうだが、それさえも首元の苦痛が無理矢理意識を拾い上げ、強制的に首を優しく曲げて見るも無惨で悲惨なセレサの利き腕を見せつけた。

 

「これじゃあ自慢の抜刀術はできないねぇ。ってことは、もう君はそんじゃそこらの人間と大差ないってわけかな? いや、違うな。まだ足があるか」

 

 と、次は片足の骨が砕かれた。共にどちらも右側であり宙ぶらりんとなっているセレサでも理解できるほどに、身体のバランスが崩れてしまう。

 

「がっ……!? あがっ……!!」

 

「ほらほら。もっとブサイクな声で鳴けよ、下品でもいい。痛みのショックで粗相を起こしてよ。惨めな姿を見せてくれよ……さっさとよぉ!!」

 

 今度は身体を触手が絞り、臓器を全てに激痛が走る。だが先程の片腕や片足を砕いた時よりかは優しく、骨や血管が破裂することはない。

 だが過剰の外部刺激で臓器の動きが促進、あるいは逆流が起こる。胃酸が競り上がり喉元まで到達する。腸内が煮えくり、消化物を排出させようと小腸まで駆け巡る。

 

 だが、そこまでだ。二つともニャルラトホテプの触手によって既の所で押さえつけられて体外に出ることはない。しかし臓器の活動は止まることなく、セレサの喉元と腸内に次々と汚物を溜め込んでいく。あまりの量に漏れ出し、穴という穴から出てくるのではないかと思ってしまうほどに。

 

「もういいか」

 

「ゔぉえ……!?」

 

 そしてようやくセレサは触手から解放され、同時に上も下も無様に汚物を溢れ吐き出す。衣服は胃酸特有の鼻を劈く匂いが媚びりつき、下着には異物が混入して悪臭を放つ。

 

 身も心もプライドもズタズタにされ、怒り狂いそうにセレサはなるが、既に右半身は動くことさえできないほどにボロボロだ。

 立つことも、身を起こすこともできず、ただ地べたに顔をつけて這いずり回る醜悪な姿を晒すことできない自分に、セレサは思わず涙が溢れてしまう。

 

 それを見て、ニャルラトホテプは満足気に、だがまだ物足りないと言わんばかりに饒舌に語る。

 

「いいねいいねぇ。美しいねぇ、汚いねぇ、惨めだねぇ、楽しいねぇ。人が悶え苦しむ姿は堪らない。特に君みたいな強い人間なら尚更だ。だってそれは窮地に陥ってもなお『余裕』があるからだ。救いを乞うか、最後まで耐え抜こうとするか、諦めて心を殺すか。それを選べる『余裕』がある。そして『余裕』があるからこそ感情は揺らぎ、輝きを絶やさない。それが消えうる最後のひと時は本当に極上で堪らないんだ。頼むから、できるだけ長く抵抗してくれよ?」

 

 ニャルラトホテプは本当に楽しそうに笑いながら、今度はセレサの鼻に指を押しつけ、まるで豚のように潰れるセレサの顔を見て、さらに笑みを深くして呟く。

 

「今度はどんな顔を見せてくれるかな〜〜?」

 

「——それ以上その顔で、その声で、下衆なことを言うな」

 

「へ——?」

 

 

 

 途端、いつの間にかニャルラトホテプの背後に迫っていたハスターと呼ばれる存在は表情を不快に染めて、その異形の手でニャルラトホテプを地面へと叩きつけた。

 

 

 

「は——?」

 

 

 

 痛みはない。だが理解もできない。ニャルラトホテプは自身に起きた事が分からなかった。

 

 何故ここまで来てお前が俺に攻撃してくると、ニャルラトホテプは心の片隅で思いながら振り返る。

 

 

 

 ——瞬間、理解した。ニャルラトホテプだけは理解した。

 

 目の前にいる人物が——いや、異形は決して自分がよく知る存在ではないということを。

 

 

 

「…………お前誰だ? 姿形、匂い、雰囲気……確かにそれだ。だが違う、魂が微妙に違う」

 

「お前」と一言挟んでニャルラトホテプは怒りにも近しい語気の荒さを持って告げる。

 

「『ハスター』じゃないな——?」

 

 その言葉に、異形と化したラファエルは「ああ」と認め、風のように掴みどころのない抑揚と、しかし確かに力強い宝石のような気高さで告げる。

 

「我が名は主神『ハスター』の『秘められし胤』——」

 

 それは言葉一つ一つが重みを持ち、まるで『王』であるかのように異形のラファエルは自身の名を名乗った。

 

「『宝玉の皇太子』——『ルクストゥール』」

 

「『ルクストゥール』……? 聞いたことないぞ……? そんな名前、ハスターからは1度たりとも…………」 

 

 ニャルラトホテプの中で疑問が爆発する。だが疑問は、彼にとって『恐怖』にはなりえない。むしろさらなる『混沌』を生むための糧であり、これまた楽しそうに笑いながら言った。

 

「……いや、それもまた面白いか。お前の目的はなんだ?」

 

「決まっている——」

 

 そう言って『ルクストゥール』と名乗った異形は、ローブみたいに顔を隠す髪を掻き上げ、変色した肌色ながらも、色褪せぬことないラファエルとしての美貌と気高さを誇りながら告げた。

 

「——我が従者ラファエルの願いを叶えるため、レンを守ることだ」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 暗黒の世界の只中、俺とウリエルは『魔導書』の主人となるヴィラクスを相手に戦闘が始まっていた。

 だが戦況は決して俺達に好転しない。むしろ劣勢と言っていい。ヴィラクスの『魔導書』から放たれる魔法の数々は、ウリエルの魔法で形成される土の壁がなければ一瞬で致命傷になりかねないほどに怒涛の勢いで攻め立ててくる。

 

「なんだよ……! 何が羽は飾りだ……っ!! 滅茶苦茶戦いにくい……!!」

 

「当たり前だ。羽があるだけで機動力は何倍にも上がる。なにせ移動手段が二次元から三次元になるからね。人力だけでは到達できない領域をヴィラクスはいま支配している」

 

 何よりこちらの攻めを鈍重にしているのは、制空権を捉えていることだった。ヴィラクスには悪魔を模したような羽根が生えており、それによって空中に浮かんで近距離戦闘を一切行わずに、芋スナのようにチマチマと堅実に魔法による遠距離攻撃で戦況を操作しているからだ。

 

 いくらギン教官との訓練で飛躍的に強くなったと言っても、俺には遠距離攻撃を可能にする技も力もない。そしてウリエルの魔法は『防御』に特化していて防ぐことはできても、攻めに転用することができないと足踏みしている状態なのだ。

 

「もう一度眠れ……っ! 私とニャルラトホテプ様のために……っ!」

 

「大地よ、砦となりて我らを守れ!」

 

 ヴィラクスは『魔導書』の魔力と羽を利用して、喉を一瞬で焼き焦がす熱風を放つ。対してウリエルは土壌の盾を瞬時に生み出し、熱風の直撃を避ける。

 俺は何度目か分からぬ感謝の言葉をウリエルに伝えるが、当の本人は聞く耳を持たずに常にヴィラクスへと視線を向けていた。

 

「ヴィラクス、話を聞いてくれ」

 

「話? 聞けば眠ってくれますか?」

 

「いずれは眠るさ」

 

「話のわかる方で助かります。流石はデックスの1人。『元』は私の主人なだけありますね」

 

「でも、それは今じゃない——。君を、君だけでも、せめて僕の手で助け出さないといけない」

 

 ウリエルからの返答を聞いて、純真無垢な優しさを持っているはずのヴィラクスは汚物でも見たかのように表情を険しくさせる。

 ……あれは本当にヴィラクスなのかと自分でも疑ってしまう。そこにはもう『天使』と言える雰囲気はなく、身も心も堕ちた、まさに『堕天使』と言える邪悪さが内包されている。

 

 だとしたら、あそこまで人を変貌させることができるニャルラトホテプという存在に、ドギツイ嫌悪感と拒絶をこれでもかと抱いてしまう。

 

「君が、レンが、サモントンが……こうなってしまった全ての発端は僕の軽率な行動が原因だ。その尻拭いは僕がしないと、デックスの名を汚すことになる」

 

 しかし、ウリエルの言葉は続く。ヴィラクスとは対照的に、自分の名に恥じぬ『天使』のような優しさと使命感を持ちながら、

 

 だけど……『夢』の世界でも言っていたが、こうなってしまった原因にウリエルにあると言っているが……それはいったいどういうことなのか?

 

 それはヴィラクスも同じようで、目を据わらせてウリエルを見続ける。そんな心情を察したように、ウリエルは息を整えて話し始めた。

 

「先に言っておく。僕はもう死んでいる——。『ウリエル・デックス』という人間は、すでにニャルラトホテプに取り込まれた人物の名だ」

 

 ……その言葉は意外でも何でもなかった。『夢』の世界で話を聞いた時点で、ある程度予測はしていたことだ。

 

 何故『ルーチュシャ方程式』の悪質さに気づいていたのか。あんな見た目だけなら、ただ情報しか記載されていない物のはずなのに。

 それは一度その悪質を受けたからに他ならない。だからこそ、このウリエルは『ルーチュシャ方程式』のことを知っていたんだ。あれを解いてしまえば、ニャルラトホテプに取り込まれてしまうことに。

 

 ——問題はどうしてそれを受けてなお、今この場にウリエルはいるのか? ということのほうが俺にとって重要だ。

 

「僕はそんなウリエルが無念を抱えながら、魔法で生み出した『土人形』——。つまりは『ゴーレム』とか、その辺に該当する物なのだ」

 

 それも勿体ぶることなく、アッサリとウリエルは答えてくれた。だがヴィラクス当人はため息をついて呆れて話を聞いていた。

 

「わざわざ話す事ですか、それ? これだからお子ちゃまは困るんですよ」

 

「ああ、お子ちゃまさ。だから恥を晒している。だからこんな身になっても、やらなきゃいけないことが僕にはあるんだ」

 

 ウリエルは土を新たに現出させて、装甲のように身に纏いながら肥大化していく。粘土を練るように土は形を変えて2m、3mと大きくなっていき、神話やゲームに出る『ゴーレム』に相違ない土の巨体、あるいはロボットのような体躯となってヴィラクスと相対する。

 

 表情は既に見えない。少年の身体はその体躯の奥深くにいるから。

 それでもその瞳には、俺にはきっと分からない覚悟が既にあることだけは理解した。

 

 

 

「僕は、ケジメをつけないといけないんだ。今までの僕のすべてに。そのために、君だけは絶対に助け出さないといけない」

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