土の巨兵となったウリエルは、その身を持ってヴィラクスの魔法の弾幕を受け切る。一つでロケット弾並みの火力を誇るため、着弾する度に巨兵の土は土砂崩れのように崩壊し、すぐさま荒療治で再生して継ぎ接ぎだらけの不恰好な姿になっていく。
レンは手を出すことができず、ただ巨兵の影に隠れてチャンスを伺う。常に空中に滞在する相手に打てる有効打がレンには一切ない。ここで迂闊に前に出れば蜂の巣になるのは目に見えている。今は座して待つしかない。
そう分かっていても、レンには焦りが募る。
ウリエルと一体化している土の巨兵はヴィラクス相手に防戦一方だ。『魔導書』の魔力をこれでもかと活用して襲いかかる魔力の弾丸は、さながら『OS事件』でかち合った名も知らぬ『異形』を小型化したような脅威さであった。
あの時はミルクの助けがあったから何とかなったものの、今この場に置いてそういう類の物は一切ない。
ニャルラトホテプにオーガスタの『ジーガークランツ』の欠片、それに霧吟の『流星丸』も回収されてしまっていて、レンの手には今はいつものバットしかないのだ。
「ほらほら!! 今度は威力あげるよっ! ニャルラホテプ様に相応しい愉快で素敵なオブジェになるまで頑張ってくださいよ! 元主人のウリエル様ァ!!」
敬語ながらもヴィラクスからは大人しそうな口調は消え去り、狂気に魅入られた悪魔のような残虐な笑顔を浮かべて攻撃を続ける。
一撃で腕を抉り、一撃で頭を飛ばし、一撃で腹部を貫く。
土粘土だから良いものの、こんな過剰火力を人体に向けられた間違いなく必殺の魔力だ。掠っただけでも致命傷となって死にかねない。
——今まで『魔導書』自体と相対したことがなかったけど、まさかここまで強力だったなんて。
そういう考えがレンに過ぎるが、一度冷静に考えれば当然だとも言える。
今まで『魔導書』自体を目にすることはなかった。見たと言っても、江森発電所でイルカが魔導書の『ページ』を回収したのと、いつぞやの『記憶』が呼び起こされてファビオラに魔導書の『ページ』を取り込んだ時くらいしかない。
そう。あくまでレンが目にしてきたのは『ページ』だけだった。
それだけなのに、あの『OS事件』での海上戦で大活躍したイルカは披露してはいたものの江森発電所で『ドール』相手に押し負けた。
その『ドール』だって『魔導書』を媒体に傀儡にされた存在だ。『ドール』はあくまで『魔導書』の一部でしかなく、その一部でさえ18年前に遡ればバイジュウとミルクを裂いた南極基地での悲劇を齎すことも可能なほどに強力なのだ。
それを束ねる『魔導書』————。
ページ数にして『数百』を超え、サモントンに飛来する『ドール』は『数十万』を超える——。
であれば『魔導書』の魔力がそれに匹敵するのは当然なのだ————。
むしろウリエル一人で耐え凌いでいるほうが異様だとも言える——。
やがて土の装甲は消え去り、その巨体からウリエルが顔を見せた。肌も死人のように青ざめており、心なしか身体そのものが亀裂が入ったような傷も見える。
そんな今にも砕け散りそうな少年の姿を、ヴィラクスはウリエルの記憶にない悪魔の眼差しで見つめる。
そこにはどんな思いがあるのか。それはウリエルにもレンにも分からない。
今のヴィラクスには新豊州で見せた優しさやお淑やかは微塵もない。身体は魔力に犯され、精神も思考も狂気に蝕まれ、ただ自分の主人であるニャルラトホテプに喜んで貰うために奉仕する哀れな従者。見方によれば、縛り付けられた自意識がある分『ドール』よりも悲惨な目にあっているのかもしれない。
——だからこそ絶対に助けないといけない。
——ヴィラクスをあんな風にしてしまったのは僕だから。
ウリエルは再度決意を固めて、土の巨体を修復し、さらに砂を巻き上げて装甲を纏うように巨体を覆う。
今までよりも何重にも硬い装甲。戦車の弾ぐらいなら耐え凌ぐのもわけない強靭さ。
だが『魔導書』の魔力は絶対的だ。
ヴィラクスは指を弾くと、それが引き金だったかのように練り固まった純粋魔力の弾丸が最も容易く再び巨体を貫いた。
『————ッ!』
即座に再生して立て直すが、装甲の中にいるウリエルの様子は本人以外知るよしがない。土の巨体は五体満足となっているが、本体は既に左目と左腕、そして下半身全てが砕け散って塵となって土と一体化している。
それはウリエル自身が既に魔力の塊である『ゴーレム』の身である故だ。ゴーレム故に『核』という名の心臓さえあれば、いくら身がなくなろうと消えることはない。その分だけ命を全てを魔力に変換できるが、同時に代償とした分の身を壊す不可逆変換。
もうヴィラクスの顔さえ霞んでしまっている——。
だが、それでも諦めるわけにはいかない。いや、諦めた瞬間に勝機は失う。ウリエルはただ耐えて待つしかないのだ。
なぜなら、既にウリエルには打開の一手が見えている——。
そのために全身全霊を持って耐えることしかできないのだ。
「しつこい……。破壊して再生してを繰り返す……。つまらないつまらないつまらない!!」
いつまでも耐え続けるウリエルの消極さと退屈にヴィラクスは苛立ちを覚える。それと共に魔力の弾は威力を増していき、ドリル重機のような鋭さと力強さで巨体の装甲を貫き、右腕を崩壊させた。
「こんなんじゃあ、ニャルラトホテプ様は満足しないっ!! 私に愛してくれないっ! ニャルラトホテプ様にすべて捧げる従者として情けないっ……!!」
『————神に愛を求めてたらダメだろ』
ヴィラクスの言葉にウリエルは静かに、だが確かに伝わるように音を濁さずに告げた。
『神に愛はない。正確には個人など与える愛なんてない。神の愛は平等であり、平等であるが故に無価値なんだ』
「——お子様の口で偉そうにっ!!」
ウリエルの言葉はヴィラクスの逆鱗に触れた。
なにが『神に愛はない』だ。確かにウリエルはデックスの一人であり、宗教思想には深い知識はあるだろう。その言い分にも一理はあるに違いない。それはヴィラクスでも内心は認めている。
そうだとしても、お子様でありニャルラトホテプ様の理解に遠いウリエルが口にすることか——。その感情がヴィラクスの中で揺らぎ高ぶる。まさしく火に油を注いだ言わんばかりに強く。
「ニャルラトホテプ様は私を愛しているっ! だからこそ『魔導書』を預け、私に力を振るうことを許してくれているっ! これを愛じゃないと否定するんですかっ!」
『その否定を肯定しよう。僕は君以上にニャルラトホテプと一緒だったから分かる。アイツには『何もない』——。アイツの本質は、デックスの皆が抱えるコンプレックスの塊のように『何もない』んだ』
侮辱するな。たかが天使の名を持った人間如きが矮小な価値観でニャルラトホテプ様を知った気になるな。
ヴィラクスの魔力が夥しいほどにドス黒い瘴気が混ざり合う。暗闇の世界であるのに関わらず、その『黒』こそが輝いてると言わんばかりに非常に濃い魔力が形成される。
「ニャルラトホテプ様を……その程度で知った風な口を……!」
『じゃあ、やろうか。全部を込めて。僕の理解と、君の思い。どちらかがよりニャルラトホテプを重んじているか』
ウリエルは挑発する。ここを逃せば勝機がないと確信して。
その挑発に何の意味があるのか。ヴィラクスは思考の片隅で疑問に思う。
今の今まで防戦一方。こちらにかすり傷を負わすどころか、攻撃さえままならない一方的も一方的だ。勝機なんてあるわけがない。
しかしウリエルは無謀な策を用意するほどの愚者ではないこともヴィラクスは知っている。ならば、そこには必ず何かしらの策があるのだ。
だが——ヴィラクスはその挑発に容易く乗った。
何故なら主人となるニャルラトホテプが言っていた。
——『希望を与えられ、それを奪われる……。その絶望へと変わるまでの一瞬が一番楽しいんだ』
だったら今こそニャルラトホテプ様のお気に召すままに。相手の挑発に乗り、その希望を絶望へと変えてやろう。
真正面から打ち砕いて、角にして、灰にして、許しを求める余裕も与えずに、私の方がニャルラトホテプ様を重んじていることをその身で証明してやろうと。
「——消えなさい。小僧」
ヴィラクスとウリエルの間に極彩色の魔力弾が生成される。輝く黒に入り混じり、大きさも距離も分からないほどに瞬く輝きを繰り返す。さながらそれは趣味の悪いミラーボールでもあり、今のヴィラクスの心境を写す鏡でもあった。
そしてそれは放たれる。土の巨体をすべて押しつぶす魔力弾がウリエルへと押し寄せてくる。
相も変わらずにウリエルは防御体制を崩さずに魔力弾を真正面から受け止めた。特に何かの策を講じることもなく、純粋な力勝負でヴィラクスの魔力を受け止めた。受け止めてしまった。
結果は火を見るよりも明らかだ。どうあがいてもウリエルが勝つことはない。現に受け止めた側から巨体は手から崩れ落ち、即座に再生してまた崩れ落ちるの繰り返し。
こんなの時間の無駄だ。ただ消耗するだけの無意味な時間。
それが少年の最後になる。デックスと呼ばれる身としては呆気なく、情けない最後になる。何かを成すこともなく少年の命は尽きる。
——刹那、ヴィラクスの中で記憶がチラついた。
——自分にとって本当に『尊い』と思える物はなんだったか。
…………
……
「こちらSID第1部隊長エミリオ! サモントン上空に降下中!」
世界は変わり、サモントンにて。
『時空位相波動』の境界がなくなったことで、エミリオ達を筆頭としたSID所属の魔女が上空にてパラシュートを展開して降下をしている。
高さは実に200m——。
この高さならまだ『ドール』の攻撃は届くことはないが、既にこちらに狙いを定めて『ドール』は地上にて撒き餌を待つ魚のように固まっている。
このままでは死を待つのに——。
だがそんなことは想定内だ。エミリオは通信機に「お願い」と合図を送ると、流星のようにサモントンの空を裂く赤い閃光が地上に降り立った。
——それは血の伯爵夫人『レッドアラート』に他ならない。
レッドアラート特有の超高速軌道による突貫攻撃が『ドール』を一瞬にして数十体も一撃で切り裂いた。
胴体が上と下で綺麗に分かれるが、そのままでは『ドール』は無力化されることはない。
だが、それさえも解決してるからこその『対魔女兵器』なのだ。
レッドアラートの武装は『ニュークリアス』——。
切り裂いた相手を炉心溶融の要領で溶かす『一撃必殺の刃』——。
切り裂かれた『ドール』は瞬時に溶解して、その身を蒸発させた。一撃で確実に抹殺できるということは、一体一体に費やす時間も最小限かつ最高効率という意味を持ち、エミリオがいるところだけでも百体といる『ドール』が瞬く間に蒸発したのだ。
その時間はわずか10秒——。
秒速10体の必殺は、エミリオ達の呼吸を一瞬止めるほどに驚愕だった。
「…………ひゅ〜〜♪ 敵としても恐ろしいのに、味方になるとそれ以上に頼もしいなんてね……」
「あぁ……。しかもレッドアラートはどこまでも『兵器』だ。『魔女』と違って『人間』じゃない……」
ヴィラの言葉にはどんな意味があるか。
それは視界に映る『ドール』の挙動が全てを物語っていた。
すべての『ドール』が目前に迫るレッドアラートなんて気にも止めず、さらには抵抗もすることなく隙だらけで斬殺されているのだ。まるで最初からレッドアラートなんか存在しないかのように無防備に。
それもそのはず。『ドール』の基本行動は『人間を襲う』という単純明快なものだ。
単純故に人間を襲うためなら例え手足がもげようと、首が取れようとも執念深く行動し続ける。その身が尽き果てる最後の最後まで。
だがそれが同時に弱点となる。逆に言えば『ドール』は『人間以外は襲わない』のだ。
装甲車、戦闘機、戦艦などはどれも人間が搭乗してるが故に『ドール』が機敏に反応して襲撃してために効果が薄いが、完全自律AIによる操作であれば『ドール』がそれらに反応することはない。
威風堂々と、真正面から、無防備に、無警戒に、不意打ちするという矛盾の塊が成立するのだ。
それは戦場において必勝中の必勝であり、それが実現されてしまえば『ドール』如きではレッドアラートを止めることはできない。例え何十万体いたとしても。
——仮にレッドアラートを止められるとすれば。
『エミリオ! 300m先より『コード:A』が接近中! 直ちに迎撃準備に移れ!』
「コード:A……ということは『鳥』ね!」
それはハインリッヒ達が『シャンタク鳥』と呼ぶ存在だ。
レッドアラートの上から鳥が爪を立てて襲いかかる。あの鉤爪はマトモに食らえば鋼鉄さえも引き裂く得物だ。レッドアラートだって別に防御面は秀でた性能があるわけではない。攻撃対象になるというのなら、耐熱耐性以外はそんじゃそこらの鉄の塊と大差ない防御力では数撃で機能停止してしまう。
「まあ、今こそ私の能力よね!」
エミリオは予め深く傷をつけておいた前腕部を大きく振るい、その傷口から血を散弾のように放つ。血は身体を離れた瞬間に『硬質化』し、鋭利な氷柱のような形状となって『シャンタク鳥』の翼を傷つけ、その眼球へと深々と突き刺さった。
エミリオお得意の能力『血の硬質化』だ。そしてその後には当然——。
「バ〜〜イ♪」
——『血の蒸発』が行われる。
『——■■■■■■■!!!!』
鳥は耳を壊しかねない悲鳴をあげ、眼球と共に翼が焼き解けて地上に落下していった。
地上の敵はレッドアラートが請け負い、空中の敵はエミリオが排除する。両者ともに戦闘面において抜群の汎用性を持つからこそできるコンビネーション。
「うっし! どうよ、お姉さんの十得ナイフも顔負けの利便性!」
ドヤ顔でエミリオはさらなる同行者であるギンへと向けて告げる。
ギンは冷静に「後続があるかもしれん。警戒を怠るな」と指摘して戦場の様子を以前として伺い続ける。
やがてレッドアラートは『ドール』の掃討作業を終えて、次なる標的を求めてサモントンの空へと帰っていった。そして再びまた別の地方へと流星となって駆け巡る。
そしてその閃光は一つではない。
マサダブルクから合計10機のレッドアラートと、その補助端末である『ブルートゥース』も100機という群体が、レッドアラートの後を追って各地へと散開していった。
「頼りになりすぎ……」
『これで一つ貸しだからな、エミリオ。本国に戻ったらプロパカンダの一環くらいは助力してもらうぞ』
「はいはい……」
無線越しから聞こえるパトリオットの声にエミリオは適当に相槌を入れながら、パラシュートを閉じてサモントンの大地へと足をつけた。
周囲を改めて警戒するが、今この場において残存する『ドール』はいない。見事にレッドアラートが全滅させてくれたからだ。
この場にいるのはエミリオ、ヴィラ、ギン——。
「——よし。ここからは私の出番だ」
そしてミカエルの四人だ——。
サモントンの大地に『天使長』であるミカエルが降り立つ。
その手には炎が固定化されたように赤く熱を帯びた剣が握られており、一閃を振るうと空間を焼き焦がすような魔力が世界を蝕んだ。
「いくぞ——。『パーペチュアル・フレイム』——」
……
…………
——暗闇の世界の只中。魔力で彩られた景色が収束する。
結果として、ウリエルはヴィラクスの魔力に耐えることはできなかった。
巨体は木っ端微塵に消え去り、残された魔力に炙られたウリエルらしき『焼き焦げた頭部だけ』が落下してくる。首から下は炭になって朽ちていく。暗闇の世界に溶けて消える。
もう助けようがない——。
それはこの場にいる誰もが刹那で理解した。
「ははっ……バーカッ! アーホッ!! 私の……わたしの……っ!!」
ウリエルの惨状を見て、ヴィラクスは高笑いながら見下ろす。
しかしその頬には涙が流れていた。ヴィラクス自身でも分からない涙の理由。その涙を認識し、理由を考えようとした時、ヴィラクスの脳裏に鋭利な物が突き刺さったような衝撃が襲った。
「いたい……っ!! 頭痛がする……っ!! 心も痛い……っ!! なんでっ!!?」
『——君の魔力が尽きたからさ』
その時、声が響いた。それはヴィラクスがよく知るウリエルの声に間違いない。
いったい何故。いったい何処から。
その疑問はすぐに解消された。もう発声器官さえなく、口を開けることもままならない『焼き焦げた頭部』が声を発したのだ。
『だから——今なら、今だけなら届くっ!! この瞬間を……レンッ!! 今がチャンスだ、走れッ!!』
「おうっ!!」
それはウリエルが既に『ゴーレム』だからこそできた合図。ゴーレムだからこそ、そのような状態でも声を出すことができる。
ウリエルの言葉にレンは待っていたかのように前に出て、ヴィラクスへと距離を詰めていく。横軸までの距離に関しては十数メートルとすぐに詰めることができる。
そして縦軸の問題は——木っ端微塵となって小さな『山』として積み重なった土の残滓が解決していた。
最低限の足の踏み場だけを用意して、階段状に土は積んであり、駆け上がるだけで上空に浮かぶヴィラクスを捉えることができる。
「目標はっ!?」
『『魔導書』本体っ!! 君の能力なら、ヴィラクスとニャルラトホテプの繋がりを断つことができる!! ハインリッヒが『守護者』から解放されたようにっ!!』
「わかった!!」
レンは山を登り、確実にヴィラクスへと距離を詰めていく。
ウリエルの宣言通り、ヴィラクスの懐へと飛び込んでいき、あと数歩のところまで迫る。
だが、それを許すヴィラクスではない。
迎撃手段はない。魔力が尽きているし、ヴィラクス自身に護身術などは身に付けていないし、仮にあっても地に足がつかない空中では役に立ちはしない。
今は逆に空中にいることがヴィラクスの自由を奪っていた。
ならば少しでも魔力を補充する時間を稼ぐために、翼を広げて飛翔すればいいだけのこと。
そう思ってヴィラクスは翼を羽ばたかせようとしたが——。
「なっ……動けないっ!? 私の翼が、これ以上昇らない……!! むしろ……」
——むしろ落ちている。
ヴィラクスの翼はボロボロに朽ちて、ほんの少しずつ降下を始めて空中で身動きをすることができないのだ。
『木っ端微塵になった土は君の翼に取り憑いた。その土は魔力と血を練り込んだ特別に重い土……飛行はもう許さないっ!』
「なら振り払えば……!」
『その魔力がないだろう。そして魔力を補充する頃には——』
ヴィラクスの眼前にレンが迫る——。
時すでに遅し——。ヴィラクスが戦況を有利に進めていた要因である『制空権』はもうない。
「もらったぁぁああああああ!!」
レンはヴィラクスの『魔導書』に触れた——。
途端、レンは感じ取った。ヴィラクスと『魔導書』の間に、『魂』を縫い尽くす禍々しい繋がりをあることを。
——これを断つ!
目に見えない『繋がり』をレンは引き裂く。
『天国の門』でソヤの手を取ったように、今度はその繋がりを引き抜くために強引にヴィラクスから『魔導書』を奪いとった————。
「——あっ……。ああっ……!」
ヴィラクスはその翼を完全に消滅させて堕ちた。
それは——ヴィラクスを『魔導書』から解放したことを意味し、同時に戦いの決着を意味していた。