魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第18節 〜なおも剣風吹き荒ぶ〜

 戦局は二つに分類された。

 

 かたやニャルラトホテプと相対するアレンとセラエノ。

 かたや『イブ=ツトゥル』と呼ばれる異形に相対するルクストゥール。

 

 その内、後者の戦いはこの世のものとは思えない魑魅魍魎、百鬼夜行と言わんばかりの地獄が渦巻いていた。

 イブ=ツトゥルの身体に纏わりつく悪鬼。それらが無尽蔵な数でルクストゥールへと襲いかかっていた。いくら巨体とはいえ悪鬼の数は大きさ1m超えており、多くても5体が身体につくのが限度なはず。だというのに悪鬼の数は合計『50体』は超えている。どこからともなく蝙蝠の翼から、それこそ亜空間という意味べき『無』から飛び出すように悪鬼は続々とルクストゥールへと作戦などない物量任せで攻め立てる。

 

 しかしルクストゥールだってただ嬲られるわけがない。ラファエルが持つ『風の魔法』と自身が依代とする『剛合翠晶』の魔力を持って迎撃に当たる。

 

 魔力を収束し、ルクストゥールの事情に小さな『光』にも見える球体らしき物が出現した。それは不安定に形状を揺らめかせ、無理矢理にでも存在を維持しようと自身が台風の目のようになって『風』を集まる。

 

 一見すれば何でもない攻撃。だというのに変化は如実に起きた。

 空を飛ぶ悪鬼共が一斉にバランスを崩し、風の球体へと吸い込まれていくのだ。吸い込まれた瞬間にはミキサーの刃に触れたように細切れのバラバラにされて『ドール』のように塵となって消えていく。

 

 何故そのようなことが起きるのか——。それはごく簡単な現象の話でしかない。

 

 ルクストゥールは『真空』の自身の魔法で生み出したのだ。

 翼で飛ぶ原理は気圧差とか細かい部分があるが、要するに『空気』があるかないか。『真空』を形成する際の空気を圧縮して飛翔に必要な『空気』をすべて奪い取り、むしろそれでも飛び続けようと模索する愚者に裁きを与える。

 

 だが——そんなのはルクストゥールが真に行う攻撃の前段階でしかない。

 『真空』を作るのは過程でしかないのだ。生み出した『真空状態』は大気圧の差による粒子や電磁波の動きを大気中で発生する。

 俗に言う『真空プラズマ』あるいは『大気圧プラズマ』というやつだ。世界が『固体』『液体』『気体』という物質が渦巻く中、存在する第4の物質形態。

 

 発生した『プラズマ』は規模にもよるが非常に強力なエネルギーとなる。用途としては色々あるが、日常的に見られるのはその存在が認知されるようになった『クラックス管』を用いた『蛍光灯』の発光現象が最も目にしやすいプラズマのあり方だろう。

 

 だが使用用途はまだある。その内の一つに『プラズマ加速』という物がある。こちらは聞き覚えがないかもしれないが、用途としては医療現場における『放射線療法』という物で使われる。だがフィクションにおいてはもっと聞き覚えのある現象を生み出す機構でもある。

 

 

 

 ——それは『レーザー』や『ビーム』という、粒子を用いた『熱線』を生み出すのだ。

 

 

 

 風を生み出す『核』と言えるような部分から、赤白い閃光がイブ=ツトゥルの胴体を瞬きよりも早く貫いた。

『プラズマ加速』はあくまで機構でしかない。銃でいうところの銃身でしかなく『銃弾』がなければレーザーやビームという現象すら発生しないが、そこは魔力が生み出される不可思議現象。

 

 ルクストゥールは今、太陽光を利用してイブ=ツトゥルを攻撃した。収束して、ある種の質量を帯びた太陽光の熱線を肌身に浴びれば只事で済みはしない。なにせそれは紫外線の塊なのだから。たった一撃浴びるだけで、生成する細胞を焼却させる撃滅の閃光となる。

 

 イブ=ツトゥルは地響きにも似た悲鳴らしき声をあげて痛みに苦しむ。その痛みから逃れるようにのたうち回り、身体中に張り付いていた悪鬼もイブ=ツトゥルの質量に圧死する。

 

 しかし、それでイブ=ツトゥルを無力化できるわけではない。一方的に嬲られるわけがない。

 ついにイブ=ツトゥル自身が間合いを詰めて来たのだ。ルクストゥールのプラズマ魔法に対抗するために。

 

 そしてそれはルクストゥールにとって非常に都合の悪いことであった。何故ならニャルラトホテプは秘匿されてきた神秘である『ハスター』という存在の息子であるルクストゥールの存在を知りはしなかったが、ルクストゥールは逆にニャルラトホテプの娘であるイブ=ツトゥルについて知っている。

 

 

 

 ——あの手に触れるのだけはマズイ、と。

 

 

 

 しかし理解したところで、巨体が踏み出す一歩の大きさは他者を遥かに凌駕する。さらに言えば動きも決して鈍重ではない。人型として、その体型の平均以上の速さは誇る。

 

 一瞬で間合いを詰めてきた。距離感を正確に把握することもできず、イブ=ツトゥルは友好関係を示すかのように、緩やかにその手を振り下ろし————。

 

 

 

「——ッ!」

 

 

 

 既のところでルクストゥールは身を翻して回避を行なって距離を取る。だが、その手を完全に回避したわけではない。『ある物』を触れられて、それは視界のすぐそばに悍ましい変化が起きていた。

 

 

 

 それは生成した『プラズマ』のことだ——。

 

 生成したプラズマは一度ルクストゥールの手から離れようと霧散することなく固定されている。だから変質することなんて基本的にあり得ない。

 だというのにプラズマはネズミ花火のように光を破裂させて不安定な状態となる。何もない空間のはずなのに、そこにはまるで奈落に続く落とし穴でもあるかのように『光が虚無に落ちていく』のだ。

 

 それこそがイブ=ツトゥルが持つ能力——。

 むしろ無効化もできないのだから『ルール』と言ったほうが正しいだろう。

 

 それは『触れた物を消失させる』という物。

 しかも物理的な物だけでなく、触れさえすれば精神的な物も『消失』させることができる。それは『正気を失う』『記憶を失う』『免疫力を失う』と、その概念にさえ触れさえすれば際限はないほどに。

 

 それが例え『魂』であろうとも——-。

 

 

 

 そしてイブ=ツトゥルの『能力』はもう一つある——。

 

 

 

「——ッ!?」

 

 

 

 閃光によって風穴を開けられたイブ=ツトゥルの肉体から噴き出る『血液』が意思を持ったようにルクストゥールへと接近してきたのだ。その速さはイブ=ツトゥルの何倍も早く、意識した時にはもう遅い。血液は手錠でもするようにルクストゥールの関節部へと纏わりついて拘束したのだ。

 

 

 

 これがイブ=ツトゥル、第二の能力——。

 

 詳細についてはルクストゥールは知らない。ただイブ=ツトゥルの血液は悪鬼と同じような『自意識を持つ生命体』としての側面があるということ。地球において観測された事例があるらしく、一部では『黒き者』や『ザ・ブラック』と呼ぶこともある。

 自律した生命体は主人を傷つけた敵へと纏わりつき、その動きを止めて、やがては息も殺し、その魂を連れ去って行くという行動をとる。それは単純な力で縛るのではなく、概念的な縛りであり、どんなに筋力があろうと魔力があろうと振り払うことはできない。

 

 だが決して血液の生命体は無敵ではない。対策はルクストゥールは知っている。血液を『流水』で流すことができれば、いとも簡単に引き剥がすことが可能なのだ。

 

 しかし、そんなことはニャルラトホテプは対策済みだ。

 だからライフラインが安定しない崩落した環境でイブ=ツトゥルを呼び出したし、『水』の魔法が使えるガブリエルに遠くの地にいることに攻め込んできた。

 

 

 

 故に——今この場においてイブ=ツトゥルに『弱点』はない。

 

 これこそがイブ=ツトゥルの脅威なのだ——。

 

 

 

 血液によって拘束されたルクストゥールは動くことができない。しかしイブ=ツトゥルが動きを止めることは決してない。

 

 容易くイブ=ツトゥルは無防備なルクストゥールへと近づき、まるで『お疲れ様』と言わんばかりに優しく肩を叩いて『何か』を消失させた。

 

 それは二つあった。一つはルクストゥール自身。

 ルクストゥールの自意識が異形と化した○○○○○から離れようとしている。

 

 そしてもう一つが致命的だった。

 消失した。消えさった。この世界から。この宇宙から。『○○○○○・○○○○』という存在が。『○○○○○・○○○○』という概念が。

 

 ルクストゥールの中で痛みにも近い『何か』が消失していく——。

 消失した『何か』が血液の形をした生命が何処かに連れて行く——。

 

 

 

 それは——。

 それは————。

 

 

 

『○○○○○•○○○○』という、もう名前も声も顔もない少女のたった一つの願いだった——。

 

 

 

 いったい、どんな——-?

 

 

 

「——あ——Aa————」

 

 

 

 従者の願いが削がれ、ルクストゥールの存在が安定しない。魔力が暴走して周囲に小型のプラズマが量産されていく。

 

 異形じみてはいるものの、もう『人の形』を保つことができない。

 

 

 

 お願い——。それだけは取らないで——。

 それだけは——それだけは———。

 

 

 

 それって——なんだっけ——?

 

 

 

「aaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

 

 

 異形の少女は咆哮する。

 自分から抜けとられてしまった『何か』——。

 

 その悲しみは、ルクストゥールの意思さえも入り混じり溶け合い、サモントンを襲う一つの災害となる。

 

 

 

 もう彼女に残る意思はたった一つ。

 それは——素直になれない彼女が歪んだ意識。

 

 かつて彼女が零した言葉だけ。

 

 

 

 ——『ろくでなし』はどこに行こうと『ろくでなし』よ。

 ——泥中で腐らせて肥料にすれば、まだマシなのに。

 

 ——彼らは異案でも果てのない利益と権利を要求し続ける。

 

 ——ああいう役立たずのゴミどもは、全部屠殺所に送ればいいのに。

 

 

 

 

 

 それは『破滅』への願いだけだった——。

 

 

 

 彼女の名は『エメラルド・ラマ』——。

 

 

 

 もう『○○○○○・○○○○』でもルクストゥールでもない。

 ただ溢れる魔力を振るうだけのドール未満の愚者。災害と化した哀れな魔女の成れの果てでしかなかった。

 

 

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 一方、その頃ニャルラトホテプとアレン達の戦闘は予期せぬ事態が発生していた。

 

「なんだ、お前……。ただの人間にしちゃおかしい……」

 

 戦況は圧倒的にニャルラトホテプの有利だった。

 アレンはセラエノと連携して、ニャルラトホテプに何としてでも肉薄しようとするが、何もかも届かずに返り討ちにあう。

 

 そう、完膚なきまでに完璧に嬲り返して。骨は当然折れ、むしろ肉体が破裂してもいいほどに何度も何度も強く叩き返して、瓦礫に潰されたというのに。

 

「何故……お前は死なない? 生きてるわけがないのに……」

 

 だというのにアレンは傷つくだけで『人の形』を維持し続けている。額からは致死量さえも超える出血が顔面を真っ赤に染め、筋肉や器官を貫いて皮膚から骨が剥き出しとなっている。

 

 当然ニャルラトホテプが口にした通り生きているはずがない。アンプルとかで痛みをなくすという次元を超えている。

 それなのにアレンが動き続ける。それどころか、一人でに皮膚が骨を飲み込んで少し経てば傷も完治して五体満足となる。同様に頭の出血も収まり、既に血は固まって顔を覆うだけの化粧となっている。

 

 分からない——。あまりにも分からない——。

 ニャルラトホテプの知識を持ってしても全貌を捉えることができない。何がどうして彼は人の形を維持していられるのか。

 

「冒涜の神様でも分からないか? 俺がどういう存在か」

 

「……ああ、分からないな。皆目検討がつかない。けどどうでもいい、つまらないことだ。面倒ごとにいつまでも付き合う気はない」

 

 悍ましいかぎ爪がアレンへと再び襲いかかる。

 何度も何度も深傷を負っても治るというなら、首の骨と背骨を折って、それでも足りないなら触手で身体全てを圧迫して干物みたいに痩せ細らせて行動不能にすればいいだけのこと。

 

 空を飛ぶ蝿を潰すのと大差はない。

 そうニャルラトホテプは考え、必死に時間稼ぎをするアレンを捉えて握り潰そうとすると、手応えを感じる前に一瞬でアレンは消え去った。

 

「……またセラエノの転移魔法か」

 

 それは先ほどから続くセラエノの補助だ。

 セラエノがアレンに分け与えている『断章の結晶』——。それはセラエノと表裏一体であり、セラエノがいる場所には『断章の結晶』があり逆もまた然りという物だ。

 

 これをセラエノは利用して立ち回っている。ニャルラトホテプの攻撃が届きにくい安全圏に避難し、アレンが攻撃されてる時に『断章の結晶』と情報を結合。セラエノ=『断章の結晶』という情報を利用して『断章の結晶』を持つアレンさえも巻き込んでセラエノ=アレンという座標情報を与えて瞬時に転移させる。

 

 つまりは擬似的な『ワープ』だ。セラエノを介した距離不問の移動手段。先ほどまでニャルラトホテプに囚われていたアレンは、何事もなかったようにセラエノの隣で間合いを図っている。

 

 ニャルラトホテプからすれば鬱陶しいことこの上ない。ワープは別に一方通行じゃない。『断章の結晶』がセラエノの位置に移動することもできれば、セラエノが『断章の結晶』の位置に移動することもできる。片方を捉えただけでは瞬時に脱出してしまうのだ。

 

 しかしそれまでだ。ニャルラトホテプにとってセラエノは脅威でもなんでもない。ただそこらの人物より頑丈なだけの存在でしかない。セラエノにはニャルラトホテプに対抗するための術がないからだ。

 

 バイジュウを苦しめた『過負荷情報』の攻撃をセラエノはニャルラトホテプに行うことはできない。

 何せ、セラエノが与えている情報は人間とは別の超常が普遍的に認識している情報に過ぎない。セラエノと同様に超常的な生命体であるニャルラトホテプにとって、セラエノが行う『過負荷情報』は自分が普段認識している情報を与えているだけで何の効果もないのだ。

 

 故にニャルラトホテプにとってセラエノは『瞬間移動』を可能にするだけの存在にしか過ぎない。

 

 ニャルラトホテプからすればアレンもセラエノも面倒なだけで取るに足らない存在。ルクストゥールさえ何とかなれば、自分に対抗できることなどできはしない。

 

 だからニャルラトホテプの本命は『時間稼ぎ』でしかない。一番目障りな存在であるルクストゥールを無力化、あるいは暴走させれば自分に対抗しうる存在など、ニャルラトホテプが把握する限りではギン以外にはいないのだから。

 

 

 

 ——aaaaaaaaaaa!!!

 

 

 

 故にその咆哮を待っていた。ルクストゥールがイブ=ツトゥルによって『消失』され、従者としての魔力だけが暴走する瞬間を待っていたのだ。

 

「この声……ラファエルか!?」

 

「んっん〜〜。ご明察。ルクストゥールは脅威ではあるが、所詮は従者を依代にした紛い物。我らの『真体』さえ出れば、あの程度の相手なんて造作もない」

 

 暴走した異形の少女の声と共にプラズマで生み出された熱線がアレン達がいる場所まで届く。見境なく放たれる熱線は、加減も狙いもなくサモントンの大地を焼き払っていく。それはもちろん樹木の要塞で守られているサモントンの都市も例外でなく、その熱線は樹木の一つを炭にした。

 

 もうルクストゥールは誰の味方でもない——。

 そのことを理解したニャルラトホテプは余裕そうに声を上げて立ち去ろうとする。

 

「さてさて。これで脅威の排除は終了……。後はノンビリ……」

 

「——そこだぁぁぁああああああ!!!」

 

 後方から一閃。ニャルラトホテプの首筋らしき部位に目掛けて鎖に繋がった刃物が襲いかかってくる。鎖同士が擦り合って響く金属音は確実にニャルラトホテプの首筋へと到達した——。

 

 

 

「……と油断するわけねぇだろぉが!!」

 

 

 

 ——というのに、それよりも早く異形の触手が鎖付きの刃物を取り押さえた。あと数センチというところで刃物はニャルラホテプには届かない。

 

 どこの誰かは知らないが無駄だったな、とニャルラトホテプは内心で嘲笑うとした時————。

 

 

 

「な、なんだっ!?」

 

 

 

 捉えた鎖は何故だか増殖を始め、ニャルラトホテプを卍絡めにしようと身体全てに纏わりつこうとする。流石に予想などできなかったようで、なす術もなく四肢を拘束されてその巨体を地面へと倒れ伏した。

 

 しかし、それでも異形となって本性を表しているニャルラトホテプからすれば、その程度の拘束など数秒しか保たない。

 

 

 

 しかし、それだけの時間があれば十分であった。ニャルラトホテプの周囲に見覚えのある障壁が小規模に展開される。範囲としては半径100mほどでしかなく、これでは巨体を活かした触手も十全に振り回すことはできない。

 

 何よりもこの障壁は、少し前までニャルラトホテプが突破しようと画策としていたモリスが保持する『不屈の信仰』によるものだ。彼女が健在である限り、この障壁はどう足掻いても突破することはできない。例えそれがどんなに超常的な存在であろうとも。

 

 

 

「『位階十席』の長として告げる——。サモントンに仇なす者をここで食い止めよっ!!」

 

 

 

 しかし、その障壁が発生すると言うことは当然近くにモリスがいるということ。ニャルラトホテプの前に三人の戦装束を纏った女性が先んじて並び立っていた。

 

 そのうち二人は『位階十席』として共にするモリスとハインリッヒだ。二人は互いに並び立ち、互いに長さの違う金髪を靡かせて己が獲物を構える。まるで一心同体、片方が剣となり、片方が盾となるかのように。

 

 そしてもう一人——。それは長い黒髪を一本の尾として纏めた少女だった。

 両の手に握られる獲物は『鎖鎌』であり、その形状からニャルラホテプは察する。今自分を拘束してるのは彼女の能力、あるいは異質物による物だと。

 

「お前が俺を縛ったわけね……。中々にやるな、名前を聞かせてもらおうか」

 

 ニャルラトホテプの問いに、黒髪の少女は舌打ちでも打ちかねないような面倒臭そうな態度を見せて名乗りをあげる。

 

「私は『アイスティーナ』。『位階十席』の『第五位』だ。それだけ知っていれば十分だろう」

 

 

 

「そして」とアイスティーナの隣に、今にも息が絶えそうなセレサの身体を抱えて誰よりも先頭に立つ中性的な少年が顔を見せる。

 

 髪はどこまでも赤色で、瞳の色は緋色。静かに燃え続けているかのように髪は揺らめき、まるで心に宿る『怒り』や『悲しみ』といったあらゆる感情を爆発させるように少年は告げた。

 

 

 

「私はミカエル・デックス——。ここからは『天使長』の名において、『位階十席』と共にお前の相手になろう」

 

 

 

 そこにはミカエルを筆頭にギン、エミリオ、ヴィラとSIDから派遣された精鋭と、サモントンに元々いたバイジュウ、ソヤがニャルラトホテプの前へと並び立っていた。

 

 

 

 ——それは、レンを除くほぼ全ての戦力が戦場の中心へと辿り着いたことを意味していた。


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