魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第六章は15節ほどでお送りいたしますが、ここ最近イラスト制作で目覚ましい成長を感じて創作割合を思わず間違えてしまい、予定よりもストックを貯めるのが少なくなってしまいました。

現在6節までしかストックがなく、余裕を作るために第4節以降から一週間に一回の更新になってしまいますが、しばらくの間付き合いくださいませ。

それと中国の規制で、公式からの魔女兵器の続報が不安でいっぱいいっぱいですが、それでも私は元気です。


第2節 〜冷暖自知〜

 苦く辛い『SD事件』から半月が経過した。

 ラファエルとセレサはマッサージで筋肉を刺激し、モリスとヴィラクスは安静状態で今日も大人しく天井のシミを数えるほどにリハビリは順調だ。

 

 レンとアニーは学園生活を兼任しながらもSIDの訓練に明け暮れ、ギンは教官として2人を毎日扱き倒し、ヴィラは建設現場でアルバイトをし、エミリオは市内の飲食店を回り、ハインリッヒは相変わらず引きこもって研究し、ソヤは時空位相波動解決の時々にストーカーをこなし、イルカとシンチェンとハイイーは仲良く自宅で遊び倒す。

 

 

 

 そんな中、バイジュウは新豊州から離れて『ある場所』へと足を運んでいた——。

 

 

 

「……またここに来ることになるなんて」

 

 

 

 そこは南極——。

 バイジュウにとって苦い記憶しかない忌み嫌う『スノークイーン基地』跡地の入口前。そこで彼女はいつぞやの時と同じように銃剣を携えて立ち尽くす。

 

 バイジュウの脳内で深海のような暗い記憶が何度も何度も繰り返される。

 20年前——バイジュウからあらゆる物を失わせた惨劇。自分の命さえもあやふやとなり、長い長い眠りと夢の末にレンの手によって現世に戻ってくることはできた。

 

 そしてバイジュウはこの20年間、何があったのかを自分の身一つで世界の事情を知ろうと数多の空と海と大地を凍てついた姫君として渡り歩いてきた。

 世界があまりにも傷だらけとなり、国としてまともに機能しているのは指で数えるほどしかなく、学園都市の管轄から一歩でも外に出れば、そこは地獄しかないことを。

 

 しかし、そんな中でもバイジュウは一箇所だけ訪れていない場所があった。

 それが『南極』だ。彼女は自身の無力を呪い、嫌悪して蓋をするように今まで見ないようにしてきた。いや、それはもう逃げていたと言った方が正しいだろう。

 

 だけどもう逃げることは許されない。向き合う日がバイジュウにはやってきたのだ。それをレンとヴィラクスが教えてくれた。

 

 レンは『OS事件』での異形との一戦。ミルクと魂が溶け合うことで異形を打倒する奇跡を起こしてくれた。

 ヴィラクスは『SD事件』での一連で固着した『魔導書』を通した副次的な効果として得た『記憶共有』による言伝で——。

 

 

 …………

 ……

 

『バイジュウさんの親友——。『ミルク』さんの記憶でした』

 

 ……

 …………

 

 

「ふーん……。ここが例の基地かぁ……」

 

「……なんで貴方も来ているのでしょうか、ファビオラさん」

 

 しかし、その隣にはバイジュウとは縁が薄いはずなのに桃色眼鏡バトルメイド系女子ことファビオラもいるという奇怪な状況だ。

 言いたくはないが、いくらSIDの仲間とはいえ人間関係は合う合わないはあるし、任務や業務の内容次第では関わらない人物がいるのが組織社会というものだ。

 

 バイジュウにとってファビオラとはそれに値する人物であり、コミュニケーション能力が著しく低いバイジュウからすれば、彼女の現代文化の塊のような姿見は「あっ、はい。そうですか」と知識豊富なバイジュウでさえ語彙力が乏しくなるほどに何とも距離感が測り難い人物なのだ。

 

「なんでって……。ヴィラクスはそのミルクという人物から、ある事を聞いたそうじゃないですか。私にとって、とても大事なことを」

 

「……いったいどのような?」

 

 だからバイジュウは受け手側の会話をしてしまう。

 これでも西暦換算なら36歳のアラサー。かたやファビオラは今年18歳のヤングウーマン。倍も離れてるのに腰が引けた態度で接してしまうことにバイジュウは何とも言えない情けなさを感じた。

 

「『まあ、何にせよ。あなたがこっちに来るのは早いよ。それにその『魔導書』は大事な物なんだ。エクスロッドのお嬢様曰くね♪』……と」

 

 しかしファビオラが口にしたのはバイジュウにとっても大真面目なことだ。

 確かにヴィラクスはそう口にしていた。ミルクの記憶で見た本人の顔と擦り合わせて『SD事件』で幻のように見た顔はミルク本人であるとも言っていた。

 

 つまり『エクスロッドのお嬢様』——。スクルドはミルクと面識があるということである。

 

 であれば、二人はいつ知り合ったのか。そんなのは考えるまでもない。

 スクルドの年齢は12歳。南極での事件が起きたのが20年前であり、その時にはスクルドは産まれてない。そして南極での出来事でミルクは消息不明となって、今はヴィラクスの記憶とレンの魂に刻み込まれた存在となっている。その空白の20年の間にスクルドとミルクの間が繋がる接点などありはしない。

 

 だとすれば知り合った場所は一つしかない——。

 

「それが本当ならお嬢様……スクルド様はミルクと一緒にいるということになる」

 

「ええ。レンさんも一度『門』の奥で2人を見たとも言っていましたし……まず間違いないでしょう」

 

 レンが目にした『ヨグ=ソトース』を退けた後に出現した『門』の奥で二人はあったということになる。

 

 それがどういう意味を持つのか。そこまでの真意は測れないが、スクルドが「『魔導書』は大事な物なんだ」と口にしたのだ。

 

 あの——『未来予知』ができるスクルドが口にしたのだ——。

 

 ならばそこには必ず重要な意味があると、仕えていたファビオラには確信があった。

 そんな時にバイジュウがミルクのことを今一度調べるために南極の『スノークイーン基地』跡地へ行くという情報を小耳に挟んだのだ。

 

 何の因果か——。はたまたそういう運命なのか——。

 そこでファビオラは決意したのだ。バイジュウの後について行こうと。

 

「……で、何を調べの来たの?」

 

「えぇ……そこからですか?」

 

 バイジュウは困惑した。あまりにも直情的過ぎて何の考えもなかったからだ。

 

「そもそもとしてSIDがここの基地については調べたはず。今更私達が調べようとも、新しく発見できるほど組織としてザルなわけないし……。いくら貴方が天才少女と呼ばれようと、こと諜報力に関しては無理でしょう」

 

「まあそうですね。だから、ここに来たのは初心に帰る……おさらい的な意味合いもあります。振り返ることでしか見えない景色もあるかもしれませんし……」

 

「誰に向けてるか分からない配慮だこと」

 

 そう言いながら二人は『スノークイーン基地』内部へと足を踏み入れた。

 調査後とはいえ元々は廃棄された重要施設だ。今でも警備は厳重であり、通路の一々にある黄色と黒で印字された『KEEP OUT』という文字を超えて内部を散策する。

 

「……そういえば私はアンタとは深い関係じゃないから、ここで起きた話について詳しくは知らないのよね。……話したくないから無理に話す必要はないけど、私にその事を教えてくれる?」

 

「……大丈夫ですよ。そもそもの始まりは20年前……私が深海で『ある生物』を見たことが引き金となりました」

 

 バイジュウはファビオラの願いに応えて語り出す。20年前の南極にて、自分がどういう経緯を辿ったのかを。

 

「私がいた部隊はそもそも南極での海域にある生物、鉱石、あるいは古生物の化石などといった異質物技術発展の黎明期として足掛かりになる研究材料を調査するのが主だった理由でした」

 

「主だった理由ね……」

 

「ええ。目的にしては武装が充実してましたし……きっと何かしらの秘匿していた目的はあったに違いありません。とはいっても誰も見当がつかないので、調査は命令通りに進めていましたけど」

 

 ファビオラは内心で「どの組織も前からキナ臭い部分はあるのか」と半ば呆れながらもバイジュウの悲痛さが滲み出る声を聞き続ける。

 

「そんなある日、潜水艦で深海の底まで調査しようとしたら……巨大な『目』持った生物がいました。セラエノ曰く『古のもの』という存在らしいのですが……」

 

「『古のもの』……」

 

 そんな言葉にはファビオラは心当たりがない。どんな文献にも記載があった覚えはないし、生物図鑑などでそんな仰々しい名前を見ていたら嫌でも覚えてしまいそうなほどに尊大だ。

 心当たりがないということは本当にどこも見たことも聞いたこともない物だとファビオラは整理し、一先ずはバイジュウの話を聞き続ける。

 

「なんであれ調査によって得た情報を整理するために潜水艦を一度浮上させて私は部隊と合流しました。だけど仮設本部だけでは深海で見た生物の情報は正確に捉えることができず、一つの見解を求めて……忌むべき場所となる『スノークイーン基地』へと足を運ぶことになりました」

 

 そう言いながらバイジュウは壁を撫でる。『スノークイーン基地』との過去をなぞる様に、優しいような憎しいような、それら二つが混じった指つきで。

 

「そこで起きたことは……言葉では言い尽くせません。確かに言えることは、あの日で私はすべてを失いました。自分の仲間を、命を…………親友を」

 

 正確にはバイジュウの命と身体は水槽の中で丁重に保存されていたことをファビオラはあえて指摘しない。人間とは基本的に四種類に分類される物だとファビオラは今までの経験則から考えているからだ。

 生きているか、生きていないか。死んでるか、死んでないか。バイジュウのその中で四番目に値してるだけだ。死んでないだけで、人間としての価値は19年間も氷のように冷たく固まってしまった。どうであれ実質的な意味ではバイジュウの命を失った発言などに間違いなどないのだ。

 

「19年間、長い夢を見てました……。そして……目が覚めた時には……初めての友達となるレンさんと出会い、救われました」

 

「あれ? ミルクは初めての友達じゃないの?」

 

「ミルクは親友ですから……。そんな言葉で表すのじゃ足りないくらい私にとって掛け替えの無い存在なんです」

 

「親友以上って……」

 

 つまりバイジュウにとってミルクは『絆』とかそういうもっと固い関係で結ばれた人なのだろう。そのことが言葉だけでも伝わってくる。

 

 ファビオラにとって、それは痛いほどに分かった。

 まだスクルドと出会う前の話。身寄りのない自分を拾ってくれた人には今でも敬意と尊敬を忘れたことはない。その人はファビオラにとって家族以上に大切な存在であり、それを言葉で表現するにはバイジュウがミルクに持つ『絆』と同等であると自信を持って言える。

 

「……ここまでですね。私の話は」

 

「私の話は?」

 

 確かにそれ以上は話すことはないだろう。目覚めた時点で現代であり、それ以降は記録だけで簡単に詳細を閲覧することができる。

 バイジュウは見識を広めるために各国を回り、9ヶ月ほど前に起きた『OS事件』と同時期に戻ってきた。その後はSIDの監視の下で『スティールモンド研究センター』に配属。彼女が到達した『魂を視認する能力』を活かし、その『魂』をエネルギーとして利用できないかと研究に明け暮れている。それはファビオラでも知っていることだ。

 

 だが、バイジュウの言い方はそんな感じではない。次に繋ぐための橋渡しのような言い方なのだ。

 

「ええ。私が話したのですから、ファビオラさんも話してください。貴方とスクルドの経緯を……いったい何があったのかを」

 

「うわぁ、清楚で物静かな佇まいくせに狡い女……。まあ、そういうのは好きだけどね」

 

 ほぼ初対面故にお互いのことは知らないといけない。それをバイジュウもファビオラも知っている。だからどちらとも歩み寄る姿勢が大事なのだ。互いの胸に

 

「私とお嬢様は主従関係にある…………だけではありません。私はメイドの中のメイド……スーパーメイドとかバトルメイドと呼ばれる存在としてお嬢様をお守りしていたのです」

 

「でもメイドですよね? もえもえきゅんきゅん言うんですよね?」

 

「あんた、割とズレてるとか天然って呼ばれない? あと突っ込んでくれない? バトルメイドってないですよねとか」

 

「え? でもレンさんが渡してくれた漫画にいるメイドは銃火器を撃ってたような……?」

 

「それ別のファビオラね、イグレシアスね。漫画は漫画、フィクションなの。あまり間に受けない」

 

「へー」と本当に感嘆に漏らすバイジュウの姿を見て、ファビオラは内心「この子、基本インテリなのに所々アホだ」と懐かしさを覚えながら確信する。

 

 バイジュウはどこかスクルドに似ている——と。

 スクルドは生まれもあるが、その能力ゆえに年齢にしては達観しすぎた知識と理解があった。だからこそニューモリダスで起きた『暗殺計画』を本能的に予感した時にはどこか納得してた様にレンに話したのだ。助けてとか、怖いとか何も言わずに。

 

 それはバイジュウにも言えることだ。

 いくらレン達がいるとはいえ、19年後の世界——それも異質物研究によって飛躍的に向上した科学力と、それに相反する世界情勢を見て不安と恐怖で混乱したに違いない。そして同時に理解してしまったに違いない。異質物を前提とした世界の未来はあまりにも先が細いということを。

 バイジュウは聡明だ。いくら知識があり、自信が持つ能力が他と比べて異様な部分があること分かっていても割り切ってしまう氷のように判断力がある。故にバイジュウは世界を巡って理解しただろう。バイジュウ達がいた19年前の痕跡は時の忘れ物となり、バイジュウ達がいたという証は様変わりした世界のどこにもないということを。もう過去にしかないということを。

 

 それでもバイジュウは懸命に前を向き続ける。時には振り返って南極での悲劇を思い出すだろう。不甲斐ない自分を悔やみ、手放してしまった絆を手繰ろうともがき苦しむだろう。

 それでも彼女は進む強さを持つ。後ろを向いていようと、後ろに歩けば前に進むことを聡明なバイジュウは知っているから。

 

 だからこそファビオラはどこかで思ってしまう。この儚さを、この触れたら溶けそうな淡さを今度こそ守りたいと。スクルドと同じ目に合わせたくないという庇護心を持って。先に生きる者としての責務として。

 

 しかしバイジュウさん、これでも西暦換算なら36歳。ファビオラさん、今年で18歳。それでバイジュウはいいのだろうか。それは誰にも分からない。ファビオラは口には出さないのだから。

 

「……まあ私とお嬢様に関しては私から言えることは少ないわね。どうしてもお嬢様について踏み込まなきゃいけない部分があるし」

 

「……もしかしてスクルドも、私やファビオラと同じように何かしらの『能力』を持っているのですか?」

 

「まあ、それくらいなら肯定しておく。だけどそれをお嬢様が教えてくれたのは本当に大事な人達だけ。親と私と……それとレンね」

 

「…………少ないですね。それだけ教えられた人は信頼関係があるということでもあるとはいえ」

 

「ええ。だから私からはお嬢様のことについては教えられない。教えられるけど、お嬢様の能力を私から口にできない以上は、貴方自身がお嬢様に認められて『能力』を教えてもらわないとね……」

 

「ごめん」とファビオラは一言謝る。それだけスクルドの能力は他とはあまりにも違う異質中の異質な能力だから。

 

 スクルドの能力——。それは正真正銘の『未来予知』という物だ。

 だが、その能力自体は決して便利な物ではないとスクルド本人は口にしていた。

 

 世界の記録が予めスクルドの脳内で無意識に渦巻いており、その記録に法則性もなければ、時間軸の結びもない。

 つまりは自身とはまるで関係ない誰かの未来が見えるし、そもそもとしてその誰か自身が今いる人物とは限らないのだ。千年後の誰かの未来かもしれないし、千年前の誰かの未来かもしれない。あまりにも汎用性がなくてスクルド自身が「別になくても困らない」と口にしたほどに。むしろ変にデジャブを感じるせいで気苦労の方は多かったとも。

 

 しかも『未来が見える』とか『未来予知』というが、そんな具体的にハッキリ見える物ではない。ある出来事を見てデジャブを感じる——その瞬間にスクルドは世界の記録を記憶として感じ取るだけなのだ。

 記憶は記録ほど当てにならない。個人の認識なんてものは軽く変わってしまうのだから。柔軟が故に記憶なんてものは最も容易く細部を変えて本人の脳内で居座りつく。それが記憶という物だ。

 

 そんな信頼のないどこかで得た記憶を見て、ようやく未来予知したのではと思う程度——。とてもじゃないが使い道がなさすぎる。本人がなくても困らないと言っても無理はないだろう。

 

「……しかし喋りながら話してたけど、一向に手掛かりらしい物は見つからないわね」

 

「ええ……。資料と照らし合わせても、その結果に違和感はありませんし……これ以上は無理なのでしょうか」

 

 バイジュウの声が失念の色に染まっていく。もう少しで届くミルクとの繋がり。それが今にも消えそうな、断たれてしまいそうなのも見えてしまえば不安になるのは仕方がないだろう。

 ファビオラは「落ち込むには早い」とバイジュウの背中を力強く叩くと、懐からチョコレートスナックを2本取り出して言う。

 

「一旦休憩しましょう。ここは南極なんだし、適度に休憩挟まないと」

 

「……そうですね」

 

「じゃあ、とっか適当に暖でも取ろうか。携帯食ならまだ何個かあるし……」

 

「でしたら私が仮設本部で借りてる一室に行きましょう。『スノークイーン基地』の入り口から出てすぐ側ですから。スノーモービルで5分ほどです」

 

 そう言うことからお言葉に甘えよう。バイジュウからの提案にファビオラは頷くと、チョコレートスナックを分けて互いに齧り付く。

 

 ひたすらにしつこく甘いチョコレート。子供が好きそうな甘ったるさにファビオラも幻視する。

 もう少しで届くスクルドの繋がり。絶対に手放さず、手繰り寄せて今度こそ守り抜くと。

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