魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第12節 〜涟漪〜

 息詰まった待機状態に鬱屈を感じてしまい、気分転換にとバルコニーへ出て夜風を浴びる。夜風が髪を撫でて気持ちいいが、さすがに海岸線沿いなのもあって肌寒さも感じてしまう。

 

「夜更かしは肌荒れの原因よ、可愛い子ちゃん」

 

 バルコニーには先客がいた。赤い髪を潮風で靡かせて、情欲を煽るようにベアトリーチェは俺を見つめる。

 

「しょうがないだろ。それに俺は男なんだから美容とか気にしてないし」

 

「あなた、いつも自分は男だと言うわね……。深い部分までは詮索しないけど、男でも睡眠くらいは気を遣った方がいいわよ。あなたの好きなゲームだって健康だからこそやれるんだから」

 

 それを言われると反論しづらい。仮眠でも取るべきだろうか。

 

「そういえばベアトリーチェはここで待機だよね? 戦闘だって行えるのに何で?」

 

「私は能力はあくまで相手に『幻惑』あるいは『魅了』するという、精神的な影響を与えるものなのよ。幻惑は範囲が大きいし、そもそもドールやマーメイド相手だと精神が破綻してる以上は効き目がほとんどないの」

 

 スカイホテルでの出来事を思い出す。

 真なる闇から吠ゆる数百万にも及ぶ甚大な悲鳴。厄災が具現した光景は切り裂かれた地獄の断片にも見えて、身体全てを凍てつかせる恐怖を感じたことは忘れたくても忘れられない。

 

 ……思えばあの時ラファエルも呆然としていたな。

 スノークイーン基地でも幽霊に関して腰が引けた事を言っていたし、あのお嬢様は意外と恐怖体験とかに免疫なかったりするのかな? 今度ホラー映画でも一緒に観に行って確かめてみよう。

 

「魅了に関しては強制力があるからわからないけど、これもドールやマーメイドは女性しか確認できない以上は有効打になり得ない……。もちろん、レンちゃんみたいな物好きがいれば別だけど」

 

 別に物好きじゃない! 男として至って普通なんだよっ!

 

「禁断だからこそ創世記の二人はリンゴを口にしたというし、そう恥ずかしがることもないわよ。私だって浮気者の惚気共を罵るのは楽しかったわ……」

 

「さては味を占めたな……?」

 

 浮かぶのは『天国の扉』によって引き起こされた猫丸電気街の暴動騒ぎ…………に乗じて、日頃の鬱憤を爆発させたとしか思えない渾身の演説をしたベアトリーチェの姿。

 

 ……あの時に助けてくれたメガネの青年、ジョンは元気にしてるかなぁ。また会えたら改めて礼ぐらい言いたいものだ。

 

「まあ、そんな感じよ。呪いや魔法が通用しない相手に対しては、私だってただのか弱い一般人……。今回は淑女するわ」

 

 か弱さを自称するのは果たして淑女なのか? そしてパレードカーの上で大演説するのも淑女なのか? そして淑女するって? いつから動詞になったの?

 永遠の淑女、久遠の女性と呼ばれるベアトリーチェ……すご〜く世俗に塗れてないか? 淑女の概念が壊れてるのか、現代に適応した淑女がこれなのか、教えてエロい人。

 

「それに、私はあの子と関わらない方が…………」

 

 ベアトリーチェは彼方の先を見つめる。彼女の言葉と態度は、酷く暗くて重苦しさを感じさせる。

 ……あの子とは誰のことだ? ベアトリーチェがこんなことを言うのは初めての事だし、今日会ったハイイーかバイジュウのどちらかだろうか。

 

「……何でもないわ。お詫びに、これはあなたに返しとくわ」

 

 そう言ってベアトリーチェはペンダントを取り外すと、胸元にそそり立つ双子山に埋まっていた装飾品を露わにする。

 明るく濃い緑色の結晶体。美しくも鮮やかに輝きを放つ至上の存在感は一度見たら忘れる事はない。

 

「『エメラルド』……あれ? ラファエルに返してなかったの?」

 

「あの子も言ってたでしょ。「今はあんたのよ」だって」

 

 そう言われればそうなのだが、お嬢様が身につけていた宝石なんて恐れ多くて所持するだけで心労が嵩む。それが嫌だし俺が持っていては豚に真珠だから、武器として変換できるベアトリーチェに今まで預けていたんだけど……何もこのタイミングで返すことはないだろ?

 

「戦わない以上は使い道がないもの。御守り代わりに持っていなさい」

 

「すごく嫌だなぁ……」

 

 とは言ってもお詫びとして渡されたら、断る理由も薄いので渋々と受け取るしかない。

 ラファエルから預かったままのサモントン国宝の1つ……。なのにどうしてラファエルは易々と誰かに渡せるのか……。

 

《ふんっ。自分以外が持つならアンタが一番マシなだけよ》

 

 ……まずいな。以心伝心だけでなくイマジナリーお嬢様さえ出てくるほどラファエルに対するスキルが病的に酷くなってる。

 

《ウイルス扱いするとは良い度胸ね》

 

 ……今からでも宝石を手離したくて堪らない。

 

「大丈夫? 顔が引き攣ってるけど……」

 

「だ、だだだ、だいじょうぶっ。……というか夜更かしを言うならベアトリーチェもだろっ!」

 

「……私はただ景色を肴にしてるだけよ」

 

 バルコニーの手摺りに腰を置くベアトリーチェの手元を見ると、そこには氷が溶け切ってないガラスのコップとお酒、そして炭酸水があった。

 ……政府の偉い人と付き合いで、少しは知ってるけどああいうのはソーダ割り、水割りとか言うんだよな? となると度数の高い酒のはずだから蒸留酒に分類されるやつか……。悪いが俺の知ってる酒は黒尽くめのコードネームぐらいしか知らんぞ。

 

「今日だけは眠りたくないの……。今日がどんな日か知ってる?」

 

「満月の日だろう?」

 

「また別よ……。今日は9月24日……『彼岸』って言葉は知ってる?」

 

 単語だけは聞いたことあるけど、それも丸太を持ってる漫画で見ただけだ。意味なんて一切知らない。

 

「知らないって顔ね……。簡単に言えば遠くにいる人を思うことよ。彼は今でも煉獄にいるのかしらね……」

 

「地獄送りっ!?」

 

「違うわ。煉獄は浄罪の旅路……地獄は罪を抱いて溺れたものが辿り着くところ……。彼は自分を……」

 

 今日の彼女はよく喋る。アルコールが進んでいるのか、頬には熱が篭り、瞳は潤んでおり、息遣い一つが艶かしい。コップを撫でる指先さえ扇情的でこちらの本能を擽る。

 よし、冷静になれ。野獣になってはいけない。……今にして思えばベアトリーチェのテンションが少しおかしいのは酒の影響か。

 

「かの詩人、ダンテは自分を旅人と見立てて生涯全てをあなた様に捧げた。その証として二つの詩を残して……ですわよね♡」

 

 夜風と歌うように銀髪の少女——ソヤはベアトリーチェの会話に入り込む。肌寒さを感じているのか、ソヤは黒い修道服の上に赤いジャンパーを崩して羽織り、その手には湯気が立つ保温カップを持っている。

 

「レンさんもどうですか? 飲むと身体の芯から火照って気持ちいい気分になりますわよ」

 

「ほほほ、火照って気持ちいいなんて……」

 

「ただの生姜湯ですわよ♡」

 

 ……そうだな、わかっていたさ。

 だけどソヤが言うと別の意味に聞こえるんだよっ。

 

《あなたがスケベなだけでしょう》

 

 イマジナリーお嬢様……。再現度が高いわ……。

 

「レンさん、彼岸とは現代では春分または秋分の日のこと。仏教的には現世を超えた悟りの境地を意味しますわ。……黄泉や地獄などの宗教的価値観に多大に触れる特殊性から花の語源となるほどですの。『彼岸花』とかは聞いたことはおありでしょうか?」

 

「鬼がつく漫画で出てきた覚えがあるなぁ……」

 

「その知識ですと二つの意味で青そうですわね」

 

 未熟で悪かったな。所詮ミーハーですよ。

 

「彼岸花の花言葉は赤ならば情熱、再会、独立、悲しい思い出……などですわ。赤は血や死のイメージが付きやすく、炎や感情を意味しやすいのですの。他にも死人花、葬式花、火事花、墓花、地獄花などの異名もありますが……どれも良い意味ではありませんわね」

 

「青は?」

 

「ねぇですの。基本は赤か白ですの。あってもヒガンバナ科ヒガンバナ属の『リコリス・スプレンゲリ』ぐらいですわね。広く言えば彼岸花ではあるのですが……そこまで行くと魚のイワシみたいに面倒になるので省略させて戴きます」

 

「へ〜〜。……それが今の状況と関係あるの?」

 

「お酒は製造方法は果実、穀物など多岐に渡りますが……花でも作れるのですよ?」

 

「嘘っ!?」

 

「正確にいうと『リキュール』という分類にあたるのですが、まあお子様のレンさんには詳細は置いときまして……」

 

 えぇ……。ソヤもお子様なのでは……?

 

「彼女が飲んでいるのは『彼岸花』をブレンドしたもの……洒落乙に言えば『リコリス・ラジアータ』なんですの」

 

「そして」と一息置いてソヤはベアトリーチェの側に行く。

 

「あなた様なりの彼に対する弔いなのでしょうね。……毒処理はしっかりしてますの?」

 

「してるわよ。この日のために作った特製品なんだから……。あなたも飲む?」

 

 未成年に勧めるなよっ!?

 

「お断りしますわ、見ての通り健康体ですので。生姜湯で十分ですの」

 

 逆に健康じゃないなら飲むみたいな言い方だな、おいっ。

 

「でも贅沢ですわよね……。こうして誰かを弔えるなんて……」

 

「……あなたも気づいていたのね」

 

「感情と匂いには敏感ですのよ」

 

「おーい、さっきから話の内容がチグハグで理解しにくいんだが……」

 

 プロ同士多くは語らないとでもいうのだろうか。

 

 などと思っていると、ベアトリーチェは真剣な顔つきをして周りを見回し、ソヤも数回匂いを嗅ぐ動作をするとゆっくりと口を開いた。

 

「レンさん……。くれぐれも、そして何があっても……バイジュウさんには伝えないでくださいまし……」

 

「バイジュウに……?」

 

「私達はどういう因果か貴方を中心に集まっている。それを発展させて個人的な交友関係を結んでもいる……。ハインリッヒとラファエル、シンチェンとイルカ、私とソヤ…………。だけど仲には相容れない……いいえ、相容れすぎるのも絶対あるの……」

 

 それがバイジュウなのか……?

 

 しかし相容れないならまだわかる。こうも人数がいると苦手意識が起こるのも分からなくもない。俺だって未だに愛衣には苦手意識を持っているし、ソヤもイルカに対して若干押しが弱い。曰く「苦手ではなく、本能的な部分が……」とネコ科代表的なことを言っていたが。

 

 だけど『相容れすぎる』のどこがダメなんだ……?

 

「レンちゃん……。私はベアトリーチェ……。現代では偉人や神名を付けるのも珍しくないから疑問視されてないだけで、本来私は本当の意味で『この世に存在しない者』よ」

 

 名前というとラファエルとかヤコブとかか……。ある意味、ヴィラもそうか。

 

「いや、それ言ったらハインリッヒもそうだろ……」

 

「それを言いましたら私やアニーさんもそうなるのですが……。レンさん、『因果の狭間』に囚われた者と『死者』は明確に違うのです」

 

 ソヤの言葉に俺は固まる。

 

 ……そうだ。最初にアニー、その次に『因果の狭間』からハインリッヒが出現した事で、その間に出現したベアトリーチェの『死者』という認識が歪んでいた。

 ソヤに関してもそうだ。彼女はエルガノと同行した際、決死の覚悟でヘリ内で自爆を起こしてこの世から一度……。いや正確には彼女も『天国の扉』という『因果の狭間』と同じような異空間に囚われたに過ぎない。

 

『因果の狭間』はあらゆる世界の事象や時間から切り離された異空間。地獄や煉獄といった死者の国とは違う。そこは決して『死』の世界ではない。

 だからこそアニーも、ハインリッヒも、ソヤも、死者ではない。『この世に存在しない者』というだけに過ぎない。

 

 ……俺は明確な『死』という物から向かい会うのを無意識に避けていた。何でかなんて考えるまでもない、一度意識してしまう俺自身の価値観がブレるのを本能的に感じていたからだ。

 

 だって、だって……。俺の母さんは、父さんは……。

 形式上は『行方不明』となっているが……。もしも、もしも本当に『死亡』ということになれば——。

 

 脳裏に横切る灼熱の光景。塩と化した人々。

 俺は知っている……。俺は知ってしまっている……。

 

 あの『地獄』を……。

 

「——それ以上、意識を踏み込んではダメ。そこから先は狂気の世界……禁忌に触れたら『人間』じゃなくなるわよ」

 

 強引に肩を掴まれ、ベアトリーチェと視線を合わせる。

 瞬間、彼女は全身を包むように優しく抱擁した。

 

 ……同時に身体に熱を感じた。この視線、この感情、このむず痒さ……ダメだ。俺は貴方に『魅了』されている……。

 

「——こうでもしないと貴方が戻れなくなる。…………落ち着いて、落ち着いて……私の言葉を聞きなさい。力を抜いて、息を吐いて、私に身を委ねて……」

 

 彼女の言葉を俺は無意識に聞き入れてしまう……。

 力を抜きます。息を吐きます。貴方に身を委ねます……。俺の意識は微睡み蕩けるように霞みが掛かる。

 

「リラックス……リラックス……。頭の力を抜いて……。気が散る考え事、不安な出来事、露となって貴方の心から浄化される……。純粋な気持ちで、私の声に耳を澄まして……。私の声に応じて……」

 

 あぁ——。もっと……。もっと……欲しい……。

 もっと俺を求めて、欲しい…………。

 

「ベアトリーチェ、様…………」

 

「——効き過ぎたようね。今戻してあげる」

 

 そう言って彼女はいつの間にか外していた指輪を戻す。同時に俺の意識は引き上げられる。まるで釣り上げられた魚だ。

 突如として覚醒した意識は、陸に上がった魚と同じように混乱しながらも確かに自己を戻そうと、未だ『魅了』に囚われる一部の意識を矯正しようとする。

 

「あ、あれ……? ごめん……! 今離れぇ……れぇ……!!」

 

 ……何故だろう。ベアトリーチェの腰に回した腕は離れず、触れ合う頬も彼女の胸元の弾力が名残惜しくて遠ざかろうとしない。

 

 ……いやいや、まずいって! 公然猥褻罪で逮捕されるッ! 流れに乗じたセクハラ良くないッ!!

 

「そのままでいいわよ。話さえ聞いてくれれば」

 

 そう言って彼女は俺の頭を撫でてくれる。

 これは……無性に安心感をくれる……。心に温かさを届けてくれる……。肌に優しさを感じる……。

 これは……どこかで……ずっと昔に、感じたことあるような……。

 

「あぁ〜〜〜〜♡ ピュアピュアでいいですにゃ〜〜〜〜♡♡♡」

 

「発情期のネコかっ!!?」

 

 ソヤの猫撫で声で我に戻った俺は、ようやく全意識が『魅了』から解放されてベアトリーチェから離れる。

 

「……もう大丈夫?」

 

 少しばかり名残惜しそうに問うベアトリーチェ。

 

「大丈夫、大丈夫……。それで、その……バイジュウと関わっちゃいけない理由って……」

 

「あの子の心は未だに『過去』に囚われている……。凍て付いた記憶、凍て付いた熱、凍て付いた心……彼女の全ては氷結の夢に微睡んだままなのよ」

 

「そうですわ。わたくしも感情を匂いで判断できますが……バイジュウさんの心は酷く悲しい物でしたわ……。どこが上で、どこが下で、どこが前で、どこが後ろで……。まるで深海に潜る気分でしたわ……」

 

 ……正直二人の答えは薄々予想がついていた。バイジュウに『死者』の話をさせては、きっと拭いきれない思いと向き合わなきゃいけなくなる。バイジュウの心が壊れるのが先か、氷結の夢が壊れるのが先か。どちらか一方が壊れるまで終わらない自己問答に。

 

「レンさんを中心にバイジュウさんは確かに心は導かれておりますわ。まるで篝火のように……。でも、どこに導かれようともその先には隔たりがありますの。ガラスのように透明で、ダイヤモンドより硬くて厚い心の壁が……」

 

「レンちゃんが繋ぐ心の灯火は小さくても決して無駄じゃないのは分かってる。だけど、人間の心の寂しさはより大きな炎を求めてしまう……。その炎がどれほど危険であろうとも……」

 

「それがベアトリーチェ……。いいや、つまり——」

 

 ——『死者の蘇生』——。

 

 なんて甘美な響きなのだろう。本来は絵空事に過ぎない、だけど改めて認識して感じてしまう。もしや可能ではないかとって……ベアトリーチェを見てそう思ってしまう。

 

「私の所在は今でも極秘事項なのはそれが理由よ。もしバイジュウが私の事を知って、その可能性を知ってしまったらどうなると思う?」

 

 ……想像するまでもない。彼女は追い求めてしまうだろう。禁忌の道を歩み、その先に求める物があるのなら。

 

「彼女は絶対に探究するわ。誰よりも賢いのに愚かで、誰よりも清らかなのに醜くて、誰よりも真面目なのに無防備な子よ。…………絶対に彼女は成し遂げて、到達しようとするでしょうね。ハインリッヒの『真理』さえも超えて、超えて……超えたからまだ先へ……」

 

「その先は間違いなく地獄が待っていますわ。『扉』の先に待つのは、極楽浄土ではなくもっと恐ろしい『何か』……。狂気に魅入られたら彼女は一生抜け出せない足枷と共に生きていくことになる……」

 

 だからこそベアトリーチェは言っていたのか。バイジュウとは相入れ過ぎると。

 

「……じゃあ、どうすればいいんだよ。そんなバイジュウを……友達として俺はどうやって力になってあげたらいいっ!!」

 

「貴方は十分力になってるわ……。後は切っ掛けさえあればいいの……。あの子自身の彼岸花を咲かせるような……」

 

 ベアトリーチェは一気に酒……彼岸花のリキュールを飲み干した。

 

「…………レンちゃん」

 

「は、はいっ」

 

「決して、繋いだ心は離しちゃダメよ」

 

 そう言うとベアトリーチェはバルコニーから立ち去ろうとする。そしてログハウス内に入る直前、忘れ物を思い出したようにこちらへ振り向いた。

 

「それと最後に一言」

 

「な、なにっ?」

 

「……ごちそうさま。おにぎり美味しかったわよ」

 

 ベアトリーチェは家内に姿を消した。

 俺は花弁と酒気を肴に、満月を見る。

 

 …………待つしかないのか。その時が来るのを。

 だったら、その時まで……俺は守らないといけない。

 

 独りぼっちで深海に漂う彼女を。

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