魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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次話で第七章は完結となります。


第11節 〜不测之祸〜

 クラウディアの『無限鏡』を目にした途端、麒麟は沈黙を始めた。その鏡が持つ魔力に当てられ、麒麟は過去現在未来における深層心理に眠る感情を突きつけられたのだ。

 

 そうなればどういう結果をもたらすか。答えは目にしてる通りのことが起きる。深層心理に眠る感情と向き合うことになった麒麟は、自身の心と記憶に幽閉されることになったのだ。

 

「……ちと名残惜しいが、これで彼奴との勝負はついたということか?」

 

「恐らくは……って、いたいっ!?」

 

『言ったでしょ〜〜。渡した武器を離したら痛み止めも終わるって〜〜』

 

 バイジュウが時間を空けて痛がる様子にギンが「痛みに鈍くなったってことは歳かぁ〜〜?」とおちょくる。

 それに便乗してクラウディアは「やっぱり三十路ね〜〜」とケラケラと笑って一件落着と言わんばかりに場の空気を和ませた。

 

 だがバイジュウは安心できなかった。『魂』を認識できるからこそ、バイジュウは麒麟の『魂が揺らがない』という事実に恐怖を覚えていた。

 何故ならバイジュウは知っている。自分の『過去』と向き合うことはとても辛い物があるということを。それを『播摩脳研』でヴィラクスと魔導書の力を利用することで体験したのだから。とてもじゃないが、そんな過去を見たら『魂が揺らぐ』ほうが正常なのだ。

 

 だというのに麒麟の魂は揺らがない——。

 鏡を見つめたまま沈黙を続ける。やがて『魂』に変化が見えたことで、バイジュウはあまりの衝撃に背筋が凍りそうになった。

 

 

 

 ——『陰陽』が見えたのだ。『希望』と『絶望』という相反するものが彼女の魂を塗り替えようと、バケモノのように口を開き始めたのだ。

 

 

 

「……そう、だ。私は成さないといけない……」

 

 

 

 そして彼女は動き出した。瞳を『青く染めながら』も麒麟は鏡に囚われた意識をこの世界へと帰還させたのだ。

 瞳の色は間違いない。今までバイジュウを苦しめていた『陰陽五行』に侵された証だ。今の彼女は五感が狂っていて立つことさえも必死に違いない。

 

 

 

 違いないはずなのに——。

 

 

 

「人間(ケダモノ)ではなく……正しき者に、正しき未来を託すためにっ!」

 

 獲物を捉えた鷹のように、麒麟は俊敏にギンの懐へと向かって『如意棒』を渾身の力と共に伸ばしたのだ。

 

「よせっ! 今動いたら……っ!」

 

 だが、そんな見えすいた攻撃をかわせないギンではない。あまりにも単調で愚鈍な攻撃はギンに届くはずもない。難なく回避行動を移り、絶好の反撃の機会を得る。

 しかしギンが反撃に移ることはしない。麒麟の攻撃に隙がないわけじゃない。むしろその逆であり、今までのキレをなくして隙しかない動きはギンの実力を持ってすれば、たとえ素手であろうとも瞬間的に意識を奪うことも可能なほどに。

 

 けれど、そんな惨いことはギンにはできなかった。

 もう既に勝負は決したのだ。麒麟は自らが使う『陰陽五行』の影響で五感が狂ってしまい、まともに動くことなどできはしない。現に瞳が青くなってるのが証拠だ。バイジュウと同じ症状が出ており、目と目を合わせようとしても絶妙に焦点がすれ違ってしまう。

 

 確実に、今の麒麟にはギンの位置が捉えきれていないのだ。そんな病人同然である者に、弱った者に、振るう刀も拳も心もギンは持ちあわせていない。

 

「もう勝負はついたぞ!? 戦いをやめろ!」

 

「すべてのケダモノに報いを……」

 

 支離滅裂な会話。それは聴覚がまともに機能してないことの裏返しだ。ギンの声は麒麟に届くことはなく、同時に『陰陽五行』に侵された更なる証明にもなる。麒麟の症状はバイジュウよりも深刻だということを。

 

「そのためにはバイジュウ様……。貴方が必要なのです……っ! 貴方こそ正しき者……人間(ケダモノ)を超えた正しき『魔女』……っ! 貴方だけが……変えることが、できる……っ! 生命のあり方そのものを……!」

 

「……それが宇宙飛行士になれ、という言葉の本当の意味なんですね」

 

「枯れ切ったケダモノは何も生まない……。新しい変化には正しき力と心がいる……。貴方のような純粋な人間だけが……っ!」

 

 それは二度と弟のような惨い結末を迎えさせないための信念——。

 弟を殺したのは『七年戦争』ではなく、母と姉が持つ悪性によるものだ。そしてその『悪性』とは二人だけが持つだけなく『人間』が持つ当たり前の感性だ。魔が差したなど、出来心だっただの、軽い冗談だの、ふと芽生えて解消される小さな悪性。

 

 そんな小さな悪性を麒麟は許しはしない。その小さな悪性こそが人間の器さえも矮小させてしまう。けれどその器を大きくするには、人間として正しく生きることのみであり、目の前で悪性を見た麒麟にはそれは不可能だとも理解した。

 

 

 

 だけど、それでも弟と同じ境遇の子を作るわけにはいかない——。

 だから、世界を進化させないといけない。正しき人間のためには『七年戦争』を起こすキッカケにもなった『人間の根本にある悪性』を排除——いや、それさえも及ばないほどに正しく進化させないといけない。

 

 

 

 だが、そんなことをギンとバイジュウは知る由などない。『無限鏡』で見た内容なんて知ることはできない。なんらかの事情があるのは察することができる程度であり、麒麟がその心情を言葉にしないのだから伝わるはずがない。言葉とは伝えるためにあるものなのだから。

 

「私では無理なのです……。どこまでやっても人間を超えることができない……。魔女になれない私では……」

 

「……こいつ末恐ろしいな。魔女ですらないというのか」

 

 一方的な会話と意味のない攻撃を麒麟は続ける。

 そのたびに無理矢理動かされる五感が悲鳴をあげ、麒麟は襲い掛かる頭痛を耐えるように眉間に皺を寄せていく。

 やがては瞳は『紫色』に染まる。『陰陽五行』による染色と、眼精的疲労による炎症によるものだ。もう麒麟には視界も聴覚も機能していない。人間が五感から得る情報源の九割を失いつつある。

 

 目も耳も機能しないとなれば、それは実質的に世界との隔絶を意味する。麒麟の言葉は徐々にか細くなり、僅かに頼りになる触覚さえも役立たずになって、やがては立つことさえもままならなくなって膝から崩れ落ちる。

 それでもその手に握る如意棒を放すことはない。戦闘を続ける意思表示の表れであり、そうまでして成り遂げたい何かがあるのが嫌でもわかる。

 

 ギンはその在り方に心の中で敬意を称する。そんな痛々しさを見せてまで足掻く姿が、どこか霧吟の姿がチラついてしまったから。

 だけど、それとこれとは話は別だ。ギンは感情的な部分を押し殺して「すまないな」と言うと、その首筋を優しく絞めて意識を失わせた。

 

 

 

 ——これでようやく麒麟との戦いは終わったのだ。

 

 

 

「機会があれば、今度は正々堂々と一対一戦いたいものだ。お前は恐らく人間の中であれば一番強いからの……」

 

「……どうしますか。彼女は戦闘不能でも『陰陽五行』は残っていますが……」

 

「今は残しておくべきだろうだ。ファビオラ達の力は借りたいが、それで異質物武器を破壊したら、あいつも立ち上がるだろうしのぉ。また立ちはだかるのは任務を熟すうえで邪魔極まりない」

 

『それは私も同意見ねぇ。『無形の扉』だって何も全員が揃ってそいつみたいな奴じゃないだろうし、効果を残しとけば無形に所属する女性はみんなグロッキーなんでしょう? だったらファビオラ、ソヤを犠牲にしてもそのままにすべきね』

 

「それもそうですね」とバイジュウは言うと本来の目的であるミルクの情報を求めようと動こうとするが、やはりロクに機能しない腕と脚では這うことさえままらない。

 そんなバイジュウを見て、ギンは納刀をすると「それではまともに動けんだろう」と口にして彼女に最低限の応急処置を施すと「失礼」と一言添えてお姫様抱っこを始めた。

 若干バイジュウは気恥ずかしい思いを抱えるが、生憎と物申しようとしても麒麟の棍術で現在は肩は脱臼、足先は粉砕骨折という状況だ。運搬方法も適切ではないが、担架なんてあるわけないのでそれはもうしょうがない。バイジュウは「構いませんよ、ギンさん」とほんのちょっぴりの反撃だけをして受け入れた。

 

「……あのぉ、これってどういう状況?」

 

 そこでようやく遅れてレンが合流した。レンは困惑しながら目を見開いて周囲を見る。

 それは仕方ないだろう。冷静に見なくても死屍累々の状況だ。レンからすれば誰かも知らず、脅威も知らない麒麟が今にも死にそうな顔色で気絶している。一体何があったのか知りたくなるのが普通というものだ。

 

 だというのにギンは「色々だ。そんなに気にする必要もない色々だがな」と適当に終えると、レンの手にある赤みを帯びた隕石を見て「んあじゃ、その手にあるのは?」と逆に疑問をぶつけた。

 

「いやぁ、説明すると長くなるんだけど……こっちもシンプルに言えばスターダスト達と同じ異質物ってことかな」

 

「あぁ、あの姉妹のか」

 

 ギンの脳内で未だに理解しきれてない情報生命体である二人の顔が浮かぶ。ニャルラトホテプと同じような存在なのに、セラエノと似たような何も喋らない、知らないという微妙に役に立たないあの二人の呑気に動画投稿してる顔を。

 

「あの……道中で朱雀という人物には合いませんでしたか?」

 

 しかしギンの悩みなんてつゆ知らず、バイジュウからの質問にレンは「朱雀?」と言いたげな表情を浮かべ、それで理解したバイジュウは「分かりました」と流す。

 相変わらずの扱いにレンは「ギン爺、俺ってそんなに顔に出やすい?」と溢し、溢し先のギンは「出やすいのぉ」と孫でも見るような笑顔を浮かべてレンを揶揄った。

 

 だがバイジュウはそんな穏やかな心境ではいられなかった。

 

 

 

 ——嫌な予感がする、というのがむしろ本音だ。

 

 

 

 何故なら彼女らが名乗った『麒麟』と『朱雀』というのは中国から古くから伝わる神獣の名前だ。他にも『玄武』『青龍』『白虎』が存在し、それらも『五行』の思想を元にしているものだ。しかもそれらは一応は『同等』という扱いでもある。

 大層に名乗ったのだから、必ずまだ残りがいるはずなのだ。何人が女性で『陰陽五行』によって無力化されているかは知らないが、少なくとも朱雀だけは男性で間違いない。

 

 しかし、その朱雀が姿を見せない。建物内での出来事の以上、麒麟がやられたのは既に分かっているはずだ。何かしらの行動を見せてもいいはずなのに気配が見えない。

 

 だが考えたところで相手のことなど分かるはずもない。バイジュウは二人に「警戒は怠らないように」と伝えてると、ミルクが残した情報を求めて『フリーメイソン』であるこの建物の捜索を始めることにした。

 

 そして——意外にも目的となる物はすぐさま見つかった。

 フリーメイソンが使用する情報端末の一つ。その中に単純なパスワードとセキュリティだけで保存されているミルクのデータがあったのだ。

 

「こんなにアッサリと……? まるで……」

 

「見てくださいと言わんばかりだな……」

 

 もしかしたら交渉が上手くいき、何の問題もなくバイジュウを『無形の扉』に引き入れることに成功したら見せようとでもしていたのだろうか。

 だとしてもあまりにもおざなりだ。ギンが口にした通りに見てくださいと言わんばかりだ。交渉の成功の有無なんて関係なく。

 

「……どうする? ここで見るか、ダウンロードだけ済ませて後でSIDにチェックした後に見るか……」

 

『どっちも悠長なことね。ダウンロードするにもウイルスチェックやプロテクトとか諸々を考慮して十数分は掛かるし、今ここで見ようにも内容は見た感じだと膨大なんでしょう?』

 

「ええ。容量はテキストフォルダとは思えないほどですね……というか、これは——」

 

 バイジュウは一瞬で察した。この馬鹿でかいテキストファイルの正体を。

 きっとこれはスターダストやセラエノが口にする『言語』と一緒だ。つまりは『■』という『情報』が羅列された物であり、同時に『OS事件』でハイイーやシンチェンが眠っていた隕石が見せた解読不可能な文字でもある。逆に言えばミルクは地球の言語を『■』に変換できるということでもある。

 

 そこでバイジュウは更なる理解を深めた。それは戦慄と同時に、我が事のような誇らしさを抱かせた。

 

 

 

 ——ミルクは解読できるというのか。この『■』に込められた情報を。

 ——誰にも理解できない『■』を、あの土壇場で、今にも『何か』に変質しようとした中で。

 

 

 

 ——この『■』を読む術を見つけたというのか。

 

 

 

 ここまでしてミルクはバイジュウに情報を残そうとしていたのか。

 パスワードも何重にも設定して、物理キーも音声キーも設定した上で、さらには言語さえも変換させて残したというのか。

 

 だとしたら知れる——。今までの全てを——。

 隕石に眠る情報も、セラエノの言語も——。

 

 

 

 ——ミルクさえいれば解読することができる。

 

 

 

「だとしたら……」

 

 この情報の解き方は6代学園都市すべてが欲する情報だ。解読方法を知ってしまえば、単純な利用と少しの応用しかできない異質物の情報を全て解析することができ、あらゆる技術が飛躍的に上昇する。それはもう人類そのものの『進化』と呼ぶに相応しいほどに。

 

 ——もしかしたら麒麟も推測の範囲内で、ミルクの残した情報を察していたのかも知れない。だからこそ進化した技術の基盤を欲していた。宇宙に行くための人材と技術を。バイジュウという存在を。

 

「どうするんじゃ? ミルクとやらが残したデータを」

 

「……今ここで見ましょう。どうせコピーを取って元のデータを消しても、フリーメイソンも同じようにコピーデータぐらいは残してるはずですから……」

 

「儂にはその元のデータとかコピーやらの違いがイマイチ理解できんが、お前がそうするならそうしよう。じゃあ後はレンに任せるぞ」

 

「そこは俺がやるのかよっ!」

 

「爺に機械の操作は難しいんじゃ〜〜」

 

「いいけどさぁ」とレンは文句を垂れながらも現代っ子らしい手馴れながらも決して早くない動きで端末のキーボードを操作する。

 バイジュウから記憶で見たパスワードを聞き、それを丁寧に入力すると今度は物理キーと音声キーを要求される。

 

 そこまで行くとレンとバイジュウの視線が合う。

 バイジュウはそのまま視線を自分の左手首につけられた『腕時計』へと向けると「お願いします」とレンに告げ、レンは頭を一つだけ頷かせて手早く腕時計を外して操作と端子の接続と始めた。

 

 そうするとデータは解除される。テキストデータを開示することが表示され、膨大な量のために時間が要することも。

 

「よし、開くまで数分かかると出ておるな。しばらく待つとするか」

 

「ならその間にレンさんに話しておきましょう」

 

「俺に?」

 

「ええ」とバイジュウは頷き、これから肩が凝る話をするだろうと察したギンはバイジュウを楽に話せるように背中を預けられる場所へと下ろした。

 

「先程私が口にした『朱雀』という名前……彼は『隕石』を持っていました。レンさんが今持つ隕石とはまた別の物を」

 

「マジで!? グレイスの言った通りだ!?」

 

「グレイス?」と今度はバイジュウが頭に疑問符を浮かべるが、レンは「ひと段落したら話すよ」といって一先ず置いておく。

 

「てか、それ『地』の隕石だよ! 俺が持つのは『火』で、今SIDで預かってるのが『星』と『水』と『風』……! これで『五維介質』が全部見つかった!」

 

「五行や錬金術的には『土』では……?」

 

「それは俺も知らないし、大した違いある?」

 

「そうですね。特に大した違いはないので気にしないでおきましょう」

 

『いやいや流すな。名称は流していいけど、もっと別のことは流すな、天然少女と馬鹿少女』

 

「誰が馬鹿だ」と文句を垂れるレンと「天然って私ですか!?」と自分のこととは微塵も思ってなくて焦るバイジュウの声をクラウディアは聞き、二人が見えない鏡の奥で『こいつら……』と若干の悪態をつきながらもコホンとわざとらしく呼吸をすると話を続けた。

 

『話を戻すけど、その隕石を求めて何の価値があるの? それを聞かせなさいな』

 

「ああ。『地』の隕石はニャルなんとかに繋がる隕石らしいんだ」

 

『なんでそんなことが分かるのよ』

 

「いや、それは……グレイスが教えてくれて……」

 

『そのグレイスって誰よ?』

 

「えっと……グレイスってのはクラウディアと合流する前に会っていた少女で……俺が行方不明になってた原因というか張本人で……」

 

『よくそんな子の話を信じられるわね……』

 

「客観的に聞けば確かに」とレンは自分でもそう感じてしまう。だが、グレイスと実際にあったからこそ信じられる。彼女は決して嘘偽りを口にはしない信頼たる人物であることを。

 そのことをクラウディアに伝えると彼女は『あんた詐欺師に騙されるタイプね』と皮肉を告げるが『まあ、今だけは信じてあげることにしましょう』ととりあえずの納得を見せてくれた。

 

「それでグレイスが口にしたんだ。『地』の隕石はニャル何とかとヨグ何とかが持つ属性で……」

 

 そこでレンはバイジュウを見ながら言い淀む。バイジュウに言いづらいことがあるのだと暗に伝えるように。

 だが黙っていても何も進展はしない。レンは髪を何回か掻き乱すと「落ち着いて聞いてほしいんだけど」と前置きをして話を続けた。

 

「……この隕石を巡って、バイジュウは『ある人物』と会うことになるって」

 

「でしたら、もう終わりましたよ。あそこで倒れていた麒麟は私と接触してきましたが、ギンさんとクラウディアさんのおかげで何とかなりましたからご安心を」

 

「そう、じゃないんだ……」

 

 まさかの否定にバイジュウは困惑する。だって『隕石』を見せてきたのは麒麟だ。正確に言うなら麒麟の仲間である朱雀であるのだが、そう大きな差はない。あの戦闘が『隕石を巡った』ものじゃないとすれば、一体どこで——。

 

 そこでバイジュウの心臓がドクンと大きく脈を打つ。ある考えが浮かんできたからだ。

 

 

 

 ——まさかまだ『隕石を巡って、バイジュウが『ある人物』と会うことになる』という部分は始まってさえもいないというのか。

 

 

 

「俺がグレイスから伝えられた名前は『麒麟』でも、バイジュウがさっき口にした『朱雀』でもなくて……」

 

 レンは告げる。その『ある人物』の名を。

 その『ある人物』は、この場にいる誰もが知ってる名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ミルク』なんだ——」

 

 

 

 

 

 そこでテキストデータの表示を伝える短い機械音が響く。

 

 

 

 ——同時にそれとは別に『虚空の中から風鈴のような音』と『無数の流動的な光の粒子』が空中を照らす。

 

 

 

 

 ——それは『方舟基地』で初めてハインリッヒが出現した時と非常に酷似していた。


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