魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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いつも通り、週一更新です。


第2節 〜繝ャ繝ウ 繝ャ繝ウ(■■■ ■■■)〜

「ところでフレイムさんや。開口一番で申し訳ないんですけど、服とかありませんかね?」

 

『そんなものは、ない』

 

『ドリームランド』のレン高原と呼ばれる広大な場所で、俺は秘部を手と腕で隠しながら生まれたままの姿で突っ立っていた。

 青空の下で野生を晒すのは精神衛生上大変良くない。俺は露出狂みたいな変態的な思考なんて持ってないんだから、どうにかして衣服を入手しないと色々と変な気分になってしまう。

 

「……この際、フレイムの服でもいいからくれない?」

 

『羅生門するな。それにこれは服じゃないの』

 

「じゃあフレイムも裸ってこと!?」

 

『発想を飛躍させるな思春期。これは『情報』の一部で、情報生命体からすれば魚の鱗に近いもの。だから渡そうにも渡せない、分かったか?』

 

 なるほど……というか、やっぱりフレイムは前に触れた感じで直感してたけど、スターダストやオーシャンと違って性格が苛烈というか何というか押しが強いな……。

 

「だったらどこで服を調達すればいいんだよ……」

 

『う〜〜ん。本来ならこの世界に適した服に置換されるはずなんだけどね……特殊な方法で来たせいかしら? まあここで活動する分には裸とか微々たる差だし、気にしないでもいいんじゃない?』

 

「気にするんだよっ! 俺の貞操観念がっ!!」

 

 ともかく何とかして衣服を揃えないと落ち着かない。周囲を見回すが、布とか覆い隠せそうな物さえ見当たらない。見えるのは都市と街だけで、あそこで服を揃えようにもそのための服がない状態だ。どうすればいいんだろう。

 

 さらに見回して、俺はある一つの建物が目についた。

 牧場みたいに何もない広大なる草一色の世界の端。そこに『教会』が見えたのだ。牧師でも雇っているかのような立派な教会が。

 

「……あそこで調達するかぁ」

 

『結局、強奪するのね』

 

「借りるだけですっ! 万が一でも人がいたら恵んでもらうんですっ!」

 

 口論しながらも俺は周囲にフレイム以外が誰もいないのを確認しながら、可能な限り全速力で草原をかけていく。全裸で。

 

 正直言って…………かなり解放感があって気持ちよかったのが本音だったりする。性的な意味とかではなく精神的な意味で。

 プール開きで燥ぐ小学生気分というか……初めて遊園地に来たような高揚感というか……なんというかこの非常識さが全身から活力が満ち溢れているように錯覚してしまう。

 

 ……とはいっても錯覚は錯覚。

 教会に着く頃には無駄に上がったテンションは底について、自分自身の恥もクソもない行動に恥ずかしくなりながら、色々と複雑な思いを抱えながら教会の扉を開いた。

 

「失礼しま〜す……どなたかいらっしゃいませんかぁ〜〜……?」

 

 扉の先は暗闇一色だった。外から入る陽光とも言えぬ、イラストみたいな少し不気味でもある『境界線が見えた光』だけが教会内部の参列者用の椅子を照らしてるのが分かるくらいだ。他にはなにも見えないし、目を凝らしても暗闇の奥を視認することができなかった。

 

「なんで『神』はあのようなことを……。教えはどうなってるの、教えは……」

 

 そんな教会の暗がりの中、神像を祭る中央通路の奥で女性らしき声が譫言を吐き出していた。

 暗闇なんだから誰か分からない。けれど俺がそこに『存在する』と認識したからだろうか。光は境界を広げて、その女性の後ろ姿を照らす。俺はその姿を見て驚きを隠せなかった。

 

 それはシスターだった。青っぽさが残る黒の修道服を着ており、長いことでベールから溢れる上品さと気品さが伺える綺麗な金色の髪が靡いている。

 

 けれど俺が驚いたのはその美貌さからではない。

 その後ろ姿に、記憶の中にある人物の背中と似ていたのだ。

 

「この人は……!?」

 

「あなたは……ソヤと一緒にいた……っ!?」

 

 

 

 ——それは『天国の門』事件で出会ったソヤの親代わりである『エルガノ』だった。

 

 

 

「なんでこんな場所にエルガノが……?」

 

 ありえない。だってマリルと愛衣は信頼できる現場調査を手に入れて確かに口にしたんだ。「ヘリは大爆発。エルガノや兵士5名は全員消し炭になった」と。その証言そのものに間違いはないんだ。

 

 

 

 だとしたら——なんでこんな場所に——。

 

 

 

「それはこちらのセリフです……。なぜあなたがこの世界に……?」

 

「なぜって……ええっと、それは……」

 

『……真面目な話をしてるところ悪いけど、レンちゃん全裸だからね?』

 

 ——あっ。言われて思い出した。

 

「あの〜〜、その前になんか適当な服とかないでしょうか? 見ての通りなので……」

 

「……………………これでもシスターとしては健在の身。迷える子羊に慈悲を与えるのが職務です。今準備しましょう」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「……本当にこれしかないんでしょうか?」

 

「ええ。それは『華雲宮城』に自生する植物の繊維を加工することで生まれるもの。植物名の由来からそれは『月光百合』と呼ばれております」

 

 俺は鏡に映る自分の姿にビックリしながら、その服と称された機能的な造形をした戦闘服をマジマジと観察してしまう。

 正直言って、今までの中で一番『戦闘服』という概念に近い構造をしている。動きやすいように腕部は手先の鎧以外は露出していて、急所となる首周りと心臓部位にも同様に鎧が施されている。腰部分の鎧には耐火性能に秀でたスカートも施されていて、このスカートの材質そのものに特殊な鉄粉などが繊維に組み込んでいて、ちょっとそっとじゃ傷つきそうにない頑丈な装備となっている。

 

 だけど特に一番目立つのは鎧ではなく『髪色』だ。

 今までの黒髪を基調した赤メッシュから一転して、ギン爺も驚くほどに『真っ白』だ。赤メッシュさえ残ってないほどに真っ白だ。

 

 どうやらエルガノ曰く、この戦闘服は『月の光を吸収して栄養素に変換する』という光合成みたいなことをしているらしく、早い話が髪が変色するのもその効果が発生しているかららしい。

 

『似合ってるね〜〜♪』

 

「うるさいな……って、エルガノはこれ見えてます?」

 

「見た感じだと会話できてるようですが、私からは声は聞こえずに姿もほとんど掠れていて認識が難しい状態となっておりますね」

 

 なるほど……。この世界でも、どうやらリーベルステラ号でのシンチェンの状況と同じらしい。

 

「では話を戻しまして……何故あなたはこの世界に?」

 

 何故と言われても正直困ってしまう。華雲宮城にあるフリーメイソンの施設で色々あって、それで端末を弄ったらここで目が覚めただけだ。フレイム的にも『特殊な方法』と言っていたから、この方法で来ること自体がこの世界におけるイレギュラーなのだろう。

 

 そのことをエルガノに伝えたら彼女は「そうですか」と落胆したように目を伏せ、内面を包み隠さずに舌打ちでもするかのように口と目を歪ませると「そちらのことも答えましょう」と俺の言葉を促してきた。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。エルガノはどうしてこの世界に?」

 

「……私の顛末は知っているでしょう? あの忌々しい小娘に……ソヤによってこの世界に運ばれたので……っ!?」

 

 血反吐を吐きそうな表情から一変。トラウマでもフラッシュバックしたのか錯乱とした目つきとなって、毛布にでも包まるかのように修道服を握りしめてその膝を床についた。

 

「っ……! あっ、あぁっ……っ!! 熱い、熱い……っ! あの熱さと苦しみがまた……っ! あの小娘っ……! 恩を仇で返すなんて……っ!!」

 

 それに対して俺は何も言うことはできない。

 確かにエルガノは猫丸電気街での暴動を呼んだ一人ではあるから、ことの顛末自体には自業自得というかなんというか……その重すぎるのは分かってるけど、理由や経緯はどうあれ悪事をした報いだと言える。それに関しては俺は同調も同情もしない。

 

 けれど事件とは別にソヤとエルガノの関係性についてはどうだろう。善とか悪とか、正しいとか正しくないとか関係なく、二人にとってお互いはどういう風に感じていたのか。それこそ俺は他人なのだから何も言えない。

 

 だけど想像することはできる。

 ソヤにとってエルガノは母親代わりの存在でもあり、年月が経てばそれこそ母親同然であろう。そもそもソヤの身体自体、あの一件が起きるまではエルガノによる異質物研究の成果と調合薬がないと生きることさえができないほどに献身してくれたのだ。

 例え猫丸電気街での出来事があったとしても、ソヤはきっと親愛を感じたまま心中する思いでヘリを自爆させることを選んだに違いない。最悪、俺の救出がないことも考えながら。

 

 しかしエルガノにとってソヤはどうだったのだろうか?

 彼女の過去も内面も俺はほんの一欠片しか知らない。彼女の外面は新豊州でお世話になった1時間にも満たない交流とソヤの言葉からしか分からない。

 エルガノだって別に根っからの悪人というわけではない。最愛の娘を強盗によって殺害され、その実態を知ったことが遠因となって猫丸電気街の事件を起こしたのだ。

 

 逆に言えば俺はそれぐらいしか知らない。俺が知っているエルガノのことなんて。

 

 

 

 ——愛情はあったのだろうか。

 ——親愛はあったのだろうか。

 ——慈愛はあったのだろうか。

 

 

 

 分からない。エルガノについて俺は何も分からない。

 

 でも、それでも……少なくとも打算があれど、どんな感情であれど、きっとエルガノだってソヤに思うところはあったはずだ。

 

 そうでなければ『体内の黒い異質物で苦しむソヤを何年間も治療する』わけがないんだから——。

 

「ふぅー、はぁー…………。失礼しました、どうにもあの出来事を思い出すと、あの時の痛みや熱を思い出してしまって……」

 

 コメントに困る。焼死体で発見されたということは、そういうことだろうし……。

 

「話を戻しましょう。ソヤによって爆発事故に巻き込まれた私は……熱さに耐えるうちに、ここに到着していたのです。最初は死後の世界かとも思いましたが……しばらく過ごしてそういう場所ではないとも理解しました」

 

 そう言いながらエルガノは教会の二階へと俺を案内して、小窓からこの世界を眺める場所で「ご覧なさい」と言って再度説明を始めた。

 

「空の形状は私たちがいた世界と同じではあります。ですが星座の位置から考えて、ここは華雲宮城あたりではないとおかしいはずなのに、眼前に広がるのは山とは真逆の果てしなく広大な高原と、果てにある街だけ。少なくともここは『地球でありながら、地球ではない』ということが分かります」

 

「別の星って可能性はないの?」

 

「面白い考えですが、ここには『月』があります。月は恒星や惑星ではなく、地球を回る衛星……地球圏以外では存在し得ない物なのです」

 

「あっ、なるほど……」

 

「そしてこの世界にも住人はいます。高原で走る生き物が見えますか?」

 

 そう言われて目を凝らし、エルガノが指差した場所を見つめてみる。

 

 ……いた。一見すれば人間に違いないシルエットをした『生物』が高原の向こう側で複数集まって、まるで井戸端会議でもするかのように話し合う姿を。

 唯一人間と違う部分があれば下半身だ。別に卑猥な意味ではなく、下半身が馬みたいな筋肉が発達していて整った毛が生えているのだ。まるでケンタウロスが二本足にもなったかのように。

 

「彼らはここの住人。……奇しくなことに、彼らの種族名は『レン人』というらしいです」

 

「『レン人』……」

 

 確かに奇妙な物だ。ここは『レン高原』で、あの種族は『レン人』だなんて。そして今ここにいる俺は『レン』だ。これは偶然なのか、それとも運命的な何かだろうか。

 

 思わずガブリエルとの会話を思い出す。名前というのは祝福でありながら呪いだ。『ラファエル・デックス』という名前は天使と貴族としても記号的な意味合いの方が多く、そこに個人の意志を介入していいような余裕なんて本来なら与えられないほどに。

 

 でも俺の名前はマリルがくれたものだ。そこに深い意味合いなんてあるはずがない。というかマリル本人が「可憐だからレンにしよう」みたいな感じで軽く決めたものだ。きっと偶然なのだろう。

 

 それこそレンといっても俺の英語表記は『Ren』だ。同じ読み方でもあっちは『Len』かもしれないじゃないか。そういう意味でも違うに決まっている。

 

 だけど、そう考えたら今度はバイジュウの言葉を思い出す。『陰陽』についてだ。

『陰陽』とは表裏一体。『光と闇』『身体と心』『生と死』『男と女』——。

 

 それは『右』と『左』も該当している。

 つまり『R』と『L』の関係だ——。

 

 そう考えると『Ren』と『Len』でも繋がっていると言える。

 

 色々な要因が思考を掠めてノイズとなる。

 全部、全部が偶然だと思いたい。マリルが何の気もなしにつけてくれた名前だ。由来は情けないものだが、それでもこの名前と身体で過ごして一年だ。愛着もあって、そんな意味があるだなんて思いたくない。

 

 

 

 ……けどもしそうじゃないとしたら? 俺が想像もできないような因果関係みたいなものが、どこかにあったとしたら?

 

 もしも——運命というものがあるとしたら——。

 

 

 

 運命そのものが『逆順』していたとしたら——?

 

 

 

 例えるなら、俺がレンになったんじゃなくて——。

 

 

 レンが俺になったとしたら——?

 

 

 

 

 

 ……ダメだ。本能が警鐘する。それは『まだ考えちゃいけない』って。

 

 

 

 

 

「あれって危険とかないの?」

 

 だから無理矢理意識を切り替えて、それとは別のごく当たり前の質問をした。

 あの『レン人』って見た感じだとRPGゲームにありがちなモンスターみたいで、どこからともなく襲いかかってきてもおかしくない雰囲気があるからだ。

 

「危険な時もありますが、身の振り方を注意すれば安全の確保はできます。彼らにも知性がありますし、ここでは独自の文化と社会がありますから」

 

「それを理解できるほどにエルガノはここに長くいるんだね……」

 

「ええ……。数えることそのものが『狂気』に陥るほどに……」

 

 なら、きっとここの時間は『因果の狭間』と同じように現実の世界とは乖離したものだろう。エルガノが起こした事件は現実では半年以上前の話だから……ここでは時間はどれほどになるだろうか。一年か、二年か、あるいはもっとか。そんなことを考えても答えは出ないし意味はない。

 

「今頃ソヤもこの地の世界のどこかで苦しんでいるんでしょうね……。私がいない中では、ソヤも無事では……」

 

 そこでふとエルガノと俺の視線が交わった。

 

「……何かソヤについて知っていますね」

 

 そして俺は顔に出やすいタイプだ。女の子になってから数え切れないほど実感している。どうやらそれは俺のことを深く知らないエルガノから見てもそうらしい。

 

 ……もうこれに関しては諦めるしかないのだろうか。だとしたら俺はトコトン諜報活動みたいな物には向いてないのよなぁ。

 

「うん、ソヤについては知ってるというか……」

 

「……助け出した、わけですか」

 

「……そうですね」

 

「…………はっ。ははっ。あの小娘が助け出された? 神に尽くした私には慈悲なんてカケラも与えずにいたのに、あの穢らわしい小娘は助け出されたというの?」

 

 エルガノは目から光が薄らいでいく。俗に言う『覇気がない』とか『死んだ目』という感じがまさにそれだ。

 人間がするには、あまりにも無機質な絶望が見え隠れしていて、相手の心情も考えずに口にしたことを俺は「ごめんなさい」と頭を深く下げて謝罪するしかなかった。

 

「ふ、ふふっ……つくづく『神』に裏切られてばかりですね、私は……。しかしこんな生き方しか私にはできない……裏切られても、裏切られてもこんな風になるしか……」

 

 しかし俺の言葉なんて届いてない。届いてはいないが、エルガノは自らの意志で立ち直って黒光りした視線が『諦念』という意志を持つ。まるで慣れている習慣のように機械的に。

 

 

 

 ——そのあり方に、俺は名状し難い恐怖を感じてしまった。

 

 

 

「そ、そういえば『神』で思い出したんだけど、エルガノがさっき呟いていたことって……」

 

「ああ、教えのことですね。でしたらもう少しすれば分かることでしょう。大人しく窓の外を眺めて……そして口を塞いで息を潜めていなさい」

 

 それだけを口にして、エルガノは現実逃避でもするように長椅子で横になってしまった。会話を続けようとするが既に彼女は寝てしまっていて、間違いなく会話中で度々あった精神的な部分による疲労によるものだろう。

 だとしたらこれ以上は酷に違いない。いつぞやのお礼というわけではないが、俺は教会の奥にあったシーツや毛布みたいな不思議な布状の物を一枚取り出してエルガノに被せておいて、彼女の言葉通りに大人しく待つことにした。

 

「ねぇフレイム。エルガノが言っていたことって分かるんでしょう?」

 

『そりゃね。これでも超常の存在だし』

 

「だったら教えてくれてもよくない? ずっと無言なのが気になっていて……」

 

『……ここは人間には理解し難い世界よ。口で聞くより見たほうが早いから、あえて黙っていただけ』

 

「そうやって勿体ぶるの嫌いだなぁ……」

 

 名探偵とかが活躍するアニメや漫画で、事件の真相を明かさない感覚に似ている。気づいたことや分かったことは口にしてほしいのだ。

 でも、それ以上フレイムは口にしないのだから仕方ない。大人しく窓辺の側に手頃な椅子を持ってきて待ち続けることにする。

 

 

 

 

 

 しばらくの沈黙——。

 いったいどれくらい待ったのだろうか。一瞬だった気もするし、途方だった気もする。けれどそれは確かに、『月』から『黒い船』に乗って俺の視界に姿を見せた。

 

 

 

 

 

 ——その姿は一言で形容するなら『ヒキガエル』だ。

 

 

 

 灰色がかった白い油ぎった肌——。

 その肌は伸縮自在に形を変えていて、鼻であろう部分はピンク色の短い触手が蠢いている。

 

 その姿を見て『レン人』と呼ばれた生命は、まるでライブ会場にアーティストが登場でもしたかのような嬉々として喧騒を撒き散らした。

 

 

 

 

 

『あれは『ムーンビースト』——。あなたが追う『ニャルラトホテプ』と関係がある月の怪物よ』

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