魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第3節 〜襍、鄒ス(■■)〜

「『月の怪物』……『ムーンビースト』……」

 

 そのワードが点と点を繋いでいく。断片的な情報が一つの輪となり、俺の中で答えになっていく。

 

 月と聞いて忘れるはずがない。嫌でも『OS事件』での出来事を思い出す。そこにあった『魔導書』に触れたことで誕生した『マーメイド』との交戦を。

 そしてその魔導書が今度はヴィラクスを操ることで『SD事件』を引き起こした。あの『ニャルラトホテプ』が。

 

 そしてその『ニャルラトホテプ』と繋がる『月の怪物』である『ムーン』という存在。それらすべてが綺麗につながっており、これで関係性がない、なんて言う方が無理があるだろう。

 

「いる……この世界にどこかに……あいつがっ!!」

 

 やった。全く手がかりがなかったニャルラトホテプの痕跡を偶然にも見つけることができた。ミルクの情報を追うことで……。

 

「そういえばバイジュウやギンは!?」

 

 そういえばここに来る前に、あの光に飲み込まれたことで俺はここに来たんだ。だったら一緒にいたバイジュウとギンもここにいては不思議じゃない。

 だというのに二人とも近くにはいない。だからフレイムに聞いたというのに、返答は『私は知らないからね、あの二人の行方は』と非常に淡白な返し方だ。本当に知らないのだろう。

 

 だったら今は無事を願うしかない。そう思いながら、俺はこの世界における情報収集が先だと感じて、頭を冷静にして『レン人』と『ムーンビースト』の動向を観察することにした。

 

 もしかしたら——ニャルラトホテプも出てくるかもしれないという微かな希望を抱きながら——。

 

 

 

 だというのに、少し目を離した隙に高原には『血』が飛び交っていた。

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 あまりの事態に理解が追いつかない。視界に入っても、脳が処理してくれない。どうして高原の一部が赤い血で染まっているのか理解できない。

 だからその光景を受け入れるのに時間がかかった。結論から言えば、その答えは非常に簡単なものだった。

 

 

 

 ——有体に言えば『拷問』が行われていたのだ。レン人を相手にムーンビーストが丁寧に惨たらしく。

 

 

 

《■■■——ッ!》

 

 

 

 歓喜にも悲鳴にも聞こえるレン人の痛みの声が世界を侵す。何体かは既に槍らしき長い得物によって念入りに串刺しにされ、残った数体は順番を待つようにムーンビーストの前で膝をついて頭を下げている。

 

 するとムーンビーストはどうだ。レン人の指を丁寧に『切断』したのだ。ヒキガエルみたいな造形をしてるから『表情なんてない』はずなのに、楽しげにその切断を続けていく。

 

 そこまでならどれだけ良かっただろうか。今度は切断した指を違うレン人と交換したのだ。しかも『別々の指』にだ。

 切断したレン人Aの『親指』が、レン人Bの『薬指』となって縫合される。そしてそのレン人Bの薬指は、レン人Aの『小指』となり、その小指は今度は相手の人差し指になり、そしてその人差し指は——。

 

 

 

「っ……ゔぉぇ……!」

 

 ダメだ。これ以上は見てるだけで否が応でも吐き気が込み上げてくる。

 

 そんなことを繰り返した末に完成するのは、当然ながら見るも無惨な人の手の完成だ。

 本来なら扇子のように弧を描くはずの指が、波でも描くかのような歪な長さとなって完成される。

 

 それを見てムーンビーストは満足そうに身体を躍動させると、後片付けでもする赤子のようにいい加減に、そのレン人をそのブヨブヨした肉体で圧殺した。

 

 

 

「やめろ……」

 

 

 

 根本的な生命に対する冒涜——。

 種族も人の形としても違うが、それでもあんな惨たらしい行為をされて黙ってみることができない。

 立場も実力も圧倒的に高い立場にいる者が、弱者を一方的に痛ぶってその尊厳から物資まで略奪しようとする。

 

 それは——。俺からすれば——。

『七年戦争』で見せつけられた人間の悪性に対峙してような気がしてならなかった。

 

 

 

「やめろぉぉおおおおおお!!」

 

『あっ、出ていっちゃダメだって!』

 

 

 

 フレイムの忠告を無視して、俺はムーンビーストへと突撃していく。

 こんな世界でもしっかりと俺の能力は働いてくれる。『魂』の奥底で眠る霧吟の残滓を刃として出力させる。アニーのバットに続いて俺がよく利用する『流星丸』の完成だ。

 

 出会い頭の一閃、その気持ち悪い頭部を一刀両断する。抗うために触手も蠢かせるが、それも刀で切り払い、そのブヨブヨとした肉体に向けて再び一閃。

 厚くて筋張った鶏肉でも斬るような何とも言えない手応えで多少怯みそうになるが、力を振り絞るとそのまま胴体を切り裂いてムーンビーストと呼ばれる存在は沈黙した。

 

「なんだ、そんじゃそこらのドールよりちょっと打たれ強いくらいじゃないか……」

 

『バカバカバカッ! 今すぐにでも逃げろって!』

 

「何言ってんだよ、ムーンビーストはこうやって倒して……」

 

『ムーンビーストが『1体とは限らない』だよっ!』

 

 そう言われて俺はムーンビーストが乗ってきていた『黒い船』へと目を向ける。

 するとどうだ。少なくとも10体以上はあのヒキガエルのような姿をしたバケモノがいる。しかもどれもこれも大きさが違っていて、今俺が倒したのはどう見ても『小さい』部類の方だ。つまり未成熟な個体であり、それでもあれぐらいの強さは持っているのだ。成熟した個体ならどれほどになるのだろうか。

 予想はしても試してはいけない。こんな圧倒的な不利な状態で戦闘するのは自殺行為なのだから。

 

『それに……レン人も敵に回るんだよ!』

 

「はぁっ!? いや、えっ、なんでっ!?」

 

 本当だ。知らない間に周囲のレン人が俺へと明確な敵意を向けて、拘束しようと襲いかかってきてる。でも動きは普通の人間と大差はないのでSIDの訓練通りに動けば、どうにか掻い潜ることができそうだ。

 するりとレン人の包囲網を抜けて走り抜ける。目指す先は決めていないが、今はこの状況から抜け出すことは先決だ。

 

「てか、どうしてレン人は攻撃してきたの!? ムーンビーストから助けてあげようとしたのに……!」

 

『俗な言い方をすれば、あいつらは『そういうプレイ』が一種のコミュニケーションなの! 叩いて喜ぶ変態と、叩かれて喜ぶ変態! それがムーンビーストとレン人の関係! 以上説明終わり!』

 

「なにその救いようのない関係!? 同情して損したよ!」

 

 それに何で『レン人』がM側なんだよっ! 名前に縁があるから俺にそんな趣味があると思われるだろ! 俺は別にそんな性癖とかないぞ!?

 

 とにかく今は一心不乱に逃げるしかない。

 とはいっても教会に戻るだけ無駄だ。あそこは身を隠せるような場所はないし、エルガノを危険な目に合わすわけにはいかない。

 

 とりあえず街がある方角に逃げて撒くしかない。もしくは高原の一部で見え隠れしている谷へと向かって身を潜めるか。どっちかひとつだ。

 

『危険な考えを検知したから言うけど、谷だけはやめておきなさい。そっちには蜘蛛がいるから』

 

「ははっ。ラファエルじゃないんだから、蜘蛛の一匹や二匹……」

 

『体長70cmはあるわよ。しかもウジャウジャと』

 

「街に行きますっ!」

 

 流石にそんな光景は誰であろうと身の毛がよだつ。素直に俺は街へと逃げて追跡を振り払った。

 

 暫時、物陰で様子を見る。

 こちらを追う気配はない。撒けたことを俺は全力疾走でパンパンに疲れ果てた足のリンパ腺を促しながら街を見上げた。

 

 正直、なんと言えばいいのだろう。街といえば街だろう。

 だけどここには『ひと気』がないのだ。あるのは何とも言えない落ち着かなさだ。昆虫が常に周囲を付き纏ってるような……。

 

 あえて形容するなら『鋼の森』とか『鉄の海』とでもいうべきだろう。そんな見た目は街でありながら中身は森という、人工と自然という矛盾を孕んだ街で俺は深呼吸をして路地裏で腰を置いた。

 

「ふぅ〜〜……。この世界は休まるところがないよなぁ」

 

「その臭い……レンさんですわね?」

 

「ひゃい!?」

 

 気を緩みすぎた。接敵する存在に全然気づかなかった。

 だから咄嗟に武器を構えて声の方へと振り向く。走った影響で今にも破裂しそうな血管の鼓動と驚きの脈動を同時に感じながら。

 

「ストップ! お静かに! 私ですわ! ソヤですわ!」

 

「あぁ、ソヤか……って、なんでソヤがこの世界に!?」

 

「私もいるけどね。てか、どうしたのその髪色?」

 

 しかし、そこにはファビオラがソヤに横に並んだ。二人ともここに来た時の俺と違って服は着ているようだ。だけど華雲宮城で活動してた時は違う。

 

 ファビオラはメイド服のままだが細部のデザインが違う。なんというか青とか白のフリフリした如何にもなアニメに出てきそうなメイド服が今までのファビオラだとすれば、今のファビオラは『現実にいそうなメイド』さんなのだ。

 カチューチャではなくフリルのついた白いキャップ。白と黒の王道なデザインながら替えが効くような、高貴なのに物珍しさを感じない素材でできたメイド服。それが今のファビオラの状態だ。

 

 かたやソヤは改造した独自のシスター服は打って変わり、それこそエルガノが着てるような物と同様になっている。風変わりな猫耳みたいな帽子も大人しい物になっている。

 

 これがフレイムの言っていた「本来ならこの世界に適した服に置換される」という物だろうか……。だとしたら、なんで俺だけ全裸だったのか。昔のテレビにありがちな大人の都合的なサービスシーンな理由か?

 

「…………髪色とかはそっちの服が変わってるの一緒ってことで受け入れといてください」

 

 だとしても、こっちが全裸で来たことを察せられるわけにはいかない。ここは上手く相手の事情に便乗してやり過ごすとしよう。

 

「あぁ……わかりましたわ(全裸でしたのね……)」

 

「なにその意味ありげな言い方」

 

「いえ特には。流石にそういうことでしたら、今は受け入れておきますわ」

 

「ありがとう。それよりギンとバイジュウは……?」

 

「見てないかな。それはソヤも一緒でしょ?」

 

「ええ……近くにそれっぽい臭いもありませんし……」

 

「そうか。それよりもソヤ、実は……」

 

 合流がてら俺はソヤにエルガノがこの世界にいることを伝えた。

 

「……そう、ですの」

 

「会いたい? 場所なら案内できるけど」

 

「……どっちとも言えない。会いたいけど会いたくない……それが嘘偽りない私の本心です」

 

 ——瞬間、いつも以上に幼さを感じさせるソヤの一面を見た。どこか『人形』じみたような……言うことを聞くしかない無力な子供の一面を。

 

「……私らしくありませんでしたわね! ですが、本心は本心! エルガノと私は……あの一件で決別したこと自体に間違っていないと言っておきますわ!」

 

 あまりにも分かりやすい見栄だ。ソヤはいくら魔女としての才能や並はずれた精神力の持ち主とはいえ、その根本自体は年相応の女の子だ。俺よりも小さい女の子だ。

 

 ……エルガノに会いたいに決まってる。義理でも、どんな境遇だったとしても、あの一件までは母代わりとして一緒にいたんだ。

 俺だって親に会いたい気持ちは一緒だ。だからニャルラトホテプに囚われた時の夢で親といる健やかな日常を無意識的に求めて反映されたんだ。それだけ親の存在という物は大きい。

 

「じゃあ、後悔はしてる?」

 

「……その言い方は卑怯ですわ。なんであれ人の命を道連れにしたことに後悔がないわけがありませんわ」

 

 自分でもちょっとズルい提案だってのは分かってる。でもソヤに僅かでも会いたいという気持ちがあるなら会わせてやりたいのも本音だ。

 だからこういうマリルみたいに卑怯で捻くれた質問をしてソヤの真意を問おうとする。俺にはソヤやエミリオみたいに心を読む手段がないから。言葉にしなければ何も分からないから、素直にソヤの気持ちが聞きたい。

 

「じゃあ懺悔にし行く? 義母と義娘じゃなくて、迷える子羊としてシスターに……」

 

「……面白い考えですわね」

 

 ソヤは悪戯でも思いついた子供のように笑みを浮かべた。

 

「確かにそれなら堂々とどの面下げて会いに来てるんだ、という口実はできますわ。懺悔の内容はどうしましょうか……」

 

 ケラケラといつもみたいな表情で笑うソヤを見て、俺は安心してしまう。

 

「んじゃ、ここでの方針はそういう感じでいいの? 私的にはそんな悠長なことをしてる暇なんてないと思うんだけど……」

 

「確かに暇はない。だからこそ最短で真っ直ぐに解決するために、エルガノと一度は踏ん切りをつけるべきだと思うんだ」

 

 何故ならエルガノはここに来た年月が俺達よりも遥かに長く、この世界の事情や文化にも精通しているということ——。

 レン高原で出現した『ムーンビースト』は『SD事件』で対峙したニャルラトホテプと深い関係があるに違いないということ——。

 

 だとすれば一度エルガノがいる教会に戻るのは愚策ではない。

 あくまでソヤとエルガノが合うのはついで感覚だ。そのついでが思いもよらぬ実を結ぶ可能性があるとすれば、対面する価値は多いはあるだろう。そこに私情が混ざろうとも。

 

「……アンタ、そういう部分マリル長官に似てきたんじゃない?」

 

 そのことを伝え終えると。ファビオラは呆れながらも了承を意味する笑い方をした。

 

「ところでさっきから気になってんだけど、アンタの隣に浮いてる女は誰なの?」

 

「ああ。紹介を忘れたね、この子はフレイム……って!?」

 

 見えてんの!? ファビオラにはフレイムのことが見えてるの!?

 シンチェンがマサダに入国した時みたいに、知らない間に姿が見えるようになったのか!?

 

「ね、ねぇ! ソヤは見えてる!? フレイムのこと!?」

 

「いえ……何かそこに大きなエネルギーみたいなボヤッとした輪郭が見えるだけで、ファビオラさんが言うような『女性』としての形は見えませんわ」

 

「じゃあファビオラはどんな風に見えてる!?」

 

「ハッキリと見えてる。燃えるような赤い髪の女がね」

 

 

 

 ——そういえば、こんな状況が前にもあった。

 

 それは『OS事件』でハイイーを拾った時の一幕。バイジュウがハイイーが溢した異質物に触らずとも認識していた。

 

 これは偶然なのか? それとも理由があるのか?

 

 だったら、どこにバイジュウとファビオラに共通点があるというんだ——?

 

 

 

『……あぁ、そういうことか』

 

 するとフレイムは出荷される家畜でも見るような哀れみと悲しみを帯びた瞳で言葉を吐いた。

 

「……何か知ってるのか?」

 

『それを知るのはもう少し後、積もる話だから……って勿体ぶっても問いただしたいんでしょう?』

 

「当然だろ! ハイイーの時とは違って、フレイムは事情を知ってるんだろう! だったら……」

 

『そりゃ『守護者』だからよ。そのファビオラって子も』

 

 

 

 

 

 ——は? いったい何を言ってるんだ?

 

 

 

 

 

 そんな空気が周囲を包み込んだ。

 だって『守護者』はハインリッヒとギンのことではないのか? 『因果の狭間』で悠久の時に閉じ込められた囚人のことだ。それは間違いないはず。

 

 だとしたら何故ファビオラは『守護者』と扱われるんだ——。

 ファビオラは一度だって『因果の狭間』に囚われてないというのに——。

 

 

『正確には『守護者』は襲名でしかないんだけどね。もっと正確に言うなら『従者』とか『信仰者』とか『狂信者』とか……あるいは『捕食者』や『侵略者』とかもある。そういう仕えるべき主人に近しい力を宿した魔女の中でも異端な力を持った魔女が『それ』に値するの』

 

「『それ』に値するものが……『守護者』?」

 

『そしてその従者にはある共通点が生まれる。一つは明確な『属性』を持つこと。五行や錬金術で言うところの『火、水、風、土、エーテル』の属性を。そして仕えるべき主人を『認識できる』というものが』

 

 

 

 ——仕えるべき主人を認識できる。

 

 それは俺にとって嫌でも想像してしまう結論が浮かんだ。

 

 

 

「じゃ、じゃあバイジュウがハイイーを異質物を通さずに見れたのは……っ!」

 

『ええ。そのバイジュウって子も『守護者』よ。司る属性は『水』で、それに値するのが『海伊(ハイイー)』——。それはサモントンにあったデックス博士の記録から知ってるでしょ?』

 

 

 

 なんてことだ——。

 だとしたら——シンチェン達は俺たちにとって——。

 

 

「じゃあ……シンチェンやハイイーは『守護者』を傀儡とする……あのヨグ何とかとか、ニャルラトホテプと同じ存在だってのかよ!?」

 

『ええ。私もシンチェンもハイイーも、根本的な部分はアイツらと同じよ』

 

 

 

 そんなことがあってたまるか——。そうであってたまるか——。

 俺たちと、シンチェンが実は『敵』かもしれないなんて——。

 

 

 

『何か見当違いな考え方をしてるから訂正させてもらうわ。確かに私たち姉妹はニャルラトホテプと同じような存在よ。でも、その在り方自体は多少の差異はある。それこそコインの表と裏みたいに』

 

「それを信じられる証拠とかは?」

 

『あるけどないよ。それを認識した瞬間、頭が沸騰してパンッ! と破裂しちゃってもいいなら証明するけど』

 

 少し馬鹿にするような、もしくは人をおちょくるような態度でフレイムはそう口にする。

 

『だから例え話をさせてもらう。あなたは『火』が良いものと悪いもの——どっちだと思う?』

 

 火が良いものか悪いものか——?

 

 質問の問答が見えない。けれどファビオラはその答えをすぐに察したのだろう。一人で納得して「そういうことならどっちとも言えないのか」と溢すと、俺は「どういう意味?」と咄嗟にその意味を問いた。

 

「簡単なことよ。『火』は焼くことができる。人を焼くことも、家を焼くことも。これは悪いことでしょ?」

 

「うん」

 

「でも『火』は料理とかでも使うでしょ? 魚を焼けるし、ゴミも焼ける。これは悪いことかな?」

 

「いや……良いことでしょ?」

 

「残念だけど、どっちとも言えない。確かに『人間にとっては良いこと』よ。けれど生命を奪われた魚や、ゴミという住処を追われたコバエからすれば『悪いこと』でしょ? 逆もそうで『人間の社会がなくなる』という自然に生きる生物にとっては『良いこと』なのよ」

 

『そういうこと。だから私達を『良い』と『悪い』を決めるのはレンくんの主観次第ってこと。だからどうする? 今ここで切り捨てるか、もっと深い真実を求めて私たち姉妹やニャルラトホテプについて知りたいと思うか』

 

 俺次第——。

 

『選ぶのはレンくん次第よ。好きにしなさい』

 

「……馬鹿にしやがって」

 

 

 

 そんな問いを投げられても俺の答えは一つしかない。一つしか選べない。

 まだ何も知らない無知な自分。ニャルラトホテプとかの超常的な存在に詳細を知る者なんてカケラほどおらず、その人達ですら断片的な憶測でしか語れない存在。それがニャルラトホテプであり、同時にシンチェン達でもある。

 

 そしてそれらは異質物や魔導書を媒体にし出現し、同時のその異質物や魔導書が『魔女』を生む力となっている。それらの詳しい関係については俺たちは何も知らない。

 

 そんな状況なら——選べるような選択肢さえないじゃないか。

 

 

 

「好きにしろとか言って、選ぶのは俺だとか言って……。だけど俺はお前に頼るしかないんだろ! ここで切り捨てたらこの世界のことも、魔女のことも、異質物のことも! 全部全部何も知れなくなるんじゃないか!」

 

『そういうこと。んで、それは積もる話だから、詳しいことが『ドリームランド』を抜けてから。それまでは停戦協定を結びましょう、レンくん?』

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