『ノーデンス』——その名前に聞き覚えがあるか言われたら、俺は『ある』と応えられる。
ノーデンス(あるいは『ノドンス』)は、かの英雄が聖杯を求めて戦うことで有名な『クー・フーリン』や『スカアハ』(もしくは『スカサハ』)の原典である『ケルト神話』に出てくる医療の神様だ。
神様なんだから実在したかどうかの信頼性については意味などない。けれどリドニー公園で『ノドンス寺院跡地』という場所から石碑みたいな物が見つかったことから、歴史的には信仰されていたという事実そのものがある。
——だから、逆に言えばそれだけだ。それだけしかノドンスという曖昧で、信仰だけが証明できるという余りにも薄い存在はドリームランドという地において確かに存在している。
——『神様』が目の前に存在する?
冗談だと笑い飛ばすことはできない。だって海を裂いて姿を見せ、地球上の生物とは思えない何かに乗っているのだ。それだけでも得体が知れないというのに、その人間離れした風態がより一層神様だと認識する。
大きさ自体は成人男性より少し大きいぐらいだが、その逞しい髭とは合わないボディビルダーも裸足で逃げ出す人間離れした屈強で完璧で無駄のない肉体美は神話に出てくるゼウスやヘラクレスみたいにも見えてしまう。
直感が告げるのだ。こいつは本当に間違いなく『神様』であると。今俺たちの目の前で神様が存在していて、確かに俺達を視界に収めていると。
……ラファエルが神様が実在することを知ったら卒倒しそうだな。
『不敬な思考を感じたぞ、そこの黒と赤髪の女』
思考が読めるのか……すごい……。
『だが寛大な慈悲を持って不敬を許す。我は貴様らに罰を下すほどの時間はない。早々にこの世界から去るがいい』
『あら、ノーデンスともあろうものが急用? よっぽどのことがあったみたいね』
『白々しいぞ、フレイム。お前なら知っているはずだ』
『生憎と『今の私』は知らないわよ。だって私はフレイム……外宇宙にいる『赤羽』とは違うただの端末だもの。それぐらいなら知ってるはずよね、ノーデンス?』
なんて強気な言い方なんだろう。神様相手でも怯みはしない。まるで自分は『格上』だと言わんばかりに挑発的で威圧的だ。
それがノーデンスの逆鱗でも撫でたのだろう。その手にある手綱を力強く握りしめると『それ以上は不遜とみなす』と警告をこぼした。
『それに生き遅れのおじいちゃんに担がせる神輿もないのよ。いくら人間より強かろうと、私たち『情報生命体』という名の外宇宙の存在に対抗できるとでも?』
『口にせねば分からぬほどに俗世に染まったか』
『口だけは達者ね、敗者の癖に。よっぽど追いやられたのが気に食わないと見えるけど? ケルト神話の神様気取りさん』
『よかろう。あの『這い寄る混沌』を討つ前に、貴様から屠るとしよう』
一触即発だ。空気が重くなるのが肌身で感じてしまう。
それは臭いで感情が分かるソヤも同じだろう。刺激臭でも嗅いだかのように鼻に皺を寄せて見守っている。
そんな中、ファビオラだけは苦笑いをしていた。まるで悪戯でもしたスクルドを見るかのように生暖かい目つきで。この後どうなるかが分かっているかのように。
『まあ私たちの目的が、そのニャルラトホテプの打倒だと言ったらどうする?』
『……なんだと?』
『詳しいことは、さっきの黒と赤髪の子に話しなさいな』
……心臓に悪すぎるっ!! なんなんだよ、今までのやりとりは!?
というかここで俺に振るなよ!? 言葉を慎んでもエラい目に合うかも知れない状況下で!? 安全第一の冷たい世の中で育った現代っ子なんだから!
「あっと……えっと……その、どうも」
『……本当にこいつが『無貌なるもの』を打倒するのか?』
『大マジ。だってその子、あの『聖杯』を宿した子だよ?』
その言葉にノーデンスは初めて驚きの表情を見せた。
「あの……『聖杯』とは?」
『知らないなら説明してやろう。聖杯とは、貴殿の歴史に存在するキリストと呼ばれる——』
『ダメだよおじいちゃん。その子は馬鹿だから分かりやすく言わないと』
悪かったな、頭悪くて! それにノーデンスも歳の離れた若者と相手するアラフォーみたいの『そうなのか』と納得するな!
『ノーデンスや私が言ってる『聖杯』ってのは、レンちゃんでいうところの『ロス・ゴールド』のことを言ってるの』
……おっと。予想外なところで『ロス・ゴールド』という言葉が出てきてしまった。
けれどさほど驚きはしない。正直見た目が黄金の杯だから、見た当初からそれっぽいとか感じてはいたし。
だけどなんで今更『ロス・ゴールド』の話が出てくるんだ?
『なるほど……『聖杯』の担い手とはな……』
値踏みでもするかのような視線がノーデンスから向けられる。さながら気持ちは視感的セクハラをされるOLと上司の気分。頼むからそんなジロジロ見ないでください。
『……よかろう、其方たちの滞在を許そう。目的も気になるところだしな』
「話せば分かるおじさまで助かりましたわ〜〜♪」
『それに人間と接するのも久方ぶりだ。ちょっぴりワクワクしてもいる』
意外と俗っぽいところあるな、神様。
だいぶ前に取り調べした時に思ったけど、スターダストやオーシャン、それにセラエノとかのそういう類は俗物じゃないといけないルールでもあるのか?
『神秘が消えてから数百年……戯れに覚醒の世界に赴いては畏怖されてはこちらも気乗りはせん。こうやって対等に近い関係で話せるのは、一時の戯れとしては刺激的で良い』
『だから最初にガス抜きさせてあげたでしょ。威厳たっぷりに神性同士での罵り合いも久しぶりでしょ?』
『うむ。実に充実した時間であった』
じゃあさっきまでのは、ただの神様的な『愚痴』とストレス発散ってことかよ!? 神様も随分アレだな!?
「でもある意味神様に違いないわね。そういうどこか自分勝手なところというか、自分本位の部分は伝承通りだわ」
「どういうことでしょうか、ファビオラさんや?」
「神様って自己中で自分勝手ってこと。かの有名なゼウスだって浮気しまくるし、インド神話のシヴァは息子のガネーシャの首を吹き飛ばしたくせに、そこらにいた象の頭乗せてひと段落させるような連中なの」
前者はベアトリーチェがブチギレるし、後者はただのサイコパスでは?
『ははっ。私はそんなことはせんよ』
『そうそう。ただ気に入った人間がいたら、銀河系の果てに連れて行く程度の気さくなおじさまよ』
山に子供を捨てるくらいの重罪だよ!!
『それでは話を戻そう。少女達よ、まずは名前を聞かせてもらうか』
「お、俺はレンですっ」
「ソヤですわ」
「ファビオラ」
『アンタなら見れば分かるけど、ファビオラと私はそういう関係ね』
それだけだと何か如何わしい関係に聞こえるんだけど。
「レンさんが助平なだけだと思いますわ」
はい、いつも通りに心の中を読むのありがとうございます。
「我はノーデンス。これで互いの名を結ぶ契りは成立した。であれば次は目的を述べてもらおう」
そう言われたらこちらも説明するしかない。
俺達はこの世界に来てしまった経緯と当面の目的をノーデンスへと伝える。細かい部分についてはフレイムが補足してくれたおかげで会話自体はスムーズに進んだが、それでも体感時間としては1時間近くかかったと思う。
おかげである程度はこちらの事情をノーデンスは理解してくれた。俺達がニャルラトホテプを打倒する理由や、そのためには何が必要なのかも。
その間も船はノーデンスのよく分からない海洋生物と共に大海原を渡っていく。すると目的地となる『セレファイス』らしき都市が見えてきた。
そこは遠目から見ても発展してると分かるくらいに壮大な都市だった。映像資料とかで見たことあるが、ラスベガスのカジノがある場所みたいに夜に包まれた世界を様々な光明が色付ける。
光明の中には『ダレカの伝説 プレス・オブ・ザ・ワイド』に出てくるかのような高い塔が数百本も存在していて、さながら新豊州の商業区にも似た感じだ。
「あれが『セレファイス』でしょうか?」
『ああ、あれは『セレファイス』だ』
音声認識AIみたいなシンプルで淡白な返しだが、現地人(現地神?)であるノーデンス直々に確証を貰えて安心だ。
手際よく舵を操作するも、どこぞのグランドでセフトでマニュアルなゲームみたいに雑に船頭を船着場にゴツンと当てて足速に上陸した。
「うおっ……こうして間近に見てみると近未来感じる……!!」
「はぁ〜〜♡ ここには不思議で素敵で不適で不可思議な匂いがします〜〜♡」
上陸した瞬間、目にしたのはまさに『夢の世界』と言わんばかりに豪華絢爛な光と闇のグラデーションで彩られた街並みが広がっていた。
そこには見渡す限りの人、人、人。歩行者天国も顔負けの三密どころじゃない人集りは、ここにいるだけで酸欠になるんじゃないかと思ってしまうほどだ。
右見ても左見ても前見ても景色は様変わりしない。まるで時が止まっているかのように道も塔も綻びや摩耗や損傷がなく、コピペでもしたように平等で均一に綺麗なままだ。
それら全ては塔、光、人集りの3種で形容できてしまい、あまりにも様変わりがないので方向と平衡感覚が不安定になる。
『ここがセレファイス……夢なのに眠らない都市。時間の忘れ物となった場所よ』
「時間の忘れ物……?」
『文字通りの意味。ここではありとあらゆる物質は朽ちることはない。物体は時によって廃れることもなく、生命は不老不死を会得する。そういう都市なの、セレファイスは』
淡々とフレイムは告げていくが、その内容に思わず背筋がゾワッとした。恐怖と違和感によって。
廃れないとか不老不死というが、それは時が流れないからこそだ。つまりここでは成長がないということである。子供は子供のままというのは、酷く残酷なことでありそれが恐怖へと昇華する。
けれど問題は違和感のほうだ。成長がないなら、なぜセレファイスはここまで『発展』している? 発展というのは技術の進歩だ。それは『進化』や『成長』を意味しており、時が止まっていては決して成せないものだ。
それが感じた違和感——。ここセレファイスは、どこか根本的な部分で人間の感性とは相容れないものが渦巻いていた。
『驚くのはまだ早い。空を見てみるといい』
「空を?」
ノーデンスに言われて空を見上げてみると、脳が萎縮するのが分かるほどに衝撃を受けた。
浮いている——。『都市が浮いている』のだ——。
セレファイスの上空にある雲海。その雲を越えた先に、今にも落ちてきそうな隕石のようにドデカイ岩の塊があり、そこにはセレファイスと同等に発展した都市があったのだ。
そして——空中都市とセレファイスを繋ぐであろう『黄金色の空飛ぶ船』も見えた。
『あれは『ガレー船』といい、天空に浮かぶ『セラニアン』と地上で輝くセレファイスを繋ぐ渡航手段だ』
天空に浮かんでいる都市は『セラニアン』——。そこに渡るための空飛び船である『ガレー船』——。
本当にあった。こんな簡単に求めていた飛行船を目にすることができた。
だったら次に考えることは決まっている。あのガレー船をどうやって手に入れるかだ。あれさえ手に入れれば、ここで活動できる範囲は飛躍的に高まる。
それこそ当面の目的である『カダス』にだって行くことが——。
「問題はどうやって確保するかね。それに武器の調達もしないと……」
『この都市は様々な種族が入り混じることで技術が混沌としている。お前らが欲する武器とはなんだ?』
「私はチェーンソーが欲しいですわ」
「私は単純に質量兵器ね。レンもソヤも多数を相手にするには向かないから」
ソヤとファビオラの返答にノーデンスは『ふむ』髭を撫でながら考える。暫時、思考を続けるとノーデンスは『ならば』と一言おいて話を始めた。
『少々危険ではあるが『ミ=ゴ』や『イス人』などの技術に頼るのも手だな。かの種族は個体としての強さよりも、群体として誰でも使える強さを伸ばした過去がある』
「人間の歴史と似た感じね。武器としてはどんなのがあるの?」
『色々とある。銃と呼ぶものもあれば、特殊な鎧を身に纏うのもあったりと我でも全貌は掴めない』
うーん、多様性に溢れてるせいで逆に選べない的な感じに聞こえる。というか鎧もあるとか、本格的にRPGみたいになってきたな。
「でしたらここは一先ず散り散りになります? 各々が求めてるもの物は細かいところだと違いますし」
「それだと金銭的な行いはどうするんだよ? ここでのコミュニケーションと金銭管理はソヤ任せになってるだぞ?」
『それは我が全部行ってやろう。好きなだけ買うといい』
太っ腹で協力的なノーデンス様、素敵だっ!
『それに私もいるしねぇ〜〜。会話はできないけど、ジェスチャーの補助くらいはしてあげる』
「じゃあ、そういうことなら……って、それでもノーデンスは一人しかいないんだから散り散りになることはできなくね?」
『呼べば駆けつけよう。すでに契約はしているのだから』
名前を呼び合っただけで契約成立とか悪徳業者もビックリのスピードだ。
「それじゃあ改めて一旦解散!」
「私はチェーンソー以上のスプラッターを求めて!」
「私は銃火器とかそういう類を求めて」
「俺はガレー船を手に入れるための情報収集! 連絡は……ってないか」
そういえばここに来る時に全裸になったからクラウディアの鏡をなくしたんだった。これじゃあ連絡する手段がない。
まあ、だったら連絡する無線機みたいなのも探すとしよう。銃とか特殊な鎧があるというのなら、なんか良い感じに使いやすいのもあるに違いない。この際ポケベルでもいい。
しかし……ここにいないギンとクラウディアは大丈夫だろうか。クラウディアはまだ大丈夫だろうけど、ギンだけは『華雲宮城』にあるフリーメイソン支部という敵陣の只中にいるのだから。
…………
……
一方その頃、ギンは麒麟との手負いの戦いを繰り広げていた。
互いにハンデというのは重すぎる負傷がある。
ギンは覚醒の世界に留まるために腹部に小刀を深く差し込み、今もその痛みと流血に耐えている。
麒麟は自身が利用していた異質物武器である『陰陽五行』によって身体の隅々までボロボロになっている。
形勢としては負傷前と同じく五分五分だ。少しの差で拮抗した実力勝負は容易く傾いてしまう。
——そして、その『少しの差』は麒麟の方へと味方をした。
「眠りについた少女を守りながら、どこまで私と肉薄できる?」
その少しの差は、ドリームランドへと意識が落ちたことで睡眠状態となっているレン自身であった。
先の戦いではバイジュウに組織的な価値があったから手出しをしなかったが、現在は手頃な足手纏いにレンがいる。
となれば必然的にギンはレンを守りながらの戦いを余儀なくされる。ギンほどの技量なら居合の間合いの範囲内であれば、レンを守ること自体はできる。
だがそれは耐久比べにしかならない。ここは敵地で、しかもギンは手負いの状態だ。時間を掛ければ掛けるほどに打開ができないほどに状況は悪化していくため、ギンは必然的に攻めに転じなければならない。
もちろん、その隙を麒麟は見逃すはずがない。攻めと守りに転じる時に生じるほんの少しの揺らぎを的確に突いて、自身が最も得意とする異質物武器『斉天大聖の棍棒』こと『如意棒』を使った棍術で少しずつギンの身体にダメージを蓄積させていく。
——どうやってこの状況を覆せばいい。思考するギンの頭に、クラウディアの声が突如として響いた。
『ギン! 今すぐ手鏡を割って投げて!』
「藪から棒にどうした? 戯れをするほど爺に余裕はないぞ」
『いいから早く!』
そう言われたら信じるしかない。ギンは懐の手鏡を粉々に砕き、破片となったガラスを空中へと投げ捨てる。
光沢を持った雨となって麒麟へと降り注ぐが、手鏡程度の面積では破片の枚数も少なく悪あがきにもなりはしない。
余裕綽々といった顔持ちで麒麟は、隙とも呼べない最小限の動きで破片をかわすと、そのままギンへと反撃をしようとし——。
「っ!?」
直後、その頬を『下から上へと移動するガラス片』が掠めた。
意識外からの奇襲——。鏡の中から、より小さな鏡の破片が弾丸のように麒麟に目がけて無数に襲いかかってきたのだ。
それはクラウディアの『鏡を通すことで物を運搬できる能力』を使った射程無制限の遠距離攻撃。
ガラスを通してさらなるガラスを呼び出し、そのガラスが再び次のガラスを呼ぶという、能力を最大限活用した非戦闘要員であるクラウディアが打てる最高の攻撃手段。
威力自体はガラス片が刺さる程度で決して高くはない。けれどそれが目などの外部に露出する器官に命中すればひと溜まりもない。一瞬で視覚は奪われてしまう。
その奇襲を麒麟は危険視しないわけがない。そしてその攻撃の弱点を瞬時に見抜いた。だったら対策するのは必然だ。
麒麟は即座に襲い掛かるすべての『鏡を粉々にした』のだ。文字通りに粉微塵になるような微細ながらも大体な力加減で、丁寧に一枚ずつ一撃で手際よく破壊していく。
一見すれば相手の能力を助長させる行為にしか見えない。だがクラウディアにとって、それは非常に困ることであった。
能力で運べる物はガラスの表面積に依存している。大きければ大きいほど運べる物の自由度が上がる。逆に言えば小さくなればなるほどに自由度が下がってしまうのだ。
それこそ『粉々になったガラス』では、運べるのも当然『粉ほどの小さい物』しか運べなくなる。それでは次のガラス片を運ぶことができない。
となればクラウディアに打つ手はない。ギンの手助けをすることができない。起死回生の一手になるかもしれない行動は容易く麒麟は打ち砕いてくれた。
『——なんて青いこと考えてるんでしょうね』
雨のように降り注ぐ粉となったガラス。そこにクラウディアは『本当の打開策』を見出した一手を繰り出す。
はなからガラス片で目潰ししようなんて、できたらいいな程度の希望でしかない。仮にそれで視界を潰せたとしてもギンと同等の実力を持つ麒麟ならば、周囲の気配を機敏に反応して迎撃に回るだろう。それでは状況を打開することはできない。
ならどうする? そんなことなど既に決まっている。
何も視界を奪うなら目を潰す必要はない。要は『認識を騙せればいい』のだ。
視界とは光と密接に関係している。そして光は色とも関係している。いつかの事件でマリルがレンに話していたことだ。
ならば視覚に干渉するのに直接的である必要はない。『光』を利用して間接的に奪えばいいのだ。
「なっ……! いきなり目が……っ!?」
直後、空間から光が放たれる。粉となったガラスを通してクラウディアは単純な光量を照射したのだ。
これこそがクラウディアの目的。『光の全方位射出』——。
力とは使いようだ。ただの100均にでも売ってそうな小さなライトでも鏡を重ねれば眩まし程度の光量には到達できる。
「だが、これで私を不意打ちしようとしても……っ!!」
「分かってるわ。だからこうする——」
それだけをギンは告げると、周囲の気配が忽然として静かになるのを麒麟は感じとった。
視界が晴れて麒麟は周囲の確認を急ぐ。そこには何もいなかった。今まで居たはずのギンも、レンも、バイジュウさえも消えていた。それを意味するのは一つ。
——逃げたのだ。ギンはレンとバイジュウを抱えて逃げ出したのだ。