魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第11節 〜11逡ェ逶ョ(■■■■)〜

「それで他に聞きたいことはある?」

 

 衝撃の真実を突きつけられようとも、スクルドの足と声は止まることはない。むしろ時間がないと急かすかのように足を早めて、ヒールが叩く音のリズムを刻んでいく。

 

 ……頭が混乱しかない。それでも思考を止めることは許されない。スクルドが今すぐにでも敵に回るかもしれない危険がある以上、できる限り情報を得るしかないんだ。

 

「だったら……シンチェン達の目的はなんなんだよ?」

 

「その質問はガッカリかな、レンお姉ちゃん。ねぇ、火の情報生命体さん?」

 

『……ええ。虚なる象徴である私達の目的は『生まれること自体』が目的なのよ。生まれ落ち、中立を維持して情報と共に世界を見守る……それ以上の役割も定めもない』

 

「というわけ。生存本能である以上は誰にもそのあり方を咎めることも収めることもできない。これがレンお姉ちゃんの質問に対する答え」

 

「だったら私からも質問を、お嬢様」

 

「遠慮なく言っていいよ。それに今の貴方は『私』との主従関係なんてないから固くなる必要もないよ」

 

「いえ。いついかなる時でもスクルドお嬢様に仕えるのがファビオラの使命です。この礼節は貫き通します」

 

「そういうところ律儀なんだから」とスクルドは相変わらずと言わんばかりの含みのある笑いをこぼす。

 

「ダアトには隠されし『11番目』があるはずです。契約者がそのダアトと紐付けられるとすれば……セフィロトとクリフォトにおける『11番目の契約者』と、それに仕える情報生命体と属性はどうなってるんです?」

 

「分かるけど、分からないって言うよ。だって、どっちがどっちとか知らないし知りたくもないから」

 

「それは……どう、いう……」

 

 そこでファビオラの口が言い淀んだ。スクルドの言葉が意味することを理解してしまったかのように。

 

「レンお姉ちゃん、もう一度言うね。契約者は皆、時間・空間から隔絶された存在なの。それは11番目も例外じゃないんだ」

 

「11番目も例外じゃない……」

 

「けれど11番目には該当とする『属性がない』んだよ。『虚無』という属性ではなく、すべてがあるようなないような……あえて言うなら『原初』とか『始原』とか『混沌』とかが近いけど……本当の意味で『無』という概念はここにしかない」

 

 スケールが広すぎてイメージだけでも全貌を掴もうとするも掴めない。

 何せゲームでそういう概念は存在することは知っていても描写としては作品ごとによって異なってしまう。それを現実に落とし込もうとするなんて土台無理な話なのだ。

 

 そんな眉間に皺を寄せながら思考する俺に、スクルドは少しだけはにかみながら「難しい話だったよね」と言って話を変えてくれた。

 

「重要なのは属性じゃなくて11番目の契約者でしょ? そして時間・空間から隔絶されるのが契約者という存在。そしてこの契約者は私みたいにバグが存在する。『並行世界の住人』さえも取り込んでも許容するように」

 

「並行世界の住人……」

 

 何かを悟らせるような物言いに思考が鮮明に走る。

 だけど並行世界の住人なんて多くは存在しないだろう。それこそ今目の前にいる『違う未来のスクルド』と……。

 

「ぁ……っ」

 

 

 

 …………

 ……

 

「『ロス・ゴールド』の一件で、世界は二つに分かれた。変革した世界と、変革しなかった世界……そこで取り残されて生き延びたのが俺……運命を先伸ばした結果、運命に殺された男さ」

 

 ……

 …………

 

 

 

 ——アレンくらいしか。

 

 

 

「そういうことなんだよ。11番目のダアトに選ばれたのはレンお姉ちゃんと、あの人のこと。」

 

「俺が……契約者だって……?」

 

 そんなこと微塵も考えたことなかった。だって俺自身が『因果の狭間』に囚われたことなんてなかったから。

 

「そんなわけあるもんかっ! 確かに俺は……ちょっと事情があって女の子になっちゃったけど……それ以外はなんでもない普通の……比較的普通の……っ!」

 

「じゃあ何で『ファビオラの記憶』に介入できたのかな? それと『女の子』であることに何の関係性があるの?」

 

「そ、れは……」

 

「ファビオラの記憶に介入できたのは『ロス・ゴールド』の影響で女の子になったレンお姉ちゃんとしての力じゃない。契約者としての力の断片である『時間・空間の隔絶』による物……私と同じように一種のバグによる物なんだよ」

 

 突きつけられた真実に混乱が止まらない。頭の中で情報のパズルが組み上がっていくが、それは三次元パズルや知恵の輪のように入り組んでいて、成立はするのに納得することができない感じにも似ている。

 

 それでも思考を止めることだけは許されない。この問答は時間制限付きなのだから。だから混乱していようとも、疑問は浮かんだらすぐにぶつけるしかないんだ。

 

「じゃあ、その『ロス・ゴールド』はどうなるんだよ!? スクルドだって知ってるだろ!? あの光景を!」

 

 ファビオラとソヤが「あの光景?」と口にするが、こればかりはマリルでさえも俺の言伝でしか知らない情報だ。

 これを本当の意味で知ってるのは体験した俺自身とアレン。そして自身の能力で予知していたスクルドと、あの『観星台』で出会ったグレイスと片手で数えられるほどに少ない。

 

 この事は客観的な情報の信頼性が薄く混乱の元になるという意味もあるが、SIDが誇る機密情報の中でも特に厳重にされてるものだ。二人が知らないのは当然だと言える。

 

 だけど状況が状況だ。秘匿するだけ時間の無駄だ。後でいくらでもマリルに怒られてやる。だから今は、今だけは思う存分漏洩させてもらう。

 

「俺はあの時、願った! 夢であってほしいって! そしたらロス・ゴールドが輝いて……目が覚めたら、あの地獄の光景は無くなって俺は女の子になっていた!」

 

「……マジで言ってる?」

 

「……ほー? ほーほー? あー♡ ほー♡」

 

 そこの発情期の猫(ソヤ)さんや。今はそういうのいらない。ファビオラぐらいのマイルドな反応でいい。

 

「これをどう説明するんだよ、スクルド!」

 

「……説明してもいいけど、ちょっと恥ずかしいんだけど」

 

 え? 今シリアスしてたよね? なんで恥ずかしいとかの話が出てくるの?

 スクルドが「こういうのはまだ早いんだけどなぁ」というと途端に場の雰囲気が一変した。具体的にはなんか……夕飯時の番組とかで際どいシーンを見てしまったかのような気まずさにも似た雰囲気が。

 

「ねぇ。レンお姉ちゃんはロス・ゴールド……『聖杯』についてはどれくらい知ってる?」

 

「聖杯について? 英雄が求めて戦うとしか……」

 

「うん、全く頼りにならないね♪」

 

 悪かったな。アニメとかゲーム好きなだけで歴史に疎くて。

 

「聖杯というのはイエス・キリストの晩餐で使用された杯のこと。彼は「これは私の血である」と言って、自分の弟子に聖杯に注がれた液体を飲ませたの」

 

「……猟奇的だな。かの偉人であっても」

 

「私から補足しておきますと、キリストが与えたのは赤ワインですわ。あくまで比喩表現なので……」

 

 あっ、なるほど……。

 

「……ああ、確かにこれはセンシティブですわね」

 

 そしてソヤはスクルドがこれから何を話すかを理解して、若干顔を紅潮させながら、いつもみたいな「ふひひ」という助平を求める細い笑い声を漏らし始めた。

 

 なんだなんだ。聖杯というキリストについて関わった途端に察しやがって。元々は修道女だからって教えてくれよ。市民には知る権利があるんだぞ。

 

「しかしどうあれ聖杯はキリストにとって血という概念がある。それを宿したレンお姉ちゃんは、同時にキリストという命と存在を宿したとの同意義でもある」

 

「けれど生命の都合上、レンお姉ちゃんが宿すのは矛盾があるよねぇ」とスクルドは少し頬を赤らめながら話を続ける。

 

「つまりその……男性が赤ちゃんを宿すのは生物学的におかしいよね?」

 

「そりゃそう……って!?」

 

 流石にそこまで言われたら気づくぞ、俺でも!?

 

「うん。つまりレンお姉ちゃんは命を宿してるの。聖母マリアの処女懐胎と同様に」

 

「ぶーっ!?」

 

 実際に口にされると酸素を全部吐き出してドン引きしてしまうことしかできない。

 処女懐胎って難しい言葉にしてるけど……要は『妊娠』ってことだよね!!?

 

「え、キモいな!? ロス・ゴールド、キモいな!?」

 

 てかそういうのって大体10ヶ月くらいで……アレなんだろ!? 出てきちゃうもんじゃないの!? 

 保健体育で顔を赤くしながらも知ってるよ!? だって義務教育だもん!? 

 

 というか女の子になってから1年くらい経過してますよ、俺!?

 

「じゃあ、俺が女の子になったのってそういうこと!?」

 

「うん、まあそれが大元の原因ではあるね。けれど肉を宿す要素がないから産まれることはまずないんだけど」

 

 それはそういう意味では一安心するが……。一度思うと吐きそうになりそうになる。精神的な気持ち悪さのせいで。悪阻とかじゃなくて。決して悪阻という意味じゃなくて。

 

「とはいっても、それの影響でレンお姉ちゃんが能力を宿したのも事実。アニーやハインリッヒの解放、ベアトリーチェの新生、霧吟の魂を武器にしたりとか……」

 

「だからこそ、ファビオラの記憶に関してはおかしいってこと?」

 

「ってこと。だとすれば契約者なら、そういう記憶と記録の介入をすることはできることになるし」

 

「……そういえば『潘摩脳研』でバイジュウが同じようなことをしてたって報告してたわね」

 

 などとファビオラが漏らすが、俺からすれば何が何やら。華雲宮城に来る前にあった出来事の詳細なんて当人でしか知らないんだし。

 

「なによりも『あの地獄』から遡行してきたが——」

 

 瞬間、スクルドは何もないところで足がもつれて倒れ込んだ。

 

「大丈夫か、スクルド!?」

 

「……流石にそろそろ限界かも。自分の思うように身体が動かなくなってきた」

 

 その一言で察した。今までスクルドが無意味に動きながら喋っていたのは、感覚的に自分に残された時間を把握するためだということを。

 

「あと一つか二つで最後にしようか。簡単に説明できるものだと、なお良しなんだけど」

 

「だったら単純な質問。この世界から抜け出す方法は?」

 

「簡単だね。出口を見つけるか、それとも死ぬか。ここは精神を中心としてる世界だから、元の世界に戻ろうとするなら自殺でもどんな手段でも死ねば戻れるよ」

 

「まあその場合、精神的ダメージについては保証できないけど」とスクルドは気怠そうに付け加える。

 

「……じゃあ次。ニャルラトホテプの居場所は分かる?」

 

「分かるよ。月にいる。どこかで焼かれた傷を癒すためにね」

 

『クトゥグアの火なら、そりゃアイツでも休養は必要だよね……』

 

「クトゥグア?」

 

『私と同じ『火』の情報生命体の象徴。ミカエルが使っていた『パーペチュアル・フレイム』の大元よ』

 

 ああ、今はヴィラクスの側に置かれている剣のやつか……。

 

「待てっ!? 契約者はセフィロト、クリフォトで2人ずつ……合わせて4人しかいないんだろっ!?」

 

「今までの話を整理すると、そうなりますわね」

 

「だったらミカエルはなんで『火の魔法』を使えるんだよ!?」

 

 その言葉に一番驚いたのはスクルド自身だった。

 だって契約者の合計4人は既に判明している。ファビオラとスクルド、そしてフレイムと今はまだ姿を知らないが、シンチェンやハイイーと同じように子供の姿を模ったフレイムになるのだろう。

 

 それはスクルド自身が口にしたことだ。だからこそ彼女は困惑するしかないだろう。スクルドでもミカエルの存在は想定外であり、同時に例外でもあることを。

 

「ミカエルが『火の魔法』を……? あのデックスの次期党首が……!?」

 

 当然スクルドがそんなことを知るわけがない。『エクスロッド暗殺事件』から半年近く経ってからの知った出来事なのだから。

  

 スクルドが知れるのは、あくまで契約者や情報生命体まででしかない。だからこそミカエルの異様さが際立ってしまう。

 

 

 

 あの男——いったいどこで、その『クトゥグアの火』を手に入れたというのだ——?

 

 

 

 ……いや、そんなことは今は考えなくていい。時間がないのだから。スクルドは今すぐにでもヨグ=ソトースの命令で俺たちに攻撃するか分からないのだ。今は質問を続ける方が最優先だ。

 

 スクルドだってその事は理解している。ミカエルのことは一度置いておくと言うように頭を何度か振ると、深呼吸して「これで最後ね」と言って俺の言葉を促してくれた。

 

「なあ、スクルド」

 

「なに、レンお姉ちゃん?」

 

「どうして、この世界……ドリームランドは崩れているんだ?」

 

 それはガレー船で空を渡る時に見た光景のことだ。世界の端っこがおとぎ話のように非現実的に崩れ落ちており、そんなことが起きるなんて普通なら絶対に起こらないことだ。

 

 ならば理由と原因があるはずだ。でないと説明がつかないし、もしもこれが『時空位相波動』みたいに現実に侵食するとなれば……新豊州だけでなく学園都市全体があの危機に陥る可能性だって十二分にある。

 

 だとすれば知らないといけない。あれが危険なものなのかどうかも。あれがどういう意味を持っているかも。

 

「それこそがセフィロト側にいるヨグ=ソトースやニャルラトホテプが世界にとって味方と言える理由かな」

 

「味方……」

 

「うん。アイツらはそれを『覚醒』しないために動いてるの。生命は本来なら覚醒してることが通常の状態といえるんだけど……ある『奴』だけは眠りについていないといけない……」

 

 ある奴——。情報生命体とかそんな形容さえもできないほどの生命があるとでもいうのか。目覚めてしまうだけでドリームランドが崩れてしまうほどのやつが——。

 

 

 

「その名は——『■■■■■』——」

 

 

 

 その名を聞いた瞬間、今までとは比べ物にならない『言葉の厚み』と『情報』が脳髄に叩き込まれたのを理解した。

 

 これは知っちゃいけない。まだではなく、未来永劫知ってはいけない類の情報だ。この名前を認知、理解した瞬間に今までの話なんて鼻で笑ってしまうほどにくだらなくなるものだと確信してしまうほどに。

 

 

 

『■■■■■は、半分目覚めてる状態であると私は予測している』

 

「予測している……?」

 

「うん。こればかりは今の私でも測りきれない。となれば唯一そいつと繋がりを持てるニャルラトホテプの行動から推測するしかないからね」

 

「とどのつまり……」

 

「そこから先の真相を知りたいなら、否が応でもニャルラトホテプに会うしかないってこと♪」

 

「さて」とスクルドが呟くと、今までの雰囲気から一転してカラクリ人形が動き出したように手足をぎこちなくこちらへと向けてきた。

 その意味は明確だ。時間が来たという証。スクルドの瞳孔から少しずつ自我という名の光が消えていくのが、こちらから見て分かるほどに濁っていく。

 

「もう指先一つ、まともに動かせそうにないや」

 

「……ありがとう、スクルド。君のおかげで色々なことを知ることができた」

 

「どういたしまして。じゃあ、ファビオラ。しばらく私の相手をお願いするね♪」

 

「ええ、最初からそのつもりでしたから」

 

 ファビオラはスクルドの前に立って武器を構える。小銃からアサルトライフルっぽい形状までより取り見取りだ。あの都市で大分物色したことが窺える。

 

 呼応するようにスクルドも光の鍵を構え直し、その背中に神々しい翼を羽ばたかせた。

 さながらそれは伝承に出る『天使』そのものであり、今の彼女はどんな宝石や神話よりも美しく魅惑的だ——。

 

 その美しさと神秘はファビオラの敵となる。心境や立場や理由などはどうであれ、今は互いに倒さなければならない相手だ。その美しさに見惚れてる場合ではない。

 

「行きますよ、スクルドお嬢様——」

 

「言っておくけど、今の私は相当強いから気をつけてね♪」

 

 最初の不安なんて何のその。二人は初めての家族喧嘩でもするかのような微笑ましい雰囲気のまま、戦いの火蓋は切られた。

 

 これ以上は俺達が見る必要はない。ファビオラの戦いを背に俺達はカダスを後にする。

 船で見張り番をしていたノーデンスに事情を伝え、ガレー船を再び浮上させて空の海を駆けていく。

 

 

 

 視界の果て——。そこに映る崩れ落ちる世界の断片を見ながら俺は考える。

 

 世界を変貌させようとする『■■■■■』——。

 その存在を認知しているニャルラトホテプ——。

 

 思えばアイツは出会った当初から色々と不愉快だった。

 ウリエルの皮を被り、俺の皮を被り、サモントンを貶めたかと思えば、あのエクスロッド暗殺事件でヤコブを唆した人物もアイツときたもんだ。

 

 ここまでの事件での背景に、アイツはほとんど絡んできてくる。

 いくら世界の味方となる事情もあるとはいえ、アイツだけは許すわけにはいかない。なんであれ一発ぶん殴ってでも咎めなければいけない。

 

 

 

 さあ、目指すべきはアイツがいるという本丸の『月』だ——。

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