魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第12節 ~譎ゅ?鄙シ(■■■)~

 二人の戦いに言葉など不要だ——。

 

 先手必勝——。

 ファビオラは交戦と同時にスクルドに向けて弾丸を発砲した。

 

 ファビオラは事前に散策することで、この世界の技術水準がどれほどの物か調べてきており、結果だけ言えば『魔法がインフラに変換できる』ほどの物であることを突き止めている。

 故にここではライターや銃などといった科学技術が発展する必要がない。火が欲しいのなら火の魔法を使えばいいし、弾丸が欲しいならそこらの小石に魔力を付与して飛ばせばいいのだから。

 

 しかし、だからといって存在しないわけではない。現実の世界の技術を持ち込もうとした物好きな住人でもいたのか、仕組みが似た銃などは見つけることができた。

 問題は銃だけでは機能しないということ。銃を使用するには『弾丸』が必要となる。その弾丸をファビオラはセレファイスで見つけ出した——というより、技術と技術と組み合わせることで再現したのだ。

 

 

 

 それは——。

 

 

 

「——ッ!」

 

 

 

 既に傀儡と化したスクルドは自意識などなく、反射的に驚きの表情を見せることしかできない。だけどファビオラが放った銃弾は『ただの鉄の塊』ではないことも瞬時に理解した。

 

 銃弾には『魔力』が込められていた——。

 鉄製に近い材質でできた鉱石がスクルドの頬を掠める。普通の弾丸では決してなし得ない『炎の螺旋』を放射しながら。

 

 これの正体と原理は至ってシンプルだ。弾丸の中身は異質ながらもレンでも知ってるほどに身近な物。

 

 それは『OS事件』や『SD事件』でお世話になったラファエルの魔力を込めた『治癒石』——その原料となる『魔力を込められる石』を使ったハインリッヒがよく利用する物だ。

 

 現実世界であればハインリッヒが特注しているものであるが、ここドリームランドにおいて、その石は普遍的な存在として商業市場で100均コーナーのお馴染みと言わんばかりに馴染んだ存在として売り出されていた。

 

 それをファビオラは利用して銃弾を生み出したのだ。

 弾丸——正確には『弾頭』となる部分をこの石に置換し、後は火薬を詰め込んで推進剤にする。こうすることで簡易的な銃は完成し、問題の命中率は『炎の螺旋』を利用して射角を微調整することで安定させる。それがこの世界で生み出された銃なのだ。

 

 原理で言えば弾丸だけで完結してる以上、銃そのものは不必要ではあるのだが、魔法とは意志の力が明確でないとコントロールがしにくい物でもある。無数の弾丸を抱えて一つ一つを丁寧に操作するのは精神的な問題が発生する恐れがあり、その補助というべきか思考の割り切りを生み出すためには銃という存在は不可欠だ。

 

 

 

 ——まあ、ぶっつけ本番で不安はちょっとあったけど、これなら問題ないっ!!

 

 

 

 というファビオラのドキドキとした内心は誰にも伝わることなく戦闘は続く。

 

 炎の螺旋が暗がりの城内を照らし、光の翼が世界をなぞる。

 スクルドの能力である『翼』は亜光速に達する単純明快にして攻略難度が高い代物だ。亜光速の動きは単純な移動能力としても強力ではあるが、一番の脅威となるのは『威力』と言った方がいい。

 

 そもそもの話、水で金属を切断することで有名な『ウォーターカッター』というのは加圧水を音速の約3倍——要はマッハ3というスピードで噴出させることで実現させているのだ。

 それを『OS事件』ではアメーバ状の化け物が変化したことによって得た力でレン達に猛威を振るおうともしていた。

 

 そして『亜光速』とは『光よりは遅い』が『音速を超える』という意味でもある。

 光はマッハ換算でマッハ1000——。それより遅いといっても、軽く見積もってマッハ500と仮定してもウォーターカッターの『100倍以上』の速度で襲いかかってくるのだ。

 

 

 

 これらが意味するのはどんな小石だろうと、砂粒であろうと、何なら豆腐のように柔らかい物であろうと、人体を容易く吹き飛ばす絶命の一撃となるということである——。

 

 

 

 

「——ッ!」

 

 

 

 剣先が煌めくと判断した直後、ファビオラは大袈裟以上に大袈裟に横に飛び転がる。

 

 直後——長椅子、カーペット、柱といった礼拝堂を形作るありとあらゆる物質が砕け散った。

 その衝撃は並大抵の物ではない。余波は暴走した車に轢かれたかのようなファビオラに襲い掛かり、背中を強く壁へと打ち付けた。

 

 思わず血が酸素が逆流して吐き出しそうになるが、これでも軽症なのだから末恐ろしい。スクルドの『翼』というのは、それだけ脅威であり凶器となるのだ。

 

 

 

 ——けど、これなら何とかなりそうですね。とファビオラは危機的でありながらも心の奥底では笑みを浮かべていた。

 

 

 

 回避できたことは偶然ではあるが、それを判断したこと自体は偶然ではない。

 ファビオラが撃った弾丸の『炎の螺旋』は周囲の動きに反応してくれる。それが例え空気中の些細な揺れであろうとも。

 

 亜光速に達するスクルドの『翼』は確かに脅威だ。だが初動がないわけでもない。

 急激な動きは世界側の物理現象が追いつかない。結果としてそれの辻褄を合わせようと『空気中の熱量や速度』といったものが『歪み』を発生させてしまう。それを『炎の螺旋』を拾ってくれるからこそ回避行動の判断として機能してくれる。

 

 もちろんそれだけでは不十分だ。亜光速である以上は人間の感覚で判断することは困難を極める。傀儡となってなおスクルド自身が狙いを荒くしてくれているからこそ可能としてくれているのだ。

 

 動きは直線的。初期動作を分かりやすく示してくれる。

 それが何よりも信頼できる。ファビオラだからこそスクルドの僅かな配慮を感じ取れるほどに。

 

 

 

 ——やっぱり優しいですね、お嬢様は。

 

 

 

 だが感情と指先を切り離してこその軍人だ。

 パランティアで所属していた時に何度も人の急所を狙い定めてきた。例えそれが国のために命を捧げた少年兵であろうとも。

 

 今はその非情を糧として、ファビオラは呼吸を正して一発、二発、三発と立て続けに弾丸を発砲させる。

 多少狙いが雑であろうと『炎の螺旋』で軌道修正は可能だ。狙うは人体の動きにおいて重要な足と、亜光速を可能とする『翼』だ。

 

 命中したが一発だけ。それも足だ。

 スクルドの片足は膝から崩れ落ち、バランスを失って顔から地面へと叩きつけられる。

 普通ならこれで無力化だ。だが『ドール』も同然である今のスクルドでは片足を傷付けたところで無理矢理でも動いてくるであろう。

 

 ならばとファビオラは今使用している銃を収め、懐から新たな『銃らしき物体』を手にした。

 

 一見それは玩具だと思われてもおかしくない造形だ。だがセレファイスにおいては『ある種族』の技術によって生み出された『電気銃』と呼ばれる一品でもある。

 

 SIDはレンの存在もあり、他の学園都市と比べて『ドール』との戦闘経験が非常に多く、おかげで何が有効で何が無効じゃないか把握している。それはSIDに所属するファビオラだって例外じゃない。

 

『ドール』の運動能力は人間の限界を遥かに凌駕している。その理由は脳内に異質物由来の情報を付与され、人間が本能的に持つ運動能力の限界を無視しているのが理由だ。

 例え骨折しようが筋繊維が断裂しようが、痛覚さえ機能しないなら人体は動けてしまう。それが『ドール』を強力たらしめる理由だ。

 

 しかし同時に人間の運動能力を限界以上に引き出してるだけで、基本的な部分は人間として動きであることも間違いない。

 故に根本的に『機能させない』という行為が有効であることをSIDは突き止めている。物理的な拘束や四肢の切断も有効ではあるが、もう一つ有効となるのが『電気によって筋肉を刺激する』という俗に言う『EMS(electrical muscle stimulation)』と呼ばれる機能を利用することだ。

 

 人間は本来脳から電気信号を送ることで筋肉を動かす。それを外部から電気刺激を与えることで、意識がなくても筋肉を動かすというのが『EMS』というが、逆に言えば電気信号を意図的に狂わせれば筋肉の動きを止めることも可能ということだ。

 

 筋肉の動きを萎縮させ、動きを阻害する——。

 これを可能とするのが『電気銃』だ。電気攻撃による効果の有効性については考えるまでもない。既に実戦的な成果は得ているのだから。

 

 

 

 

 

 あの日『OS事件』で起きた海上の一戦——。

 イルカが自らの魔法を駆使して証明しているのだから——。

 

 

 

 

 

 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ——。

 スクルドに向け、内蔵されたエネルギーが尽きるまで連続で電気銃を発射した。

 AEDによる心肺蘇生でも行われたかのように、体を激しく痙攣されたスクルドの身体は、背骨の力でも抜けたかのように横に倒れ伏していく。

 

 

 

 ——大丈夫、呼吸はしている。

 

 

 

 ファビオラは細心の注意を払いながらも先ほどの銃へと弾丸を込め直していく。同時に電気銃のバッテリーも入れ換えて、こちらも撃てる準備だけ済ませておく。

 

 目的はスクルドを倒すことではない。無力化と保護が極力望ましく、過剰に手を出す必要などどこにもない。

 もしもこの一撃でヨグ=ソトースの支配から一時的にも解放されたら情報を再び聞き出すことも可能なのだから。

 

 そうやってファビオラは心の中で言い訳しながらスクルドの動きを待ち続ける。

 一歩、また一歩と、いつ『翼』による奇襲が来てもいいように、弾丸が届く範囲まで足を下げてゆく。

 

 

 

 目測で約30m——。

 これが小銃によって正確に当てられる射程の限界だ。

 

 

 

 呼吸を一つ。逸る心臓を鎮めながらファビオラは待つしかない。風も吹かずにただただ燃え続ける炎のように、落ち着きながらも意識と目的は鮮明にして待ち続ける。

 

 暫時経てば変化は訪れる。

 スクルドの『翼』は突如として羽ばたいた。鳥類が敵対する相手に威嚇でもするかのように、極彩色に光を瞬かせながら大きく、大きく翼を翻す。まるで飛ぶことを忘れてしまった鳥籠の中の鳥が大空に羽ばたかんと言わんばかりに。

 

 すると翼が逆立っていく。魚の鱗のように一枚ずつ刃のように逆立っていく。

 

 直感した。ファビオラは比較的状態を保った長椅子を影に隠れて、予測する『波状攻撃』をしのぐために。

 

 

 

 その予測は的中することとなる。翼から羽が雨のように射出された。

 その数、実に数十枚にも及び、一枚一枚が人を安易に刺し殺せるような鋭さを持っている。

 

 幸いにも亜光速でないだけ有情だ。速度からくる衝撃による無情な面制圧という、戦争において脅威でしかない絨毯爆撃紛いの攻撃を恐れる必要はないのだから。

 

 長椅子を盾にファビオラは仰向けとなって超低姿勢の射撃体勢を取る。膝も曲げて可能な限り身体全体を長椅子の影に隠れるようにし、少しだけ上半身を射線に晒して炎と電気の弾丸を乱れ撃つ。

 

 肩のフリルが切り刻まれながらもファビオラは応戦を止めることはない。羽の量は無尽蔵で止まぬ様子などはない。

 ならば持久戦など仕掛けるだけ無駄だ。防弾対策なんて簡易的に腹部と胸部に鉄板を雑に仕込んでるだけだが、何度受けて理解した。この羽は金属を傷つけることはできても、貫通できるほどの威力はないということを。

 

 だったら被弾覚悟で接近戦に移るだけ。ファビオラは壊れかけの長椅子を押し込みながらスクルドへと接近する。被弾覚悟といっても最低限に収めるほうが望ましい。可能な限り壁にして、懐に入り込ませてもらう。

 

 しかし近づいたところで策などすぐに浮かぶはずがない。

 接近すれば一撃で命を奪い取る『翼』による亜光速の突進。離れれば命を削り取る『羽』による無尽蔵の雨霰。

 

 詰将棋なんてファビオラの趣味でもなければ得意分野でもない。そういう頭を使って打開策を見致すのバイジュウのやり方だ。

 ファビオラのやり方は単純にして明快。武器という武器を最大限利用して最大効率で攻撃を続けることだけ。弾幕はパワーというやつだ。

 

 

 

 懐に入り込んだ接近戦。ここまで近ければ外すことのほうが難しいというものだ。

 ファビオラは銃を即座に両翼に向けて装填された全弾を発砲する。炎の螺旋を描きながら翼を見事に打ち抜き、まるでプラモデルの関節部が金属疲労で折れたかのように力なく折れるが、それで攻撃を休めるほどファビオラは甘くはない。

 

 幼さがまだ残りながらも、年相応の美しさを兼ね備えたスクルドの顔に膝蹴りを叩き込む。勢いに任せてスクルドは倒れ込みそうになるが、ファビオラは既にスクルドの腕を握っている状態だ。強引にバランスを取り戻させ、そのまま銃を握り込んでいる右手の裏拳で頬を全力で殴り、続いて頭突きをお見舞いし、最後には左手を離して、相手を無重力状態にして渾身の蹴りを腹部にお見舞いしてやった。

 

 普通なら悶絶のフルコースだ。平衡感覚を失う頭部への連続攻撃に、臓器を狙った重い一撃。成人男性であろうと一瞬で意識を奪う攻撃は、スクルドほどの身体であれば過剰も過剰だ。

 

 いや、まだだ。例え相手がお嬢様で女の子であろうとも、今は『ドール』として見ないとやられる。

 続け様に電気銃を打ち込み、その隙に炎の弾丸を装填。込め終えたらスクルドの両足と両腕を弾丸で射抜いて機動力を奪う。

 

 

 

 思っていたよりもやれる——。それがファビオラの嘘偽りない本心だ。正直に言えば『拍子抜け』という感情さえ持ってしまうほどに。

 

 今まで見てきた契約者は、そのすべてが抜きんでた能力や技術を持っていることをファビオラは知っている。

 

 ハインリッヒは錬金術。

 ギンは超人的な身体能力と抜刀術。

 バイジュウは特異体質と完全記憶能力に加えて『魂』を認識できる能力。

 

 そういう意味では契約者であるファビオラも何かしらの優れた部分はあるのかもしれないが、当人的にはパッと思い浮かぶことができない。強いて言うなら自分でも謎である必ずゲロマズになる調理技術くらいだろうか。

 

 ともかくそういう異様に特化した能力を持ってるのが普通だった。

 スクルドの亜光速がそれに値するかどうかで言えば値するのだが、それだけでは契約者として扱うには些か力不足を感じてしまう。種さえ知っていれば対抗策は打ててしまうのだから。

 

 

 

 もしかしたら例に挙げた三人が異様に強かっただけなのか——。

 ハインリッヒは過去にぼやいていた。過去に何度かセフィロトが司る場所を『守護者』という襲名に準じて守りに行っていたことを。

 

 人間社会でも言えることだが、有能で小回りが利く人材というのは何でも屋になりがちだ。その分、行動することも多く、そういう回数が多いからこそレンと接触して解放されたのではないかと。

 

 

 

 ……なんて人間臭い考えを持っていれば、そもそも『契約者』なんて腐った制約を作るわけがない。とファビオラは考える。

 

 きっとあるはずだ——。

『翼』以外にも『契約者』に相応しい能力がスクルドにあることを——。

 

 あるとすれば、どっちだ。

 スクルドが生まれついて持つ『未来予知』のほうか、それとも未だ握ったままでいる『鍵のような剣』に能力があるのか——。

 

 

 

 

 ——ドクン。

 

 

 

 

 

 ——ドクン。

 

 

 

 

 

 思考の最中、ファビオラは確かに耳にした。生命の躍動を、変質しようとする身体の覚醒を。

 

 目を疑う光景だった。スクルドの身体が今間近で急成長している。

 十代後半くらいの見た目から、身長と髪が少し伸び、さらに色気を持った瞳と表情でファビオラを見下ろしてきた。

 

 年齢にしては20代前半という印象だ——。

 身体的にも精神的にも成長を完了した姿とも言えるだろう。

 

 

 

「飾られ過ぎた歴史は、真実と未来をぼかしてしまう——」

 

 

 

 スクルドの成長が終えると同時、その翼にも変化を見せた。

 一枚、また一枚と増やしていき、最終的には合計『10枚』の翼となって宙へと完全に浮いた。

 

 そして武器も変化する。鍵にも見える剣は、珊瑚礁のように剣先を無数に広げて切るのではく『削る』のを目的とした形状へと変化を終える。

 

 さらにもう一つ——。空いた手に『新しい剣』が握られる。

 それはファビオラの心を大きく揺さぶる物でもあった。

 

 

 

「時間を通して映った、交錯する運命……未来(あなた)は私が選んだ王様よ——」

 

 

 

 その手に現出された『イスラフィール』——。

 スクルドを殺したといっていいヤコブが振るった異質物武器——。

 

 

 

 今再び——。

 灼熱のエコーは、その魂を燃え尽きさせようと荒ぶる——。

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