魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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 いつまでも終戦の気配がないので投稿再開となります。

 そして先に謝罪をしておきます。
 この章に限り、非常に世俗に対した大変不躾で失礼で配慮のない描写が挿入される恐れがあることについて予めご了承くださいませ。


第2節 ~銀の弾丸~

 これは皆が知ってるニュースの話。

 確かにあの日、あの時間にこういった内容のニュースが流れていた。

 

 

 

《今回の国際フォーラムにおいては異質物のエネルギー活用や、『再建計画』など各種の重要な議題について話し合いが行われる模様です。また、マサダブルクの議長は近日行われた非公式演説において、西アジアの秩序の再建を図るため、新たなる軍事方針を近く公表すると宣言しております。これに対し、サモントンニュース部門の担当者はコメントを控えており……》

 

 

 

 それは猫丸電気街での事件が起きる少し前に流れたニュース。

 直後に『異質物武器実験禁止条約組織』という、六大学園都市とは独立かつ中立を維持する機関に所属する『ランボット』という男が拉致監禁される事態にもなったが、そんなことは今はどうでもいいだろう。

 

 

 

 問題は『国際フォーラム』という点だ。

 ここ最近色々な事件が多発した。『OS事件』という『Ocean Spiral』を境に『エクスロッドのお嬢様が殺害される事件』や『SD事件』と呼ばれる『サモントン騒動』もそうだ。

 

 遡ればマサダブルクでの砂嵐もそうだし、もっと遡れば猫丸電気街での暴動もそうだ。この一年間であまりに異質物関連で大規模な事件が多発したのは皆の記憶には鮮明に残る。

 

 そんな只中で『平和』というものが存在できているのか——。

 無論、それに対して疑問を覚えるのが国民であり、その疑問や不安を解消してほしいと我儘を言うのが世論だ。そして世論に応えるのが政治というものだ。

 

 

 

『皆さま。お集まりいただき感謝いたします。これより『第5回国際フォーラム』を行います——』

 

 

 

 故に、前回から一年未満というあまりにも異例な早さで六代学園都市を中心とした『第5回国際フォーラム』が行われることになった。

 各国の代表として選ばれた政治から研究部門などの首脳が雁首を揃えてマサダブルクの領地にて各々の学園都市が代表する面々が、各自の大使館にて3Dライブ映像で国際フォーラムに参列していた。

 

 

 

『この度は戦地が止まむ中でもお越しいただきありがとうございます。私こと『エミリオ・スウィートライド』はマサダブルクの教育・宗教部門での代表として改めて感謝を』

 

 間髪入れずに第一声はエミリオが先駆けた。

 それを合図としてエミリオの隣に座る女性——白銀の髪を靡かせた威風堂々とした女性も挙手をして語り始める。

 

『今回は緊急ということもあり顔触れも見覚えのない人物がいるでしょう。それはもちろん私も含めてです。恐れ多くもまずは私から自己紹介をさせていただきます』

 

 見た目の年齢以上に気品も度胸も一級品だな——。

 そう思いながら、参列していた新豊州の代表の1人として招集されたマリルはその女性へと意識を向けた。

 

『私はマサダブルクに存在する傭兵組織『マルス・アレクサンドリアル』の最高責任者『パトリオット』こと『システィーナ・アレクサンドリアル』と申します』

 

『では続けて私が自己紹介を。サモントンの情報機関『ローゼンクロイツ』の統括指揮官『ミカエル・デックス』だ。隣にいるのは同じく『ローゼンクロイツ』の最高権威を持つ『位階十席』の第三位の『ハインリッヒ・クンラート』と第五位の『アイスティーナ』だ』

 

『おやおや。今回はデックス博士と、第一位であるモリス殿の同伴による授業参観ではないのですか?』

 

 マリルと同じく新豊州の代表の1人『#C』はわざとらしい挑発であると同時に誰もが思う指摘をするが、ミカエルは『私もいつまでも子供ではないさ』と軽く流す。

 

『サモントンの情勢は知っているだろう? 教皇庁で管理していた異質物の暴走で領土が荒れてしまったのだ。祖父は管理者である前に研究者であり、年齢も相応にある。私がサモントンの顔として出席した方が合理的と判断しただけさ』

 

 とても二十歳とは思えない堂々とした態度に、#Cは『そうですか』とつまらなさそうに相槌を打って次なる標的へと投げかけた。

 

『まあ見慣れないのはサモントンとマサダブルクだけではないか。華雲宮城は今回も代表を変えるとは……。『無形の扉』の名の通り、らしいといえばらしいが』

 

『ええ。今回は私『バイジュウ』が華雲宮城の代表として参列させていただいてます』

 

 各々の挨拶が多少の滞りはありつつむ進んでいく。今回の国際フォーラムにおける新顔はエミリオ、バイジュウ、ミカエル、ハインリッヒとレンとSIDに深く関わってきた者達だ。

 否応なしにも第五学園都市である新豊州——正確にはSIDの長官であるマリルに、他の国々から奇異な視線を向けられてしまう。自分の発言力を高めるために工作したものではないかと。

 

 もちろんマリルだってそれくらいは予定調和だ。その視線に応えようと席を立って演説しようと時——。

 

『今は個人的な感情を持ち出す場所じゃないだろう。小童ども』

 

 マリルに割って入ってきたのは、第六学園都市である『リバーナ諸島』を統治する三大マフィアの一つ『カペッリーニ』の首領の右腕である『ティーダ・グレイ』だ。

 身長は190cmを裕に超え、無駄のない筋肉で構成されたアスリート顔負けの恵まれた肉体は、とてもドラマなどで見る銃で抗争するマフィアとは思えないほどだ。実際に彼の第六学園都市での評価は『武闘派』と呼ばれており、下手な小細工をせずにリバーナ諸島の犯罪率を低下させるという実績を持つほどだ。

 

 その敏腕は国際フォーラムにおいては誠実とも取れる印象もあり、ランボットを始めとした学園都市に属さない中立機関からの信頼も厚い男でもある。

 

『ここは世界のため、国のため、学園都市のため、各々のキナ臭い情勢に蓋をする。それが暗黙の了解だ。そういう後ろ暗いことをしたことない者のみが物申せ』

 

 グレイの言葉に誰も口を出すことができない。皆が表立って口にできない政治的な闇を行っているのだから当然だろう。

 だからこそだろう。後ろ暗さとは無縁の純粋無垢の子供——なのは外面だけの『スクルド・エクスロッド』だけが、そんな空気なんて知らないと言わんばかりに小生意気に口を開いた。

 

『へぇ~~。流石はグレイさん。お堅さだけは健在だね』

 

『エクスロッドのお嬢様は壮健そうでなによりだ。不慮の事故で死亡したと聞いていたが?』

 

『安全確保のために偽装した情報だよ、それは。議員の娘は交渉材料の人質として優秀だからね。ランボットさんと違って捕まる前に手を打たないと♪』

 

『おや。これは突然の手厳しい意見だ。次があった時にでも考えておこう』 

 

 ランボットの自虐的なブラックジョークを機に、話の主導権は中立機関へと移り、それが合図となって国際フォーラムは本格的に開始された。

 

『では戯れもここまでにして本日の議題に移るとしようか。第一の議題についてだが——』

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「いや〜〜! こういう肩肘が張る仕事は慣れないな〜〜!」

 

 半日ほど経過したところで、本日の緊急国際フォーラムを終え、エミリオは肩を回しながらマサダブルクの内城にある会員制の高級飲食店へと顔を出す。

 顔と名前の確認を澄まし、エミリオはスタッフに案内された一室へと向かうと、一足早く入店していた民族衣装に身を包んだ黒髪の美女——バイジュウが令嬢のような尊大な気品を持って会釈をする。

 

「お疲れ様です、エミさん」

 

「バイジュウもお疲れ。めっちゃ似合ってるね、その服と化粧」

 

「場が場ですからね……。こういう服装は慣れないのですが」

 

 そう言いながらバイジュウは食事では味の妨げになる口紅を落としながら文句を垂れる。堅苦しいのが苦手なのエミリオも同様で「分かる~~」と言いながら、疲労感を隠すこともなく座椅子へと腰を置いた。

 

「しかし私たちがマリル長官と同じ立場にいるなんてねぇ……少し前までSIDに所属してたってのに」

 

「まあ私は臨時だから元々こうなる予定ではあったんだけど」とエミリオはケラケラと笑いながら、この場のためだけ用意したレディーススーツのボタンとネクタイを緩め、団子で纏めていた髪を解いて靡かせた。

 

「それより宇宙開拓の方はどうなってるのかな? それとミルクとの調子はどう?」

 

 ミルクという名前——。それを耳にした瞬間、バイジュウは気でも失ったかのように脱力し、その目を見開いた。

 

「……嬢ちゃん。表立って私の名前なんて出しちゃいけないでしょ?」

 

「……プッ!」

 

 いきなり雰囲気がガラリと変わったバイジュウの様子を見て、エミリオは抑えきれずに笑ってしまう。

 

「どうしたのエミ~~? 私の顔になんかついてる~~?」

 

「アッハッハ! ち、ちょ、ちょっとタンマ! やっぱりバイジュウの顔で、ミルクのテンションは可愛いけど似合わないわ〜〜!!」

 

「私もそれ思ってるんだよね〜〜。だから基本はずっとバイジュウちゃん任せ。私がこうして表に出るのはよっぽどの限りはないかなぁ」

 

『ミルク……。あまり好き勝手しないでくださいね』

 

「分かってるって。バイジュウちゃんの分までたらふく食べるだけだから♪」

 

『一般的な摂取カロリーで頼みますよ!』

 

「冗談だって♪ 私の可愛いバイジュウちゃんをブックブクのブッタブタにするわけないじゃん♪」

 

「一人芝居見てるこっちからすれば、すごいナルシストみたいねぇ」

 

「まあ今だけは表に出させてよ♪」とバイジュウでは絶対しないであろう愛嬌がある笑顔をミルクは浮かべる。

 

「しかし私が20年間も眠ってる間に随分と世界は様変わりしたね。今回の議題なんかもビックリしちゃったよ。なんだっけ、第4回国際フォーラムで提出する予定だった『新たなる軍事方針』としてマサダブルクが出したあの……」

 

「『人工魔女』のことでしょ」

 

「そう、それそれ。私みたいなやつが魔女だってのは分かるんだけど……それを意図的に増やして大丈夫なの?」

 

「大丈夫かどうかで言えば大丈夫じゃないけど、本命は『人工魔女』よりも、もう一つの技術発表の方よ」

 

「あぁ……『対魔女兵器』の試作型『レッドアラート』を超えた兵器……コードは『銀の弾丸(シルバーバレット)』だっけ?」

 

 2人はタブレット端末から会議で配布されたデータの一部を閲覧する。

 そこに映っているのは、先ほど話題に出たマサダブルクの新兵器『シルバーバレット』の詳細だ。

 

「全長は2mとレッドアラートより小型化。にも関わらずエネルギーの持続性と運動性能は据え置きどころか、むしろ向上してる。流石に最大火力はレッドアラートの方が上ではあるけど、逆に言えば出力調整ができたってことだから暴走の危険性が薄いことを意味してる。……これ普通にパラダイムシフトの技術革新だよ」

 

「私は軍事研究部門じゃないからなんとも。ケーニッヒ教官やヴィラのお父さんに聞いてもみたけど、2人とも軍人教育が基本だから知らないってことだし」

 

 ミルクからすれば教官やヴィラの父親どころかヴィラ自身についても詳しく知らんがな、という感じではあるが、特にそれを口にしたところで意味がないので疑問を飲み込んで話を続けた。

 

「しかもこれ『量産化』も安易にできるってのがすごいわね……。『人工魔女』を使った実戦データではあるけど、このシルバーバレットは魔女相手に引けを取ってない」

 

「頼りになる兵器なのは間違いないわね。魔女相手に互角なら、ドールも同様ってこと。となればサモントンみたいな事件が起きたとしても対処が安易ってことでもある」

 

「でも本格的な問題はこっちだよね」とマサダブルクから提出された資料データそのものへとミルクは指さした。

 

「『人工魔女』も『シルバーバレット』も両方マサダブルクが独自の技術ツリーで完成させた傑作品……。マサダでしか保有してない以上、どちらの技術を利用しようにも莫大な資金が各国からマサダに入るってことでもある」

 

「そりゃ魔女とかシルバーバレットとかカッコいい感じに言ってるけど、要は『人型の戦争兵器』を売り捌くってことだからね。六大学園都市はまだいいとして、現在でも存続してる小さな国々はマサダの技術があるかないかで大きくパワーバランスが変わってしまう……」

 

「これどれくらいの収支が見込めそうなの?」

 

「ざっと数十兆ってところ。金さえ払えばドールから自国の犯罪者まで武力で解決できるんだから需要しかない。こんくらいの資金が集まればマサダの退廃した内戦に政治的介入を問題なく行えるでしょうね」

 

「だからかぁ」とミルクは一度資料から目を離し、ニュースサイトのピックアップを閲覧する。

 嫌でも目立つ記事タイトルが一つ。その題名は『マサダブルクに新しい女神誕生!? パトリオット様に密着取材!!』という現代かぶれの俗っぽい見出しだった。

 

 内容については俗なタイトルと違って本格的だ。

 パトリオットことシスティーナ・アレクサンドリアルは、マサダブルクの内城に存在する資産家『アレクサンドリアル家』の現世代の当主。年齢は28歳とまだまだ若輩者ではあるが、そのカリスマ性と神秘性から元々カルト的な人気があったとのこと。

 

 しかし転機が訪れた。『マサダブルクの聖女』の誕生によって内城と外城の信仰に大きな影響を与え、自ずとマサダブルクの政治は大きな変化を余儀なくされた。

 結果としてマサダブルクの内城政府はエミリオと並ぶ求心力が高い象徴が必要となった。そこで選ばれたのが元々カルト的な人気がありつつ、資産家として政治に間接的に介入していたアレクサンドリアルの当主となるシスティーナが、今のマサダブルクの中心となって学園都市を動かしている——という経緯が、民衆でも扇動するかのように華々しく記載されていた。

 

「マサダブルクの守護女神だなんて……。この国は偶像とか好きなの?」

 

「好きなんじゃない? だって私もマサダブルクの聖女だし♪」

 

 エミリオはアイドルが写真でも取るかのように、両手の人差し指を自分の頬に当てて営業スマイルを浮かべる。

 それをミルクは「はいはい、そうですね聖女さん」と適当に流して話を続けた。

 

「『人工魔女』の傭兵組織として組み上げた『マルス・アレクサンドリアル』は金さえ払えば各国に『人工魔女』……組織に所属される『マルス兵士』を臨時派遣されるシステムを確立させた。これは全体的に見れば治安改善と異質物事件の早期解決を目指せるありがたいものではあるけど……」

 

「……逆に言えば資金がない国は『人工魔女』の恩恵を得られない。それは国としての力がないことを意味している」

 

「侵略戦争の被害国になるのは目に見えてるね。ただでさえ国家は減少してるってのに、また世界から国の名前が消えてくことになる。となれば?」

 

「被害国の国民を追い出すか、奴隷にするか……」

 

「虐殺か——。なんにせよ、ディストピアを齎す力だよねぇ」

 

 カラカラとエミリオは笑いながら食卓に並ぶ御馳走と共に、仰々しいラベルと飾りが施された一つの瓶を開けた。

 それは間違いなく酒だ。アルコールだ。未成年飲酒法に引っかかるアウトな光景を、ミルクは目の当たりにした。

 

「……一応聞くけど未成年が飲んでいいの?」

 

「マサダではこういう席では無礼講よ♪ それに暇だったから一度自分の能力を研究してみたら面白いことが分かってねぇ〜〜♪」

 

 エミリオの能力はミルクでも知っている。何せ『OS事件』でレンを通して見ているのだから。

 彼女の能力は単純に『血の硬質化・蒸発』だ。自分から流れ出た血を鉄鋼ほどに瞬時に固めることもできるし、蒸発だって瞬時に100度を超える熱量を保つことができる。そういう能力だ。

 

 だがエミリオの言いようからして『それだけではない』という感じだ。

 彼女はさらに一杯と瓶を開けると、まるで水でも飲むかのように一気にその中身を飲み干した。もちろんそんなことをしてしまえばどうなるかなんて身に見えている。『急性アルコール中毒』の症状が出て、嘔吐や動悸などを起こすに決まっている。

 

「別に能力が増えたわけじゃないのよ。能力の副産物ってだけで」

 

 だがエミリオは至って平気な表情で空となった瓶を机上に置く。平気な表情というが、顔色一つも変えていない。赤くもなっていなければ汗も呼吸も乱れていない。焦点だってミルクと寸分違わずに交わっている。

 

 本当に中身が水だったわけがない。瓶からはアルコール特有の匂いも漂っている。となれば話の流れとして結論は一つだ。

 

「酒に強い、ってのが新たに発見した能力ってこと?」

 

「まあ大体そんな感じかなぁ」

 

 と言いながらエミリオは「やっぱ酒は私に合わないなぁ」と言って、いつも通り自分が大好きな甘味料ドバドバの炭酸飲料を口にし始めた。

 

「要は血に魔力が通っているおかげで免疫力が上がってるから『毒物とかの耐性が極めて高い』ってこと」

 

「こんなにアルコール摂取しても顔色も変わらないでしょう?」とエミリオは自慢気に胸を張り天狗となる。

 それはそれとして未成年の飲酒はご法度ではあるのだが、文化の違いと片付けられたら何にも言えはしない。義務教育の場でも家庭の宗教問題には介入できないのと同じように、教育や文化というのはそれこそ個人の意思と自由が尊重されるのだ。

 

「今にして思えばマサダで自白剤メチャクチャぶち込まれても無事だったのは、そういうことだったんだぁ〜〜、って自分で思っちゃうくらい」

 

 自白剤の件なんて知らん、とミルクもバイジュウも思いながらテーブルに並べられた食事を口へと運んだ。実際に運んでみると、何でも美味しいと思うミルクでも舌鼓を打ってしまうほどに味わい深い。

 

 これが上級階級にいる人種の食文化かぁ、と感心しながら場としては『マサダブルクの代表と華雲宮城の代表による食事会』を終えた。

 

 

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