魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第3節 〜異質物抑止論〜

「ふぅ~~。やっと一息つけるな」

 

「お疲れ様、マリル長官。飲み物は何にする?」

 

「ビール。一本だけでいいぞ、悪酔いするにはまだ早いからな」

 

 マサダブルクの領地にある新豊州の大使館の一室。

 そこで元老院の一員兼SID長官として出席するマリルと副官補佐としての研修という名目で同伴していたアニーは、お堅い軍服のまま向かいあって軽食を進めていた。

 

「レンは今頃どうしてるだろうな?」

 

「そりゃニュース番組に噛り付くも右から左に受け流してると思うよ。現代社会の成績アレだから……」

 

「お前も言えた義理じゃないがな」

 

 とはいっても国際フォーラムの議題は嚙み砕いて説明しても難しい物だ。

 世論の一割が全容を把握してれば奇跡的と思えるほどに議題の内容は複雑な上に量も多い。議題の方向性も民には実感がわきにくいものもあれば、直接的な支援を施すという身近な物まで様々だ。

 

 特にその中で目を見張るのが第四学園都市のマサダブルクの『人工魔女』と『シルバーバレット』の発表の他に、第一学園都市の華雲宮城が公表した『宇宙開拓における調査報告』がある。

 

 バイジュウが宇宙空間でも適応できる類稀な身体と精神性、それに絶対記憶能力による専門知識を修めるなど、普通の宇宙飛行士を育成する際に発生するはずの金銭や時間的なコストは大幅にカットされることで、日進月歩で研究を進めることができたのだという。

 

 おかげで華雲宮城が管理していたEX級異質物である『白緯度』を早期利用することでバイジュウは1週間の宇宙旅行というテストを無事に完遂。今後は宇宙技術の発達は飛躍的に伸びると予測し、各国にいる資産家は投資の種として優秀であると判断され、今や華雲宮城はマサダブルクと並ぶ経済効果生み出すと期待されているのが、株価と国際間の相場変動から伺える。

 

「今までXK級異質物の『ファントムフォース』で威圧してギリギリで体裁を保っていたマサダブルクは、単純な傭兵派遣による自転車操業とは別の力を施すことができるのだから学園都市は変化を余儀なくされる」

 

 マリルの難しい話にアニーは若干ついて行けずに頭に熱気が篭りそうになるが、副官補佐の研修という立場として聞き逃すことは御法度だ。

 分からずとも真剣に聞こうと飲み慣れないブラックコーヒーを一口入れて思考を再起動させる。

 

「そうなると弱小国家は当然として他の学園都市にも影響は及ぼす。では今回の国際フォーラムで六大学園都市の中で最も悪影響を受けるのはどこだと思う?」

 

「サモントンか、ニューモリダスかな?」

 

「そうだな。あの二つの学園都市が利益を確保していたのは貿易が主だ。決して力じゃない。けれど力は領地を奪うことができる。それは過去にあった事柄でいくらでも証明しているだろう」

 

「穏やかじゃないね……」

 

 アニーはロング缶のビールのプルタプを開けてジョッキへと注ぐとマリルに手渡す。

 それに「ありがとう」とマリルは至って自然に礼を言いながらグッと一口を流し込むと、早速酔いでも回ったかのようの饒舌に話し出した。

 

「だから今回の国際フォーラムでは緊急議題が行われた。ランボットが口にした一言で熱烈にな」

 

「——『異質物抑止論』だよね」

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 ——その頃、新豊州にて。

 

 

 

「ねぇ、ラファエル。『異質物抑止論』ってなに?」

 

「いつまでも餅は餅屋ね。いいわ、説明してあげる」

 

 現在俺はラファエルがいるSIDのリハビリ施設の食堂にてご教授を願う。

 リハビリの経過は順調であり、今は松葉杖の補助があれば立って移動できるくらいにはラファエルもいつもの調子に戻ってきた。弱ってた頃の妙に可愛げのあるしおらしい姿も名残惜しいが、ラファエルが元気になるのが一番なのだからそれでいい。

 

「女装癖。前回の国際フォーラムがどういう物だったか覚えてる?」

 

「ああ。覚えてるよ」

 

 だってソヤと会う同時期に起きたことだったし。記憶というのは印象深い物とその前後は連続して覚えやすいという研究があるように、学がない俺でも詳細を覚えている。

 

「それじゃあ前提となる説明は要所だけに済ませておくわ。ランボットは前回の国際フォーラムで各国でも攻撃型の異質物を持ちましょう、という類の話を持ち込もうとしたからテロリストに拉致されたわ。これに関しては多少過激思想だから自業自得なところもあるけど、人工魔女が確立されようとする中だと悠長に言ってられる問題でもないわね」

 

「何故にどうして各国で攻撃型の異質物を持つという物騒な話が出てくるんでしょうか?」

 

「武力的な牽制のためよ。昔風に言えば『核抑止』とでも言えばいいかしら」

 

「そもそも『核抑止』ってのがイマイチしっくりこないんだけど……」

 

「国家壊滅の爆弾を各国で一つずつ持ちましょう、みたいなものよ。使えば国を壊滅できるけど、一つしかないからその隙を見て他国は侵略を仕掛けてくる。もちろん壊滅された国が報復で核を投げることもあれば侵略に便乗する可能性もあるわね」

 

「七年戦争みたいで嫌だな……」

 

「その七年戦争が起きた理由の一つが、この『核抑止』が機能しなくなったことだから近からず遠からずって感じね」

 

 そういえばそうだった。研究が進んで異質物の力が強大になったからこそ今までの力関係が様変わりして、あの戦争を起こす遠因になったんだった。

 

「七年戦争は一部の国で独自的に研究、発達をしたせいで異質物技術が飛躍的に向上したことで『核兵器』を超える異質物が誕生することになった。それが引き金の一因となって七年戦争は起きるのだけど……この核兵器を超える異質物において代表的な物をお前は知ってると思うけど?」

 

「……XK級異質物」

 

「そう。私達が住む新豊州とかサモントンみたいな『六大学園都市』が定義される基準であるXK級異質物がその代表に値する。新豊州が誇る金城鉄壁の『イージス』だって、その性質は『外からの悪意ある攻撃をすべて遮断する』という核ミサイルを完全に無力化しつつ、こちらの核ミサイルを一方的に通す劇物よ。こんなのを用意されたらどうしようもないわ」

 

 言われてみればそうだ。新豊州の『イージス』は難攻不落で金城鉄壁だ。外敵からのあらゆる悪意を弾くアテナの盾の名を持つに恥じない性能をしている。モリスが使っていた『不屈の信仰』のデメリットがないものと思えば異様さが分かる。

 

 だからこそ俺みたいな特別でも何でもない存在が『七年戦争』で生き残ることができたのだ。

 それからして『元老院』が教育の土台……より正確に言うなら、前にあった『ブライト』というインテリゴリラが築いた教育的援助を新豊州に住む全子供達に施す事で、新豊州は他とは比べ物にならない速度で社会を再構築することに成功した。それも『イージス』が絶対的な安全性を保証してくれていたおかげだ。

 

 だから考えたこともなかった。俺の中では『イージス』は平和の象徴で、そして誰よりも俺を『俺』として認めてくれたもの。

 それが攻撃的な運用をしようと思えば、いくらでも悪用できる産物である側面を持つということを今まで気づきもしなかった。

 

「だからXK級異質物を持つ六大学園都市は大手を触れないようにするために、共通の国家条約とは別に特殊な条約を結んでいる。サモントンは『輸出・輸入市場を可能な限り操作しない』ということ。新豊州は『戦略級・戦術級の遠距離攻撃手段を持たない』ということ。普通の国であれば呑むわけがない理不尽なのに、それを容易く呑むほどに六大学園都市の技術は他国とは凌駕してる」

 

「でも、それって口約束だよね? 条約でも結んでいるはいるんだろうけど……やろうと思えば反故にできない?」

 

「貴方の危惧通り、当然無視することもできるわ。七年戦争前にあった中国という国が他国の領土を買ったようにね」

 

 中国こと華雲宮城を名乗る第一学園都市に喧嘩を売るような発言をしないでください。ラファエルの言葉のほうがXK級に怖い。

 

「だからここであるXK級異質物の出番よ」

 

 あるXK級異質物? XK級異質物は学園都市しか保有してないから最高でも6個だよな?

 

 新豊州は守りの『イージス』で、マサダは攻撃の『ファントムフォース』だからこの二つは今回の口約束を介入できる要素は薄い。当然サモントンの『ガーデン・オブ・エデン』もそうだ。

 

 だったら残るは華雲宮城、ニューモリダス——。そして……。

 

「……リバーナ諸島のXK級異質物ってこと?」

 

「はい、違う。リバーナ諸島のXK級異質物は『確率操作』を行える『D.A.W.N』なんだから無関係よ」

 

 じゃあなんやねん!! 

 

「答えは第二学園都市ニューモリダスが持つXK級異質物『リコーデッド・アライブ』——。その性質は『一定の代価を払い、地表上のいかなる"払った代価と同価値のもの"を交換する』というもの。こいつの性質を利用することで学園都市以外の国家は『払った代価』の報酬として『六大学園都市は学園都市以外には絶対的権力による横暴はできない』という概念を与えたのよ」

 

 知らんそんな話。社会の教科書に載ってなかったぞ。

 

「でもこの概念は完璧じゃない。抜け道なんて探そうと思えばいくらでもある。手間暇が合わないから行わないだけだもの。だからこそランボットはこの不透明で不安定な均衡と牽制が成立してる間に、他国は異質物を持つことで国としての武力を持たせて少しでも歪な関係を修復しようとしたの」

 

「それが『異質物抑止論』ってことか……」

 

「そういうこと。核兵器による力は異質物によって絶対的な物ではなくなった。結果として『核抑止』の力が弱まって、七年戦争を引き起こす一因となった。故に各国が異質物を持てば、表面上は何とかなるでしょう?」

 

「でも核兵器と違って異質物って性能差があるよね? 技術的に量産できるもんじゃないし……そこで格差が生まれない?」

 

「良いとこに目をつけるわね。だから『EX級異質物』っていうカテゴリがあるの。『何の力を持ってるかさえ分からない異質物』をサモントンの教皇庁は管理している。これは前回の国際フォーラムでも言及されていたことでしょう」

 

 そういえばそんなこと言ってたような……言ってないような……。かれこれ一年近く前だからその辺は曖昧だ。

 

「情報は秘匿されてこそ情報。例え『何の力もない』ことがわかっていても、その性能の秘匿と機密を保護できれば『どう扱ったら暴走するか分からない』という核爆弾級の地雷が完成する。腐っても異質物である以上、どんな物であろうと無碍に扱うことは許されないもの」

 

「ねぇ、女装癖?」とラファエルは暗に方舟基地とインペリアル・イースター・エッグの出来事を詰るように言ってくる。

 

 ええ、そうですよ。存外に扱った結果がアレですよ。すいませんね、異質物を適当に扱うような無遠慮な人間で。

 

「本来ならそれで今まではどうにかなっていたんだけど……二つの理由でそうも言ってられなくなった」

 

「一つは人工魔女とシルバーバレットの普及だよね。もう一つは?」

 

「サモントンがニャルラトホテプの一件で領土を荒らされたこと。あれで教皇庁の安全性や『サモントン条約』が危うくなってしまった。『何の力を持っているか分からない』といっても、そもそも『力を使う前に壊された』なんてことがあったら預けた国からすれば保ったものじゃないでしょ? 異質物は国宝級に取り扱うべきものでもあるのだから」

 

「そうなるとサモントンが持つ特権は『農作物』しかない」とラファエルは付け加えてくれる。

 

「だから今のサモントンは非常に危うい均衡で成立してる。それは長兄であるミカエル・デックスが代表として動き続けていてくれているからに他ならない」

 

「今回の国際フォーラム出てたラファエルの長男ポジにいる従兄弟のことだよね。具体的には何をしてるの? 次期総督として忙しくしてるそうだけど……」

 

「外交官の他に異質物研究員もやってるわよ。それに祖父とは別に研究施設を一つ持っていてそこの管理者。ついでにデックスの教育総責任者でもある。あとは『バイコヌール宇宙基地』とか『マチュピチュ』とかの重要な施設や名所にの復興計画を促した第一人者でもあるかしら」

 

「ミカエルってそんなすごいやつなんだな……」

 

「従姉妹ながらもアイツだけは何も分からないわ。ガブリエルみたいにキモくないし、アンタみたいに分かりやすいわけでもない」

 

 馬鹿で悪かったですね。あとキモい扱いされるガブリエルに同情してしまう。

 

「……そういえばガブリエルは今でもSIDに収監されてる状態なわけ?」

 

「うん、アレンとセラエノ共々に大人しく軟禁状態らしいよ。知らなかったんだ」

 

「私は正式なSIDのエージェントじゃないのよ。SIDの情報共有されるのは表面まで。詳細も伝わらないし、当然立ち入りが許可されてるエリアも制限がある。あくまでサモントンからの執行代表でしかない。ある意味では両国の話を円滑にさせるための人質みたいなものではあるんだけど」

 

「ここまで横暴で我儘な人質はいないけどな……」

 

「それを言えば奴隷だって立場は置いとくとして、今でいう労働基準とか社会保障とか福利厚生とか、そんじゃそこらより割と良い身分だった時期もあるのよ。人質が幅を利かせたっていいじゃない」

 

 限度ってものがあると思います

「限度ってものがあると思います、って顔してるわね」

 

 はい。何故か顔を見るだけで以心伝心が成立する関係性、ありがとうございます。プライバシーの侵害です。

 

「まあ、話は脱線したけど『異質物抑止論』とその均衡はこんな感じよ。ご不明な点はございますですか、女装癖さま?」

 

「ないよ。あとむず痒いよ、その言葉遣い」

 

「最近のアンタ弄られ慣れしてるから別方面から弄らないとメリハリないじゃない」

 

 弄りにバリエーションを求めるな。

 

「じゃあ国際フォーラムの第二幕まで時間があるし、遅いランチを済ませるわよ。最近はデリバリーも幅広いけど、SIDにデリバリーって届くのかしら?」

 

「無理に決まっとるでしょうが!!」

 

「冗談よ。どこか適当な場所にでも食べに行きましょう。車椅子も卒業したことだし外に出ないと」

 

「だったら良いところの焼肉屋行こうか。会員制でクレジット払いしか受け付けてくれないけど、ラファエルがいれば……」

 

「あっ、今の私クレジット払いできないわよ」

 

「なんで!?」

 

「ミカエルにカード止められたのよ。サモントンの一件での反省と、あと『お前は無駄金を使いすぎる』とか言われてね。前者は仕方ないとして無駄金なんて使った覚えないっての」

 

「いや。彫刻を買うのは無駄金かと……」

 

 悲しきかな。妹分の立場として逆らえない力関係に、初めてラファエルの社会的弱さを垣間見えた。

 

 なんて緩い雰囲気のままSIDから出て新豊州の中心を巡ろうと足を運ぶ。

 新豊州の平和という名のと空気と味わいながら、その裏側で流れる一つのニュースなんて耳にも入らないまま。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 

 

『緊急速報です。現在マサダブルクの大使館にてテロリストが押し寄せています——』

 

 

 

 

 

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