魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第6節 〜襲来〜

 時間は過ぎ去り、既に深夜。疲れた体にマサダ名物のザクロジュースを染み渡る。

 独特の甘味が脳細胞を活性化させて今日起きたことを鮮明に思い出させてくれる。あの手に残った温かさと共に。

 

 

 

 …………

 ……

 

「ありがとう……っ! 怖かった……っ!」

 

「あそこからもう出れないと思ってた……っ!」

 

「孤独ってあんなの言うんでしょうか……」

 

 ……

 …………

 

 

 

 俺が救い出した人工魔女は全員泣きながら感謝を述べてくれた。その顔から見え隠れする焦燥は、南極の事件でアニーが錯乱した時の物と相違ない。程度の違いであり、皆が皆あの感情を抱いて苦しんでいた。

 

 だけど助けることができた。それも今この場にいる全員だ。人数にして百人は裕に超える。

 アニーと同じ境遇だった人達を救うことはできた。何割かは『因果の狭間』を見たことで兵士としての精神的適性をなくしてマルス兵士を辞退ことになったが、そういう民はパトリオットが説明した通り別の窓口を設けることで支援を受けられるように手配してくれた。

 

 ……こうもここまで行くなんて我ながらビックリだ。今までのことを考えたら、ここらで何かしらの事件を起きてもおかしくなかっただろうに。

 

 ともかく全員を無事に戻すことはできたことは喜ばしいことだ。おかげで時間を多大に食い潰したが、星空を眺めて一杯やるのも悪くはない。

 

 夜に光る黄色い月。まん丸な月。月見酒ならぬ月見ジュースを楽しみながら、ふと『ドリームランド』での一件を思いだした。

 

 

 

 ——あの事件で得たことものは多かった。

 ——五属性の隕石は既にSIDに手にあるし、外宇宙の情報はバイジュウとスクルドが得ている。特に『アザトース』の片鱗について。

 

 ——だけど失う物も多かった。

 ——ギンの半身が消失したことで、事実上の戦力外になったこと。

 ——どこか遠いところを見るようになってしまったバイジュウのこと。

 

 ——そしていまだに謎多き『桜』だって気になる。そこにいた『虚無』と『無限』を名乗る二人のシンチェンもだ。

 ——ハインリッヒは『セフィロトの樹』の『アイン・ソフ・オウル』に基づいた存在だと推測していたが……あのあと、独学で調べたりハインリッヒに聞いたりしても推測を重ねる糸さえ見当たらないほどに、この二つは不明瞭だ。

 

 

 

「……だぁーっ! 俺みたいなのが分かるわけないだろっ!」

 

 どれだけ思考を回しても皆目検討がつかない。砂をベッドにして横たわってしまったが、朝になったら汚れを流せばいいだろう。今はこうして疲労感を夜風に持っていってほしい。

 

 だからビックリした。突然すぎて本当にビックリした。

 横になって星空を見上げようとした瞬間、こちらを覗き込むブラックホールのように暗く澱んだ瞳が交差したのだ。

 

 あまりの衝撃に一瞬だけ心臓が止まりそうになったが、その瞳に俺は見覚えがある。というか忘れることの方が難しいだろう。

 ニューモリダスで少しだけ会話を交わしただけの少女。それでもやけに印象に残る赤と白のゴシックチックな服装に、引力のように惹かれる深淵の瞳。これを忘れることなんて赤子でも無理に違いない。

 

「オッス。オラ、セラエノ。久しぶりだな」

 

「本当に久しぶりだね……」

 

 どういうわけかセラエノがマサダブルクに赴いていた。彼女はSIDが『情状酌量の余地あり』という名目でアレン共々に事情聴取も兼ねて軟禁状態であるはずだ。新豊州から抜け出すなんてできるはずがない。だとすれば考えられる可能性は一つだけだ。

 

「もちろん私だけじゃないぞ」

 

「おっす。オラはアレン。摩訶不思議なアドベンチャーは楽しんでるか?」

 

「……楽しめる余裕があると思う?」

 

「それもそうだな」

 

 SIDからの指示があったからこそ、セラエノとアレンは今ここに来ていることになる。となれば一体どんな任務があってきたのか。

 この二人に頼まないといけない以上、SIDはサモントンの件もあって相当な人手不足に陥っているんだと改めて実感してしまう。

 

「マリル長官からの伝言……というには俺絡みでもあるんだよな。さて、どこから話すべきか……」

 

「今まで黙秘を貫いてきたのに、こういう時はアッサリと口にするんだな」

 

「ニャルラトホテプと本当の意味で接触しただろ——。だとすれば、お前も見たことになる。あの『樹』——いや『桜』を」

 

 ……アレンがその情報を知るはずがない。SIDの情報管理は完璧で脆弱性なんてない。

 

「なんと。レンちゃんはアザトースのことを知ったのか。それにアレンも知っているとは……」

 

「うん。気が抜けるから黙ってようね〜〜」

 

 今の感じからしてセラエノから伝えられたということもなさそうだ。ということは元からアレンはあの不可思議な光景を知っているって事だ。

 

「とりあえずはまずSIDの一員として、俺がどうしてここに来たのかを話すか」

 

「手短に簡単に頼むぞ」

 

「安心しろ。元々同じ人同士、俺の頭は良くないからそれくらいはお手のものだ」

 

 自分に馬鹿にされてるの意外とムカつくな!?

 

「ニューモリダスで戦った時、お前の肩に『異質物武器』を入れたのを覚えてるよな」

 

「まあ、アレのおかげで『レッドアラート』に勝てたんだからな」

 

「あれって『天命の矛』から加工して作ったことも知ってるな?」

 

「……そもそも『天命の矛』ってなんでしたっけ」

 

「そこからかっ!? 我ながら自分の学のなさにちょっと心配になるな……」

 

 俺の頭が悪いことに関しては悪うございました。自分自身に言われるのが一層腹立つけど。

 

「『天命の矛』は俺が奪ったEX級異質物のやつだ。ここまで言えば思い出すだろう」

 

「あー! ニューモリダスで異質物を保管している『アルカトラズ』から奪い取ったやつか!」

 

 かなり昔な気がして忘れかけてたよ!? そういえば君、アレを持って行ってたね!?

 

「……いや、そもそも返せよ。時効迎えてないんだから返せよ『天命の矛』」

 

「手元にないんだよ。だってアレ『アレクサンドリアル家』に提供したし」

 

「はぁあああああああああああ!!?」

 

 提供したと言いましたか、この男!? こっちのほうこそ我ながら計画性のなさに驚くぞ!?

 

「異質物は大切に扱えよ!? なんで他の学園都市に渡しちゃうの!?」

 

「お前に言われたくねぇよ! レンだっていくつ異質物破壊したと思ってる!」

 

「両手の指で数えられるぐらいだよ! 別にそんな膨大じゃない!!」

 

「そもそも破壊すんな! 国宝級の扱いを受けてるのが異質物なんだからな!? 『三種の神器』だって今や異質物扱いされてるんだぞ! Safe級とはいえ!」

 

「国際的犯罪者が正論言うなよ……」

 

 そう考えたらどっちのほうが罪深いんだろうか。

 片方は大事に異質物を扱いながらも奪っていく国際的犯罪者。片方は存外に扱って異質物を破壊していく世界的無礼者。

 恐らくどっちも死罪だ。本当マリルに保護されてよかったと思うこの頃。というか俺の手で壊したり、無くしたりした異質物の数って一体どれぐらいに及ぶのだろうか。思い出したくない。

 

「……それにな『天命の矛』は必要だったんだ。技術革新のためにな」

 

「技術革新~~? それが『アレクサンドリアル家』にどんな関係を持つんだよ」

 

「説明してやるからちょっと待て。セラエノ、準備を手伝ってくれ」

 

「ほいさっさ」

 

 セラエノはシルクハット帽子を外すと、その中から手品師のようにどんどんと物を出していく。

 手持ちができるくらいの大きさのホワイトボードが人数分。磁石でくっつく黒マーカーと赤マーカーの油性ペン。そしてタブレットと帽子の中で納めるには明らかに質量超過している。

 

「それどうなってるの?」

 

「セラエノの能力だ。『断章』の力で物質の転移が可能でな。これで事実上の『どこでもドア』状態になってる」

 

「ちなみにこれで入国をしてたりするぞ、私とアレンは」

 

「もちろん許可を得てな。不法入国じゃないぞ」

 

 というか、それを使って『アルカトラズ』に潜入したんじゃないのか? よくよく考えれば最初からセラエノの能力が関わっていると考えれば、あの場面で突如として消えたのも頷けるし。

 

「説明しよう。そもそも『異質物』ってのは太古の昔から現存するアーティファクトや国宝や神器や、果てには書物まで、それらすべてを纏めた物を俗称。キリスト教会的な言い方をすれば『聖遺物』と値する物でもある」

 

「聖遺物って聞くとインパクトなゲーム思い出すな……」

 

「それらが『何の力もない、微弱な影響しか及ばない』と判断されたものが『Safe級』と呼ばれ『何の力を持つかわからない、使い方は分からないが絶大な力を持つ』と判断されたものが『EX級』として扱われる。そして……」

 

「『世界そのものに影響を及ぼす』のが『XK級』ってことだよな……」

 

「その通り。その『XK級』は現在確認されてるので合計6つ。その6つを管理し、先進国的な扱いで機能してるのが『六大学園都市』ってことになる」

 

「その六大学園都市が一番から順番に『華雲宮城』『ニューモリダス』『マサダブルク』『サモントン』『新豊州』『リバーナ諸島』なんだな?」

 

「ああ、間違いないぞセラエノ」

 

 こう見ると一般常識を知らないセラエノ、知識が足りない俺、それを噛み砕いて説明できるが難しい単語は使えないアレンと結構分かりやすく状況を把握できていいな。

 

「この六大学園都市が保有する『XK級』……これが地球上で最強の異質物という認識も合っているのか?」

 

「概ねその認識で合っているが……一番強力なのが『XK級』とは限らないのが難しい所だな」

 

「どうしてそんなことが言えるんだよ?」

 

「そもそも『EX級』のほとんどが『何の力を持つか分からない』と定義されてるのは、一応は国宝である以上は『国の威信として価値に優劣をつけたくない』という見栄があるんだ。だって『自分の国の異質物は弱いです。他国に侵略されたら成すすべもありません』ってなったらどうなると思う?」

 

「そりゃ……笑われものだろ」

 

「現実はもっと残酷だ。異質物同士で均衡が取れないと、国同士での優劣はより一層酷くなる。この国際的な軍事力の格差を有耶無耶にするために『EX級』はそのほとんどが公表もしないし、調べようとも思わない。こうしてサモントン協定で学園都市に飼い慣らされて微温湯に漬かった国営を行い、緩やかに絶滅を待つだけの国が出来上がるわけだ」

 

「ラファエルに『核抑止』とかで国同士のパワーバランス的な話聞いたな……」

 

 そう考えるとランボットが提唱していた国が一定の力を持つ異質物を保有するという考え方は正しいと言えるのか。同様に資金さえあれば異質物に勝るとも劣らない『人工魔女』を提供することも。

 

「このパワーバランスを……というか『異質物』で成り立っている情勢に変革が起きない限り、世界は自滅を待つだけの日々さ。100年ほどで自己消滅する人間社会……サモントンがニャルラトホテプの手で荒らされたら、その砂上っぷりも露呈して実は世界中は大騒ぎしている。だから学園都市は色々と影では動いていた」

 

「……華雲宮城はバイジュウによる宇宙開拓」

 

「ああ。そしてマサダブルクは『人工魔女』の確立だ」

 

「けど」とアレンは一息置いて飲み物を口にすると、改めて話を再開させた。

 

「この二つだけが技術を確立してるわけじゃない。ブッチギリで貧乏石だったマサダが『レッドアラート』や『シルバーバレット』や『人工魔女』が作れるような資金があるわけないだろ。資金源を提供してくれるやつだって当然いる」

 

「……それが他の学園都市ってわけか」

 

「というかニューモリダスだな。異質物の輸送・保護はサモントン条約で恐ろしいほどガチガチだ。指輪サイズでさえ厳重な審査と申請の末に過剰な防衛で運搬される。異質物の研究なんて影でひっそりやるには、こんなくだらない三文芝居が必要なほどにな」

 

「じゃあ『天命の矛』というか、アルカトラズの事件って……」

 

「ハッキリ言って『狂言回し』同然だ。サモントン条約を擦り抜けて、他国に異質物を提供する必要があった。その首謀者がニューモリダスとマサダブルクのお上様ってわけ」

 

 汚職まみれってことかよ、その二つは。なんか途端に学園都市としての威信が弱まってきたぞ。

 

「先に言っておくが、俺は依頼を受けただけだからな。それにこんな後ろ暗いことは新豊州だってやってるし、『元老院』は間違いなく認知している。別に汚いのはマサダとニューモリダスだけじゃない」

 

 そこで『国際フォーラム』でリバーナ諸島の代表で出席していた『ティーダ・グレイ』が口にしていた言葉を思い出す。

 

 

 

 …………

 ……

 

『ここは世界のため、国のため、学園都市のため、各々のキナ臭い情勢に蓋をする。それが暗黙の了解だ。そういう後ろ暗いことをしたことない者のみが物申せ』

 

 ……

 …………

 

 

 あれはそういう意味も込められたってわけか。

 学園都市当時、差し合いの自滅はゴメン被る。出し抜くには裏で工作して目を瞑る。それが暗黙の了解ってわけか。

 

 ……そう考えるとスクルドが啖呵切ったの随分と肝座ってるなっ!? そりゃあんな反抗的な態度を普段から取っていたら『藩摩脳研』みたいな事態で闇討ちされるのも納得だぞ!?

 

 

 

「……そういうのが許せない潔癖なやつだっているんだがな」

 

 

 

 その声は、突如として砂漠の奥から響いてきた。

 月光が照らすホワイトカーペット。逆光を背に一人の人物が武器を片手に歩いてくる。

 

 背丈、雰囲気、見た目から男だが女だが判別がつかない——。

 ミカエルが中性的というのなら、目の前の奴は『無性的』といったほうがいい。手足の肉付きに力強さもなければしなやかもない。佇まいに品も華もない。

 

 どこか『機械的』というか演技、役割を熟そうとしているというか——。

 なんであれミカエルとはまた違った『人間味のなさ』が、そこには立ち塞がっていた。

 

 

 

「悪いが——。今から『人工魔女を皆殺し』にさせてもらうぞ」

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