魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第13節 ~Death Race~

『レッドアラート』——。それは『対魔女兵器』と呼ばれる兵器だが、実はこれ自体が完成したのをSIDやレン達が知ったのは、OS事件が始まる一週間前に遡る。

 

 切っ掛けはマサダブルクで起こしたエミリオの奇跡——。民を襲う二酸化炭素の砂嵐をエミリオはその手に掲げるアズライールで一刀両断、一瞬にして蒸発させてマサダブルクの危機を救ったことは記憶に新しい。

 

 しかし、この一件はマサダブルクに良くも悪くも国政に大きな影響を与えた。目に見える救世主は現人神と呼ばれる存在に等しく、宗教思想が根付いてない若年層にはヒーローやアイドルに近い眼差しで見られ、思想に浸かった民は宗教の崩壊を危惧したものもいる。思想の二分化はマサダブルクとしては内城、外城の問題もあり、新たな派閥も生まれる懸念点があったため、即座にエミリオを宗教と教育の首席顧問という形だけの名誉を与え、結果としてそれが他の権力争いに属さない信徒が崇め始めてエミリオ自身は国際的な権力争いからは隔離されることになる。

 

 だが隔離されたとはいえ権力としては依然として顕在したままだ。何かの拍子で政界に参入した場合、マサダブルクは一転してエミリオという聖女を中心とした勢力が生まれてしまう。それを危惧したマサダブルクの政治家達は意見を合致させ、軍事研究者へと『ある目的』を熟せる兵器の開発を依頼した。それによって完成された兵器が『レッドアラート』なのだ。

 

 超小型特攻ドローン『ハニーコム』——。

 重火力無人ヘリ『イエローヘッド』——。

 対城破壊運用兵器『重打タービン』——。

 

 開発された以上、そのどれにも属さない運用目的が『レッドアラート』にはある。それこそが『対魔女兵器』と呼ばれる所以となる。

 

 それは人工的に作られる『執行者』ということ。サモントンに元々いた『審判騎士』と呼ばれたソヤや、同国にある情報機関である『ローゼンクロイツ』に所属するセレサが主な仕事をしている役職だ。その内容は『魔女狩り』——つまりは『ドール』と呼ばれる存在に対抗しうる存在として各地に派遣される独立した戦力でもある。

 マサダブルクでは情報機関『マノーラ』に所属する『ヤコブ・シュミット』が『教団』の管理人として過去にイルカを『執行者』として利用していたこともあるが、今では適当な存在はおらず、ヤコブ自身がマサダブルクに姿を見せないこともあり人工的に『魔女』を作る計画は頓挫——。結果としてマサダブルクでは『執行者』と呼ぶべき存在がおらず、人工的に『魔女』を増殖できなくなった現在では『ドール』あるいは『魔女』に対抗しうる戦力だと持ち合わせていなかったのだ。

 

 そんな時に誕生したエミリオは政治的にも本人が持つ『魔女』として資質は脅威以外の何者でもなく『排除』すべき存在という意見が政界では纏められた。『排除』するために『手段』がいるのは当然であり、それこそが『レッドアラート』こと『血の伯爵夫人』なのだ。

 建前上は世界中で発生する時空位相波動によって発生する『ドール』の排除並びに敵対する外国への迎撃を主目的としてはいるが、実際はエミリオを排除したい政界の意識が見え隠れした代物だ。マサダ内部のテロやクーデター、あるいは先の砂嵐に乗じて『レッドアラート』を派遣してエミリオを排除しようとする魂胆が透けている。そのことをヴィラの父親を通してエミリオとヴィラは知っているからこそ、現在二人は協力の名の下にSIDの管轄内で生活して合法的に身を隠して安全を得ているのだ。

 

 しかし、それでは自体が先延ばしになるだけである。果たしてマサダブルク政府は来るべき日まで『レッドアラート』を放置するであろうか?

 

 否——。軍事国家であるマサダブルクが、対エミリオ改め『対魔女兵器』と呼ばれる戦略級の自立兵器を『軍資金の調達』として野放しにするわけないのだ。

 

 だからこそ第四学園都市マサダブルクの兵器であるはずの『レッドアラート』は、第二学園都市ニューモリダスの夜空で流星となって行動しているのだ。

 

 目的はただ一つ、シンプルに『抹殺』。それはつまり——。

 

 

 …………

 ……

 

 

 夜空に浮かぶ『血の伯爵夫人』を改めて確認して俺は背筋が凍るの感じた。あれは『イエローヘッド』や『ハニーコム』と違い、特定の範囲を無作為に攻撃するわけではない。特定の人物を抹殺するための自律兵器だ。あれが製造元である第四学園都市マサダブルクではなく、第二学園都市ニューモリダスにある以上は確実に抹殺すべき目標があるということでもある。

 

 抹殺——つまりは誰かに『死』をもたらすということ。俺は否が応でもスクルドのことを思い浮かべてしまい、レッドアラートへと警戒心を募らせる。獲物を捉える赤い識別信号は依然として輝き続けており、それは確かめる様にこちらへと少しずつ接近してくる。

 

 背筋に伝う汗が肌を凍てつかせ、血管を巡る血液は氷の様に冷えていく。レッドアラートにとって俺は目標の一つなのだと感じ、一歩、また一歩と後退りをしてしまう。

 

 緊張感が限界に達した。同時に深紅色の流星が駆ける。それがどういう意味を持つのかを把握するのに僅かに遅れた。

 急接近による突撃行動——。俺は回避行動さえも取れずにベンチから飛び出して転がるだけで精一杯だ。

 

 このままでは致命傷を負う——。身の危機を感じた瞬間、浮遊感が俺を襲う。直後、レッドアラートがベンチを巻き込みながら公園に設置された遊具から噴水まで破壊し尽くしていき、ニューモリダス中に轟音が響いた。

 

「セーフ……。一人でどっかほっつき歩くなっつーの」

 

 音が止むと同時に聞き慣れてきた声が耳に入る。レッドアラートと同様に血を彷彿させる赤い髪を持つイナーラの声だ。

 

「ご、ごめん……」

 

「謝る余裕があるなら逃げるの優先。イナーラさんは戦闘に関してはからっきしなんだから」

 

「イナーラさん、ここは俺達に任せて避難を!」

 

 すると今度はカッセルがパランティアの構成員を四人ほど連れてレッドアラートの前に立ち、躊躇いもなく構えてアサルトライフルを引き金を引く。今度は断続的にリズムを刻みながら発砲音が轟くが、レッドアラートは生命ではなく防弾装甲を纏った兵器だ。弾丸ではかすり傷を付ける程度であり、行動に支障をきたすことなく、人体を模した赤い四肢は機械とは思えぬほど柔軟な立ち上がった。戦闘体制をすぐに取り、銃撃を放つパランティアの構成員達に次々と襲いかかる。

 

 これはロボットというには、巧妙で繊細過ぎる。自律行動のために装備されているジェネレーターや武装の数々を鑑定しても3mに及ぶかどうか。人体を模した四肢には、それぞれ独立した思考回路と視覚センサーが搭載されており、各々の部位に当たるマニピュレータを動かすという設計だ。そのせいで頭部と呼ぶべき存在はなく、胴体だけがメインコアとバランスを取る設計を持つことで、アタッチメントの柔軟性を損なうことなく動力部の耐久性を維持している。これは予めSIDやエミリオから又聞きされていた情報だ。だが実際に観察して初めて分かる。それらの情報がいかに兵器としての完成度が高いのかを。空に浮かんでいた事実といい、生産数が少数ながらも確かにこれはマサダブルク屈指の自律兵器だ。『ハニーコム』の時といい、生物として機能する動きの根本を理解している。

 

「さっさと逃げるわよっ!」

 

 感心するのはそこまでにして、俺はイナーラさんに手を掴まれながら公園のすぐ近くにある裏道へと入り、レッドアラートの追跡を振り払う。

 

「…………まあ、そう簡単に逃してはくれないわよね」

 

 しかし眼前にはレッドアラートとは違い、青い装甲を持つ四足歩行の小さな兵器が十数個も見えた。これはレッドアラートに付属する超小型自律兵器『ブルートゥース』だ。サイズとしては成人男性の手の平より一回り大きい程度のものであり、名前の通り無線通信規格の機能を持つ兵器だ。これが存在する限りブルートゥースを通すことでレッドアラートには対象の補足されるということでもあり。現在逃走中の俺達にとって危険この上ない代物だ。

 

 だが、ブルートゥースが持つ役割はそれだけはない。その名前には通信規格だけでなく、『ブルー』と『トゥース』と分けて意味する役割さえ持つ。

 

 つまりは『歯』を意味する噛みつきと、『同士討ち』(ブルー・オン・ブルー)を意味する『ブルー』である。

 

「危ないっ!」

 

「分かってるって!!」

 

 俺の掛け声に合わせて、俺とイナーラは手を離して左右に広がり、迫ってきたブルートゥースの噛みつきを既の所で回避した。

 

 あいつの歯には『鎮静・幻覚作用』をもたらす『薬物』が混入されているのは俺でも知っている。何せマサダブルクが『ドール』と対抗するために、ありとあらゆる手段を持って作り上げたレッドアラートの付属機なのだ。『ドール』といえども元が人体である以上は、薬物の効果も出るかもしれないという考えがあって搭載されている。

 

 さて、どうするべきか。進もうにもブルートゥース。下がろうにもレッドアラート。どちらにしても危険地帯なのは変わりない。『OS事件』とは違い、ラファエルの協力なんてないから治癒石はないし、元より大規模な市街戦闘なんて考慮してないから、今の俺には救急セットの類さえ所持してない。ほんの少しの怪我でも命取りになりかねない——。

 

「しかし……レッドアラートもそうだけど、どうしてアンタみたいな女の子を狙ってるの? マサダブルクやニューモリダス相手にやんちゃ騒ぎでもした?」

 

 確かにイナーラの言葉はごもっともだ。俺はあくまで今回限りのボディガードに過ぎず、これらがスクルドを狙う輩の戦力だとしても、俺自身を対象にするのは些か疑問が湧く。俺自身の脅威なんてたかが知れているのだから、仮にスクルドの周りを狙うにしても筆頭はファビオラになるのは間違いない。だとしたら俺を狙う理由があるはずなんだ。機械が間違えることなんて基本ないのだから。

 

 何故俺を狙う——? 次々と襲いかかるブルートゥースの噛みつきを捌き切りながら考える。これ自体に殺傷力らしい殺傷力はない。ブルートゥースで無力化して拘束、あるいはレッドアラートが迅速に処理するための先鋒に過ぎない。先の遭遇でレッドアラートが俺を狙ったくせに、パランティアと合流した後はレッドアラートは追撃を行わずにそちらを攻撃し、次にブルートゥースを寄越してきた。この時点で『俺』に対する扱いは『抹殺』ではなく『拘束』が主にしてるのが分かる。

 

 ならばどうして『拘束』する——? 

 俺の『拘束』に何の意味がある——? 

『俺』に何を意味を持っている——?

 

「……そういうことか!」

 

 だったら、この状況はむしろ千載一遇のチャンスになる。迫り続けるブルートゥースの反撃を俺は止めて、イナーラに向かって声を張り上げて告げる。

 

「イナーラさん! ブルートゥースを無力化させないでください!」

 

「はぁっ!? あんたどういう状況か分かって言ってる!?」

 

 ヴィラやエミリオほど力強くはないとはいえ、しなやかな身のこなしでブルートゥースを一機ずつ確実に破壊するイナーラは驚きの声を上げた。

 

 無理もない。だって事情を知らない人に説明したところで、俺の考えや共感してくれるのは無理な話だろう。だけど、この仮説でなけれは『俺』を狙う理由が思いつかない。

 

 だってレッドアラートが俺を捕捉したというのに、目標である俺を執拗に狙うことなく付属機を派遣してきたのだ。対人特化であり、目標達成を優先する思考回路を持っているはずだというのに。つまりレッドアラートの思考判断での俺の優先順位は『高い位置にはあるが、最優先ではなく付属機に任せる』というのが分かる。なぜ、そういう思考を判断するのか。ここには必ず俺が想定している理由が関わっているんだ。

 

 イナーラは戦闘の合間だというのに、俺の瞳を見つめ続けて心情を理解してくれたのだろう。呆れ気味に溜め息を吐きながら、ブルートゥースから大きく距離を取ると、彼女は懐から手榴弾を投げつけた。

 

「……って、おいおいおい!?」

 

 あまりにも自然な動作で行うものだから、さも当然のように認識してしまったが、ニューモリダスで爆発物を使うのは大丈夫なのか!? パランティアは情報機関だから銃や爆発物を使っても不思議じゃないが、イナーラはどこの学園都市にも属さないだから、使用すると銃刀法違反とかに違反するよね!?

 

「目も耳も防ぎなさいッ!!」

 

 ――爆破音と共に、閃光が広がる。

 

 夜の世界に光が差し、世界は一瞬だけ朝日よりも眩しく白一色に染まる。

続いて襲い掛かってくるのは不快感だ。瞼を閉じているのに、視界が白黒に点滅して瞳孔が荒ぶる。耳も指を詰めて防いだというのに、脳ミソや目の奥が掻き回された感覚に陥り、足が付いているはずなのに身体に浮遊感を感じて仕方ない。

 

 この現象に俺はFPSで聞き齧りした程度の知識を思い出す。目は閉じても完全に光を遮断するわけではないし、耳栓なんかしたところで『音』というものは人体の水分を通すことで、耳が耳として機能する『三半規管』には普通に届く。イナーラが投擲した閃光手榴弾の衝撃は、俺の気休め程度の防護策では防ぎ切れるわけがなかったのだ。

 

「――――――!」

 

 耳を劈き続ける不快な音がイナーラの声を掻き消す。視界は点滅して彼女の口の動きも表情も分からない。だが急かすような挙動だけは、俺の身体を通して伝わる。その意図を把握した俺は全体重を彼女に預け、急いでブルートゥースから距離を置いて逃亡を図った。

 

 逃走して数分。ようやく視界が慣れて周囲の状況を把握する。警備の薄い、あるいは廃ビルに潜り込んだようであり、シャッターを下ろし、ロビーにあるソファやらテーブルでバリケードを積み上げて警備を固めるイナーラの姿が見えた。

 

 その間に俺は胸元のスピーカーへと応答を始める。特有の痺れが奔ってから十数秒後。聞こえてきたのはマリルや愛衣ではなくアニーの声だった。

 

『大丈夫レンちゃん!? こっちでも自立兵器の襲撃を確認したから対策を講じてるところなんだけど……!』

 

「こっちは大丈夫。深い怪我とかはない。それよりもブルートゥースの動きを追う事ってアニーでもできる?」

 

『パランティアとの協力さえあれば市街カメラは共有できるし、独自でも衛星を通せば追跡できるけど…………動向を追うのはレッドアラートじゃなくていいの?』

 

「……一応どっちも追ってほしい。だけど最優先はブルートゥースにしてほしいんだ。色々と自体が急転していて対応が間に合わないだろうけど……もしかしたら二兎を掴めるチャンスかもしれないんだ」

 

『……うん、わかった。ライブの時もそうだけど、こういう時のレンちゃんの考えは信じてみるよ』

 

 アニーからの言葉は、現在自信喪失気味の俺の心に温かく届いた。リアルタイムでSIDの情報を俺が持つ端末に送ってもらい、ニューモリダスの地図情報と合わせて現在の状況を詳しく把握しようとする。

 

「カッセル! そっちの状況はどう!?」

 

『予定通り、姐さん達が離脱したら安全第一で即刻こちらも戦線から引きましたよ! 市街のど真ん中で銃を撃ち続けるわけにもいかねぇし……』

 

 イナーラが持つ無線機からパランティアの声が聞こえてくる。どうやら一時はレッドアラートを攻撃を凌ぎ切ったようだ。

 

『だけど未だに上空で旋回中! 付属機も街中で見かけるし、見つかり次第再び戦闘になるのは間違いないですよ!』

 

「んなことはとっくに分かってるっての! さっさと上官の指示を仰げ! キャセールだって、いつまでも新人のケツ噴きするような甘ちゃんじゃないでしょうが!」

 

『とっくにやってますよ! だけど驚かないで下さいよ! 伝達された情報の通りならレッドアラートは合計『3機』行動してるんだ! そのうち一つは『ニューモリダス大使館』に向かってるんだぞ!』

 

「マジで言ってんのか、それ!?」

 

 無線機から聞こえた情報に俺は驚きを隠せない。

『ニューモリダス大使館』と言えば、ニューモリダスの議員達が集う建物の1つだ。それはつまりスクルドの父……スノーリ・エクスロッドがいるということでもある。

 

「ちっ……私の協力が扇げなかったからって、ここまで無遠慮な方法で強行するなんて……」

 

 悪態をつきながらイナーラは外への警戒を続ける。そういえば暗殺計画に関しては一度イナーラに依頼があって、それを突っぱねたとか本人が言っていたっけ。だから彼女から見れば、ここの一連の事件は『エクスロッド暗殺計画』を起こそうとする依頼主が起こしているように見える訳か。それならイナーラが俺に対して「ニューモリダスかマサダブルクに対して喧嘩売った」という言葉に対しても改めて納得いく理由ができた。

 

 …………ちょっと待てよ。何かおかしくないか。

 

 だったら何故、ここまで執拗に『俺』は狙われている? レッドアラートが俺を狙う理由は先ほど予測できた。だけど、それは明確な『理由』が見えたからであって、そこにそれ以上もそれ以下もない。騒ぎに乗じた執拗という『感情』任せの行動が見え隠れしてならない。まるで『誰か』が行き当たりばったりに行動してるような……。そんな考えは『エクスロッド暗殺計画』の考えにはそぐわない筈だ。

 

 つまり……この一連の出来事には『エクスロッド暗殺計画』を知った第三者が乗じたものという可能性が出てきたという事だ。

 

 ……そうか、それなら『3機』動いている理由が分かる。

 

 一つはエクスロッド議員の直接的な殺害のため。

 一つは理由は推測のままだが、俺を狙ったもの。

 

 もう一つは…………。

 

 俺の中で散り散りとなった情報という情報が紡がれていく。そして、あることに気づく。『足りない』と――。

 

「……アニー。レッドアラートとブルートゥースの動きはどうなってる?」

 

『赤についてはパランティアの報告通り。付け加えるなら行方を伝達してない一つは遠く離れた非武装協定地域で滞在しているということだね。戦闘行為は行っていないし、ここは距離が遠いからレンちゃん達と遭遇する事はないと思う。青は街中を大通りを巡回中。目立つからニューモリダス市民も落ち着かない様子で見守っているよ』

 

 警戒すべき二種類を『赤』と『青』と呼称して簡潔にアニーは伝えてくれた。俺はその情報から端末に写る現在地を照合して、予測をさらに広げて先手を打つ手段がないかと画策する。

 

「――ここだ」

 

 二種類の動きに不自然な『穴』があることに気づいた。それは警戒がないという意味ではなく、むしろその逆。レッドアラートとブルートゥースの動きは渦を巻くように動き続け、着実に、そして罠に嵌めるように『穴』に誘導しようとする動きが見て取れた。

 

 ここしかない。ここに今回の騒動に乗じた第三者の目的が――いや、本来この騒動を主目的となるはずだった人物がいるに違いない。

 

 ――――――――さあ、反撃開始だ。

 今まで後手に回っていたが、ここからはそうはいかない。

 


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