魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

39 / 170
総合評価500ptありがとうございます。
今後とも投稿ペースを維持しつつ体調改善を努めます。


第15節 〜Over Lap〜

 駆ける——。

 俺は駆ける——。

 ひたすらに駆ける——。

 

「ちょっと! そんなに急ぐ理由ある?」

 

 赤と青の脅威がいつ襲撃するか分からないニューモリダスの夜。俺はは手元にある端末からブルートゥースやレッドアラートの位置を随時確認しながら、それらに見つからないように裏路地を駆けていく。

 

「ある! もしかしたら元凶がいるかもしれないんだ……!」

 

 走りながら話しかけるイナーラに、俺は少し乱暴な返答をした。

 

「元凶……?」

 

 その声は疑問というより、思考に耽るような物だ。

 俺が先頭で走っているから表情は見えないが、何やら思うところがあるようだ。振り返って話しかけてもいいが、時間は刻一刻と迫ってくる上にブルートゥースの動きだって常に見ていないと、途端に閃きは輝きを失ってしまう。

 

 隠れるのに丁度いい物影を見つけると、俺とイナーラはそこに潜み込み、再び端末に映る青と赤の位置情報を確認する。

 

 …………今いる位置から一時と二時と三時の方向に各1体ずつ。そして十一時の方向には2体と、10時の方向に1機ずつか……。

 

 12時の方向が隙だらけ。それは分かっている。

 

 そしてこれが『罠だとも分かってる』のにも関わらず、俺は呼吸を整えると再び走り出した。イナーラも慣れてるからか、息を乱すことなく俺の後をついて来てくれる。

 

「走りながらで申し訳ないけど、元凶って何? あんたには『エクスロッド暗殺計画』の首謀者が分かったって言うの?」

 

「首謀者かどうかまでは分からないけど……っ! この一連の出来事については大体予想がついた! 第三者が関わっている可能性があることも……」

 

「第三者? ……まさか私とは言わないでしょうね?」

 

「言わないよっ! というか何でそうなるの!?」

 

「クセみたいなものぉ〜。こういう仕事してると、誰彼構わず私を疑うから、ちょっと探りを入れたくなるのが性ってもんでしょうが」

 

 こちらも慣れて来たとはいえ、イナーラが途端に見せる精神的多面性にはついて行けそうにない。

 

 おちゃらけたり、妖艶だったり、真面目だったり、疑り深かったり、今まであった誰よりも人間としての中身が掴めてない。俺も何日も一緒にいるわけでもないから、イナーラに関して任務中の会話だけで人物を評することはできはしない。

 

 ……とはいってもマリルの言葉通りなら、この人も割とアレな人物なはずなんだけどなぁ。どうしても『普通』な感じがあるのが否めない。

 

「なんか思ってるところ悪いけど、話の続きしてもらっていい?」

 

「あっ、ごめん……。えっと……そうだ。第三者については確定してるわけじゃない。もしかしたら心当たりがある人物がいる……そう思っているんだ」

 

「心当たりって……」

 

 イナーラは溜息をついた。心底呆れているのだろう、俺だってそういうので動くのは良くないのは分かっている。

 

 だから行動指針には、そういう感情は入れていない——。

 そのことを彼女に伝えると「はぁ?」とこれまた呆れた様子で言った。

 

「じゃあ何で動いてんの? 心当たりがあるなら、それに応じた対抗策があるって考えるけど、それを抜きにしたら愚策過ぎない? 相手の居場所が分かっているとはいえ、わざわざ敵陣の只中に突っ込んでいくのは無謀って言うのよ?」

 

「……だよね。俺みたいな半端者が動くのは無謀だよね……」

 

「いや、謙遜してるとこ悪いけど、アンタ筋自体はいいからね。確かにSIDのエージェントとしては未熟ではあるけど……。一般的に見れば女の子としてはかなり恵まれた身体よ?」

 

「というか」とイナーラは一息置いて告げた。

 

「アンタどっか卑屈になってない?」

 

 …………図星過ぎて何も言い返せなかった。

 

 俺は今すごい精神的に弱っている。

 アレンに負けたことが、ここまで堪えるなんて思ってもいなかった。

 

 あいつのことを考えると思い浮かべてしまうのは、告げられた数々の言葉の意味や真意。

『第七学園都市』や『マリルの死亡』や『魔女小隊』などの並行世界の出来事としか考えられない。何よりも心を揺さぶるのは目前に迫る危機。

 

 それは『スクルドの死』——。

 

 そのことを考えると、意識は一気に鮮明になって正気になれと自分を鼓舞する。頑張れと、挫けるなと自分を脅迫され、同時に焦燥感も湧き出てくる。

 

 今は卑屈になったり、弱ったりしてる暇も余裕もない。

 俺は強く頭を振ると、一度深呼吸をして心中を溢した。

 

「卑屈になってるけど……。こんな俺でもやれることがあるんだ。スクルドを助けることが……」

 

「お嬢様を助ける? 確かに今回のは暗殺計画の一連ではあるだろうけどさ……。だとしたらこの行動に意味ある? 助けるなら直接行ったほうが良くない?」

 

「あるし、向かってる。俺がここまで先導して来たけど、一度もブルートゥースに見つかっていない。……まるで『誘導』されているように」

 

「うん。それは衛生写真から注意深く見れば分かるよ。だから何? アンタはそれが分かってるのに、その通りに動いてるお間抜けということになるけど?」

 

「お間抜けにならなきゃいけないんだ。本来ブルートゥース全体の動きを把握できるわけがない。だけど俺たちは把握してる。何故なら組織の力が介入しているから」

 

「まあ、そうね」と簡単な相槌をイナーラは打ってくれる。

 

「……なら今現在進行形で狙われているスクルドとファビオラはどうだ? 何らかの組織に所属してるか? 仮に個人所有してる情報網があるとしても、それは父であるスノーリ・エクスロッドさんの力だ。大使館が襲撃された今、それが機能してるか?」

 

 俺の意見にイナーラは黙りこんで考え込む。

 短くも長い沈黙。自分の中で整理がついたのだろう、イナーラは「続けて」と催促してきた。

 

「…………もし機能してないとしたら、スクルド達は誘導される可能性が高い。逃走先のルートを絞り込んで、意図的に相手が想定していた場所へと向かわせる……それも可能だろう?」

 

「……面白い考えだけど、それならレッドアラートを使う理由がなくない? もし当たってると仮定して、そんなことのために人間絶対殺すマシンを使用するのは過剰じゃない? しかも3機……。1機でも充分が過ぎると思うけど」

 

「……レッドアラートが来たのは本来の目的があるからだ。エクスロッドを狙うのは、あくまで『ニューモリダス側の事情』……。レッドアラートの製造元である『マサダブルク側の事情』も金以外にあるはず」

 

 目的はただ一つ。ひたすら純粋に『抹殺』——。

 マサダブルクにとって、抹殺したい対象となるのは、この場にいるということでもある。

 

「……その本来の目的こそが、アンタが想像してる人物というわけね」

 

「うん……。予想してるのは二人……だけど……」

 

「だけど?」

 

 ……いやこれ以上は憶測だ。今したところで特別何か意味があるものにはならない。むしろ混乱の元になる。

 

「……これ以上は意味がない。さっき伝えた行動指針云々になる。だけどそういう可能性が見えたら、俺はスクルドを守るために動くしかない。……例え罠であったとしても」

 

「ふ〜ん……。色々とまだ問い質したいけど、私も依頼を請負っただけだからね。顧客がそういうなら、それ以上は踏み込まないでおきたいけど……」

 

「一つだけ分からないだよねぇ」と頭を掻きながら彼女は言った。

 

「アンタにとって、スクルド・エクスロッドって何なの?」

 

 ——その言葉を理解するのに時間がかかった。

 

 あまりにも当然すぎて、今まで頭の中で自然とスクルドを守ろうと考えていたが、そもそもとして何で俺はスクルドを守ろうとする?

 

 ……言葉で表すには難しい。理由なんて色々ある。

 

 悩んだ末に、自分語り思っていることをそのままに出した。

 

「俺はスクルドにとって『一番大切な人』だから。……子供の期待には応えないといけないだろ?」

 

 それは俺がどこか夢見て憧れてる『大人』としての在り方だ。

 憧れるのは、どうあれ今まで影にあったマリルの影響も大きい。

 

 南極事件や藩磨脳研での後処理。

『天国の扉』騒動で密かに起きたソヤとの裏交渉。

 マサダブルクでのエミリオを救うための交渉。

 

 ……そして今もアレンを捕らえるために協力をしてくれていること。

 

 全部、俺の我儘があった。

 

 マリルからすれば『新豊州』の治安に限っていえば上記全て無碍に扱ってもいいのだ。ソヤだって、エミリオだって、むしろ『新豊州記念協会』の時でさえファビオラを無視しても良かったんだ。

 

 だけどマリルは…………。全部受け止めてくれた。

 

 そもそもの始まりでさえ、俺が『女の子になった』という狂言紛いを信じてくれたからこそからだ。

 あれだって、この世界での最初の接触でさえ『ロス・ゴールド』の消失やら、俺が『時空位相波動』を突破したという興味本位から派生し、色々と事情や裏付けが奇跡的に重なっていたからこそ信じてくれたんだ。

 

 いちいち細かいことを言及せずに、『俺という一個人の存在』なんて無視して、アニー諸共『時空位相波動』を解決する『手駒』として言いくるめても良かったというのに。

 

 何でそうしたのか。それはマリルが根本的には優しい人だからだ。

 

 常に本人は「私も含めて元老院にロクなやつはいない」と口にはするが、どこまでいってもマリルは優しいし、大人としてしっかりと責務を果たしてくれている。

 

 何より行き場もなくて、これからどうすればいいのかも分からなかった『女の子の俺』は、藁にも縋る思いで彼女に会いに行った。

 

 そんな期待に、彼女は無償で応えてくれた。

 

 だったら、今度は俺の方こそ期待に応えないといけない。

 あの時俺が困っていたように、誰かが困っているなら応えないといけない。

 

 スクルドにとって、俺は『一番大切な人』でもあるんだから。

 

「……そっかそっか♪」

 

 イナーラはご満悦な表情を浮かべて、今までの肩が凝るような厳粛な雰囲気は消え失せ、初めて会った時のようなケラケラと飄々とした雰囲気を全面に押し出す。

 

「うんうん! イナーラちゃん気に入ったよ! 今日からアンタも私のお得意様だ!」

 

「そんなご機嫌になることっ!?」

 

「ご機嫌にもなるさ〜〜! ようやく納得がいったというか、何というか……。そういうことかぁ〜って」

 

「そういうことって、どういうこと……?」

 

 自分の中で解消できた何かしらの疑問でもあったというのか。

 

「気にしないで。女は謎が多いんほうがいいんだよ」

 

「まあ」とイナーラは一息置くと————。

 

「君みたいな青臭い子には分からないと思うけど」

 

 意味深な含みを入れて、彼女は優しく笑った。

 それは慈しむようで、そして愛しむようで——。

 

「……どういう意味?」

 

 つい、その表情にある心境が聞きたくなってしまった。

 

「う〜ん? そうだなぁ。強いて言うなら……」

 

 彼女は語るように優しく口を開き——。

 

 

 

 …………

 ……

 

 最初からあった時から違和感しか感じなかった。

 私ことイナーラちゃんは、元来自分が持つ『聖痕』の影響もあって、誰よりも自分が覚えたことを忘れないように過ごしてきた。

 

《…………アナタの瞳、見覚えがあるわね。前に依頼したことあった?》

《いやいやいや……。知り合った覚えなんてこれっぽっちもないです》

 

 だから初めてレンの顔を見た時、まず間違いなく初対面だというのに初めて会った気がしない感覚を覚えたのだ。

 

 無論、私は生まれ変わりとか転生とかの世迷言は信じない根っからの無神論者だ。神様がいるなら、今の『私』なんているわけがない。ましてや『個人請負人』や『イナーラ』という名が世界中に轟くわけがない。

 

 だけど、この時ばかりは前世の付き合いとか、転生とかを信じたくなってしまった。

 それぐらいレンと邂逅した時には、言い表せない『運命』を感じてしまっていた。

 

 …………その疑問の正体がやっと分かったんだ。

 

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 

 

「ほら、アンタの依頼通りに、あの事件について調べてきてあげたわよ」

 

「ありがとう。本当イナーラには世話になるよ」

 

 それは数ヶ月前。

 私とアイツに頼まれて『ある依頼』の調査報告をした時のこと。

 

 その日は今でも思い出せるほど鮮やかで、楽しくて、幸せで…………そして苦くて、辛くて、褪せた出来事だった。

 

「世話になるって……それはお互い様。アルカトラズの時だって、協力しても良かったんだよ? なのに工作用の爆薬か端末だけ準備してくれればいいなんて……」

 

「こっちだって財政難なんだよ。おいそれと天下のイナーラ様に頼めるようなリッチマンじゃないんだ」

 

 そういって彼は決して真っ白ではない歯並びを見せて笑顔を見せてくれた。

 

「アンタ相手なら別に無償にしてやってもいいけどね」

 

「色々と店営業してるんだろ? 少しでも足しにしてくれたほうが……」

 

「個人経営だから気にしなくていいって。絞るもんは絞ってるし」

 

「……知ってるよ。そうやって言うけど、イナーラって身寄りのない人達を大勢匿っていること」

 

 私はそれに対して返答したくなかった。

 別に人助けがしたくてしてるわけじゃない。私の『承認欲求』を満たしたかったために行なった過剰なエゴみたいなものだ。

 

 ……今はもうそんな欲求なんてないから続ける理由もない。じゃあ『何故続ける』と言われたら明確な答えなんてない。成り行きといったほうがいいだろうか。

 

「……世知辛い世の中だからねぇ〜。こうでもして恩を着せなきゃ老後人生を安泰できないんだわ」

 

 とはいえ無言のままでは、彼の言葉に対して肯定を意味してしまう。私が『善意』で動くような薄っぺらい女だと覚えられたくない。

 だから見栄を張って、いつもの飄々とした態度を装い私が持つ弱さを隠す。

 

 …………彼にはとっくに私の事情なんて筒抜けだというのに。

 

「……ほんの少しでも助けられる運命があるというのなら、俺だって無償で手を貸すさ」

 

 そんなんだから、彼も私の言葉なんて上手く汲み取って話しかけてくる。私のことを理解してくれているから。そりゃもう恥ずかしいくらい赤裸々に。

 

「……でも、手を貸すのはすごいことだと思う。俺もイナーラみたいに人助けしたいさ」

 

「はっ! それでエクスロッド議員の一人娘も助けたっての?」

 

 吐き捨てるように出た言葉は、彼に依頼された内容である『新豊州記念協会』であったエクスロッドの一人娘と、その側近が襲われた事件についてだ。

 

 ある日、彼はエクスロッドのお嬢様を助けたという。それを私が知ったのは事件後のことだ。

 彼はどうしてこの出来事が起きたのかを調べるために、私に依頼してきた。調査情報も彼に渡して、その事件を起こした目ぼしい犯人についていくつか候補さえも上げている。

 

 それが今会っている理由——。

 

 ささやかだけど、私だけが彼を独占できる唯一の時間だ。

 

「……ちょっと違う、あれは自己満足さ。今度こそは、と思って……だけど結局はダメなんだ」

 

 ——初めて彼がひ弱な態度を見せた。

 

 その瞬間、私の中である感情が爆発した。

 我ながら醜い『妬み』というやつだ。

 

「……アンタにとって、スクルド・エクスロッドって何なの?」

 

 それは我ながら女々しくて大人気ない嫉妬だ。

 子供相手に自分の思いを垂れ流し、彼の心中を問い質そうとするなんて。

 

「…………」

 

 アイツは困ったような、恥ずかしいような表情を、これまた初めて浮かべた。

 

 ——知らなかった。私は、彼がこんな表情も浮かべられるなんて。

 

「まさかロリコン? 性癖は人それぞれとはいえ相手が悪過ぎない? あのエクスロッドだよ?」

 

「いやいやいや! 待て待て待て! まだ何も言ってないっ!!」

 

 彼はしばらく頭を抱えると悩むだけ無駄と考えたのか、先ほどまでの百面相は消え失せ、自然体ながらも悲しい顔で告げた。

 

「俺はスクルドにとって『一番大切な人』だから。……子供の期待に応えないといけないだろ?」

 

 その言葉は、私の胸を焼き焦がすほどの激情を抱かせた。

 

 妬み——? 違う。

 怒り——? 違う。

 悲しみ——? 違う。

 

 それは負の感情ではない。でも正の感情でもない。強いてあげるなら両方だろう。

 

 ——あぁ、何て『儚い』んだろうって。

 

 だから……改めて思ったんだ。

 

 背負わされた運命を無碍にもできず、見ないフリをすることもできない。だけど誰に頼ることもしない。そんな悲壮で不器用な彼の力になりたいと。

 

 それが……報われない思いであったとしても。

 

 

 

 ……

 …………

 

 

 

 

「…………やっぱり言〜わない♪」

 

 結局は勿体ぶって口に蓋をしてしまった。

 

「気になるなぁ……」

 

「お互い様。それに今はエクスロッドのお嬢様が最優先でしょ」

 

 確かにそうだ。

 これ以上、推測や無駄だらけの話を続けても意味がない。

 

 スクルドを守る——。それだけが改めて分かれば十分だ。

 

 俺は目前に迫った目的地を見つめる。

 

 そこはニューモリダスに数ある教会の一つだ。

 七年戦争の影響で半壊され、学園都市に発展に伴なって外観を損なわないように最低限の改修工事で保管された施設でもある。

 継ぎ接ぎだらけで閑散とした庭園は『黒糸病』などの環境汚染の影響もあって観葉植物ぐらいしかなく、それさえも手入れが届いていない。朽ち果てた様子は、廃れたレストランや工場にも見えて、どうにも秘密基地という印象も拭えない。

 

 

 

 ここは————。

 

 

 

「……何でレンお姉ちゃんがここに?」

 

 その声を聞いて、最悪な事態は隣り合わせだったことを改めて認識した。

 

 俺は声がした方向へと振り返る。

 そこには守らないといけないと再認識させてくれた金髪の少女、スクルドの姿があった。

 

 少女が本来持つ精霊のように神聖で愛嬌がある雰囲気は消え去り、ガウンの裾は汚れまみれだ。可愛らしい革靴の爪先も相当に走ったのか、かなり擦り切れている。

 痛みに耐えるように表情を顰めるスクルドの様子からして、恐らく革靴で長時間走った影響で踵辺りの関節部も痛んでいるのだろう。

 

 心配はするし、さっさとここから退いて手当もしたい。

 だけど、それよりも先に聞かなきゃいけないことがある。

 

「……逆に聞くけど、何でスクルドはここに来たんだ? それにファビオラは?」

 

「……大使館が襲撃されて、ファビオラと途中まで一緒に逃げて……それからマサダの兵器に見つからないように逃げてたら見覚えのあるところに来て…………」

 

 予想していた通りだ。

 スクルドは首謀者となる者の手筈で、ここに意図的に連れ込まれるようにされてきた——。

 

「それに、ここなら非武装地域だから安全だし……」

 

「ここが非武装地域……」

 

 デジャヴだ——。デジャブを感じた。

 

 重なる『記憶』は二つ——。

 

 それは何時ぞやの夜。『雷光』の『記憶』——。

 それは何時ぞやの空。『天空』の『記憶』——。

 

 その二つに、『あの男』はいつも薄寒い笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。

 

「おや……。いつ以来の顔ぶれが一人いますね……」

 

「……やっぱりお前だったか」

 

 俺たちがいる場所——『トリニティ教会』正門前に一人の男が立つ。

 

 温和で人の心に寄り添うような優しい笑顔。

 メガネの奥にある細く伸びる目は、まるで子供の成績を見て喜んでくれる保護者のように澄んでいる。

 

 だが俺は知っている。

 この笑顔に潜む悪質さを。この笑顔に潜む外道さを。

 

 思い出すだけで腹の奥で、怒りが煮え繰り返る。

 溢れ出る激情を少しでも押さえつけようと、俺はその男の名前を怒りと共に吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤコブ・シュミット!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。