あと名前が固いし長いと感じたのとTwitterと統一するために『fate20111222』→『かにみそスープ』と改名しました。
今後ともよろしくお願いします。
「さて、とりあえず一連の事後処理を終えた訳ですが……」
『ご苦労だった。イスラフィールもパランティアの協力もあって速やかに再度封印と、サモントンへの手配が完了した。……個人請負人がここまで協力的なのは珍しいな。サービス料でも請求する気か?』
「個人営業だからアフターケアも万全じゃないと顧客の信頼度に関わるの。だから無償で……と言いたいけど、組織としての顔も立ててチップ程度なら貰いましょうか?」
『鐚一文足りともやらん。……それでは、手筈通りにスクルドの遺体はこちらで預かろう。ヤコブが言っていたこともある手前、ニューモリダスに置いたままにするわけにもいかんしな』
虚脱感だけが心を通り過ぎ、イナーラとマリルの声が耳を通り過ぎる。
何を言ってるか、全然わからない。
未だにスクルドの重さを感じようと、ここにはいない少女の虚像を掴む。
無駄だって分かりきってるのに。
……身体も、思考も、心も穴だらけだ。
砕け散りそうだ。張り裂けそうだ。崩れ去りそうだ。
だというのに……俺はここにいる。
スクルドじゃなくて……何の役に立ってもいない俺が。
「……アンタが気にする必要はないわよ」
背後から一番聞きたくない声が聞こえてきた。……ファビオラだ。
今、彼女はどんな顔をしてるんだろう。
怒りか、悲しみか。顔を合わせるだけの勇気がない。
どうしても浮かんでしまうのは、自分を守ろうとする言い訳だらけの庇護心。なんて自分勝手なんだ。この期に及んで我が身のほうが可愛いとでも言うのか。
彼女は…………ファビオラは、どんな時でもスクルドを守ろうと第一にしていたというのに。今更俺がどんなことを取り繕っても許してはくれないだろう。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
俺は顔すら合わせずに、ただ謝罪の言葉を吐き出し続けるしかなかった。
ファビオラが俺と同じ状況だったら、間違いなくスクルドの身代わりになろうとしただろう。……いや、そもそもスクルドの命を晒すということさえ許しはしなかっただろう。
ただ今回は生き残ったからここに居るだけで、ファビオラがレッドアラートと一騎討ちになった時は、命を落とす前提で戦ったに違いない。スクルドを危険から守るために、仕方なく自分から離れさせてでも。
「謝らなくていい。私に責任があるんだから……」
仕えるべき主人がいないせいか、ファビオラの口調はいつもよりは荒々しい。だというのに、吐き出された内容は俺の身を案じた物だ。彼女のことだから嘘は言っていない。本心からの優しさだ。
————今は、その優しさすら痛みとなって突き刺さる。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ、ごめんなさい……っ」
謝ることしかできない。流したくもない涙が、溢れてやまない。
上半身を支えるために地面についていた両手は、いつの間にか力が抜けて額が地べたへと落ちていた。
土下座でも、何でもない。みっともなく背筋が崩れているだけ。
誠意なんてない。あるのは『ごめんなさい』としか謝ることができない無為に積み重なる負い目だけ。
「……辛いよね。苦しいよね。大切な人が、目の前でいなくなったんだもんね」
そんな時、イナーラが声をかけてきた。
いつもの飄々とした掴みどころのない雰囲気はない。むしろ親しさす感じるほど柔らかい物腰だ。まるで今生においての無二の親友のようで、何処からか安らぎを感じるほどに。
俺と大して身長が変わらないはずなのに、一回りも大きく感じるほど優しい抱擁をすると、彼女は「だからさ」と話を紡いだ。
「……あなたが望むなら、今回起きたこと『忘れる』ことができるわよ」
——『忘れる』ことができる?
この痛みも、この虚しさも、この悲しみも……。
全部忘れることができるのか?
それは、なんて楽なんだろう。なんて救いだろう。
……それに縋りついて堪らない。
「……イナーラに関することだけじゃなくて『他の記憶』も消せるの?」
思い出すのはイナーラの知り合ってからの奇妙な感覚と、パランティアと合流してからの一幕、それにヤコブが口にした「認識するまで君のことをサッパリ忘れていた」という証言。
それだけなら彼女の能力は『自分に関する記憶だけを忘れさせる能力』かと思っていたが…………。もしそうなら痛みを、悲しみを、時の置物として飾ってくれるのだろうか。
心中を察したイナーラは「うん」と優しく頷くと、より一層温かく、力強く俺の身体を抱きしめてくれる。
「アンタ、見てるだけで堪え難いぐらい辛そうだからさ……本当は自分勝手にでもやりたいんだけどね……」
「……自分勝手にできない理由でもあるの?」
その問いに、再びイナーラは優しく頷く。
「私に関することだけなら私自身の判断である程度弄れるけど、他の部分……。つまり今回の記憶を亡くすには、貴方の最終的な意思がないと消去できないの」
「そういう制約があるんだ」と今度は悲しげに言った。
「アナタにとって辛くて、苦しくて、悔しくて仕方がない事件だった……。エクスロッドのお嬢様だって忘れることできる…………望むならもっと前の記憶……忘れたくても忘れられない記憶も……」
忘れたくても忘れられない記憶、それは決まりきっている。あの日、この目に焼きついた『地獄』のことだ。
それさえも忘れることができるのか?
現実はただ酷く、連鎖するように血と涙が世界を染める。それから目を背けることは到できない。俺はあの『地獄』を知ってしまっているんだから。
…………それを忘れることができる。甘美な響きだ。甘く蕩けてしまいたい。そうすれば楽になれるから。
痛いほど、苦しいほど、イナーラの抱擁は力強くなる。自分のことのように親身になって考えてくれてるのは嬉しくもある。それに甘えて応えたくもなる。
……だけど。……だけど。
…………だけど。…………だけど。
「……忘れない」
忘れたら、もっと取り返しのつかない後悔を抱くことになる。
それは、いつか交わした誓いだ。
——『彼女』との……。
——『■■■』との……。
——『誰』との誓いだ?
……ダメだ、思い出せない。頭の奥で霞が掛かって、その人の顔も名前も、話したであろう内容も浮かんでこない。
だけど……何かを忘れるということは、その時した『誓い』を遠回しに裏切る気がしてならない。
……『誓い』の内容さえ思い出せないのが腹立たしいが、確かにしたはずなんだ。
俺は絶対に『忘れない』って——。
儚いものだけど、これは絶対に、絶対に成さなきゃいけない。
だから、それを裏切らないためにも——。
今ここで『忘れる』という選択をしてはいけないんだ。
「忘れたらきっと後悔を繰り返す。……だから、傷ついても、砕けようとも……俺は絶対に忘れない。……弱い俺は忘れないことしかないできないから」
もし俺が報いることがあるとすれば、弱さを受け止めて強くなるしかないんだ。今度こそ絶対に、誰も死なせないために。
「……それは強さだよ。強いから、忘れようとしないんだ」
一連の問答を終えると、彼女は悲しくも優しげな笑顔を少しだけ見せて——。
「…………分かりきっていたのにね」
俺に聞き取れない声で何かを言った。
「……じゃあ、そろそろお暇させてもらうわ」
彼女の抱擁が解かれる。ささくれ立った今の心境に、彼女が与えた優しさには名残惜しさを感じてしまうが、今はそのことを言うのは違う。
「……また会おう」
伝えるのは再会の言葉。彼女が見せてくれた優しさを断った以上、いつか俺が決意したことを改めて示さなければ無碍にしてしまう。だから、この言葉は願いであり、戒めであり、誓いでもある。今度こそ誰かを『守れる』ように強くなった自分を知ってもらうために。
イナーラは嬉しそうに笑うと、同様に「またね」と再会を期待する言葉を返して闇夜に溶けて消えていった。
……別れ際でも、出会った時と同じようにあっけらかんとした物だ。笑いながら近づいたように、去り際も笑っていた。
そこでふと、不思議に思う。
今度の俺は、消え去るイナーラの姿を『忘れていない』ということを。
思い浮かべる、彼女の姿見を。
記憶を胸に抱くように思い浮かべる。
ふと気づく。手に何かが握られてることに。
それは名刺だ。先ほど近づいた際に彼女が握らせたのだろう。
何が書かれているのか。ただの興味本位で、記載されている内容へと目を通した。
TEL:××××××××
いつでも力になるよ。 by イナーラ
「…………不器用だなぁ」
俺が言えた義理ではないと思うけど。
これはいつか役に立つ時が来るだろう。
忘れないように彼女の姿を再度浮かべる。
傷んだような赤髪に、小洒落た服装。何よりも掴みどころのない飄々とした性格。
彼女のことは分からないことだらけだったけど…………きっと、個人請負人として悪名が轟くほど悪い人ではない。そんな確信があった。
…………
……
慌ただしく、そして苦く終えた『エクスロッド暗殺計画』——。
それには多大な陰謀の果てに、小さな犠牲者が一人で済んだのは一種の幸いとも言えるだろう。目的自体は果たされるため、全体的に見れば決していい終わりではないのかもしれないが。
しかし、不可解な点が残ったままである。
それは一騎だけ取り残された『レッドアラート』の所在——。
その答えは、闇夜に紛れる少年の足元にあった。
「お勤めご苦労様」
ニューモリダスで最も高層となるビルの屋上にて、アレンとセラエノは『鉄屑と化した赤い装甲』の上に腰掛けていた。
金髪の少女は街の中で点在する人々を観察するように、超然とした雰囲気で見下ろしており、少年は逆に漠然とした態度で町並みを見渡していた。
「……アンタなら無事だとは思っていたけど、よくもまあセラエノを側に置きながら『無傷』で倒しきったね」
そこに先ほどまでレンと一緒にいるイナーラが姿を見せる。
「色々とあってねぇ。これについて実は詳しかったりするんだ」
「そもそも」とアレンは話を続ける。
「魔女を殺すのに『赤』はないだろ。やるなら『銀』じゃないと」
「あ〜……そういうこと?」
イナーラは空を見つめる。夜空に渡り鳥のように点々と連なる輝きが一定の方向に向かって飛び去っていく。
その正体はレッドアラートの付属機こと『ブルートゥース』——。
「あっちが『本命』ってわけね。『情報収集』を目的とした機体……何も相手だけって訳がないか」
「そういうこと。レッドアラートは大義名分はどうあれ、増大している『魔女』と呼ばれる存在に対抗するための兵器だ。それが第一世代で完成……な訳ないだろ?」
「随分マサダの内情について詳しいわね〜♪ 私という存在がありながら浮気ですか?」
イナーラはアレンの肩に身を寄せて揶揄った。アレンは気にもしない表情を浮かべてはいるが、押しつけられる豊満な感覚には抗えないのだろう。特に何かを言うわけでもないが、視線を一瞬だけそれに向けて「コホン」と一息おいた。
「……単純に関わりがあるだけだよ。遠回しに伝えるために、わざわざ大立ち回りもしたんだしな」
「大立ち回り?」
「これだよ」とアレンは手にある異質物武器をイナーラに見せると、彼女は「それかぁ」と納得した表情を見せた。
「別にこれに頼る必要もなくレンを無力化するとはできたんだ。体位の優位は取れていたし、男女の筋力差もある」
「……それに、どういうわけか思考が似たり寄ったりなわけだしねぇ?」
余裕そうな表情から一転。アレンは「な、何のことかな?」と明らかに動揺した声を漏らした。
それがイナーラには予想外だったのか、品のない驚き方をしつつ「下手くそか」と出来損ないのツッコミを入れてしまう。
「まあ、ともかく……これを使いたかったわけさ」
「ほーん。……いったい誰に伝えるために?」
「聡明な科学者二人にさ。……きっと、この意味に気づいてくれる」
「さて」とアレンは立ち上がり服の埃をはたき落とすと、二人の話なんて興味がないと街を眺め続けるセラエノへと声を掛ける。
「セラエノ、何か興味深いものは見つけた?」
突然の声かけにも、セラエノは応じて首だけを器用に動かしてアレンと視線を合わせた。相変わらずの無垢で無表情で、輝きを持たない瞳だ。夜の帳はセラエノの表情が包んでいることもあり、アレンは内心「ホラー映像より怖いなぁ」とか思いながらも、視線を少しだけ外して考えるセラエノの返答を待つ。
「……あった。この町では様々な感情は蠢いていたが……中でも、特にあのレンちゃんという子は良い。喜怒哀楽を全て余さず感じ取れた」
そう言い終えると、セラエノは無表情のまま鼻を軽く鳴らす。
彼女の感情の機微についてはアレンはよく知っている。どうやら心の底から満足しているようだと感じて、久しい感情との触れ合いに、少年は年相応の笑顔を見せた。
「次はどんなところに行こうか」
「そうだな……。今は急ぐ用事もないし、イナーラにでも聞いてみるか?」
「えぇ……。じゃあ北極とか南極とかの辺境に行けば?」
「それなら北極に行こう。不変とされる『北極星』……プレアデスからでは見れないのだから、是非とも生で見ないといけない」
実はそれ現代では少しずつ動いていることを言ったらどんな反応するんだろうなぁ、とかアレンは思いながら、変な表現ではあるが無表情で意気揚々と歩くセラエノの後をついていく。
「ちょっとー? 私は置いてけぼりですかー?」
「誘ったところでついて来ない癖に……」
「まあね」と去るアレン達と入れ替わるように、イナーラは鉄屑の上へと腰を置いて「またね」と再開の言葉を、アレンの背中に伝えた。
少年もまた「またいつか」と残して、夜風と共に去っていく。
苦虚な心に夜風は些か寒すぎる。少年は気を紛らわすために、胸中へと想いを馳せた。
少年の中で巡るは未知の運命へと渡る痕跡。
今回起きた事件の騒動についての結末だけには、訝しむ点があったのだ。
——レンが手にしていた見覚えのない『光の鍵』
——『アカシックレコード』にも近い『断章』と呼ばれる情報の消失。
何よりも、スクルドの『命』は落ちてなお、その『魂』だけは顕在だということ——。
それら全ては、アレンが知る『未来』には存在しなかった——。
…………
……
——数日後、新豊州。
——SID作戦本部内。
そこには珍しく白衣を纏って頭を唸るマリルの姿があった。
「マリル〜♪ 良いニュースと悪いニュースがあります! どちらから聞きたい?」
「どっちも聞くんだ、できるだけ手短に頼む。こっちはスクルドの責任で解雇されたファビオラの雇用や、他部門での研究を照合するのに頭を使ってるのだからな」
焦燥に押しつぶされそうなマリルを見て、愛衣は「大変ですなぁ」と揶揄うように言うと、小瓶に詰まった栄養ドリンクを一飲みして話を再開させる。
「そういうことなら仕方ない。じゃあオーダーの通りに……」
「まずはこれを見て」と愛衣は自身が持つタブレットの画面を、マリルが持つタブレットへと共有させた。
そこに映るのは『ある人物』の生体情報だ。
その人物の名は『スクルド・エクスロッド』——。先の事件で『死亡』した少女のデータが画面の中で記載される。
あらゆる部位が『死』を意味する『活動停止』を掲示する。何かの間違いということは当然ない。1回目の検死と、2回目の検死は24時間以上も経過して行われており、医学的にも『死亡』という判断は既に下されている。
しかし、その二つの診断で変わらずに『活動中』と記載されている部分が一つだけあったのだ。
「……『脳波』だけが活動を停止していないだと?」
「うん。現在スクルドの生命活動は停止中……だけど脳波信号だけが未だに活動中なの……まるで『魂』が叫んでいるみたいに」
「これと似たケース、どこかで聞いたことや見たことない?」と愛衣は今知ったなぞなぞの出題をするようにマリルに問う。
その返答には時間を多く費やすことはなかった。手元にあるコーヒーを二口ほど飲んだところで、マリルは「簡単だな」と言いたげに鼻で笑うと告げる。
「南極で発見された際のバイジュウの状態と……後はOS事件で回収されたドルフィン博士が言っていた『被験体』の状態だろ?」
「そういうこと。『被験体』は海底で行方知らずだからどうしようもないけど、バイジュウについては保護観察の状況下から分かる通り、問題なく日常生活を送れるほど回復できてる……」
「となると、もしも『脳波』をキッカケとしたアプローチを行えるとすれば……」
「本当理解が早いね。ご想像の通り、事実上の『蘇生』をすることはできる…………あくまで可能性としての話だけど」
可能性とはいえ希望が見えたのなら幸いだ、とマリルは思う。それがレンに伝えられるのなら、加虐心の塊であるマリルですら痛々しく疲弊していると心配してしまう我が子を元気付けることはできる。
だがあくまで、それは希望——。つまりこれこそが良いニュースだ。
だとすれば宣言通り悪いニュースの話も当然ある。マリルはある程度予想をして、愛衣へと話の続きを促した。
「さて、ここからが悪いニュース。スクルドの脳波は現在進行形で弱まってる……だから何とかして維持しないといけないんだけど……」
「……南極で手に入れた培養液で間に合わないと言ったところか」
「話が早くて助かるよ。バイジュウの時とは違って、肉体は死んでるからアレは適してなくてね。ドルフィン博士が言っていた『被験体』の状態だとしても共鳴していた『魔導書』あるいは、それに近い媒体となる存在が現在手元にない。…………このままだと本当にスクルドが死んでしまうのは時間の問題」
「だからさ」と愛衣は同級生にノート写させて? と言わんばかりの軽い物腰で言った。
「悪いんだけど……SIDが重要管理してる『時止めの魔女』との協力を仰げないかなぁ〜〜……って」
——『時止めの魔女』
その名称に、マリルは心底嫌そうな顔を浮かべる。それを予期していた愛衣も「だよねぇ」と、労うようにマリルの肩に手を置いた。
その態度が安易に「私にはどうにもできないから任せた」と言ってるのをマリルは察したのだろう。より一層眉間に皺を寄せてため息を吐いた。
「…………気は進まんのだが」
「ただでさえレンちゃんと同じ最高セキュリティで監視してるからね……これ以上こちらのワガママ通したらどうなるのか……」
二人して苦笑い混じりの嫌な顔で頭を抱える。とはいっても、二人とも答えは出ているのだろう。マリルは再びため息を一つ吐くと「仕方ない」と半ばやけくそ気味に呟いた。
「掛け合ってはみるさ。流石にアイツでも少女一人の命に関わると知れば、重い腰も上げてくれるだろう。至急、手配を頼む」
「自分で準備しないの?」
「私も別のことを調べてる最中なんだ。今回の事件、細部において気になる点が多い」
「気になる点?」と愛衣は疑問符を浮かべる。マリルは「こちらにも良いニュースと悪いニュースがあるんだ」と自身が持つタブレットへと指を走らせる。
「……そもそもとしてマサダブルクは宗教や軍事関係などがあって、異質物研究については盛んではないのだ。だからこそ今まで異質物に頼らない自律兵器『イエローヘッド』や『ハニーコム』を製造していたんだ」
「そういえばそうだったね」と愛衣は要領を得ないまま頷く。
「しかし今回エミリオの誕生をきっかけに、一ヶ月足らずであそこまで完成度の高い『レッドアラート』と『ニュークリアス』というAIと異質物を複合させた兵器を製造した……こんなことが異質物研究を怠ってるマサダブルクに可能か?」
「……秘密裏で行ってるなら可能だろうけど、報告にはそれらしい記述すら上がってないから可能性としてなさそうだね。結論としては…………まあ、失敗するという前提なら可能かな。納期的にも実戦的な実験運用はできないからね」
「だとしたら……どうやって『失敗』を前提としてるのに『完成』に近い性能が誇れると思う」
マリルの問いに愛衣は暫し口を塞ぐ。
その答えを聡明な愛衣はすぐに導き出した。
「……技術の横流しってこと?」
「そういうことになる。技術の横流しされてる箇所はメインとなる部分が鉄則だ。だとしたらレッドアラートで持つ最も重要な『部分』とは何だ?」
「『炉心溶融』……じゃないね。それはあくまで『ニュークリアス』に搭載されてる機能だ。となると——」
愛衣は答えをすぐに見出せた。
「『炉心溶融』さえ引き起こす『原子核反応』に耐えうる『耐熱装甲』……ってことになるね」
「ああ。その耐熱装甲以外では『ニュークリアス』の刃を耐え切るのは不可能だ。例え『魔女』の力を持ってしても……それはファビオラが証明してくれた」
マリルの言葉に、愛衣は「そうだね」と考えながら頷く。
「しかし、今回の事件では『炉心溶融』に耐えたのはレッドアラート以外にも一つあった。……分かるだろう?」
その問いの答えは瞬時に出た。愛衣の脳裏に掠めるのは、トリニティ教会前で戦闘をしていたレンに起きた『ある部分』を思い出す。
観測不能なエネルギーを持った翼と剣の突貫。見事に動力コアを刺し貫かれたレッドアラートは、相打ち覚悟でレンへと『炉心溶融』を引き起こす『ニュークリアス』をか弱い身体へと振るい、確かに斬りつけた。
しかし、結果として『炉心溶融』は引き起こすことはなかった。何故ならそれは——。
「……まさかッ!?」
「そのまさかだ。今鑑識に回しているが……ちょうど結果が届いたところだ」
マリルはタブレット上に届いたデータを開示する。
表示されたデータは『ある二つ』の物体の成分について。一つは『レッドアラート』と表示されており、もう一つは『天命の矛』と表示されている。
一致性『100%』——。
判定『完全一致』——。
「『レッドアラート』の耐熱装甲と、あの男……アレンによって埋め込まれた異質物武器の素材は全く同じだ。……この意味が分かるな?」
「……耐熱装甲は『天命の矛』が持つ『高温で溶解しない』という性質を持つ。でも、それが技術として確立されている以上はアレン君とマサダブルクは——」
「——ご想像の通り、繋がっている可能性が非常に高い」
同時にそれは、ニューモリダスから強奪されたEX異質物『天命の矛』の所在についての重要な手掛かりとなるものだった。
しかし、それだけならマリルは頭を抱える必要はない。問題はその『異質物』を加工した技術についてだ。確かに、学園都市では『異質物武器』という物が存在しており、それらは全ては元を正せば『異質物』が由来とはなっている。
だが『異質物武器』は、あくまで本来『異質物』が持つ力を助長させるための目的として製造されるものであり、元々の運用方法自体が変わることはない。
だというのに『天命の矛』を『装甲』として加工した挙句に少数とはいえ量産——。
今の技術では方舟基地の建造を上回る製造費になるのは目に見えている。四六時中テロ活動が行なっているようなマサダブルクにそんな金銭的な余裕は一切ない。だからニューモリダスと繋がっているし、ヴィラやエミリオみたいな未成年が軍人として活動する教育があるのだ。
だとしたら、どこかに『異質物の加工』を当然のように行えるという、桁外れの技術力を持った研究機関があるはずなのだ。
しかし、それはマリルが把握する限りでは、六大学園都市のどこにも存在しているはずがないのだ。
ならば、どこから?
その疑問に、マリルはある名称を思い出すのであった。
(『第七学園都市』——。本当に存在するとでも言うのか?)
くぅ疲w、とか言ってられないほど遅筆で大変申し訳ありません。整骨院などにも通い、毎日ケアもしていたのですが、結局は最後まで体調回復はできずに長時間の執筆作業ができませんでした。許せ、サスケ。
……というわけで第二章はひとまず完結です。
消化不良感が否めないとは思いますが、元々この章は『バッドエンド』を予定しており、なおかつ次章での『起点』でもあり『再起』でもあります。
故に、今回で溜まったフラストレーションは次章での爆発させるものとなります。つまり次章は少年ジャンプよろしく、熱い話をするというわけですね。
ですので、もう暫くレンちゃんには曇ってもらいます。果たして彼(彼女)が暗い雰囲気から脱却するのはいつの日か。……その日は遠くはないでしょう。
そういうわけで次回の更新は新年一発目【2021/1/1 12:00】となります。その間に『少女と偶像』のような閑話を入れたかったのですが、次に行うお話が構想を練っていたら思っていた以上に広がったために、閑話ではなく第三章として投稿することになりました。
故に時系列上厳しいため、それまで更新はありません。ですので、気長にお待ちいただけたらと思います。
それでは次回、第三章【剣聖抜刀】まで暫し筆休め。
タイトルの通り、ついに『あのキャラ』が本筋に絡みます。
かなり早いですが、皆様年末年始をお過ごしくださいませ。
それでは……ノシ