魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第4節 〜刻印覚醒〜

『刻印覚醒』——。

 

 正直、俺には聞き覚えのない単語だ。

 今まで『魔女』や『聖痕』などといった能力的な存在を聞いてはきたが、今回については皆目検討もつかない。

 

「それでは……まず『刻印覚醒』について説明させていただきます」

 

『仰々しい名前はついておるが、実際は簡単なものだ。気を張る必要などないぞ?』

 

 姿勢を正した俺は、知らない間に立ち直っていた霧夕さんとどこかでいるであろうアメノウズメと向かい合う。

 その間にアメノウズメと呼ばれる存在は、現在『すてれおたいぷ』という物になっていると辿々しく伝えてくれて、霧夕さんを通さずとも俺も彼女の声は聞こえてはきている。

 

 

「刻印覚醒……名の通り『刻印』というものを目覚めさせるものではありますが、これ自体は『聖痕』というものと大きな差はありません」

 

「じゃあ、その小さな差が何なの?」

 

「結論から言いますと『聖痕』由来の能力を使えるか、使えないか。いくら異能の力を宿していようと、最初から使えるものは限られているんです」

 

 最初から使えるものは限られる——。

 その話を聞いて、思い浮かべたのはラファエルやエミリオ達だ。

 

 ラファエルは元々癒しの力を秘めていた節があり、それをベアトリーチェや俺と繋がったことで、回復魔法を使えるようになった。

 

 エミリオやヴィラは本人達からの又聞きであるため『刻印』とは違うかもしれないが、異質物に触れたことで血を操作する力や、常人離れした怪力を身につけたりもした。

 

 ソヤの共感覚は生まれつき。アニーの超次元投法や打法は『魔導書』から付与された『魔法』の一欠片に過ぎない。ハインリッヒやベアトリーチェの能力については、元々あったものか『魔導書』によって付与されたものかは定かではないが……。

 

 そういう前者の存在……いつかマリルが口にしていた『魔女の繭』と呼ばれる段階での状態、あるいはその前段階に近いものを『刻印』というのだろうか?

 

「『聖痕』があるのに使えない状態。これを『刻印』と言い、それを目覚めさせる。これが今回行う『刻印覚醒』と呼ばれる特殊身体訓練といいます」

 

「あるのに使えない……そんな人いるの?」

 

 自覚があるのなら使えそうな気がするのだが。

 

「割といますよ? 例えば生まれ持って運がいい人とか、道案内を聞かされやすい人、スポーツ全般上手い人、物覚えが早い人……。『日常』に溶け込んでいて、分かりにくいけど『妙に人と違う個性がある』……そういう部分の一割くらいは『刻印』状態であることが多いんです」

 

 霧夕さんから実例を出されて、すぐに俺も身近にそういう人物がいたことを思い出した。当然、ラスボス系お嬢様ことラファエルだ。思い返せばスカイホテルでの一幕で——。

 

 

 …………

 ……

 

《それの何がおかしいの? こんな動物なんて、どこにでもいるじゃない?》

 

《いやいや、ここは地下3階の駐車場だぞ……》

 

《だから何よ? 普通でしょ?》

 

 ……

 …………

 

 

 とか、鳩がいることを不思議に思わないという常識はずれのこと言っていたな。

 

「それに気づいていても、今度はそれをどうやって『覚醒』させるかは能力に応じた訓練方法があり、人によって方法は違います。……その方法が分からずに『刻印覚醒』できない者もおります。というか大多数がそれです」

 

 今度もラファエルのことを思い出す。

 ベアトリーチェに指摘されて初めて力の使い方を分かったくらいだしな……。案外『刻印』……つまりは『聖痕』の卵は身近で存在してるものかもしれない。

 

「って、待て待て! 人によって方法が違う!? じゃあ、どうして俺と霧夕さんが一緒にいるの!? 聞いた限りだとマンツーマン的なスタイル意味ないよね!?」

 

「それは簡単です。……ウズメ様、お願いします」

 

 彼女は深呼吸を一つすると——。

 

「——よい。ここからは妾が説明しよう」

 

 アメノウズメ……長いのでウズメさんと呼ぶことにするが、霧夕さんの身体を借りて話してくれた。

 

「見ての通りだ。妾は霧夕の身体を借りている状態だ。こういう亡霊、神霊といった存在の魂を自らの身体に憑依させる術を『降霊術』といい、これこそが霧夕が持つ『聖痕』となる」

 

「なるほど……」

 

 だから聞き覚えのある神様であるウズメさんは、こうして霧夕さんの身体を動かしてるわけか。……というか逆か。霧夕さんが、ウズメさん力を借りたい代わりに身体を譲る……という認識のほうが正しいのだろう。

 

「……その『降霊術』と俺に何の関係が?」

 

「もう一度言う。亡霊、神霊と存在の魂を自らの憑依させるのが『降霊術』だ。……さて、お前これに似た覚えをしたことはないか?」

 

 似たこと? そう言われて、俺は今の今までの記憶という記憶を全て掘り返す。

 

 南極の時——、見当がない。

 藩磨脳研の時——、思い出せない。

 猫丸電気街の時——、思い当たらない。

 

 そこまで記憶を手繰り寄せて気づく。次の事件で起きた事態を。マサダブルクであった出来事を。

 俺自身に記憶はないが、映像状の記録とマリルの証言はこう言っていた。

 

 

 

 …………

 ……

 

《そしてエミリオ曰く、屋上でお前の手を引いた時、言葉では説明できない何か膨大な力が、体内へ流れ込んできたと。『ハニーコム』を撃退した時より何100倍も強力なものであったようだ。身体が溶けてしまうと思えるくらいに、おかしな感覚だったとも言っていた》

 

 ……

 …………

 

 

 

 それに——OS事件での時もそうだ。

 最下層で『異形』と戦闘した時、俺は何を思った——?

 

 

 

 …………

 ……

 

《自分に、俺に……》

 

《…………『■』に守れる力があったらと》

 

 ……

 …………

 

 

 

 そう思っていて……『誰か』の『魂』が流れ込んできて——。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

《……もう二度と『俺』(■■■)の大切な人を失いたくない——》

 

 

 

《忘れないよ》

《無理だって。人の夢と書いて『儚』いんだぜ?》

《じゃあ思い出すッ!》

 

 

 

《もう一度会いたい?》

《もう一度、なんて無理だよ》

 

 

 

《絶対っ! いつか、■■■■■と一緒に君を『■』の外に連れ出すから!》

《…………じゃあ、その時に改めて聞くよ。■■■■■ちゃんの道を。……君の道を》

《最後に、俺はレン! レンっていうんだ!》

《『最後』じゃないでしょ、レンちゃん》

《……そうだね、それじゃあ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……《■■■■■■■》——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 …………

 

 

 

「——ッ!?」

 

「大丈夫か、小僧?」

 

 未だかつてない激しい頭痛が脳内で暴れ回る。

 氷柱が炎を纏って突き刺すように堪え難い痛みだ。

 

 

 

 ——この頭を割く『記憶』は——

 ——この胸を張り裂ける『悲しみ』は——

 ——この心を擦り抜ける『虚しさ』は——

 

 

 

「ッッ……!?」

 

 ——誰だ? 誰なんだ? 君は……!!

 

「ダメだ……ダメだッ……! 誰なんだ……ッ!?」

 

「意外と重症じゃのう——。って、言ってる場合じゃないですよ!?」

 

 途端、一人で二人分の声が聞こえてきた。

 声は手綱となり、■の心を引き上げてくれる。

 

「レンさん……大丈夫でしょうか?」

 

「……うん、大丈夫。私は大丈夫……」

 

 いや——待て待て。まだ気が錯乱している。

 

 ■ではない。俺だ。……俺? いや、■は俺……。

 ■ではない。私だ。……私は——私は……。私は……。

 

「しっかりしてレンさn————。起きろ、小僧ッ!」

 

「は、はいィ!!」

 

 背筋が強制的に叩き上げられそうな怒号で、俺は今度こそ意識を浮上させた。

 

 ……今、俺は何を考えていた? 自分が自分じゃなくなるような蝕む感じがしていたのは覚えているが……。

 ダメだ、これ以上思い出せない。ただ胸を突き抉る『悲しみ』だけが残っているだけだ。

 

「妾に人間の世話を焼かせるな。これでは立場が逆だ」

 

 そこでウズメさんの雰囲気は消え去り、霧夕さんが持つ優しい雰囲気が表に出てきた。

 

「突然私の身体を借りないでくださいっ!」

 

『緊急事態であった。まさかここまで此奴が器としての完成度が高いなんてな……』

 

「器……完成度……」

 

 そうだ、今は『刻印覚醒』についての話をしていたんだ。俺なりに出た答えを伝えなければ、話が進まないじゃないか。

 

 両頬を赤く腫れかねないほど強く叩いて、自分の意識が微睡んでいないことを再認識する。問題ない、俺は俺だ——。

 

「えっと、話は戻るんですけど……似た体験って——」

 

『まあ、実体験もしたし、今更妾が霧夕の身体を借りて実例を出すまでもなかろう。説明するのも面倒だから、あとは霧夕に任せる』

 

 実体験って……。まあ言いたいことはもう既に理解はしてあるのだが。

 

「そういうところ人任せなんですから……。ともかく、レンさんが想像してる通りです。私の『降霊術』と、レンさん自身が持つ『能力』…………これらは種類は違えど、方向性としては『非常に酷似』しています」

 

 ……思っていた通りの答えが返ってきた。

 

 確かに今さっき俺が引き起こした『魂が溶け合う』感覚と、霧夕さんがウズメさんを憑依させる『降霊術』はかなり似ている。

 

「つまり方向性が似ているから、この力を使い熟す助言が期待できる……ってこと?」

 

「はい。とはいっても、助力できるのは糸口までとなりますが。……それほど『刻印覚醒』というものは非常に繊細です」

 

 だけど、その『魂が溶け合う』感覚を能力として宿すことさえできれば、今度こそ俺はスクルドの時みたいな悲劇を起こさずに済むんだ。

 

 能力を身につけるにあたって、踏み出さなきゃいけない第一歩……その方向性が分かるだけでも儲けものだと思えてしまう。

 

「よし! じゃあ早速頑張ろう! まずは何をすればいい?」

 

 そうと分かれば、俺の調子も一気に上向きになる。方向性さえわかれば、あとはどうやって伸ばすかだ。期待で胸が込み上げる中、俺は好奇心とワクワクがいっぱいの視線で次の言葉を待っていると——。

 

「座禅です」

 

 ——昔の少年誌でもやらない恐ろしく地味な単語が聞こえてきた。

 

「今なんと?」

 

『座禅と言ったであろう。耳が遠い男は好かれんぞ』

 

 ウズメさんもエミリオと同じく読心能力持ちかい!

 

「座禅って……あの座禅?」

 

「はい、想像通りの座禅です」

 

 想像通りなら、寺内とかで足を組んで瞑想するやつだ。集中力が切れたら棒とかで肩や背中を叩きつけられたり、その姿勢のまま跳躍したりと、なんか結構色々と流派というか…………場所によって行うのは様々だった気がする。

 

「座禅とは精神統一の修行でありますが、それを行う理由に関しては『自我』を極力まで消して、自己以外で『自我』を確立させる心の強さを得るためにあります。先ほども混乱した状態となっておりますので……」

 

「自我を消して……自我を確立させる?」

 

 エミリオと同じ、とんち全開では?

 

「もちろん自己以外で確立された自我が、本当の自我と言えるかはどうかは分かりません。それさえも超越して『自我』を得る……それこそが、今のレンさんに必要な初歩となります」

 

「初歩ッ!!?」

 

『そうだ。貴様には最終的には、壁にかけられた真剣……『妖刀・蝶と蜂』に眠る力を、己の意思を保ちつつ振るうのが目的となる』

 

 そう言われて、先程霧夕さんに釘を刺された真剣へと視線を向けた。

 

 ——曰く、意思持つ妖刀。

 

 俺が苦手意識全開で話半分で聞き流していたということもあるが、霧夕さんがホラー番組みたいにおどろおどろしく伝えるものだから、冗談や御伽噺かと思っていたが……神様であるウズメさんが言うのなら、本当にこれは意思を持つとでも言うのか?

 

『とはいっても、あくまで最終的には話であるし、無理なら無理で構わん。代々受け継がれているが、霧守神社の巫女で妖刀の真価を発揮したのは一人しかおらんしの』

 

「たった一人ッ!? まさか——」

 

 そこで霧夕さんに視線を向けるが、当の本人は「違います」とアッサリと否定した。

 

『江戸時代の話だ。もうおらんし、お前が気に病む必要はない。……まあ、並大抵の力では到達不可能な領域だとは覚えておくと良い』

 

 神様がそう言うのなら、そう納得しておこう。本人が言っていた通り、あくまで最終的な話だ。今やるべきことが自我を確立させるためなら、座禅でも滝行でも何度もやってやる。

 

「お願いしますっ!!」

 

 

 

 

 

 ……と、意気込んでいたまでは良かったんだけど——。

 

 

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「呼吸は一定の間隔で、一定の量を心がけずに心掛ける!!」

 

 

 

 そりゃ酷いスパルタ指導が待っていた。

 少しでも呼吸の間隔がズレたり、背筋が曲がったりと、姿勢が揺らいだりしたら、全力で叩き棒で引っ叩かれた。それはもう痣が出来上がるほどに。

 

 

 

「あぁ〜〜♡ 良いのォ! 女子が悶える姿は沸るッ!!」

 

 

 

 霧夕さんの身体を乗っ取って、悦に浸るウズメ様の姿は本当にマリルと愛衣を悪魔合体させたような表情を見せるし、見た目は霧夕さんだから外見とのギャップ差が凄まじい。

 

 しかも、これが俺が情けない姿を晒すからという確かな理由があるせいで、不当だの過剰だの一切言えない。実際に指は痒くて眉が動いたり、集中しすぎて睡眠状態に入ったりとしているのだ。

 

 

 

「あの……レンさん?」

 

「ヒッ!? 追加の鍛錬でしょうか、ウズメ様ッ!?」

 

「今は霧夕ですっ!」

 

 

 

 挙句には霧夕さん=ウズメ様と脳が勝手に認識してしまい、今では霧夕さんの顔を見るだけで身が震え上がってしまうほどに、そりゃ大変痛い思いをした。

  

 だけど、アメノウズメ様のおかげで精神統一の成果は大きな向上を見せた。最初は風が通る音を聞くだけで雑念が起きたが、今では五分間も意識を安定させることができる。五分は短いとかいうなよ、これでも大きな進歩だ。

 

 

 

「今後は真剣を持つ重みを慣れてもらうために、常に模造刀を持ちながら鍛錬に励んでもらう。更には実戦稽古も追加する。着いて来れるな?」

 

「大丈夫です、アメノウズメ様!」

 

「よしっ! 元気が有り余ってるなら、今日の稽古は二倍漬けだッ!」

 

「ありがたき幸せでありますっ!」

 

「うむっ! 元気に免じて五倍増しでやるかのう!」

 

「ありがた幸せですっ!」

 

「ならば、さらに五倍付け———って、それ以上したら死んじゃいますよ! あとレンさんもイエスマンにならないでくださいっ!」

 

 

 

 ……

 …………

 

 

 

「……とまあ色々あってね。今ではアメノウズメ様の加護を受けた立派な使者として毎日祈りを捧げる——」

 

「レンちゃんが宗教に嵌まっちゃった……」

 

「流石の私も頭に効く回復魔法は使えないわよ?」

 

「リカバーないのかぁ」

 

「エスナじゃなくて?」

 

「アニー・バースだからね」

 

「……なるほど」

 

 鍛錬も早一ヶ月。日課となったラファエルの回復魔法で目立つ外傷という外傷を無くして貰いながら、今日までの鍛錬の成果についてアニーとラファエルに伝えていた。

 

 だというのに何だ、その無礼な態度は。アメノウズメ様を何だと心得ている。状態異常みたいなデバフだと思っているのか。どう考えてもバフに決まっているだろう。

 

「アナタ、自分が何だと思ってる?」

 

「それはアメノウズメ様に奉仕する従者でございます。この身の生涯をすべて捧げるべく加護を受けた……」

 

「思いっきり自我を見失ってるわよ。アンタはアンタでしょうが。……変態女装癖さん?」

 

「俺は変態でも女装癖でもない! ……ってアレ!!? 俺、別にウズメ様に奉仕する従者でもなくない!?」

 

「まだ抜け切ってないけど、ショック療法は成功ね」

 

「ナイスッ! ナイスだよ!」

 

 どうやらまた何かしら正気じゃなかった節があったようだ。こうしてやると分かるが、『自我』というものは結構あやふやでしょうがなく感じる。

 

 ……多分、俺が『男』でありながら『女』であるという奇妙な状態なのも起因してるのだろう。

 いつか愛衣が、俺の脳神経は男女特有の思考が両立しているとか言っていたのを覚えている。そのせいで色々と多感な部分があり、良くも悪くも共感しやすく影響を受けやすいとか、感じやすいとか何とか……。

 何せ聞いたのが御桜川女子校に転校してから間もない頃だ。そこまで言っていたかは流石に自信はないが、似たようなことは間違いなく口にしていた。

 

 ともかく、俺の状態はそれの影響も大きいとは思う。

 思い出すだけでも身震いする。あの『魂が溶け合う感覚』——。恐れか興奮かは定かではないが、こんな能力が制御できないという事実には未熟さを感じてしまう。

 

「これで目立つ傷や痣は無くなったわよ。……アンタってやつは、本当に私がいないとどうしようもないヘタレね」

 

「面目ない……」

 

「じゃあ、私たちは帰るから。冬休み前のテストもあるんだから、私のノートでしっかり勉強してね!」

 

「分かってるって。……マリルからも怒られるし」

 

 そこで二人は生活用品とか含んだ諸々を置いて行って、商業区へと姿を消して行った。

 

 ……さて、明日も鍛錬を続けないといけない。しかしテストの点数も疎かにするわけにもいかない。俺は棚付きのローテーブルに教材を入れて畳の上に座り、OS事件の時にバイジュウから手渡された《電子機器による思考領域拡張》と、アニーから貸してもらった《人体力学の可能性》について黙読を始める。

 

 目指すべき『強くなること』——。

 そのためには、全方面において頑張るのを怠ることはできないんだ。

 

「レンさ〜ん! 血族が不在なので今日は出前でも取りますか? ピザとかどうですか? フライドチキンとかどうですか!? パスタとかどうですかー!?」

 

『妾も外国の料理というのも実に興味ある! ウーパールーパーというものも現世ではあるのだろう?』

 

「前から思ったけど、アンタらの信仰心結構いい加減だよな!? あとウーパーイーツですからね!?」

 

 その夜クアトロピザを食ったが、霧夕さんは久方ぶりにこういうジャンキーな物を口にしたのか、面白いくらい輝かしい笑顔で頬張り、ウズメさんに至っては言い切れないほど一々面白い反応を見せたことで、普段の加虐的な雰囲気と相まって可愛く感じてしまった。

 

 ……やはりウズメ様は素敵なのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、夢を見た。

 刀を手にしながら祈りを捧げる少女の姿を。病的なまでに白い肌に、細くしなやかな腕。身長なんか俺よりもどう見ても低く160にも満たしてない。

 

 彼女は身の丈に合わない刀を弱々しく抱き続け、虚空へと泣きながら祈りを……切望を吐き出し続ける。

 

 

 

 

 

「神様……お願いしますっ。どうか、どうか……すべてを夢にしてくださいっ……!!」

 

 

 

 

 

 それは、忘れようのない望みであった。

 何故なら、俺と同じ……『地獄』で願ったことと同じだったから。

 

 

 

 ……そこで夢から覚める。


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