魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第5節 〜天狗之隠〜

「そう……そのまま肉体の力は最小限に……。精神と肉体が線引きされる境界線がいずれ見えてくるはずです。その先に『魂』だけが存在する世界があります……」

 

 

 

 ——。

 ———。

 ————。

 

 

 

『よくここまできた。だが、これ以上はまだ危うい。一度戻れ』

 

 

 

 ————。

 ———。

 ——。

 

 

 

「——やった、見えた!」

 

 さらに時は経過して早くも12月の初週。

 ついに俺は『自我』を確立させる糸口にたどり着いた。

 

 感覚としては不思議なもので、一番近い感触で言えばVRの感覚としか言いようがない。

 自分ではあるけれど自分の肉体ではない仮想の肉体。現実のものではないと止めどなく認識したまま、現実の肉体を動かすことなく、しかもコントローラがないまま脳内で操作を行う——。

 

 例えるなら、夢でオネショをしても現実ではするなって感じ。非常に集中力が要求される。

 

 長くて10分——。場合によってはもっと短くなる——。

 それが今できる『自我』を維持する時間だ。長いような、短いような……。

 

「やりましたね、レンさん!」

 

『うむ、妾が少々繋がりやすいように配慮していたとはいえ、よくもまあ二ヶ月で、自分から妾に近づくまでの段階まで持って来れたな』

 

「うん……だけど——」

 

 ここまで来て、改めてバイジュウが持つ『魂を視認する』という能力が凄いものであるのかを再認識した。ほぼ毎日、ブラック企業も真っ青の密度と時間を二ヶ月かけて、ウズメ様の助力がありつつやっと入り口まで来れるのが精一杯だ。

 

 ソヤの共感覚もこれに近い感じなんだろう。視界のあらゆるものが『色のついた匂い』となって見える……。バイジュウもソヤも、それらを視認するのを当然のようにやっておきながら、俺ではその領域に入ることさえ下準備と集中力がいる上に、さらには肉体面の視界として反映できない。

 

 イメージ上ではVR——つまりは『仮想現実』となっているが、実際のところは現実と仮想の融合——最も近しいのは『複合現実』と言える『MR』や『多用した新しい現実』を受け止める『XR』という認識が脳内で処理されてると思わないといけないんだ。そういう意味ではバイジュウから渡された書籍はイメージを固めるのに随分役に立つ。

 

 だというのに、この体たらく……。

 今まで自分が皆より下である自覚はあるにはあったが、ここまで大きな差があるなんて想像していなかった。

 

「それでは修行の第二段階。先程はウズメ様が止めてくださいましたが、今度は繋がってみましょう」

 

「繋がるって……まさか、あの妖刀を握るのッ!?」

 

「流石に無理です。……なので、こちらの木刀を使ってください」

 

 そう言って手渡されたのは、この二ヶ月で何度か触ったことが木刀だ。ごく普通の練習用であり、これ自体に歴史も曰くもないと思うんだけど……。

 

「レンさん。『九十九神』という物を聞いたことはありますか?」

 

「某著作権に厳しいアニメーション会社が描く玩具の物語的なやつだよね?」

 

「著作権に厳しいのは創作全般です。特別あの会社が厳しいわけではありません。……細かい部分は違いますが、まあそんな感じです。長い間使われた物には『魂が宿る』——これが九十九神ですね」

 

「『魂』か……」

 

 その単語にも随分聞き慣れたものだ。「どういうもの?」という疑問が湧く前に、「あぁ、俺が関わる物だ」と自然に受け入れてしまうくらいには。

 

 故に次にどう続くかも即座に理解する。つまりは『九十九神と魂を溶かすことを目指す』——そういうのだろう。

 そのことを霧夕さんに伝えると、褒めるように「はい」と笑顔を浮かべて答えてくれた。

 

「とはいっても『九十九神』という名前は付いていますが、実際に神様や精霊が憑いているケースは非常に稀です。レンさんも気づいてると思いますが、何代かに渡って使われている木刀でも憑かない時は憑きません」

 

「まあ、触って感覚で何となくは……」

 

「ですが、それでイコール木刀には『魂がない』ということではありません」

 

 ……木刀って無機物だよな? それに『魂』が宿る? 

 

 文字通りの意味なら、魂を持った精霊や神様が憑くわけではなく、木刀そのものに魂が宿るということになるが……? 不可思議にも程があるような……?

 

「これは人によって捉え方は非常に差があるため、これだ! ……と言える結論はありませんが……『魂』とは『情報』でもあります」

 

『魂』とは『情報』——。その言葉を聞いて、女の子になった直後『イージス』によって俺が俺である証明された事実を思い浮かべた。

 それを言われてしまうと、どうあれ納得せざる終えない。この身に起きたこと以上に不可思議なことがあるわけないのだから。

 

「培われた技術という『情報』は、使用していた人間だけでなく『物』にも宿ります。であれば『魂』から辿ることで『技術』という『情報』へと辿り着き、降霊させることができれば宿っていた技術を引き出すことができる……これが修行の第二段階となります」

 

「……理屈は分かったんですけど、可能なんですか?」

 

「可能というか二ヶ月前に実践しましたよ? ……あの時は初対面であるのも関わらず、ウズメ様がご無礼なことしてしまいました」

 

『妾は問題児扱いか?』

 

「実際に問題児です」

 

 二ヶ月前、初対面——。

 だとしたら、下顎を木刀で打ち上げられた時のことで間違いないだろう。確かに霧夕さん(ウズメさん?)は直前に『私は生まれてから一度も剣を振るったこともないですよ』とか言っていた。

 

 ……あれは魂に紐付けられた『技術』を『降霊』させることで振るわれた一刀だったってわけか。

 

「ん——? 降霊する魂は一つだけとかみたいな制限はないの?」

 

 そこで湧くのは一つの疑問。あの時確かに、俺はウズメさんの手によって一瞬で打ち伏せられた。しかしウズメさんが既に憑依してる中で、木刀に宿っていた九十九神……つまりは『魂』という名の『情報』を憑依させることができるのか?

 

「個人差によりますね。私でしたらウズメさん以外にも、もう一つぐらいは宿した魂を操作することは可能ではありますよ。物の技術もそうですし、他にも——」

 

『『言霊』とかな?』

 

 ウズメさんの悪戯じみた声が聞こえた瞬間、霧夕さんは女の子がしちゃいけない心底嫌そうな表情で虚空を睨みつける。

 ……俺には見えないけど、今あそこにウズメさんがいるんだろうなぁ。

 

「……何のことでしょうか?」

 

 すごく見ちゃいけない物を見た。

 

 霧夕さんの眉間の皺が取り返しのつかないほど寄せられ、それこそ般若が宿ったのではないかと錯覚するほど怒気という目力がウズメさんに突き刺さっている。

 

『昔のことを思い出したまでよ。あれは……お前が14歳の頃……札に術式を書いていた時、解放するための呪文をダークリパル——』

 

「言・わ・な・い・で・く・だ・さ・い!」

 

 14歳の頃——。呪文——。

 

 ……ああ、ここにも若き日の過ちを刻んだ人がいたのか。俺だってきっと、前に住んでいた部屋の奥には、思春期を侵した少年の夢が未だに眠っているんだろうなぁ。できれば掘り返したくないよなぁ。

 

『まあ、そういうわけで霧夕は呪文の詠唱に言霊を用いることもできる。妾がいても問題ないほどにな』

 

「へー……。だったら俺も鍛錬を続けていけば、能力を別の方向に伸ばすこともできるのかな?」

 

「うーん……正直レンさんの能力は、まだ入り口にたどり着いた段階でして、明確な効果などは分かり切ってはいませんからね……。能力次第としか言いようが……」

 

 だろうなぁ。そんな簡単かつ楽観的に習得できるなら、ここに二ヶ月間も鍛錬漬けになっていない。

 

「まあ、とにかく『刻印覚醒』は近道できても、いきなり一から十になるわけではありません。一から二、二から三。最短距離で真っ直ぐに、順番通りに熟すしかありません」

 

『舞踊と同じよな。流れがあるから舞は美しくなる。……継ぎ接ぎだらけの踊りは見るに堪えん』

 

 ごもっともだ。地獄のように長くも短い二ヶ月で得られた成果とは未熟過ぎて焦りが募りに募るが、道筋はあるのだからどうこう言えるわけでもない。ただひたすらに敷かれた道を歩むしかない。これしか今はすることがないんだから。

 

「やる……。第二鍛錬、魂を繋げて技術を得てやる!」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「隙だらけだ」

 

「なんでっ!? 何をどうすればいいのか分かってはいるのにっ!?」

 

 意外にも『魂を繋げる』ことには意図も容易く成功した。

 想像した通り、ただ維持するだけなら10分だったが、戦闘も兼ねると集中力を異様に消費してしまい、戦闘内容次第だが数十秒しか持たない。

 

 そこまではいい、想定通りだ、別に悲観することじゃない。

 

 問題はその先にあった。

 単純に『技術を行使できない』という問題にぶち当たった。

 

 やり方も理屈も頭にはある。魔導書と違って意味不明な羅列ではなく理解することもできる。だというのに何一つ使用できずに、本日何十回目となる模擬戦でウズメさんに連戦連敗を記録してしまう。

 

「何で……?」

 

 自由を得るために進撃する某主人公みたいに、仰向けのまま両足が頭の先にあるという恥ずかしい体位のまま疑問に耽る。

 

 そんな疑問にウズメさん——じゃなくて、いつのまにか切り替わっていた霧夕さんは知っていたと言わんばかりに「簡単ですよ」と優しく囁いた。

 

「純粋に『足りない』だけです」

 

「足りない?」

 

「はい、全体的に。筋力とか、反射神経とか、レンさん自身のフィジカルが絶対的に足りません」

 

「うそぉ……!?」

 

 ここにきて、そういう俺個人の身体的問題が出てくるんですか!?

 

『こればかりは反復練習を続けて慣らすしかない。筋力は……ここ二ヶ月で大して様変わりしておらんし、元々筋力がつきにくいと見える。……胸と尻は成長しとるようではあるが』

 

「あんた現代人だったら訴えられて死罪ですよ?」

 

『元々死んでおる〜〜』

 

 今まで座禅とかして自我とか確立したりとメンタル面での鍛錬だったのに、今度はそういうフィジカル面での鍛錬が始まるのか……。

 しかも魂と繋げることだって完璧じゃないんだ。今後も持続時間を伸ばして、実戦でも使えるようになるのに最低限でも一分……それ以上を求めないといけない。だというのにフィジカル面での鍛錬も続けて両立させないといけないのか?

 

「……辛いな」

 

 ひたすら辛い。別に嫌というわけでも、挫けそうとかではない。

 夏休みの宿題が終わっていないのに、さらに課題が追加されて、しかも夏休み明けに抜き打ちテストというイベント満載なことが純粋に辛い。恐ろしく体力も気力も疲弊して仕方がない。

 

 ただでさえ毎日限界ギリギリまで鍛錬してるというのに……果たしてその余裕が俺にはあるのか? 

 

「しかしフィジカル面では霧守神社では効果的なことができません」

 

『かといって『刻印覚醒』のために、精神鍛錬も疎かにするわけにもいかん。ここを離れるのも賢くはない』

 

 次々と問題は浮き出てくる。両立するには霧守神社にいるだけでは足りない。これでは鍛錬の意味が成せない。

 

「というわけで、ここからは鍛錬も兼ねたレクリエーションです」

『というわけで、ここからは鍛錬と戯れを混ぜた遊びをするか』

 

「……はい?」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

『ちは——』

 

「から!」

 

『む——』

 

「き!」

 

「それで百人一首するのッ!?」

 

 いくら何でも温度差がありすぎる。急転直下の高低差で耳諸共頭がおかしくなりそうだ。

 

『百対零で霧夕の完勝〜』

 

「イジメッ! 初心者相手に酷くないッ!?」

 

「いえ、レンさんも筋はいいですからね?」

 

「嫌味ッ!?」

 

「いえいえ本当です。見てください、ご自身の手を」

 

 霧夕さんに言われて自分の手を見てみるが、どう見ても可愛らしい女の子の手だ。木刀を握り続けてるから掌にタコがあるが、それでも我ながら見惚れるほど細くしなやかだ。

 これのどこに筋が良いと言えるのか。単純に身体的な質について言っているのだろうか?

 

「その手……取れはしませんでしたが、私が札を取るのに反応して無意識に伸ばされた手です」

 

「そりゃそうだよ……」

 

 百人一首なんて聞いたことはあっても、生まれてこの方一度たりともやったことがない。上の句や下の句とか言われても、内容なんて分かるわけがないんだから、相手が動かした手を追うしかない以上こうなるのは必然だ。

 

 ……ぶっちゃけ後出しの時点で無理というのは分かってはいるのだが、それでも手が出る物は仕方がない。

 

「それは私の動きを捉えて反応してるということです。裏返せばレンさんの『動体視力』と『反射神経』——フィジカルにおける重要な二つは、しっかりと水準以上はあるということです」

 

「あっ」

 

 言われて気づく。霧夕さんの動きに目は追いついているし、身体も反応して動いてくれている。先ほどまでは自分の身体的問題について悲観的になっていたが、こうして見ると意外と何となくなるかもしれない。

 

「ですから、今後もこの調子で楽しく頑張りましょう! 続いては『空間認識能力』を確かめましょう。積み木パズルとかどうですか?」

 

「うん。————いや、それ結局は危機感なくない!?」

 

 遊びです。典型的な遊びしかありません。

 頭では分かっていても、鍛錬という雰囲気においてそれでいいのだろうか。

 

『まあ良いではないか、今だけは楽しめ。…………本当に辛いのは、ここからなんだからな』

 

 ——それは、予想がついていた内容だ。

 むしろメンタルやフィジカルとかの部分的な問題が浮き上がる前に、懸念していた問題だったから。

 

 それはレッドアラートを倒す時に思ったこと。

 

 何度鍛錬して強くなったとしても、本当の完成形として成すには『ある過程』が絶対足りない。

 

 積み重ねた戦い——。実戦経験がないんだ。

 

『……まあ、第三の修行に入るまでは遊び尽くしておけ』

 

 

 …………

 ……

 

 

 それから夜になるまで色々と昔ながらの遊びをした。

 福笑い、蹴鞠、息止め競争、隠れんぼ、鬼ごっこ…………。更には叩いて・被って・ジャンケンポンとかした。

 

 結果としては善戦したのは、息止め競争とかいう同条件下での我慢大会ぐらいだ。成績は十戦三勝。

 他は地理を知り尽くして思いがけない場所にいたり、木々を把握して俺を効率的に追いかけたり振り払ったり、ジャンケンに至っては瞬時に反応しないとウズメさんが俺に憑依して妨害したりと結構悲惨だった。

 

「レンさん、『神隠し』という言葉を知っていますか?」

 

「歴代興行収入にある映画程度なら」

 

 夕食を終えて檜風呂で汗を流すと、俺達は霧守神社の庭内で話し合う。夜風が非常に肌寒く、何かしら着込みたいのだが、ウズメさん「ダメ」と念押しされて不可能だ。しかも服装に関してはここに来て随分と着慣れていた着物ではなく、霧守神社に伝わる特殊な巫女装束なのだ。露出部が多すぎて凍死しそうになる。

 

 基本的な部分は霧夕さんと同じで、違いがあるとすれば、基調とした色が白ではなく黒。そして脇腹から背中はモロ出しで、上半身を隠すのは首を通して胸部を支える前掛け。胸元の谷間も見えていて、客観的に見なくても痴女同然だ、恥ずかしくて仕方がない。

 

 ……女の子になってから半年も経つから、自分の裸体に関して慣れてしまうのが悲しくなる。肌を出しても恥ずかしいのに、それを慣れるって何だよ、露出狂の心境かよ。

 

『とりあえず知らんということだな』

 

「それでは私が説明いたします。『神隠し』とは——」

 

 そこから随分と長い説明が始まった。マサダブルクの博物館で聞いた内容よりも長くて濃い話だ。

 

 要点だけ掻い摘めば『人間が突如として消える』という現象だ。別名『天狗隠し』とも呼ばれているそうだが、それに関してはどうでもいい。重要じゃない。

 

 古来より人が消える現象は神の仕業とされてきた。曰く『罰当たり』とか、呪いだとか色々とあるらしい。そういう話だ。

 

「……その『神隠し』と、夜中に肌晒してる理由と関係ある?」

 

「作法とは違うことをやれば、バチが当たる。これもまた作法です」

 

「話聞いてます?」

 

「話してます。火に水をかければ消えて、油をかければ燃える。使用方法をそれぞれあり、間違えることも一つの方法なんです」

 

 イマイチ要領を掴めない。どうしてこんな冬真っ只中で肌を晒し続けないといけないんだ。寒くて寒くて寒い。

 

「神社の参拝は『二礼二拍手一礼』——。この逆をやってください」

 

 何でそんなことをするのか分からないが、言われた通りに悴んだ動作で『一礼二拍手二礼』と普段とは逆の手順を踏む。

 ……こういう作法って間違えたら祟りが来るとか聞いたことあるんだけど。今まで半信半疑だったけど、こうしてウズメさんがいる以上は本気で祟られるんじゃないかと不安になる。

 

「——安心しろ。今から祟る」

 

「ですよね!?」

 

 今度は背筋に寒気が走る。ウズメさんが脅しをする時はマジだ。マリル並みに本気で実行してくる。俺は確実に今からロクでもない目に会う。

 

「さあ、祟りの時間だ。鳥居を通って『霧守神社』から出ろ」

 

「罰は追放ですかッ!?」

 

「はいはい追放だからさっさと出ろ」

 

 背中を押されて鳥居から無理矢理押し出された。

 鳥居の先は石造の階段だ。不安定な体制のまま出てしまったら、身体のバランスを崩して真っ逆さまに下まで転がり落ちる——はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ———-途端、世界が塗り変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 気温は一転して無くなった。暑いとか寒いとか一切感じない。環境音も一切感じない。葉音の揺れる音さえも。

 何よりも違うのは踏み込んだ足の先だ。階段ではなく歩道に変わっている。だけど、色合いの深みは均一で——つまり『影』がない。影がないから単色のまま世界は形作られており薄っぺらい絵を踏んでいる——そう錯覚する。

 

 覚えがある。この匂い、この雰囲気。

 

 これは、これは……これは——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『因果の狭間』——?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いや、違う。だけど、ちょっと角度が違うだけで概ね同じ。

 見渡す景色は新豊州をそのまま反転させたような気持ち悪い色彩だ。空は赤く、立体物のほとんどが透けて骨組みどころか、建物と認識できる程度の線しか見えない。VRとかで形成される仮想空間をより一層現実感を増した感じだ。

 

 吐かれた息は本当に俺の物なのか? 空気が重く澱んでいるとかじゃない。まるで『酸素に値する何か』を吸って吐いてる。視界も『光を反射して視認している』訳でもない。ここでは通常の理屈では成り立ってない。超常だけで成り立っている。

 

 

 

 蠢く視界に映る新豊州を象った空間。

 この異質な世界は一体——?

 

 

 

「第三の修行——。領域を展開することに特化したEX級異質物を利用した空間での実戦訓練——」

 

 

 

 本来持つであろう厳粛で神聖な雰囲気で、ウズメさんは次の言葉を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通称——『結界迷宮』」


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