魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第5節 〜夕凪〜

 少女は漂う。長い長い眠りの中で揺り籠の安らぎを感じながら漂う。果てのない概念を漂い続ける。

 あまりにも果てなく広がる朧げな概念は、ある意味『海』のようでもあった。

 

 ——ここはどこでしょうか。

 

 少女は漂う概念の中、微かな意志を発する。

 

『光』が見えた。ならばここは深海ではない。

『光』が見えた。ならばここは宇宙ではない。

『光』が見えない。ならばここは宇宙ではない。

『光』が見えない。ならばここは深海ではない。

 

『 』が見えた。ならばここは深海だ。

『 』が見えた。ならばここは宇宙だ。

『 』が見えない。ならばここは宇宙だ。

『 』が見えない。ならばここは深海だ。

 

 少女は漂い続ける。長い眠りは、永遠ではない。

 少女は微睡ながらも目覚め始める。

 眠りから目覚めるのに理由はない。見上げたら流れ星があったように、偶然の産物や気まぐれの積み重ねに過ぎない。だが、少女を眠りから呼び覚ますには流星一つで十分なのだ。

 

 覚醒した意識は目的もなく果てなき概念の先を見つめた。

 やがて一つの『光』を見た。やがて一つの『 』を見た。

 

 少女の意識は浮上する。少女の肉体は沈没する。

 生まれたての意識に姿はなく模倣するものを詮索する。

 

 流星は砕け星屑に。やがて砂のような小さなきらきら星に。

 

 そうだ。私もこれになろう。

 海から波へ。やがて波は音を轟かせる。

 

 

 …………

 ……

 

 

「レンちゃんって、女性のエスコートさえままならないね……」

 

「あはは……。俺、今からオムツしたほうがいいかね……」

 

「足りないのはおつむかなぁ」

 

 最近アニーが冷たい。やっぱマリルの教育の賜物じゃないかな。

 あまりにも惨めすぎる。客人であるバイジュウには玄関先の後片付けをさせてしまうし、アニーには替えの下着を準備させてしまう。

 

「気にしなくて大丈夫ですよ。その、なんというか……うん、ファイトです」

 

 バイジュウの言葉は辿々しく、最終的には何とも言えない励ましをもらう。もうそれ自体が惨めさの証明だ。俺の心はグッサグサ。

 もうお嫁に行けな…………くていいな。俺男だし。九割九分九厘超えて十割十分十厘の確率で俺は男だ。パーセントの確率表記おかしくなるけど、それほどの自負が俺にはある。

 

「申し訳ないと思うなら準備を手伝う! やることはいっぱいあるよ〜〜!!」

 

 アニーに手を引かれて、俺はキッチンへと連れて行かれる。

 どうやらこの別荘はリビングキッチンらしく、調理場から直接リビングの確認ができて、そこにはイルカとシンチェンがテーブルの上でエプロンをつけて何やら作業しているのが見えた。

 

 そしてキッチンにはソヤがいることも確認。ソヤはこちらの存在に意にも関せず一心不乱に調理場で勢揃いしている肉、野菜といった食材を切り刻む。

 

 そして俺が連れてこられた場所には電子コンロ。その上には水が張られた耐熱容器があり、そして真横には大量の生卵とソヤによって切り分けられた野菜の一部達。

 ここまで来て何をするのかを察せないほど俺も鈍感ではない。今季のモテる男の条件は鈍感系ではないのだ。

 ……俺は一度たりともモテたことないけどね!

 

「はいはい! レンちゃんの女子力を見せる時! サラダを人数分作るんだから卵を茹でて、その間にサニーレタスとかトマトを盛り付けよう! バイト先でもそれぐらいはするでしょ!」

 

「りょ、了解!」

 

 アニーも忙しなく動き続ける。

 隣の調理場で作業をしており、徳用サイズの豆乳を大きめの銀ボウルに注ぎ入れている。しかも銀ボウルは確認できる限り、合計五つは確認できる。

 

「そ、それは何?」

 

「豆乳シャーベット。プレーン、バナナ、ココア、レモン、ミントと味と風味は選り取り見取り!」

 

 そう言いながら味に対応した粉末や、レモンやミントの葉を豆乳に浸していく。そして俺のバイト先よりも一回りは大きい業務用冷蔵庫に銀ボウルを慣れた手つきで運び入れる。その時、冷蔵庫にまた別の味を作成中であろう銀ボウルが見えた。他にも色々な食品や飲料があり、仮にゾンビ映画みたいなクローズドになっても一週間以上は生きていけそうな貯蔵量だ。

  

「アニーって料理もできるのか……」

 

「そこまで上手じゃないけどね。これもただ豆乳にフレーバー混ぜて、凍らせるだけだし。……本当は豆乳とは別のも作ってみたかったけど、材料もないし」

 

「ソヤがやってるのは?」

 

「見ての通り野菜類、肉類を掻っ捌いてる」

 

「じゃあリビングでイルカとシンチェンがやってるのは?」

 

「掻っ捌いた具材を鉄串に刺してる。つまりBBQ! バー、ベー、キュー!!」

 

「——いたたたっ!」

 

 テンションが鰻上りのアニーの裏で、シンチェンが悲鳴を上げた。

 指先を見ており、わずかだが血が滲み出ている。どうやら鉄串が指を掠めたようだ。

 

「大丈夫か、シンチェン?」

 

「……んっ」

 

 心ここにあらず。おそらく大丈夫だと返事したんだと思う。

 とりあえず救急セットを取り出して応急処置を済ませると、シンチェンはポツリと呟き出した。

 

「声が聞こえたっ……。知らないけど、どこか安心できる声がした……」

 

「イルカ、聞こえてない、ショック……」

 

「そうなのか、アニー、ソヤ?」

 

「わたくしは見ての通り解体パーティー中ですので聞く耳が持てませんわっ!!」

 

「私も聞いてないかな〜……」

 

「バイジュウは?」

 

「私も特には……」

 

 どうやらシンチェンが聞いた声は、誰も聞いていないみたいだ。

 ……もしかしたら俺が聞いた声はシンチェンと同じものかもしれない。

 

「アニーさん。私に手伝うことはありますか?」

 

「いやいやっ! バイジュウは客人なんだし、帰国したばかりなんだから休まないとっ!」

 

 バイジュウもどうにか手伝いたいご様子でアニーと押し問答中。

 その間にちょっとシンチェンに確認を取ろう。

 

「どんな声だったんだ? シンチェン」

 

「う〜〜ん!! ふむふむ……。そうか……あーなるほどぉ……」

 

 もう答えは見えた。

 

「わかんないっ! 私と似てるような似てないようなっ!」

 

 少なくとも女性っぽいということだけは分かってよかった。

 

「じゃあ何て言われたんだ?」

 

「銀河や宇宙が何色とか言ってたなぁ……」

 

「じゃあ俺とは違うのか……」

 

 俺の時は『あなたは海が何色に見えますか』だった。

 宇宙と海とでは文字通り天と地の差がある。だけど質問内容は似たり寄ったりだ。何かしらの関連性はあるだろう。

 

 ……もしかして今回の異質物と関係してる? でも、そんな呑気な質問をする異質物ってあるのか? そもそも新豊州が所有するXK級異質物である【イージス】システム以外に意思に近い思考を持つ異質物とかあり得るのか? 

 

 ……不安だ。マリルに相談しよう。

 

「ごめん、アニー! ちょっとマリルと話してくるっ!」

 

「では、その間レンさんのお仕事はバイジュウが貰いますね」

 

「えぇ……。まぁ、いいかぁ……」

 

 

 …………

 ……

 

 

「——というわけなんだ、マリル」

 

「そうか、意味わからん。熱中症か? 愛衣に診てもらえ」

 

 ですよね。自分でも発想が貧相かと思ってる。

 

「冗談だ。前代未聞の海域での反応だ。ならば前代未聞の現象が起きても不思議じゃない」

 

「マリルの冗談は冗談って分かりにくいだよっ!」

 

「お前の訓練増やすぞ〜。まあ、お前の話は無碍にはできん。……とはいっても推測しようにも情報が足りんな」

 

 さりげに訓練量増やさないでもらえますかね……? 毎回いっぱいいっぱいなんですけど。

 

「愛衣はどう思う?」

 

「思いつくとしたら特定の人種に音を届けることかなぁ。カクテルパーティー効果やモスキート音みたいな。レンちゃんもシンチェンも特殊な子だから、そういう異質物が放つ音波を受信できそうだし。だけど、そうなると聞きたい意見は他にもあるんだよね〜」

 

「どんな?」

 

「レンちゃん積極的〜♡ 愛衣さんはそんな野獣なレンちゃん好きだよ〜!! だけど残念。今求めてるのはレンちゃんじゃないんだな」

 

「わたくしを呼びましたか?」

 

 背後から今聴きたくない人の声が聞こえた。裸族(ハインリッヒ)だ。絶対に今俺の後方には裸族モードのハインリッヒがいる。

 

「呼んだかな」

 

「会話は聞こえていたので手短に。恐らく愛衣が求める意見とは、わたくしとシンチェンのような『特殊な方法で生成された肉体』か、マスターとベアトリーチェのような『新生児同然の肉体』を持つ者のことでしょう。残念ながら、わたくしは蚊の音ほども聞こえていません」

 

「私も聞いていないわよ」

 

 今度はベアトリーチェの声が聞こえてきた。

 だが残念、穴が開くほどベアトリーチェの水着を見たいのだが、隣に裸族がいるのが想像つくので振り向いた瞬間に一線を超えてはならない部分を踏み入ることとなる。

 

「久しぶりね、レンちゃん。相変わらず初心で可愛い子……」

 

 背中越しに俺に抱きついてくるベアトリーチェ。

 手は撫でるように胸元に沿われ、息遣い一つで耳から下腹部を熱くさせる。そして伝わる弾力&匂い。男を狂わすメロンサイズ&情熱を煽るバラの香り…………って冷静に本能を委ねるなっ! 

 

 魔性の色気に脳内で甘く蕩けるのが祓うも、脳裏に浮かぶのは蠱惑的なベアトリーチェの姿のみ。

 

 俺、ベアリーチェのこと見てないよね? ベアトリーチェもブレスレットをしてるよね? 『呪い』なんて受けてないよねっ!?

 

「マスターは何を恥ずかしがってるのですか?」

 

「ここにいる全員が魅力的なのよ。……特にハインリッヒ、あなたはね。この子には刺激が強すぎる」

 

 わざとですか、ベアトリーチェ様。

 今最も刺激が強いのは、耳元で聴こえるあなたの息遣いなんです。声を発するたびに背筋がゾクゾクして、視界と脳が「見ようぜレン? 男なら見るのが礼儀だ。むしろ見ない方が女々しい」と正当化してくるんです。

 

「わたくしの身体をこと細かく錬成したのはマスターですし、毛の一本まで把握済みだと思われるのですが……。水着を着た方がいいと?」

 

「ええ。どんな魅惑的な身体も、日常に溶け込むと逆効果よ。その恵まれた肢体はとっておきなさい」

 

「これは大人びたご意見。生前は研究肌の学者しか周りにいなかったので、女性としてのアドバイスは新鮮ですね。面倒ですがそうしましょう」

 

「だそうよ——。もう見ても大丈夫」

 

 マジっすか。ありがとうございますッッ!!!!

 

「——じゃないっ!! 水着も気になるけど、一番は異質物についてなんだっ!!」

 

「素直になってもいいのよ」と頭を撫でてくれるベアトリーチェ。

 今は本能に身を窶して良い場面ではない。

 

「ハインリッヒもベアトリーチェも聞いてないとなると、その肉体的な関連じゃないってことだし。となるとあり得るのは保有している、もしくはされてる情報的な共通点かな。ノックの音を聞いてないとなると『天国の扉』でもないし……。完全にレンちゃんとシンチェンの限定した情報となると……」

 

 ——愛衣の中である情報が掘り返される。

 ——過去にレンがソヤを救出した際に起きた『光』。

 ——レンとニュクスが接触した時に起きた2.5YB(ヨタバイト)の超高密度情報量。

 ——『リーベルステラ号』でレンにだけ認識できたシンチェン。

 

 ——次々と推測が推測を呼び、絡み合っていく。

 ——だが推測を積み重ねても実証できなければ推測のままだ。塵はどんなに積んでも塵なのだ。

 

「……それに問いの意味が気になる」

 

「海が何色のこと?」

 

「レンちゃんは海が何色だと思う?」

 

 言われて少し考えてみる。そして目の前の海が目についた。

 青……いや、愛衣が質問してるんだ。そんな単純じゃないだろう。

 だとしたら海は水だ。水ということは……。

 

「水色ッ!」

 

「うん、典型的な答えありがとう」

 

 あまりにも投げやりの愛衣の反応に愕然とする。

 すごい馬鹿にされた感じ……。

 

「残念ながら答えは科学的には不明なんだ。暫定としては無色透明だけど、光の検証は未だに続けられて今でも明確は答えは得られてない」

 

「待て。海の色なんだろ。なんで光の話が出てくるんだよ」

 

「お前は本当に呆れるくらい無知だな。ここはSS級科学者、マリル・フォン・ブラウン博士として個別指導をしてやるとするか」

 

 愛衣との会話に割り込むマリル。「お前好みの資料だ」と彼女はタブレットをこちらに手渡してきた。

 画面に表示されるのは流動的に動き続けるグラフ。意味がわからないので即刻タブを切り替える。切り替えた先には光、色、宇宙といった単語を検索して片っ端から羅列したであろうサイトのURLがズラリと並んでいた。

 画面をスクロールして、URL先を見てみるもどれもありがちなタイトルだ。「宇宙とは何なのか? 調べてみました!」とか「徹底考察! 海の神秘!」とか。

 

 ……ネットサーファーも長いから身に染みてるけど、こういう情報は大抵信憑性も情報量もない。

 これを見るくらいなら自分で教科書や参考書を開いたほうがいい。

 

「お前の海とは何色なのか、という疑問について答えは愛衣が言った通り不明だ。だが見ての通り、今私たちの前にある水平線は煌めく青一色。普通は青色だと思うだろう」

 

「うん。だけどそもそもとして『海』は『水』だろ。だから水色かなって……」

 

「考えは悪くない。だが、そもそもを考えるなら根本的な部分を考察するべきだ。そもそも『色』とは何なのかを」

 

「色は色だろ? 赤は赤だし、青は青。黒は黒だろ」

 

「じゃあ信号機の色は赤と黄色と青か? よく思い浮かべろ」

 

 ……言われてみれば不思議だ。信号機は確かに赤信号、黄信号、青信号と漠然と捉えていた。だけどよく考えると、青信号って『緑色』じゃないか?

 

「もっというなら肌色もそうだな。色合い的には確かに『肌色』なんだが、語感的に『肌の色』かと言われれば疑問が湧く。わかりやすく黒人、白人を例にするが二人とも『肌色』ではないだろう。両者の肌色は黒と小麦色だ。もしこれが通常だと仮定したら、両者にとってそれこそが『肌色』となる。まるでミーム汚染のようにな」

 

「それは発想の飛躍だろ。意味ないじゃん」

 

「そうだ。お前が提唱した『色は色』という問答について意味はないんだ。信号機の青は、緑に見える。そんなの根も歯もないことを言えば個人差でしかないんだ」

 

「じゃあこの問答なに?」

 

「短絡的だな。上辺だけで理解するのはよくない癖だぞ。『色は色』を提唱したのはお前であって、私が提唱したいのはまた別だ。では意地悪問題。私が本来したい話題とは?」

 

「えーと……」

 

 少しずつ話を頭の中で巻き戻した。VHSみたいに記憶に微々たるノイズを交えながらマリルが問いたいことを推理する。

 そもそもとして『海』は『何色』なのか? それで俺が投げて脱線したのが『色と色』。これを巻き戻してマリルが言っていたのは……。

 

 ——『色』とは何なのか。

 

 いや、これでは質問を質問で返すだけで話は進まない。意地悪問題と言っていたし、マリルが求めてる答えは違う。

 だとすればここから派生しなければならない。上辺だけで理解するのではなく、言葉の意味を理解する。SIDの訓練で本質を見逃すなといつも言われてるじゃないか。

 

 ——『色』は個人差なんだから、問答に意味はない。

 ——ならば『色』自体の問いには意味はない。

 ——だとしたら問いたいのは『色』自体ではなく、『色』の本質。

 

『色』って何だ。個人差。最初に戻って堂々巡り。

 違う違う。そこじゃなくてもっと根本に。質問の内容が見えない時は命題を逆にして。

 

 ——『あなたは』海が何色に『見えますか?』

 

「色を『見る』ことに対して、かな……?」

 

「当たらずも遠からずだ。『見る』には——つまり色を観測するには必須条件が2つある。それが何だと思う?」

 

「それが『光』ってこと? じゃあもう一つは?」

 

「お前は光が勝手に色を見ると思うか? もっと大事で当たり前なものがある。光はあくまで色を見せるものだ。だとしたら、色や、光を『見る』のは?」

 

「あっ、俺か」

 

「よくできました。お前でもいいし、私でもいいし、愛衣でもアニーでも、そこらにいる変態でもいい。色を見るのには『光』と『観測者』が必要なんだ」

 

 マリルはそこで一息吐いた。

 

「ここで海と光の関係性になるんだ。最初の話に戻るが、海は何色に見えるか? という問いに対して光は密接に関係している。海自体の色は未だ不明だが、観測者から見た海の色は基本は青だったり水色だったりする。夕刻になればオレンジにも見えるだろう。これらはすべて光が海を通して反射するから起きる現象なんだ」

 

 そこまで聞いて、ようやくクイズ番組とかの豆知識でそんな説明があったことを俺は思い出した。

 海は光を取り込んで人間の視界に入ることで、初めて海の色は青く見えるとか何とか言っていた。

 

「ん? じゃあ、あの声の問いって——」

 

 結局のところ個人差では? 

 それだけ簡単な答えなら、マリルと愛衣が悩むところなんてカケラもないじゃないか。

 

「よく気付いたな。普通なら個人差で終わるんだ。絶対的な色ではなく、一個人の認識の色を問う程度の問答なんてな」

 

「だとしたら、この問答は『普通』じゃなくて——」

 

「そう。今回問われる対象となっているのは、レンとシンチェンなんだ。イレギュラーとイレギュラーに対する問いだ。当然求めてる答えは『普通』であるはずがない。『イレギュラー』でなければお前たち二人に問う意味はない」

 

「なるほど。……あっ、それが愛衣が言いたいことでもあるのか」

 

「そういうことだ。問いの本質を忘れるなよ。メディアが大衆を煽動するように、必ず『問い』というものは『質問者が欲する内容』と『解答者に求めている答え』がある。1+1=2なんて素直な物じゃないんだ」

 

 その言葉を聞いて、俺は再び声の質問を思い出す。

 

 ——あなたは海が何色に見えますか?

 

 その答えは今は持てない。恐らくこれに関して、そう易々と返答していいものではない。

 海を見据えて質問の意味を再び考える。『何色』だ。海とは『何色』なんだ。俺から見たら『海』って何なんだ?

 

 無い頭で絞っても答えは生まれはしない。やがて青い海を見続けてたことで、青髪の少女アニーのお願いを思い出した。

 

 ……いつまでもこうしちゃいられない。早く戻って準備を手伝わないと。

 

「どうですか、マスター。砂浜にある素材で水着というものを錬成したのですが中々の傑作だとは思いませんか?」

 

 と思って振り返った矢先。ご満悦なハインリッヒがいた。自慢の水着が視界に入る。

 白い貝殻が3枚あった。胸部に2枚、下腹部に1枚。それらを繋ぐ紐以外は何も着ていなかった。

 

 ……どこが大丈夫なんだよっ、ベアトリーチェッッ!!


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