魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第8節 〜御桜川学園祭①〜

「御桜川ぁぁ……!!?」

 

『フェスティバル!!!!』

 

「コールありがとうー! 今年の学園祭は特命実行委員長エミリオ・スウィートライドと——」

 

『キャー! エミリオお姉様ーッ!!』

 

「……副委員長のヴィラが担当することになった」

 

『ヴァルキューレちゃーん!!』

 

「うるさいッ! その名は呼ぶなッ!!」

 

『カワイイーッ!!』

 

「そして今宵の特別ゲスト……忙しい合間に来てくれました、高崎秋良ちゃん!!」

 

「イエーイ! 知人繋がりで来たよ〜!!」

 

『キャァァアアアアアア!!!!』

 

「というわけで?」

 

「どういうわけで?」

 

「そういうわけで」

 

「御桜川女子校学園祭、開幕だよ〜!!」

「御桜川女子校学園祭、開幕ですっ!!」

「御桜川女子校学園祭、開幕だ」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「ねぇ……俺だけかな? 女子の声がうるさく聞こえるの?」

 

「ああいうのは男女問わず耳障りよ。慣れておきなさい」

 

「そうかなぁ? 甲子園よりかは静かだよ?」

 

「「甲子園……?」」

 

「……今ないの?」

 

 その日、新豊州の日付は『3月1日』——。特に記念日というわけでもないのだが、俺達が通う御桜川女子校では季節外れの『学園祭』が行われていた。

 

 理由は単純。3年生への『卒業式』の二次会的な役割があるからだ。御桜川の話ではないが、近年卒業生が馬鹿騒ぎしてSNSなどで炎上することが多発するため、せめて学園内での騒動なら鎮静化しやすいという自衛的な面もあって行われている。

 おかげで区内から出店もする企業も多数はあり、校門前に並んでいたりもする。これに関してはここはお嬢様学校ということで、予算的に呼びやすいという面と、一年で使われるはずだった学園予算の帳尻合わせという闇が深いところもあるのだが……今は気にしてないでおこう。

 

「今更知ったんだけど、エミリオってあんな人気なんだな……」

 

「姉御肌というか、お姉ちゃんオーラというか……なんか親しみやすい雰囲気はあるからねぇ」

 

「…………それに見た目は一級品だもの。私的にはどうかと思うけど、オッドアイも受けがいい時はいいだろうし…………悔しいけど、私でもあれには勝てないわ」

 

「何その不貞腐れた言い方?」

 

 負けず嫌いの偏屈お嬢様であるラファエルが、素直にエミリオに負けを認めているの非常に珍しい。果たして一年生である俺とアニー、それにここにはいないヴィラは知るよしもないことだが、二年生であるラファエルとエミリオには何かしらの因縁でもあったのだろうか。

 

「ふふっ、簡単な話ですよ。マサダブルクの聖女様に嫉妬してるんです。転校初日に腫物扱いだった自分とは違って、エミリオさんはその人柄ですぐに打ち解けてましたから」

 

 そんな時に大人びたような落ち着いた女性の声が聞こえてきた。

 最近はメッキリと関わりが少なくて交流がなかったが、それで忘れるような薄情な俺ではない。

 俺は、彼女の方へと振り向いて名前を呼ぼうとした時に、誰よりも早く憎たらしくラファエルはその名前を吐き捨てた。

 

「ニュクス——。何よ、嫌味でも言いの来たかしら。だとしたら暇人ね」

 

「事実じゃない。嫌味に聞こえるようなら、そう捉えるアナタの感性に問題があると思うのけれど?」

 

「それに」とニュクスは馬鹿にするように笑いながら、視線で自分の下を見るように促す。そこには眼帯、猫耳、クラゲと各々特徴的なワンポイントを持った三人の少女達がいた。

 

「イルカ、シンチェン、それにハイイー!」

 

「「「お姉ちゃ〜〜〜〜ん♪」」」

 

「痛っ!? いきなり両腕を引っ張らないでっ!? そしてハイイーは登ろうとしないっ!!」

 

 出会って5秒で我ながら酷い状態となった。右腕はイルカ、左腕にはシンチェンが綱引きのように俺の腕を引き伸ばし合い、手持ち無沙汰なハイイーが髪を蔦って肩車を強行しようとしてくる。非常に痛い、痛過ぎて鯛になりそうという意味不明な例えが出るくらい痛い。

 

「はいは〜〜い♪ レンちゃんはみんなの物だから仲良くしてね〜〜♪」

 

「久々の物扱いされる人権の低さっ……!」

 

 アニーは頭に「?」と言いたげに疑問符を出してるけど、それがもう無意識的に俺の立場を物語ってます。

 

「こ、う、し、て? 暇人ではなく一生徒として保護者の元に子供達を案内しただけに過ぎないのですが?」

 

「元々こっちが迎えに上がる予定だったのを、アンタが頼んでもいないのにやっただけじゃない。別に迷子になったわけでもないんだから余計なお世話よ」

 

「でもイルカ、退屈だった……」

 

「イルカちゃんに激しく同意!」

 

「シンチェンと同じ〜〜……」

 

「……だそうですよ、ラファエルさん?」

 

「…………卑怯じゃない?」

 

 流石のラファエルも子供に当たるのは気が引けるようだ。というか折角の文化祭なんだから、こういう日にまで喧嘩をするのは……。

 

「いいのよ〜、レンちゃ〜ん♪ 喧嘩するほど何とやら。あれが二人にとってスキンシップなんだから」

 

「エミリオは急に背中から話しかけた挙句、勝手に心読まんでください!」

 

「隙だらけなんだもん。相変わらずで安心したわ」

 

 相変わらずって……これでも色々と成長してるんだぞ。身長もそうだし、一応……ってそれ以上思い浮かべてはいけない! エミリオには読心術があるんだから知られてしまう!!

 

「〜〜〜♪」

 

 あっ、ダメだ。完全に俺が思ったこと見透かして、今にも吹き出しそうなご機嫌な笑みを浮かべてやがる。これがマサダの聖女様……どう見ても悪魔の類か何かじゃないのか?

 

「ところでエミリオ、聞き捨てならないんだけど。私とニュクスが仲が良いなんて、その目は飾りなんじゃない?」

 

「ええ、そうですわ。私がこのじゃじゃ馬と付き合いはあっても、仲が良いまでなんて……」

 

「うわぁ、素直じゃないお二人さん。今頃そんなツンツン流行らないよ?」

 

「「誰がツンデレですって?」」

 

「そういう素直じゃないところ〜〜♪」

 

 すげぇ。あのラファエルとニュクスを手玉に取ってる。これもエミリオが持つ読心術があるからこそ出来る芸当なのか。

 

「レンちゃん。ここだけの話、あの二人って最近一緒にスイーツを——うげっ!?」

 

 一瞬だ。エミリオが次の言葉を吐こうとした瞬間、ラファエルとニュクスは阿吽の呼吸でエミリオへとヘッドロックを決めた。

 

 とはいってもエミリオは軍人だ。二人がかりのヘッドロックであろうと、どこか余裕のある雰囲気で「ギブギブ」と言って楽しんでるご様子だ。

 

 ……なるほど。何となく二年生同士の繋がりが見えた気がする。もしかしなくてもラファエルもニュクスも、エミリオに対して強く出れないタイプだな?

 

「……ちっ、首落とす勢いでやったのに何で余裕なのよ」

 

「私、頑丈だから」

 

「それで片付いたら苦労しないわよ」

 

 半ば諦めたように呆れながらラファエルは言う。それは何度も重ねた末の結論だというように、溜息をつく気もないほどの呆れ具合だ。二年生同士が普段どうやって付き合っているかも察せられる。

 

「おーい、エミ。申請がきた企業の出店確認終えたぞ」

 

「ありがとう。問題とかあった?」

 

「全部欠員なしの時間通りだ。体育館では午前のワンタイムライブ中だし、今ならどこに回っても空いてると思うぞ」

 

「よし。じゃあ、どこから回ろうか、みんな」

 

 流石は軍人さんだ。スムーズに事を進めた上に、エミリオが取り出した学園の出し物マップには、色とりどりのマーカーペンでサインがしてあって、一目でどれがどういう系統の出し物をしているのか分かりやすくしてある。

 

 …………気のせいかな。食べ物関連だけ、やたら力強く書かれている。

 

「ふんふ〜〜ん♪ 企業からはチョコバナナ、リンゴ飴、ラーメン、唐揚げ……♪ クラスではホットケーキ、ホットサンド、たこ焼き、焼きそば、焼きうどん……♪」

 

「こっち側の出し物って焼き物しかないな……」

 

「衛生面的に火を通さないと危険ですからね。それにクラスメイト同士の交代も考えると簡単な物にしないと回りませんから」

 

「ねぇ、レンちゃん! こっちだとお化け屋敷とかあるよ!」

 

「おっ! しかもパソコン部のAR技術を使った本格派だってさ! 楽しみだな!」

 

「…………………………………へぇ」

 

「レンお姉ちゃ〜〜ん! 射的やりに行きたい!」

 

「イルカ、輪投げやりたい」

 

「はいはい、一件ずつ回っていこうな。ハイイーはどこに行きたい?」

 

「……ここの、リアル脱出ゲーム」

 

「二人一組の出し物だね。じゃあ、エミリオお姉ちゃんと一緒に入る?」

 

「やだ。シンチェンかレンお姉ちゃんがいい」

 

「またも断られた……」

 

「お前らー。迷惑だから横並びに歩くのだけはやめろよー」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 というわけで、とりあえずは手持ちができて分け合うことができるたこ焼き、唐揚げ、カステラ、フライドポテトを各々手にしながらクラスの出し物を順繰りに回ることになった。

 

 まず一番手。他所のクラスが提供している『トランプ』での『ポーカー勝負』だ。持ち数7点の範囲でワイワイと楽しむ軽い物なはずなのに、ここで二人の仁義なき勝負が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

「一枚チェンジ。……ふっ。エミリオ、今日こそ勝たせてもらうわ」

 

「チャンジなし。じゃあ、ラファエルの手札はフルハウスとかの強いわけね?」

 

「言うと思う? 読心術を持つ貴方に?」

 

「そう……なら私の手札を教えるわ。ワンペアよ」

 

「——っ」

 

「ふ〜〜〜ん。じゃあベッド。1点を置くわ」

 

「——レイズ。2点で勝負よ」

 

「そこにレイズ。もう2点追加で計4点」

 

「……ワンペアで自殺行為ね。もちろんコールよ」

 

「残り三点……これもすべてレイズ! これで合計7点!」

 

「……正気?」

 

「まだ私のバトルフェイズは終了していない! そしてレンちゃんのフライドポテトをレイズ!」

 

「待って!? 勝手に花京院でバーサーカーしないでっ!!?」

 

「まだまだぁ! さらにヴィラのたこ焼きもレイズ!」

 

「えっ!? いやっ、えっ!? ちょっ、えっ!!?」

 

「あんた、ふざけて——!!」

 

「————貴方の手札は、ツーペアでしょ?」

 

「えっ?」

 

「しかも絵札の。ジャックとキングのツーペア」

 

「————!?」

 

「じゃあ、コールしてくれるだろうし、いざ勝負——!!」

 

「ド、ドロップ!!」

 

 

 

 

 

 …………ラファエルが降り、互いの手札が開示される。

 

 ラファエルは口頭された通り、ジャックとキングのツーペア。

 対してエミリオは——ワンペアどころかの役なし。つまりは『ブタ』や『ノーカード』と呼ばれるものだった。

 

「——はぁっ!? チェンジなしのブタ札であんなレイズしたの!?」

 

「そうよ♪ 面の顔は剥がしたから、もう勝ち目ないわよ〜〜♪」

 

 当然、このあとエミリオは点数の暴力と読心術でラファエル相手に完勝した。おまけのついでにニュクスも俺もアニーも全員ボッコボコにされた。

 

「……ピンクの人、大人げない」

 

「うぐっ!?」

 

 ハイイーの嘘偽りない純度100%の罵倒がエミリオの心に突き刺さる。読心術の恐ろしさ、ここに極まれり。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 続いて二番手。野球部が提供する『ストラックアウト』だ。持ち玉12個で、合計9個の的を持ち玉介して落とせば得点となるゲームだ。これは野球経験者であるアニーが非常に目覚ましい活躍をして同時抜きで6球でクリア。そして単純に運動神経が良いエミリオが9球で全部撃ち抜くという、いきなりレベルの高い成績を叩きつけられる。

 

「ちっ。12球でやっと全部か……」

 

「いいじゃない。私なんて二つ余りよ」

 

「俺は一つ余りだ〜〜」

 

「届かないよ〜〜!」

 

「子供達は線よりも前に出てもいいんだから頑張って!」

 

「——ふんっ!!」

 

 ……そしてラスト。ヴィラが一球入魂で全部叩き落とした。それどころか、ストラックアウトのフレームそのものが歪むという、これまた妹分に恥じない負けず嫌いっぷりを発揮していた。

 

「わおっ。レーザービーム超えてサテライトキャノン」

 

 流石のアニーも若干ドン引きしながら球速測定器を見ながら言う。表示されるのは163キロ。メジャーもビックリだ。

 

 ……マサダブルク出身って負けず嫌いになるのか?

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 三番目。卓上遊戯部の『パズル』だ。ジグゾーパズル、知恵の輪、ルービックキューブ、様々な物を取り扱っている。

 

「へいっ」

 

「ええええっ!? ルービックキューブを4秒台で解いちゃった!?」

 

「ほいっ」

 

「知恵の輪も一瞬で解いたぁぁあああ!?」

 

「ちょこれーとっ」

 

「意味不明な叫び声だけど、今度はミルクパズルさえも難なく解いた!?」

 

「イルカちゃん。なんでそんなすぐに解けたの?」

 

「スキャニングした」

 

「アウトーっ!!」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 四番目。今度は『クイズ』なのだが——。

 

『問題です。アマゾン川で』

 

「はいっ! ポロロッカ!」

 

『正解です。続いての問題です』

 

「はいっ。トーチタス」

 

『正解です。続いて——』

 

「「アッシー、メッシー、パッシー!」」

 

「……二人とも意味わかってる?」

 

「「全然っ!!」」

 

 ……まあ、頭ウィキペディアであるシンチェンとハイイーにはクイズなんてあっという間に片付けてしまうのであった。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「いやぁ…………つくづく魔女ってひでぇな」

 

「ほほほへ」(ほんとね)

 

「あの、エミリオさん? 口に物詰めないで喋らないでもらえます?」

 

 ハムスターのように頬パンパンだと色々と台無しになる。

 

「んっ……。色々美味しくてね〜〜♪ ついつい食べ過ぎちゃった」

 

 確かに学園祭の出し物としては結構レベルが高い味ばかりだ。企業側は有名店からの出店があるから当然分かるが、学校側も一歩劣るがそれでも味の質自体は高水準だ。お嬢様学校ではあるが、在校生が家庭科の授業で調理実習をやるのが必修科目になってるのが理由だろうか。どうあれ美味しいのはいいことだ。

 

 ……しかし、割と遊び倒したな。子供達が口にした射撃、輪投げ、リアル脱出ゲームも回ったし、他にも水風船すくいとかダーツとかも楽しんできた。

 あとはARお化け屋敷に行きたいけど、向かおうと口にしようとした瞬間には、ラファエルがリードに引っ張られるブルドッグみたいに顔面を強張らせて威嚇してくるのでどうにも切り出しにくい。

 

 思考する中、突如として校内に「キーンコーンカーンコーン」という本当のチャイムではなく、放送室で予め録音された物が流れる。

 

 …………12時の合図だ。そろそろこちらの番か。

 

「行こうか、レンちゃん」

 

「よし。準備しないとな」

 

「準備? 何言ってるの?」

 

 俺とアニーの会話に、ラファエルは純粋に疑問を言う。この事は一年生組の俺とアニーとヴィラだけの秘密で、恐らく読心術持ちであるエミリオ以外には誰もまだ知られていないことだ。

 

 アニーは「ふっふっふ」と意味深に笑うと、ヴィラも「ふっふっふ」ととりあえず乗ろうと特に意味もなく不敵に笑う。それが奇怪な行動に見えた事で、エミリオ以外の全員が怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 だが笑うのは二人だけじゃない、俺もだ。満を辞して俺も「ふっふっふ」と笑い、高らかに宣言する。

 

「もちろん、俺達のクラスの出し物さ!」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「女装癖の出し物ね……」

 

 一年生組と別れてから少し時間は過ぎ、ラファエル達はレン達のクラスへと向かう。子供達は「どんなだろう?」とワクワクし、ニュクスやラファエルに「知ってる?」と聞いてくるが、二人揃って「知らない」という。

 

「パンフレットには何て書いてあるの?」

 

「喫茶店だって」

 

「喫茶店ねぇ……」

 

 ラファエルは「溜め込むほど珍しい物じゃないでしょ」と言いながら、その脳裏には『喫茶店』という単語に反応して、レンとアニーがどんな服装で迎えていくれるのか夢想していた。

 

 メイド喫茶みたいに全員それっぽいフリルに身に包んでお出かけするのか。もしくは学校らしくエプロンと三角巾を付けるのか。あるいは制服のままなのか。

 

 ラファエルからすれば特に面白みもない。何せどれも見慣れた物だ。レンのメイド姿など、彼女がテレビデビューする前にバイトしてたメイド喫茶で見たし、エプロンは合同調理実習の時に見る時はある。制服なんてものは今更だ。

 

「安心しなさい。そんなつまらない物じゃないから」

 

「エミリオ……隙さえあれば心読むのやめなさい」

 

「じゃあ、もうちょっとラファエルも素直になってくれないかしら。そうすれば心読まなくても分かるから♪」

 

「素直って……私がどこが素直じゃないのよ」

 

「そういう可愛いところ♪」

 

「こいつには配慮とかないのか」と内心不貞腐れながらもラファエル達はついにレン達のクラスの前にたどり着く。横引き扉の前には、いかにも100均で揃えましたと言わんばかりにラミネートされたチープな木製細工の看板があり、そこには『喫茶店』と白と黄色のチョークで少しでも色映えしようと頑張っている。

 

 ……側から見なくても没個性なデザインに、芸術肌であるラファエルは「もっと良いデザインにできるのに」と、どうしてもリテイクしたい欲求が湧いてくるがひとまずは置いといて、果たしてどんな平々凡々な出し物になるのかとラファエルは先陣を切ってレン達のクラスへと入った。

 

 

 

「「「いらっしゃいませ、お嬢様」」」

 

 

 

 そこには普通の喫茶店だった。黒の燕尾服と白のワイシャツに黒のネクタイ、そしてワンポイントのポケットスカーフ。オーソドックスな執事服に身を包んだ男子生徒達が、来客した者達に客席にスムーズに紅茶やホットサンドを提供しては「お楽しみくださいませ」と優雅に去っては次の席へと向かう。

 

 …………しかし一つだけ問題があった。

 ここは御桜川女子校の名の通り『女性』しか通っていない学校だ。ここに『男子生徒』なんているわけない。だとしたら今目の前にいる執事達は何なのか。特に目立つのは三人だ。非常に優雅な身のこなしで絶え間なく動き続けている。

 

 一人目は白髪赤眼の執事。温和で穏やかな動作に、利用している客は目にハートを浮かべるように魅入られている。さながら物語上の白馬の王様そのものであり、思わずラファエルも子供時代の夢を思い出しては「あの頃は夢見がちだった」と一人思い耽る。

 

 二人目は青髪青眼の執事。元気で活発ながらも、確かな健かさで客一人ひとりに愛嬌を振りまいては礼儀正しくお辞儀をする。見ているだけで一種のパフォーマンスとなる様は、高級ホステスのナンバーワンみたいな風格を持っていて品がある。

 

 三人目は特にラファエルに目を引いた。何故なら知人に非常によく似た特徴を持っているからだ。

 

 どんな宝石よりも澄んだ赤眼。綺麗に整った黒髪の赤メッシュ。他二人と違って動作に特徴がないのが特徴だ。あまりにも自然体に動く姿は言いようのない男らしさを感じ、上記二人の絵空事みたいな世界な特徴と違って、等身大の男性としての品と穏やかさがあった。

 

 

 

 

 

 それはまるで、ラファエルが『認識』しているレンの姿と重なって見えて————。

 

 

 

 

 

「お嬢様。本日はどのようなメニューにしますか?」

 

「まさか、その声……その髪色……っ!?」

 

「作用です、ラファエルお嬢様。わたくしの名前はレンと言います」

 

 

 

 

 

 ——レン達のクラスの出し物。それは『男装執事喫茶』だったのだ。


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