魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第10節 〜御桜川学園祭③〜

「ふぇふぇふぇ……御桜川女子高名物『七不思議体験お化け屋敷』によぉうぅこぉそぉ……!!」

 

「うわぁ、キャラ濃いな……」

 

「そういうキャラ付けです。私は館主の『カロリン』……。ここではパソコン部がAR技術と、一部カラクリ技術を使って触覚を再現した恐怖体験をする出し物になります。危険ではありませんが、いつでもリタイアできるように出口が配備されており、その際は「リタイア」と宣言してくれれば、こちらの案内犬が道案内をしてくれます」

 

「可愛い〜〜♪」

 

 ……学園内に犬が居て良いのか気になるが、そこは置いといておこう。エミリオが撫で回す二匹の犬の首輪にネームプレートを見る。

 ……『ポチ』と『ニコ』か。この子達に頼めばいつでもリタイアできるんだな。

 

 さて、その問題となるお化け屋敷を見てみる。安物に見えて、非常に遮光性が高い黒一色のカーテンに仕切られた廊下。その前には机の上で案内人となるカロリンは、一人ずつスマホに繋げられる小型端末とそれにケーブルが繋がった『メン・イン・ホワイト』みたいなサングラスを手渡してくれる。この小型端末が今回の恐怖体験となるAR技術のデータを詰め込んだ物だ。これを掛けてカーテンの向こう側に行けばお化け屋敷のスタートになる、とカロリンは口頭で説明してくれる。

 

「七不思議かぁ〜〜」

 

 身内で一番学園内の噂について機敏なアニーが『七不思議』について瞳をキラキラと輝かせている。かたやラファエルはカーテンの前で深呼吸を繰り返し「所詮は作り物、作り物……」と自己暗示を掛けている。

 

 ……ここで、この御桜川女子校の『七不思議』について簡単に説明しよう。俺達が通う御桜川女子校では、普通の学校による『トイレの花子さん』や『口裂女』や『動く人体模型』といった類ではない。一風変わった物ばかりなのだ。

 

 …………そして悲しいことに、俺はその内容についていくつかは詳しく知ってしまっている。そんなのが七不思議になるなんて、世も末というか何というか……。

 

「それではパソコン部が腕を振るった出し物を楽しんできてください!」

 

 館主であるカロリンはカーテンの向こうへと導く言葉を発して、俺達を館へと案内した。果たしてそれは不思議で素敵な世界へ導く魔法の言葉か、はたまた狡猾で陰鬱な世界へ導く呪詛なのか。それはこの先に行けば分かる事だろう。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 緑色の淡い蛍光灯の灯だけが廊下を照らす暗闇の世界。エミリオとヴィラは微動だにせず、ソヤとアニーは期待に胸を膨らませ、ニュクスは何とも言えないアンニュイな表情を浮かべ、俺と子供達は少しビクビクし、ラファエルは鼻息が荒くなるほど深呼吸を繰り返し、各々ARを映すサングラスを掛けた。

 

「「「ひぃっ……!!?」」」

 

 誰かは分からないが、掛けた瞬間に俺を含んだ数人が驚いた。何せ世界が一転してドライアイスを貼ったみたいに禍々しい紫と緑を帯びた煙を発したのだ。視界の片隅には『ミッション』と称してお化け屋敷を体験するための道案内が表示され、そのミッションの内容を見てみる。

 

 

 

 ——七不思議の一つ『ブルーレイ』を解明せよ。

 

 

 

 ……ああ、やっぱそれか。周りから聞こえる「あわあわ」と呻く子供達の声を他所に、俺の背筋から伝わる怖気は一瞬で引き、思考が急速に冷静になる。

 

 七不思議の一つ『ブルーレイ』——。

 これは帰りが遅くなった生徒が目撃した体験談であり、学校の警備員も謎が解けなかった曰く物だ。

 

 一年生の教室で微かな青い光が、まるで生きているように明るくなったり暗くなったりを繰り返す怪異現象。目撃者はその光を追って教室の明かりをつけたが、教室には誰もいないという怪談だ。

 

 …………なんだけど、俺はその謎について、ほぼ確信に近い予測は立っている。俺はその怪談の人物となった人物へと目を合わせた。

 

「……ん?」

 

 怪談の元となった人物である『イルカ』は「どうしたの?」と言いたげに頭を傾げてこちらを見返してくる。

 

 そう、七不思議にある『青い光』とは、イルカが持つ機能であるプロジェクターによるものだ。イルカは偶に一人で映画を見ようと暗がりとして絶好の場所である御桜川女子校に来る時があるが、これまた偶に疲れからかは寝てしまうことが多々ある。そうなるとプロジェクターがイルカの睡眠に合わせて『明るくなったり暗くなったり』して、それを目撃した生徒が教室に入った時には、イルカが睡眠時に起動させている『自動回避システム』による『光学迷彩』でその場にいるのに忽然と消えてしまう。そうなると何も知らない生徒からすれば、先程の怪異現象を体験する……というのが、この七不思議が生まれた理由だ。

 

 そんなしょうもないオチが待っているのが計七つ……一部は俺も知らないが、どうせこんなばかりでは怯えようにも怯えにくい。

 

 それはそうとして、事情を知らない者からすれば内容は怖くて仕方ないだろう。未だに誰かが「あわあわ」と怯えている。

 

「……てか、いつまで怯えてるんだよ。誰だ、あわあわ言ってるの?」

 

「イルカじゃない」

 

「ラファエルじゃないの?」

 

「こ、この程度で怯えるわけじゃない! エミリオじゃないの!? だって読心術が使えないものねぇ!?」

 

「いや、私じゃないわよ。ニュクスでもラファエルでもないなら……ヴィラとか?」

 

「なわけないだろう。アニーか?」

 

「違うよ。ソヤじゃない?」

 

「違いますわ。シンチェンかハイイーでは?」

 

「違うよ! ハイイーも違うよ!」

 

「……レンお姉ちゃんじゃないの?」

 

 …………あっれー? 一巡してない? 

 

 もう一度耳を澄ませてみる。声は右側から聞こえてくる。声のした方を向くと、そこには何もない。ただの柱だけが目の前にあった。

 

「ははっ……こっちから声したんだけど……何もないねぇ」

 

「……ねぇレンちゃん。言いにくいけど、私は左から声したんだけど……」

 

 ……エミリオとヴィラ以外の全員の顔が青ざめていく。じゃあ、この不規則で誰も発していない『声』はどこから聞こえてきてるんですか?

 

「てか、なんでお二人さんだけ余裕なの!?」

 

「んっ……いや、その……ふふっ……!」

 

 今にも爆笑しそうな顔でエミリオは我慢している。この『声』のカラクリについて気づいているかのように。

 

「……これサングラスから聞こえてくる『音』だぞ。掛ける部分がスピーカーになっていて、骨伝導で音を個人個人に伝えてるんだ。多分左右についてはランダムだろうな」

 

「マジか!? あっ、マジだ!?」

 

 ヴィラに言われてサングラスを外した途端、声は消えて無くなり、再度付けると「あわあわ」と恐怖に怯えた誰かの声が今度は左側から頭の中に響いてくる。しかも耳を澄ますと、声の他に微量だが風の通る音や呼吸音、心臓の音などもランダムに聴こえてくる。

 

「臨場感出すための物だろうな。サングラスも妙に重いし、恐らく心拍数をスキャンして、最適な環境音を流して恐怖を煽るようにしている。これを企画したやつは相当性格悪いぞ」

 

 な、なるほど……。場に合わせてBGMを変えてるみたいなものか……。カラクリが分かっても確かにこれは怖いし、仮に分かってもサングラスを外したら道案内もミッションも分からないから外すこともできないという徹底っぷりだ。巧みだが性格が悪すぎる。

 

「こんな科学的な方法で恐怖を煽るのが、現代のお化け屋敷か……」

 

「ホラーも時代を変えて変わるからね。今や貞子も井戸じゃなくてマンホール住みだし、出るのもビデオテープじゃなくてBlu-ray Discよ」

 

「それはそれで見てみたいな……」

 

 分かったことで一安心だが、これは思っていた以上に苦労しそうだ。このお化け屋敷……ただの七不思議と高を括ると痛い目を見そうだ。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「どぅわー!! 足元に幽霊がっ!?」

 

「えっ!? 絶対上にいるよ!」

 

「ぎゃっ!? 目の前にお化けが!!?」

 

「「いないいない!!」」

 

「……おい三馬鹿トリオ。ARが共通してるとは限らないんだ。各々サングラスに割り当てられた——」

 

「ヴィラったら強がっちゃって♪ 姿勢が硬くなってるわよ♪」

 

「ゔぁあああああああ!! 首筋に冷たい物がぁぁあああああああ!!」

 

「ザクロジュースです♪」

 

「エミッ! こういう時にそっち側に回るなっ!!」

 

「ゔぇぇえええええ!!? 骸骨が歩いてきた!!?」

 

「やばばばばばばば!?」

 

「おー!? おー? お?」

 

「ARでも怖っ!!?」

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

「レンちゃん! ラファエルが死んだ!」

 

「この人でなし!」

 

「ひゃっ!? 私の足首にも冷たい物が……っ! エミリオさん、今度は何をしたのですか?」

 

「何もしてないわよ」

 

「きゃっ……! って、ただのポチの鼻じゃないですか……」

 

「……ニュクスの驚いた声、初めて聞いた気がする」

 

「…………今のは忘れてください」

 

「うひひ〜〜♡ 良い声ですわ〜〜♡♡♡」

 

「「ワンワン!」」

 

「ポチとニコは庇って良い子だねぇ」

 

「…………犬は苦手ですわ」

 

「……ソヤって、トコトン猫科な生き物なんだな」

 

 

 

 ……

 …………

 

 

 

「ぜぇぜぇ……とりあえずお札ゲットぉ……!」

 

「ナイス、レンちゃん……」

 

 エミリオ以外が満身創痍(特にラファエルが酷い)の中、俺達は七不思議のいくつかを解決し、解決の証であるお札を手に五つ目へと向かう。ちなみに今まで解決した七不思議は『ブルーレイ』、『13階段』『画仙が宿っている美術室』『赤毛の妖怪』の四つだ。

 

 しかし、俺は舐めていた。

『ブルーレイ』という怪談について、いくら俺が真相を知っていてもパソコン部からすれば未解決の謎だ。そして出し物とする以上、未解決なりの答えをパソコン部は導き出す。その『答え』と『真相』が違うことを俺は想像していなかった。

 

 

 

「怖い……マジで怖いっ……!!」

 

 

 

 パソコン部が出した答えとは『人魂』だったのだ。ARによる映像とはいえ、集会をするように犇く人魂を目撃した時には卒倒しそうになったし、実際ラファエルは「くぁああああ!!?」と、もう優雅さとか上品さとかを全てかなぐり捨てた悲鳴を上げて逃走を図っていた。

 

 

 

 続く第二の怪談である『13階段』——。

 これは実際なら一度ギン教官が身分相応に相応しく学校に通うという話になった際、見学しようとしたら、酔いが回っていたせいで階段の段数を数え間違えた怪談という、二重の意味でくだらない物だ。しかしパソコン部の答えはAR技術を駆使した悪質極まるオチが用意されており、AR技術で階段があるように偽装。踏み込んだ時にはリアルの世界で用意された『ゼリー状の物体』を踏ませるという物だった。これは流石のエミリオも引っかかって、ヌメヌメした感覚に「不快っ!?」と野蛮な声を上げた。

 

 

 

 お次は第三の怪談である『画仙が宿っている美術室』——。

 実際の元となる犯人は、未完成品のデッサンを見て修正したくて堪らないラファエルの犯行による物だ。ここではAR技術によって蘇ったレオナルド・ダ・ヴィンチ【ゾンビ】(ここまでがサングラスに表示された名称)が「お前の身体……黄金比ではない。描き直してやる!」と鬼気迫る顔で追ってくるという非常に怖い思いをすることになった。ラファエルは「こんなの解釈違いよぉぉおおおお!!」と涙目で吠えながら逃げた。逃げた後は本当に死にそうな表情で「よ、余裕だったわね」と産まれたての子鹿みたいに震わせながら強がっていた。

 

 ……怖いなら「リタイア」と言えばいいのに、頑なに口にしないのは彼女が持つ最後の意地という物だろう。製作者からすれば、これほど良いお客様はいない。

 

 

 

 そして第四の怪談『赤毛の妖怪』——。

 これは俺達が誰も知らない七不思議だが、これ自体は七不思議の時点で解決法があるからか、手順通りにすれば滞りなくミッションを熟すことができた。流石に般若Lv120みたいなグレートでデストロイな角を生やしながら「私は綺麗か」と言われたら萎縮してしまうが、解決策があるだけマシだった。というか単純な凄みによる恐怖ならマリルの方が上なんだから慣れっこだ。問題ない……。

 

 

 

「…………うぅ」

 

「どうしたの、レンちゃん?」

 

「あの……トイレ、行って来ていいですか?」

 

 ……問題ないわけなかった。あまりの恐怖から尿意を催してきた。男の時と違って我慢が効かないから、催した時にはすぐに行くようにしないと、いくら人権が低かろうと社会的に取り返しがつかないことになる。

 

「いいけど……ついでに七不思議の五つ目解いてきてくれる?」

 

 ……それはしょうがない。このミッションは元々『一人用』であり、その場所は今俺が口にした『女子トイレ』なのだ。そこに五つ目の七不思議がある。

 

 

 

 ——七不思議の一つ『個室の怨霊』

 

 

 

 

 その内容はこうだ。

 

 2年生の女子生徒が突然腹痛に襲われて、1年生のトイレへと駆け込んだ。入り口から奥の2番目の個室トイレに女子生徒が入り、事を済ませようとした時、すぐ隣の個室から物音が聞こえてきたという。

 

 ……もちろんトイレ何だから誰かいてもおかしくない。問題はここからだ。しばらくすると、その個室から女の子の啜り泣く声が聞こえてきたのだ。

 

 時刻は夜の10時——。部活帰りで留まっていた2年生の女子生徒からすれば、何故この時間に1年生のトイレに誰かが、そして泣き声がするのは不思議でならない。女子生徒はその個室に耳を澄ますと、泣きながらハッキリとこう言っていた。

 

 

 

 

 

 ——面倒だ、どうしよう。

 

 

 

 

 

 女子生徒は気になり、足元の小さな隙間から個室を覗き込んだ。

 

 ……『足が見えなかった』のだ。そしてポツリ……ポツリと……確かに一滴ずつ『鮮血』が滴り落ちてきていたのだ。そして——。

 

 

 

 

 

 ——ギャァアアアアアアアア!!!!!

 

 

 

 

 と、その個室から悲鳴が木霊した。

 

 女子生徒は怖くなり、すぐにそのトイレから逃走した。その後、女子生徒は家庭の事情で引っ越したことで真相は分からず仕舞いだが、今でも夜になると、そのトイレの個室には怨霊が女子生徒の生き血を求めて住み着いていると言われている…………。

 

 

 

 

 

 ——果たして『個室の怨霊』の正体とは——

 

 

 

 

 

「……………………俺なんだよなぁ」

 

 目的地となるトイレへと辿り着き、俺は難なくお札を手に取りながら用を足す。

 

 ……怨霊の正体は他の誰でもない『俺自身』だ。恐らく俺が女の子になって間もない頃、その時はまだ全然知識もなければ意識もしていなかったが、ちょうど初めての『生理』を迎えていたのだ。

 

 生理用品とか当時持っていなかったし、それを目撃した時は驚きを通り越し過ぎて途方に暮れるしかなかった。血なんかまだ見慣れていなかったから、自分の股から漏れ止まらない血液を見てパニック状態で慌てふためくしかなくて、せめて片付けくらいは楽にしようと便座の上に座って何とか全てをトイレに流せるようにした。それが俺の『足が見えなかった』理由だ。それでも慣れていないせいで漏れ出た血が滴り落ちてしまったが…………それが女子生徒が目撃した物だろう。

 

 まあ、こんな史上最高のくだらないオチがあるのが『個室の怨霊』の正体だ。自分自身が当事者なのだから、他のと違って今まで以上に恐怖は湧かずにいる。その証拠に俺は現在進行形でお札を手に用を足すという緊張感がない構図に完成してるのだ。

 

 …………だが真相と答えは違うのが、このお化け屋敷だ。果たしてどんな怪異を見せるのか半分ドキドキ、半分ワクワクしながら待ち続けるが未だに何も起こらない。サングラスの情報も更新されないし、何かしらのアクションが起こる予兆もない。

 

「……結局、何も起こらなかったな」

 

 尿意を解消して便座を見るが何も起きてない。血なんてどこにもなく、あるのは綺麗に汚く排出された黄色の液体だけだ。……そういうフェチはないから、こういうアンモニア臭(?)は嫌悪感しかないからさっさと流すに限る。

 

「さぁ、出よう出よう……」

 

 

 

 ——ガッ。ガッ、ガッ…………。

 

 

 

 ……おかしいな。俺、個室に入る時に『鍵なんて掛けたか』? サングラスはあくまでARを見せたり音を聴かせるだけで、こういう物理的な障害なんて起こるわけがない。

 

 脳が理解を促そうと躍起になろうとした次の瞬間、今度は恐ろしくドギツイ刺激臭が個室内に漂い始めた。

 

 なんだ? この匂い……。

 これは俺が男の時にゲームに夢中になりすぎて、ペットボトルの中に出して放置されていた尿の匂いに近い。それをもっと悪い意味で深みを増したような不快感……。とてもじゃないが堪えきれない。

 

「……この匂い、便器から漂ってくる!?」

 

 待て。さっき俺が確認した限りでは、ただの薄く漂うアンモニア臭だ。ここまで強烈な物ではなかったはず。俺は恐々しながら便器を振り返る。

 

 

 

 

 

 ——そこには『赤く染まった水が流れていた』

 

 

 

 

 

「うぁぁああああああああ!!? 俺の生理期まだ来てないよぉおおおおおおお!!? 早くて半月後だよぉおおおおおおおおおお!!?」

 

 なんで!? なんで『赤い水』が流れているんだ!? もしかして知らない間に生理が早まったのか!? 

 

 気になって俺は即座に下着を下ろして股部を確認する。

 ……よし。下着は赤く染まってないし、鼠蹊部から血は出ていない。あの水は俺が出した血で染まった物ではないことは確かだ。だとしたら、この『赤い水』は……。

 

「……あぁ。サングラスが見せてる色か。臭いはともかく、これを外せばちゃんとした色が————」

 

 

 

 ——赤い水のままだった。

 

 

 

「ゔぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 サングラスぅ!! サングラス外してますぅ!!

 

「あはは……!? まさか、マジモンの心霊現象——」

 

 頭部に『何か』が滴り落ちてくる。混乱する中、俺はそれを反射的に見上げてしまった。

 

 

 

 

 

 ——そこには『赤い液体を口内から滴り落とさせる怪物』がいた。

 

 

 

 

 

「くぁwせdrftgyふじこlp————ッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 リ、リ………………ッ!!!!

 

 

 

 

 

「リタイアァァアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 

 

 時刻は過ぎて夕刻前。校庭中央で灯り始める焚き火をボーッと眺めながら、俺はアニー達がお化け屋敷から帰還するのを待っていた。

 

 我ながら非常に情けない。脱落者第一号が俺なんて……。

 しかしあの『赤い水』や『怪物』は本当に何だったんだ? サングラス越しじゃなくて見えてた以上ARではない。

 

 まさか、本当に幽霊とでも……っ!?

 

「……レンちゃん? アレ、みんなで確認したら、ただの化学薬品と人形だったよ?」

 

 帰ってきて早々、アニーから耳を疑う発言があった。

 …………化学薬品と人形? えっ?

 

「だだだ、だだだったら! なんで『赤い水』が流れたんだよっ!? 俺がレバーを倒しただけだぞ!? 倒す前は匂いもしなかった!? ARでもない怪異現象だぞっ!? あれをオカルトと言わずして——!!」

 

「……トイレって貯水タンクがあって、そこに溜まっている水を流すの。その貯水タンクの水に化学薬品を混ぜて、そして便器内にも対応する薬品を塗っておけば、あら不思議。水が流れた瞬間に化学反応を起こして色の変化と異臭を放つようになるんです」

 

「えっ……? なら、なんで俺は個室から出れなかったの? それとこれ関係ないよね?」

 

「カロリンちゃんにネタバラシして貰ったけど、あの七不思議は便座のレバーを下げた時に全ギミックが作動するんだって。貯水タンクの水圧が変化することで、その間は鍵部分のロックが外から二重に掛かって出れないようになる。そして水量が減ることで比重が変わって天井に吊るされている人形も移動。気付いたら上にいるって感じ」

 

「そんなカラクリ——って、あっ」

 

 そうだ。最初にサラッと言っていた。『ここではパソコン部がAR技術と、一部カラクリ技術を使って触覚を再現した恐怖体験をする出し物になります』と——。

 

 その一部カラクリ技術が、あの七不思議の意味してたのかぁ……!!

 

「うわぁ……」

 

 理解した途端に恥ずかしさが込み上げてきた。赤が真っ赤になって熱を帯びてくる。ちょっと冷静になれば分かることだったのに……!!

 

「ふっ、男のくせに情けないわね」

 

「何だよ、ラファエル。お前だって…………って、エミリオ達は?」

 

「買い出し中。ラーメンとかお好み焼きとかのガッツリ系まだ食べてないでしょう?」

 

 ははっ、エミリオらしいわ……。

 

「しかし、そんなカラクリでビビるなんて……不覚だった」

 

「また来年、挑戦すればいいじゃん」

 

「うん、そうだね……」

 

 

 

 って————!!

 

 

 

「それって来年も俺は『女の子』のままだってことじゃん!!」

 

「あはは!! そう言えばそうだね!」

 

 

 

 こうして俺達の愉快な学園祭は終わる。キャンプファイヤーを眺めながら、高崎さんの歌声が体育館から響いてくる。

 

「レンちゃ〜〜ん!! 蕎麦買ってきたよ〜〜!」

 

「他にも色々あるぞ」

 

 買い出ししていたエミリオ達が両手いっぱいの食べ物を抱えて戻ってきた。みんな思い思いの品物を取っていき、俺も「ありがとう」と「いただきます」を言ってガーリックライスとステーキの弁当を受け取った。

 

 ……そうだな。また来年、こんなに楽しくて喧しい毎日を過ごそう。みんなとこうして何気ない祭事でも、ショッピングでも、クリスマスでも……………本当に何でもいい。何でもない毎日を過ごせるなんて幸せに違いないんだから。

 

 

 

 

 

「来年か……」

 

 

 

 

 

 視界の片隅。ラファエルは黄昏ながらそう呟いた。

 まるで「そんなことがあればいいのに」と願うように。

 




これにて閑話②【少女と日常】が終わります。

4月からは予定通り第四章【堕天使】が始まりますので、今後とも気長にお付き合いくださいませ。

ゲームで皆が頼りにする『あの人』が登場しますので、お楽しみに。
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