魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第四章、開幕です。
予定では15節〜17節になると想定しておりますので、しばらくの間お楽しみくださいませ。



第四章 【堕天使】
第1節 〜啓示が示された顛末〜


 ——『堕天』、それは『天使』と呼ばれる存在が堕落して悪魔に身を染めること。

 

 悪魔に落ち切った天使は、通称『堕天使』と宗教の概念では捉えられている。

 

 

 

 ……ならば『天使』にとっての『堕落』とは何を意味するのか。

 

 

 

 最も有名な堕天使と言われば、キリスト教の『ルシフェル』あるいは『ルシファー』と呼ばれる存在であろう。堕天したルシフェルは悪魔の長——つまり魔王や『サタン』と呼ばれる存在と同一視されてもいる。

 

 しかし文献を紐解けば、かの大天使が『堕天』した理由について明確な記述がされているものは少ない。諸説は様々であり、創造神に対して叛逆を起こした罰、自ら悪魔となった、人間に知恵を授けた罰……などなど色々だ。正確な答えなどどこにもない。ルシフェルが『堕天使』になったことに対して結果はあっても、経緯について曖昧なままなのだ。

 

 だとすれば、何を持って『堕天』というのか。『堕天』という経緯があって、初めて『堕天使』という結果は生まれる。

 

 創造神に叛逆を起こせば『堕天』するのか——。

 自ら悪魔になることが『堕天』するのか——。

 人間に知恵を授ければ『堕天』するのか——。

 

 あるいはもっと別の何かなのか——。

 

 何せ上記で挙げた『堕天』について、どれも結果と経緯が同じなだけで根本が違いすぎる。正確な尺度を持って『堕天』を測る以上、絶対的で基準がなければ定めることはできない。

 

 ならば、その絶対的な基準とは何か。もっと有名な堕天使が記された『キリスト教』の教えそのものなのか。

 

 だが、ここで更なる根本的な問題が発生する。

 

 なにせ『堕天使』の概念とは、ユダヤ・キリスト教の複雑な歴史が背景があり、キリスト教の『原典』とも言える『旧約聖書』と呼ぶ『ヘブライ聖書』においては『堕天使』という概念は存在しないのだ。

 

 最も早く天使の堕落について記載されているのは、後期ユダヤ教諸派において成立した『偽典』と呼ばれる文書のひとつ『エノク書』にある。

 

 つまり、根本を次々と繋げていくと本来なら『堕天使』や『堕天』と言われる存在なんてないのだ。天使が罪を犯し、地に落ちるということは本来起きるはずないのだ。

 

 しかし現実に『堕天』という言葉が生まれ、『堕天使』という存在が認可されている以上、『存在しない』ということは存在しない。何であれ、そこに至るまで理由が必ずどこかにあるのだ。

 

 だとしたら『起きるはずがない』ことを『起きる』のが『堕天』とでもいうのだろうか。かの北洋神話にて戦乙女のブリュンヒルデがシグルズとの恋に落ちたように、自分が本来遂行すべき役目を放棄してしまうことが『堕天』とでも言うのだろうか。神は神、人は人であるように、神が、あるいは神の使いが人間に肩入れすることは『神』と『人』の均衡を崩すことを意味する。ルシファーが人に知識を授けたことが『堕天』した理由——つまり『罰』というのなら、遠回しに言えば人間が知恵を持つのは『罪』であるとでも言うのか。

 

 ならば人間が生まれつき持つ『知恵』が『罪』というのなら、人間は生まれついてから『罪人』だとでもいうのか。確かに神話をさらに紐解けば『創世記』にてアダムとイヴは楽園にて口にしてはならない知恵の果実を口にした。それにより人間は『知恵』を身につけ、それを『原罪』ともいう。しかし、ここでの『原罪』というのは『知恵』そのものではなく、アダムとイヴが果実を口にした際に『その禁忌に触れた罪を互いに責任転嫁しあった』ことが問題なのであり、『知恵』を得たこと自体には決して『罪』ではない。この『知恵』を『原罪』を人間が生まれついて持つ『罪』というのなら、この『罪』はアダムとイヴの物だ。人間の物ではないし、仮に人間の物と押し付けるなら、それこそ『罪を責任転嫁した』だけであり、その考えを広めた人物そのものこそが真なる『罪』を背負っていると言える。

 

 つまり『知恵』は決して『罪』ではない。『罪』ではない以上『罰』はない。『罰』でないなら『堕天』ではない。

 

 だとしたら神に不従順なのが『堕天』なのか。

 それは違う。不従順なだけで『堕天』されるというのなら、神話において不届きな事をしたのは多くいる。使命を恋と共に焼け落ちたブリュンヒルデもそうだし、アダムとイヴと同じく『約束を破った』という意味なら、かの有名な『パンドラの箱』を開けたパンドラもそうだ。しかしパンドラは箱を開けた後はどうあれ、最後まで『堕天』することはなく、大洪水さえも生き残り子孫を残した。

 

 では自ら悪魔になることが『堕天』なのか——。

 それも違う。『悪魔』になることが『堕天』というのなら『堕天使』というものは生まれない。ルシファーは確かに『堕天』したことで『悪魔』になった。しかし、結果としてそれは『魔王サタン』という新しい存在へと変遷したに過ぎず、ルシファー自身が『魔王』や『悪魔』という存在になったわけではない。かの熾天使は変わらずに失墜した羽を背に『堕天使ルシファー』として存在している。

 

 

 

 

 

 

 ならば『堕天』とは——。『堕天使』とは——。

 

 その翼が、地に失墜することには何の意味があるのか——。

 

 

 

 

 

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