魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第4節 〜聖なるかな〜

「「ウボァーー!!」」

 

「どうした小娘ども。マヌケな断末魔をあげて」

 

 日付は進み『方舟計画』当日。久方ぶりのマリルの極悪運転によって『天国の門事件』から実に数ヶ月ぶりに『方舟基地』へとたどり着いた。……シチュエーション的には『南極事件』の方が近いのは、何というか奇妙というか、任務なんだから当然というか…………。

 

「だいひょうぶ、レンひゃん……」

 

「だいひょうぶらへ……」

 

 どう聞いても大丈夫じゃないが、俺とアニーはゲロを吐きそうな気持ちを抑えながら車から降りて『方舟基地』の入り口前まで千鳥足で歩く。こんな事なら『OS事件』の時にハインリッヒから譲られた戦闘服でも着たかったけど、あれは燃費の問題で長時間任務には一切向かないから『南極事件』の時みたいなことになったら逆に邪魔になってしまうので着て来れず、今はいつもの戦闘用改造セーラー服だ。

 

 …………何やかんやでこれにもだいぶ慣れたよなぁ。当初は「恥ずかしくて死んじゃうくらい短い」と思っていたのに………。

 

「ふひひ〜〜♡ その表情も唆りますわ〜〜〜〜♡」

 

「……前から思ってたけど、なんでソヤは無事なの?」

 

「慣れですわね」

 

 今回SIDとサモントン側の話し合いのもと、前回『南極事件』に至る際に偶発的に起きた『因果の狭間』を通した転移現象という事故対処のためにソヤは呼び出された。前回はハインリッヒが同伴してくれたが、今回はスターダストの情報が宿った隕石——。シンチェンが落とした金平糖こと『柔和星晶』に因んだ『剛和星晶』という登録名を持った異質物に誰かが宿っているとは限らない。というかスターダスト本人はこちらの電脳世界にいるのだから、改めて誰かが出るわけがない。

 

 しかし異質物である以上、時空位相波動が起こらないとも限らない。というか『方舟計画』そのものが制御可能な時空位相波動と異質物を見極める実験施設だ。起こるのが前提であり、再び『因果の狭間』が発生してしまうと、前回と違って実行者の俺と『サモントンの執行代表』だけが囚われてしまう。これでは安全性が保障されないため、両者共に異質物に対応できるエージェントを一人連れてくると定め、SIDからはソヤが選ばれたというわけだ。

 

 ……まあ俺もギン教官のおかげで自衛できるようになったけど、それでも未だにソヤの方が強いのが実情だしな……。頼れる戦力があるには越したことはない。『サモントンの執行代表』が————。

 

「……執行代表か」

 

 …………頭にラファエルの顔がチラつく。そう、サモントンの執行代表がラファエルでない可能性がある以上、執行代表がどれほどの人物か測ることはできない。ただ単に偉いだけの人物だったり、ラファエルやソヤみたいに一芸を持った人物だったりするかもしれない。結局は未知数なのだから、ハインリッヒほどのオールラウンダーやギン教官みたいな戦闘民族でないにしろ、実力の引けは取らないソヤがいるのは好ましい事だろう。

 

 

 

 ……執行代表、誰なんだろう。願うが叶うならは——。

 

 

 

「…………なーに、しょぼくれた顔してんのよ」

 

 

 

 …………その声を聞くのは珍しくないのに、別に長い間離れていた訳でもないのに、待ち望んでいたからか、心が惹きつけられるように彼女と顔を合わせる。

 

 間違いない——。見覚えのある黒髪、見覚えのある緑色の服装。そして彼女のシンボルといえる羽を象ったブローチと『R』の文字を象ったバックル。必要以上に傲慢で尊大で、腰に手を置いて鼻を鳴らす高飛車な姿は間違いなく俺が願っていた人物だ。

 

 

 

「ラファエル!! なんでここに……いや、執行代表だよな! そうだよな!」

 

 思わず側に寄って肩を揺すって問う。しかしラファエルは、彼女に似つかわしくない『申し訳ない』と言いたげな雰囲気を纏って、まるで『頭を下げる』ように目を伏せて言った。

 

「……違うわ。私は引き継ぎ確認として居るだけ」

 

 望みは簡単に打ち砕かれた。そこにいるのは、俺が知るラファエルじゃないみたいだ。失礼も承知で思うが、ラファエルはこんなお淑やかで儚げじゃない。もっと傲慢で天邪鬼で愛想なしの遠慮なしだ。それに鳩がどこにでもいると思ってる常識はずれの天然お嬢様だ。たかが『執行代表』じゃなくなっただけで、あのラファエルが潔く自分が毛嫌いを公言しているサモントンへと帰るだろうか。ちょっと想像がつき難いが……。

 

「……その雰囲気からして察してるみたいね。それは間違ってないわ」

 

 ……嘘だと、思いたい。ラファエルが新豊州から離れてしまうなんて。

 

 まだこれから色々やりたいことがあるのに……。ラファエルのダイエットに付き合うためにジム巡りをしたり、バイクの免許を取って一緒に公道を駆けたり、それこそ今年の学園祭も見て回りたい。

 

 それに…………それにラファエルは『先輩』なんだから、俺よりも一年早く御桜川から卒業してしまう。だったら俺は『後輩』としてラファエルの卒業を見送ることもしたいのに……。

 

 全部……もう叶わなくなってしまうのか。

 

「……そう悲観する必要もないじゃない。……別に今生の別れって訳でもあるまいし」

 

「……いや、そうではあるんだけど……」

 

 確かに今後2度と会えないというわけではない。時が経てば再びラファエルと出会うことは不可能ではないだろう。……だけどきっと、その時に会うラファエルは『一人の女の子』としてでなく『サモントンの貴族令嬢』としてだろう。それは俺が求めている『日常』としての出来事ではない以上…………ラファエルとの付き合いは本当にここまでになりかねない。

 

「…………あんたってやつは本当にヘタレね」

 

「い、いきなりなんだよ!?」

 

「それに肝っ玉なしで、狛犬で、変態で、ロリコンで、女装癖で……」

 

「ぉ、おふっ……」

 

「……あんたの世話役、面倒だったわ。やっと解放されて清々する」

 

「————っ」

 

 ……それは素直じゃないラファエルなりの後腐れない別れ方なんだろう。配慮がないことが彼女なりの配慮で、愛想はなくても愛はある。そんな捻くれた彼女の優しさを察せられないほど、俺も鈍感じゃない。

 

「……………………あと——」

 

「ふーん……。セレサの言う通り、ラファエルはよほど君がお気に入りなのかぁ」

 

 俺の心境を察して、さらに何かを言おうとするラファエルの言葉を遮るように男の声が聞こえて来た。誰なのかと思い振り返ると、そこには目を見張るほどの美青年がそこにはいた。

 

 青を貴重としたフォーマルスーツに、水のように澄んだ綺麗な青髪。それをストレートポニーで纏めてる姿は、まるで漫画に出てくる貴族のお手本のような上品さだ。身長はラファエルよりも高く、恐らくは175cmぐらいだろう。少々首が見上げる姿勢となり、構図としては見上げる形となってしまう。

 

 

 

 思わず屈服しそうになる威圧感——。

 その癖に水晶のように煌めく瞳——。

 海のように大らかで優しい笑み——。

 

 

 

 それを見て思わず俺は——。

 

 

 

 

 

 ——ドクンッ。

 

 

 

 

 

 と今まで感じたことのない高揚感を感じた。そして、どうしようもなく頭の中が真っ白になって——。

 

 

 

 

 

「か、かっこいいっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………………………………………………………………………………はっ!!?

 

 

 

 

 

「えっ!? えっ!!? 大丈夫レンちゃん!?」

 

 …………今のはなんだ!? 気のせい……だよな!?

 

「……アニー。俺今なんて言った?」

 

「カッコいいって……」

 

 

 

 

 

 ————ゔぉぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

「おふっ……。これは私でも弄るのを躊躇うほどに、レンさんの匂いと感情がゲーミング的な混乱をしておりますわ……っ!」

 

 冷静に思い返して、のたうち回りたくなるほどの恥ずかしさが身体中の血を巡って熱を爆進させていく。

 

 俺は今……この世で最も末恐ろしいことを思ってしまったっ……!!

 

 男である俺が、同性である人物を『カッコいい』と思ってしまった……!! ロボットやヒーローを『カッコいい』と思うのは、少年心をくすぐられてるだけだからいいが、今回の場合は違う。今回思ったカッコいいは……!!  

 

 

 

 女として……『異性』という認識で男をカッコいいと——。

 

 

 

「ベアトリーチェ!! ベアトリーチェはいないですかっ!!」

 

「落ち着いてレンちゃん!! 気の迷いくらい一度くらいみんなあるって!」

 

「ベアトリーチェーーーーーーッ!!!!!! 頼むぅーーーー!! チャームくれぇええええええええええ!!!!」

 

「無い物ねだりもしない!!」

 

 落ち着いていられる状態じゃない! 今の俺が本当に『男』として正常なのかどうか認識するために、あの魅了の呪いを受けないと不安で仕方がない!

 

 あれを受けないと自分が『女の子』としての感性を身につけてしまったことを認めてしまいそうで…………!!

 

「大丈夫かい?」

 

「ひゃ、ひゃい! だいじょうぶでひゅ!」

 

 青年に距離を詰められて思わず後退りしてしまう。しかしそれは嫌悪感から来るものではない。むしろ嬉しさや恥ずかしさがごちゃ混ぜになった……言いたくはないが『乙女心』から来るものだった。

 

「…………相変わらずね。ある意味安心したわ」

 

「そ、そんな目で見ないでくれラファエル! 決して俺は……っ!!」

 

 未だかつてないほど『ゴミ』を見るような視線がラファエルから突き刺さってくる。

 

 あぁ…………俺は被虐体質じゃないのに、今はその視線がすごく嬉しい。俺が『男』だと、ラファエルが『一人の女の子』として証明してくれているようで安心してしまう。

 

「だ、大体! お前誰だよっ! ここは部外者以外立ち入り禁止だろッ!?」

 

 だが、それとこれとは別問題。ここ方舟基地は行政の目が行き届いた非武装地域。不審な輩なんて、例えそれが親指姫や一寸法師だろうと見逃しはしない。こんな美青年……青年を見逃すなんてことはありえないはず。

 

「はぁ……部外者じゃないわよ。彼こそが新しい『執行代表』————。私の従兄である『ガブリエル・デックス』よ」

 

 …………………従兄!? しかもデックス!?

 

「ラファエルって従兄弟いたんだっ!?」

 

「いるわよ。私の名前から想像つかないの?」

 

 ラファエルって…………確かどこかの天使の名前だよな。サモントン出身だろうし、きっとキリスト教辺りの天使名なんだろう。

 

 あぁ、そういう意味では不思議ではないのか。現代でも験を担ごうと昔の人命や天使の名前を付けるんだから、数多くいる天使の中でピンポイントで『ラファエル』を付ける訳ないか。言われてしまえば、他にもいるのは安易に想像できてしまう。

 

「それでは謹んで自己紹介をしようか。私の名前は『ガブリエル・デックス』。君は…………ふむ、なるほど。実に面白い子だね」

 

「ど、どうも……。俺の名前はレンといいます……」

 

「君がレンか。…………うん、実に可愛い名前だ。いやぁ、レンくん。ラファエルがお世話になったね。じゃじゃ馬娘だっただろう?」

 

「いやぁ〜〜……。そんな事はなかったり……あったり……ですかねぇ」

 

「ふん。こいつが私の世話になったのよ」

 

「それに関しては申し訳ない。私が甘やかして育てたのが悪かった。何せ生まれて初めてできた妹分だったからね。厳しくしようにも、それでも甘くてこんな駄々っ子になって……」

 

「ちょ、ちょっと! 私のことを無視する気!?」

 

「無視してないよ。ラファエルを通すと話が進みにくいだけ。昔みたいに『お兄様』と素直になってくれるなら取り合ってもいいんだぞ〜〜?」

 

「昔のことはコイツの前で言うなっ!! 本当アンタの趣味嗜好は……っ!!」

 

「趣味嗜好だなんて聞き捨てならないなぁ。可愛いものをもっと可愛くしたくなるのは性だ。ラファエルはもっと素直になった方が良い」

 

「あはは……」

 

 どうしよう、板挟みだ。前門にはガブリエル、後門にはラファエルで挟まれている。前からは興味深々、意気揚々と俺を観察しながらガブリエルは話し続け、後ろのラファエルは従兄であるガブリエル諸共ゴミを見る視線で威圧し続けているが、当の本人は気にしないどころか華麗に受け流している。その手慣れた扱いからして、本当にラファエルの従兄なんだろう。

 

「ガブリエル様、世話話はまた今度にしてください。今は執行代表としての責務を優先しますよ」

 

「いたたっ!! 引っ張らないでくれ!」

 

 与太話が二人で繰り広げられる中、突如として金髪の女性がガブリエルの頬を摘んで会話を強引に終わらせてくれた。ガブリエルの訴えに、金髪の女性は速やかに指を離して「今後も控えてください」と釘を刺す。

 

「いいじゃないか……彼が噂に聞くレンくんだぞ。学園都市の交易として話しといて損はないぞ」

 

「どう見てもラファエルさんと話してましたよね。公私混同はよくありません。それにレン殿下も萎縮しております。身内ならいざ知らず、人様に迷惑をかけるのは貴族の模範には程遠いのでご遠慮ください」

 

「相変わらずの女房体質、痛み入るよ……」

 

 ガブリエルは「こほん」と一息置いて先程の雰囲気から一転。ラファエルの初めて御桜川に来た時みたいな厳格で貴族然とした顔つきへと変わる。

 

 ……あぁ、嫌だ。胸の内でギャップでドギマギしてる自分がいるのが腹立たしい。

 

「先程ラファエルが言った通り、私がサモントンで新しく選ばれた執行代表だ。隣にいるのが私の『随行員』にして『ローゼンクロイツ』の一員である『モリス』だ」

 

「どうも、モリスといいます。今回の実験、どんな事が起きようとレン殿下はわたくしがお守りいたしますので、ご安心くださいませ」

 

「ご丁寧にどうも……」

 

 割と色々と新鮮な人物だ。『殿下』呼びされるのもそうだし、ここまで礼儀正しくて爽やかなクセのない人と合うのはSIDに入ってから始めてだ。

 

「…………私はソヤと言いますわ。互いにボディーガードとして今日は頑張りましょう」

 

「ああ、審判騎士さんですか! 総督からお話は聞いてはおりましたが、本当に生きていたんですね!」

 

 元々サモントン出身であるソヤのことを知っている様子だ。モリスさんは親しみやすい笑顔を浮かべてソヤと握手をする。

 

「……レンさん。聖騎士さんはともかく、ガブリエルさんにはくれぐれもご注意を」

 

 握手を終えた直後、ソヤはガブリエル達に聞こえぬように耳元で囁いて話してきた。…………ちょっと色々とツッコミたいところがあるんだけど………。

 

「えっと、聖騎士さんって?」

 

「モリスさんのことですわ。溌溂としてますが、あれでも『ローゼンクロイツ』の長官クラスに値しますので……」

 

「長官クラスって…………マリルに匹敵するってこと!?」

 

 思わず視線をモリスさんに向けてしまう。挨拶も終えて束の間、知らぬ間にモリスはガブリエルとラファエルに正座をさせて説教をしている。……一応ここ外なので、砂利の上で正座させるのは酷じゃない?

 

「いいですか、お二人とも。幼少期からそうですが、貴族として恥ずかしくないように振る舞ってください。お父様やミカエル様ほどとは言いませんがもう少し……」

 

「……ガブリエルが茶化すからよ」

 

「ラファエルが素直じゃないからだ」

 

「でーすーかーらー! そういうところを改めてくださいと言ってるんです! 貴族たる者、己が責任は己が背負う! はい復唱!」

 

「「貴族たる者、己が責任は己が背負う……」」

 

「では次に何をすべきかお分かりですね?」

 

「「……ごめんなさい」」

 

「……よろしい」

 

 あれが『ローゼンクロイツ』の実質的なトップ…………とてもじゃないがそうは見えない。というか二人を幼少期から見てるって…………見た目は二十台前半に見えるけど、実はもっと上だったりするのだろうか。

 

 ……というか『ミカエル』とかいう聞き覚えのない名前が出てきたけど、それも確か天使の名前だったはず。その人もラファエルの従兄弟の一人だろうか。だとしたらラファエルの親戚って結構いそうだな。

 

「……一応はそういうことになりますわね。ですが、問題はガブリエルさんですの」

 

「ガブリエルが?」

 

 そのままモリスから視線をズラして、ラファエルと一緒に反省中のガブリエルと向ける。すると、ガブリエルと目が合い、見惚れるような笑顔を浮かべて彼は言った。

 

「あっ、レンくん。実験開始まで時間あるから、待合室でお茶でも——」

 

「言ってる側から貴方は!! 天誅ですっ!!」

 

「ふもっふっ!!?」

 

 モリスさん渾身の膝打ちがガブリエルの脳天へと叩き込まれて、ガブリエルは意識を失い、そのままモリスは米俵を担ぐように身長175cmの肉体を持って方舟基地へと入っていった。

 

 ……あれが本当のソヤが言う通り警戒すべき人物なのか? どうにも信用ならないというか、信用したくないというか……。

 

 その、何というか……心が惹きつけられて言うんだ。

 ガブリエルを警戒したくないって、乙女心が…………。

 

 

 

 

 

 乙女心………………………………。

 

 

 

 

 

「…………ウボァー!!」

 

「あっ。また吐きましたわ」

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