魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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4月に入ってからゲームのイベントが重なる、リアルでやる事が多い、季節の移り目のせいで体調不良と色々とアレがアレになってしまい、ストックが尽きたため、申し訳ありませんが次回以降から暫くの間は一週間に1話投稿になります。


第9節 〜翼は血に染まる〜

 その頃一方、方舟基地——。

 

 マリル、愛衣、アニーは緩やかに後日行う『魔導書』の実験を人知れず進める中、実験フロア内でガブリエルはウリエルと共に厳重に管理された『魔導書』を見つめる。しかし二人が向ける視線の意図は、二人して違う物であった。

 

 ウリエルは新しい玩具で遊びたい子供のような好奇心に満ちており、ガブリエルは逆に遊び疲れたように嫌気に満ちていた。

 

「ねぇねぇ、ガブリエル兄さん」

 

「なんだい、ウリエルくん」

 

「——なんか企んでる?」

 

 ウリエルの言葉に、ガブリエルは沈黙を通すことはせずに「企んでるさ」と素直に言った。

 

「方舟基地での実験は、両者ともに恩恵があるとはいえ、その背後には悟られない程度のもう一つの目的があるのは周知の事実……だろ?」

 

「いんや。そういうサモントンと新豊州としての企みじゃなくて……兄さん個人についてだ」

 

 まるで剃刀のように鋭利に切りかかる話題を振るウリエルの口に、ガブリエルは目を開いて視線を交わす。ウリエルの瞳は、歳下とは思えないほど達観していて、まるでこの世の全てを渡り歩いた老人のような底知れなさがあった。

 

「僕はね、そういうの好きだよ。人間として行動する心はね。……だけどデックスとしては許さない。貴族は相応の義務を全うする…………それに反することは兄さんだろうと許しはしないよ」

 

「するわけないだろう。私はガブリエルだぞ? その名に恥じぬ『神の言葉を伝える天使』としての責務は全うするさ」

 

「そうかなぁ。僕は兄さんが、ラファエル姉さんに入り込み過ぎてる気がしてならないよ」

 

 ケラケラと笑いながらウリエルは「分からなくもないけどさぁ」と話を続ける。

 

「姉さんはデックスでは非常に逸脱した感性の持ち主だ……。普通なら祖父もミカエル兄さんも『出来損ない』や『穀潰し』としてデックスから追放されてもおかしくないほどにね」

 

「あれでも信仰心は本物だ。下手な宗教家よりかは信心深いぞ、ラファエルは。それに度胸も据わっている。公衆の面前であの問題発言。時にはああいう意図的に空気読まない子は必要なんだよ、政治ってのは。だから祖父様はラファエルを気に入ってるんだからな」

 

 ガブリエルの言葉に、ウリエルは「そんなことは分かってるよ」と溜息を吐いた。

 

「……それでも限度がある。それに肩入れする兄さんは『ガブリエル・デックス』としてじゃなくて、一個人の意思の方が強く感じるんだ」

 

 ウリエルの視線と表情は変わらない。しかし、誰であろうと不機嫌だと分かるくらいには雰囲気は一変していた。

 

「……まあ、貴族の義務を忘れてないなら大目に見るようにするけど……。何かレンちゃんと会ってたからさ。——いざという時は覚悟しとけよ、ガブリエル」

 

 恩恵で人懐っこい表情から一転。あまりにも無機質で、瞳孔と目が一体化したのかと錯覚するほど捉えようのない視線をウリエルはガブリエルに向けた。

 

 それは遠回しな忠告だった。暗にレンとガブリエルがどの様な会話をしていたかを知っている様な口ぶり。確かに二人の会話の内容を耳にしているなら、デックスであるウリエルがそれを見逃すはずがない。少なくとも釘を刺してくるのは至極当然なことであった。

 

 

 

 それに対してガブリエルは笑みを浮かべ——堂々と告げた。

 

 

 

「覚悟はとっくに終えている。思いも託した。…………これ以上、私がすることなんてないさ」

 

「…………何を言ってるの?」

 

 ウリエルが疑問に思った直後——。

 

 

 

 

 

 ——ゥウウウウウウウウッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 ——方舟基地全体に耳を貫くほどの轟音にして高音、視界を赤く塗りつぶすサイレンが光り輝いた。

 

 

 

 

 

『緊急事態発生ッ! 『方舟基地』に侵入者有り! 繰り返します、侵入者有り!!』

 

 アニーの声が実験フロアに木霊する。スピーカー越しからマリルの『状況把握を急げ! エージェントを至急向かわせろ!』と迅速な指示も聞こえ、二人は一瞬で状況を把握した。

 

 しかし——二人の思惑は違う。ウリエルの視線は、先ほどより一層険しくなってガブリエルを睨みつけた。

 

「おい、ガブリエル——。まさか……」

 

「…………さあ? 偶然かもよ?」

 

「……それもそっか。まだ疑うには早いか——兄さん?」

 

 再び一転してウリエルは年相応の柔らかい笑顔を浮かべると、一先ずは異質物を保護しようと手早く端末を操作して『魔導書』を実験フロアの奥深くへと移動させる。迅速に連絡を取り継ぎ、状況を把握するためにモリスへと繋いだ。

 

「こちらウリエル。方舟基地はどういう状況なわけ?」

 

『侵入者が一人入っておりまして、ただいま身元を判別中です。もう少しで識別コードを解析できるとのことですが……』

 

『解析完了! …………これはッ!?』

 

 今度はインカム越しのアニーの声がウリエルとガブリエルの耳に届く。アニーの声は衝撃に呑まれたように息を潜め、唾を飲み込む音がハッキリと聞こえるほど一呼吸置くと——。

 

 

 

『——これはレンちゃん…………じゃなくて『アレン』ッ!!』

 

 

 

 自分が最も信頼する少女の本来の姿を持つ、漆黒の犯罪者の名を告げた。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「なんだ、こいつ……ぐあっ!?」

 

「奴を速やかに拘束しろっ!!」

 

 

 

 ——方舟基地、異質物用運搬通路内。

 

 そこで素朴な顔つきと身体からは想像できないほど、卓越した動きを持って銃を持つエージェントを無力化するAAAランク犯罪者として指名され続けているアレンの姿があった。

 

「こいつ、本当に人間か……っ!?」

 

「怯むなっ!」

 

「————どけっ!」

 

 狭い通路であるはずなのに、アレンは巧みなステップで縦横無尽に立体的に近づいてエージェントの発砲を定めず、その手にある『鍵状の細剣』と『一風変わった短剣』を一振りして次々と障害を排除していった。

 

 その鋭敏な動きは、とてもじゃないが人間技とは思えない。ニューモリダスでレンと手合わせた時は本気ではなかったとでも言うように、疾風の攻撃と、怒涛の気迫を持って物の十数秒で、およそ15名はいるであろうエージェントを無力化してみせたのだ。

 

「安心しろ。命を奪うほどアンタ達は強くない。……しばらく眠ってくれるだけでいいんだ」

 

 エージェントは決して弱いわけではない。確かに異質物に関してはレン達に一任しているが、それは『時空位相波動』の適正の都合であり、純粋に戦力としてレン達が一般的なエージェントより上という意味ではない。むしろバイジュウ、ソヤ、エミリオといった一部超人を除けば、『魔女』としての力を使わない単純な肉弾戦や銃撃戦になるとハインリッヒ、ベアトリーチェでさえエージェントの上位層には遅れをとることもあるほど精鋭揃いだ。新豊州の平和な治安に胡座をかく税金泥棒なはずがなく、その実力はレンからすれば目指したい物差しの一つになる程に。

 

 だというのに、アレンはそれらを一瞬で倒した。高校生にしか見えない若らからは想像できないほど、苛烈で迅速な強行突破を持って方舟基地を進み続ける。

 

「おっと待ちな。ここから先は通行止めだ」

 

 そんなアレンの目の前に防護服を一式纏った大男が立ちはだかった。アレンはその男の名前を知っている。その役職も。

 

 

 

 男の名は『南哲』——。新豊州防衛庁の職員にして、陸上犯罪取締部門の部隊長。かつてレンが江森発電所で再び会ったこともある男だ。

 

 

 

「そのまま大人しく投降してくれ。いくら実弾ではないとはいえ、子供相手に銃を向けたくないんだ」

 

「嫌だ、と言ったら?」

 

「じゃあ、しょうがないな」という言葉と共に、南哲はその両手で構えられてるアサルトライフルを発砲した。挨拶の様に一転の悩みもなく撃つその姿は、幾千もの経験から来る物であり、普通なら度肝を抜かれて初動が遅れるだろう。

 

 だが、アレンは知っている。南哲がその様な男であることを。撃つときは躊躇いもなく撃つことを予期していたアレンは、発砲の動作よりも早く前に踏み込んですぐさま南哲の懐へと潜り込んだ。

 

 既に銃器ではカバーしきれない間合い——。アレンはその手にある短剣の方を突き出し、その刃先を南哲の横腹に向けた。

 

「こちとら、銃だけが武器じゃないんでなっ!」

 

 しかし南哲も予想していた様に、すぐさま蹴りをアレンの肘に入れて短剣を弾いた。

 

 それどころか蹴りは腕関節のど真ん中——。人間が鳴らしてはならない悲痛な音が響くと、一瞬でアレンの腕は曲がってはならない方向へと折れてしまう。

 

 普通なら激痛で悶え苦しむだろう。だというのに、アレンは冷静に己の腕を見つめ、大きく深呼吸すると「ゴキッ!!」と、より一層不快な音を轟かせると、アレンの顔色は多少苦痛に歪んで腕は何事もなかったように戻った。

 

「……応急処置にしては些か雑じゃないか?」

 

「……急いでるからな。今回の実験、俺からすれば不都合極まりない。是が非でも止めさせてもらう」

 

 アレンの進撃は止まらない。再び向かうは南哲の懐——ではなく、その向こうにある実験フロアへの通路のみ。アレンの目的は、あくまで実験の不成立なのだから、障害さえ排除できるのなら別に真っ向から戦う必要などないのだ。

 

 針の穴を縫うようにアレンは南哲の間合いに踏み込み、仁王立ちする南哲の僅かな隙を掻い潜ろうと、一息飲む暇さえ与えずに抜けようとするが——。

 

「通さないって言っただろう!」

 

 即座に絞め技を決められて動きを止められた。アレンの頭部は南哲の右腕によってガッシリと固定されて、前進むことも、後ろに引くことさえ許されない。

 

 その体制は『フロントチョーク』——。首筋の気管を圧迫するその技は、シンプルながらも絶大な効果を持っている。なにせ絞め技の中で『最も速やかに人を殺す事ができる』と称されるほどであり、本当に容易く人の意識を殺すように削り取るのだから。

 

 それがアレンよりも二回り以上も身体が大きく、筋肉も漲っている成人男性がやったらどうなるのか。そんなのは火を見るよりも明らかだ。

 

 創作や空想では柔道などの技は体格差を無視して打開できるというが——それでも限度というものはある。そもそも柔道自体が『剛』を持つ者、つまりは体格が恵まれている者な場合、まさに鬼に金棒と言えるほど徒手空拳における純粋な凶器となるのが『絞め技』という技術だ。兎と亀のレースがあるが、最初から最後まで兎がゴールを目指していたら亀は勝つ事なんて不可能。単純なフィジカルというのは、それほどまでに残酷で明確な実力差を見せつけるのだ。

 

(なんだ。この違和感は?)

 

 だが、それは『普通』であればの話に過ぎない。全身全霊となると、華奢な男子相手では首の骨を容易く折ってしまうため、いくらか南哲は力加減をしているとはいえ、相手の意識を落とせるという手応えが一切感じない。首と腕の間に隙間があるわけではない。完全に締めの体制に入っている以上、呼吸なんてままならないはずなのに、アレンは一向に意識を落とすことなく不気味に拘束体制のまま沈黙を通す。

 

「……まさかっ!?」

 

 南哲は即座に嫌な予感を気づいた。だが気づいた時には遅い。アレンは既に動作を終えており、拘束体制のまま足を大きく振り上げ、力強く南哲の膝関節に目掛けて膝蹴りを入れた。

 

 もちろん、その程度では南哲に深刻なダメージになることはない。しかし怯まないわけではなく、僅かに姿勢を崩してしまう。そこからは地盤沈下同然の脱出劇だ。腕の拘束は緩み、そこからアレンは頭部を動かして隙間を生み出し、今度は腕を入れて更に隙間を大きくして、強引ながらも繊細な動作で抜け出した。その一連の動きを見て南哲は思う。

 

 

 

 ——こんなこと『呼吸』ができない体制の都合上不可能だ。だとすればコイツの脳や心臓は、人体医学とは別の原理で動いてるとしか説明できない。

 

 

 

 そんなことがあり得るのかと南哲は考えてしまうが、俄には信じがたい仮説だ。人が『人』である以上、人体医学が覆ることはない。仮に覆るとしたら、それは人の形をした『何か』に過ぎない。そんな存在が本当にいるのかと。

 

 しかし、南哲は知らなかった。その仮説が当てはまる存在が、レン達を中心としたSID内の一部が知っていることに。

 

 

 

 ——その名は『魔女』の成れの果て『ドール』ということを。

 

 ——そして、仮にその仮説を南哲は知っていたとして、致命的な矛盾があることを南哲は知らない。

 

 

 

 勝負はついた。別に相手を無力化する必要はない。アレンは眼前の障害をどうあれ乗り越えて、その先にある実験フロアに到達するだけでいい以上、拘束を抜け出した時点で南哲が『障害』としては機能してない。

 

「くそっ、こんなことはしたくなかったが……!」

 

 駆け出し背を向けて実験フロアを目指すアレン。その無防備な背後に、南哲はアサルトライフルを構え直して発砲した。

 

 だが、弾丸が届くことはなかった。アレンに被弾する直前、弾丸は何かの影響を受けて、弾丸とは思えぬ『曲線』を描いて逸れたのだ。見えない障壁に阻まれたとかではなく、弾丸が一人で明後日の方向に向かい続ける。

 

 そして南哲は気づく。アレンの手にある『一風変わった短剣』が発光すると共に周囲が歪み、弾丸は超常の理を持って制御されていることに。

 

 何度撃っても変わりはしない。全弾があり得ない軌道をしてアレンを避け続ける様を見て、南哲は戦慄する。これが『異質物』の力なんだと改めて再認識する。XK級異質物である『イージス』の恩恵もあり、新豊州は『異質物』の脅威性について些か認識不足していたが、改めて対面することで、ただの人間として実感した。これは人の手に余る代物だと。あまりにも

 

 アレンはそのまま駆けて行く。方舟基地の通路を迷う事なく、ただ一つの場所を目指して走り続ける。ただ無力に銃を撃ち続けるしかなかった自分に不甲斐なさを感じながら、南哲はその背中を見送るしかなかった。

 

 これが『異質物』を介した戦闘なのかと、自分が持つ力とはいえ別次元の代物だと再認識しながら。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 そして少年はたどり着く。今回の実験として運び込まれた『剛和星晶』と『魔導書』がある実験フロアへと。とはいっても既に侵入を観測して『異質物』は隠され、ここにいたガブリエルもウリエルも退避した後であり、そのフロアに残っているのは支柱ぐらいだ。中は閑散として目当てのする物の手がかりなどありはしない。

 

「動かないで。……バットで人は殴りたくないの」

 

 立ち尽くして周囲を窺うアレンの背後に少女の声が届いた。アレンは振り向くと、そこには水色のツインテールをぶら下げた少女が金属製のバットを突きつけていた。

 

 その姿は少年にとって非常に懐かしも親しみがあり、愛しむように瞳を僅かに潤わせ、泣くの我慢するようにその名前を吐き出した。

 

「…………アンネ」

 

 アンネという聞き覚えのない名前に、少女は「違うよ」とキッパリと否定して告げる。

 

「私はアニー。アニー・バース……。アンネなんて名前じゃないよ…………レンちゃん」

 

「俺もレンじゃない、アレンだ」

 

 二人の視線が交差する。互いの対照的な赤と青の瞳が交わり、その奥にある意識をアニーは理解してしまう。

 

 

 

 ——この子、本当にレンちゃんなんだ、と。

 

 

 

「……無理なのは分かってるけど、ここの『異質物』を渡してくれるか? そうしてくれたら、こちらも手荒な真似をしないで済む。……貴方を傷つけたくない」

 

「『異質物』は個人が持つには余りにも危険な物……。人の身に過ぎた力を持ったら、どういう末路を迎えるのかを私は知っている以上、アレンくんに渡すことはできないよ」

 

 アニーは今までの敵意は消え去り、優しく諭すようにアレンに言う。それは嘘偽りない本心から来る物だ。

 

「逆にお願い。大人しく投降して。…………事情を話せばSIDも無碍にはしないよ」

 

 アニーからすれば、レンという存在は恩人という言葉では足りないほどの借りがあるのだ。あの何もかも分からずに、何もかもが不安定な『因果の狭間』——。そこでアニーは現実世界に換算して七年間も孤独に閉じ込められていた。そんな世界から救い出してくれたのは、他ならぬレン自身だ。姿形が別物であろうと、その『魂』が同じだというのなら、例え自分がどんな目に合おうと助けてあげたくなる。今でも、アニーは思わず、そのバットを下ろしてアレンを無条件に通してしまいたいほどに。

 

 だけど、それはできない。そんなことをしたら、SIDにも迷惑がかかるし、何よりも本当の……というより女の子の方のレンを裏切ることになってしまう。

 

 だからアニーからすれば、これが最大限の譲歩。出来る限り戦闘行為などの荒事を避けて、大人しく拘束することがアレンに向けられる唯一の優しさだった。

 

「……事情を話せばどうにかなるか。そうだよな……そう思うよな……」

 

 アニーからの提案に、アレンは知っていたと言わんばかりに優しくも被虐的で、諦念の籠った寂しい笑顔を浮かべて言った。

 

「それで変えられるほど、世界はもう甘くないんだ。停滞に停滞を重ねたら今度こそ世界は本当に終わりを迎える」

 

「だったら尚更だよ……。確かに信じ難いけど、本当に世界が本当の終わりというのが来るのなら、SIDにだって協力できることがあるかもしれない。だから……」

 

「……ごめん、それが無理なんだ。真実を知ったら、きっとアンネは……アニーは戦うことを、進むことを止めてしまう……」

 

「だから話してよっ! 私の知ってるレンちゃんは、秘密主義で隠し通せる強い子じゃない……。どこにでもいる普通の子で……そんな子が寂しい瞳で背負い続けることを、私は見過ごせないっ!」

 

 アニーの必死な訴えに、アレンはその笑みを少しずつ歪ませながら聴き続ける。アニーもその懇願が届いているのだと気づき、何度も何度も「話して」と口に出し、その度にアレンの表情は歪む。

 

「言葉にするって……そんな難しいことじゃないでしょ?」

 

 やがて根負けしたアレンはため息を溢し、その表情を変えた。

 

 ——諦念や達観とはまた違った寂しくも悟った瞳。それはアニーにとって、今まで一度も見たことがないレンの一面であり、思わずアニーはたじろいでしまう。

 

「…………じゃあ、言うぞ。————お前に、レンは『殺せる』のか?」

 

「——えっ?」

 

 そこから発せられた言葉はアニーにとって予想外な物であった。どういう意味なのかと問おうとした時、その首筋に高電圧の衝撃が走り、一瞬にして意識が刈り取られる。

 

「だ、誰……っ!?」

 

 微睡み落ちる意識の中、アニーは自分の背後にいる人物の顔を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ご苦労様。協力に感謝するよ、アレンくん」

 

 そこには、今回のサモントン執行代表である『ガブリエル・デックス』の姿があった。


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