魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第四章の最終回である第19節まで書き終えたので、今日から最終話まで毎日更新となります。


第14節 〜汝、皇帝の神威を見よ〜

 ————ゾクッ。

 

 

 

 ヴェルサイユ宮殿内を一人で進む中、突如として俺の背筋に悪寒が奔った。心臓が鷲掴みにされたような不快感が襲いかかり、誰かいるのかという緊張感共々生唾を呑んで自分の心境を落ち着かせる。

 

「…………誰もいないよな?」

 

 前方への注意は向けながらも、背後を振り返って見てみるが予想通り誰もいない。バイジュウとソヤには合流できず、ここまで歩いてきたヴェルサイユ宮殿内に飾られた壺や油絵が広がっているだけ。何も変化など起きておらず、誰かがいた痕跡なんて影さえ見当たらない。

 

 

 

 ——だけど、この感覚は勘違いなんかじゃない。

 

 

 

 俺は今度こそ溜まった手汗を拭いながら思考へと耽る。

 

 だって、さっきの感覚は忘れようにも忘れられない『ある感覚』と似ているのだ。それは『星尘』や『ヨグ=ソトース』が纏っていた雰囲気と同じもの……あえて単語で表すなら『宇宙的恐怖』というべきか……とにかく、人の感性ではその全貌を言い表せない感覚だ。

 

 誰だ? 誰が一体この感覚を発しているんだ——。と改めて周囲を見回しても、やはり誰もいるはずがない。

 

「……気のせい、か」

 

 なわけない。そうでも言って自分に言い聞かせないと前に進めないだけだ。俺は自分の不安を誤魔化しながらも歩き続け、何とかして悪寒から抜け出せないかと試みるが、一向にあの感覚は付き纏い続ける。

 

 だけど、歩き続けて分かったことが一つある。この『宇宙的恐怖』には……『ヨグ=ソトース』みたいな『敵意』はない。かといって『星尘』みたいな『好意』もない。ただただ観察し続ける『傍観』という意思の方が強く感じた。

 

 …………どうやら手を出す気はないようだ。肩に重みを感じる気配は祓うことはできないが、俺に害を成そうとしないのが分かれば十分だ。早く二人と合流するためにも、こんな恐怖は他所にして歩き続けるしかない。

 

 

 

 歩いて……歩いて……歩き続けて…………。

 

 

 

 やがて俺は一つの開放感と幻想感溢れる広間に出た。

 

 

 

 そこはヴェルサイユ宮殿において、恐らく最も有名であろう『鏡の間』と呼ばれる場所だ。頭上を見上げればシャンデリアが眩き、どこかの画家が描いた戦争の天井画が見える。

 横に視線を向ければ、回廊の始まりから終わりまで続く黄金細工の燭台と、俺の身長よりも4倍近く高い鏡が立ち並ぶ。

 

 

 

 ……その回廊の果て、つまりは75m先——。

 

 ——-そこに『アイツ』はいた。

 

 

 

「……よう、半年ぶりだな、レン」

 

「アレン……」

 

 

 

 俺の目の前にアレンが一人で立つ。それを見て直感的に俺は理解した。ソヤもバイジュウも、きっとアレンが寄越した刺客であるガブリエルと誰か……恐らくはセラエノの二人に阻まれて分断されているということに。

 

「さて……話し合っても無駄なことくらいは分かるよな?」

 

「当然だ。俺とお前は追い、追われる者。どうして『異質物』を強奪したかなんて聞く気はない。聞くとしても捕らえた後でもいいだろう」

 

「前回は失敗したのに随分強気だな。その分、強くなったってことか?」

 

 それに対して言葉で返す必要はない。俺は手を翳して、自分の内に眠る『魂』を呼び覚ますように意識を集中させる。

 

 イメージするのは、あの日起こした『無銘』の一刀——。無限にして夢幻の刃——。

 あの日『ヨグ・ソトース』を退けるために、ギンと協力して手にした赤くて、紅くて、赫い刀身を細かく思い浮かべる。

 

 

 

 ——だが、あれはギンと一緒だったからこそ起こせた奇跡だ。

 ——ギンがいない中、俺にあの『刀』を手にできるのか。

 

 

 

 …………それが、できるんだなぁ。

 だって今の俺には——。

 

 

 

 …………

 ……

 

《ギン……。もうすぐ私はあなたの顔も声も魂も聞こえなくなります……。だけど決して消えたりしてない。ずっと、ずっっと……レンちゃんの『魂』の中に溶けて、レンちゃんの武器に……力になって貴方を支えるから……》

 

 ……

 …………

 

 

 

 あの時救い出した『霧吟』の残滓が居続けている。彼女が俺に力を貸してくれる限り、あの日に手にした奇跡は————。

 

 

 

 もう一度、この手に幻出し、現出する——。

 

 

 

「ほぉ……。『魂』を形にする力をコントロールできるようになったか……」

 

 アレンの驚いた声と共に、俺の手に赤く煌めく刀が収まる。俺の血脈と連動するように、刀に宿る『魂』も脈を打つ。

 まさに『心剣一体』だ。刀が砕ければ俺も砕けるし、俺が傷つけば刀も傷つく。あの日起こした奇跡は、夢でも幻でもなく、確かな現実として、俺の力となって現れたのだ。

 

 ……別にこれが初めてじゃない。この刀をぶっつけ本番で試すほど、俺は度胸もなければ勝負強くもない。これはあの日からギンと一緒に訓練することで、やっとの思いで再現した物だ。

 

 霧吟の残した言葉を信じて、ギンが本当に献身的になって訓練した末の賜物。故にこの刀には、エミリオの『アズライール』や、ヴィラの『重打タービン』の様に、SIDで登録された正式な名称がある。

 

 

 

 

 

 刀の名は『流星丸』——。

 ギンが命名した物だが、無骨で可愛らしい名であるはずに、不思議としっくりとくる名だ。

 

 

 

 

 

「——秘剣」

 

「……その構え——っ」

 

「逆刃斬ッ!」

 

 そして、霧守神社での訓練の成果も流星丸に宿す。ギンと『魂』を溶かしあった影響で、あの絶技を身につけるコツを会得していた。今日に至るまで何度も何度も訓練を重ねて……ようやく普通の居合切りの領域に達したのだ。

 ギンみたいに『超光速』ではないが、そもそも居合の時点で『高速』か『超高速』のような『音速』の一歩手前をいく速度だ。戦力としては十分すぎるほどの力だし、人間相手に振るう以上は当然『峰打ち』とはいえ、刀の材質が『鋼』なのだから、いくら峰打ちでも、その衝撃はプロ野球選手が金属バットを持ってフルスイングした際の威力にまで匹敵する。斬り殺す可能性をなくしただけで、打撲や骨折などの諸症状に関しては知ったことじゃない。

 

 

 

「届か……ないっ!」

 

「流石にちょっと肝を冷やした……。念のために、こいつを宮殿の地下から持ち出して良かったよ」

 

 

 

 だから殺す気はなかっただけで、手を抜いた覚えなど一切なかった。だというのに俺の居合切りは、アレンが持っていた一つの王笏によって阻まれた。その王笏に、俺は何故か魅入られるように観察してしまう。

 

 太陽を象ったシンボルを冠に戴く黄金色の王笏。信念と執念を纏う威風堂々としたフォルムは、まるで皇帝の神威を見せつけるように輝く。思わず平伏してしまいそうな高貴と光輝溢れる有り様だが、俺はそれを見てどんな感情よりも『懐かしさ』を覚えていた。

 

 

 

 ……あの王笏、どこかで見た覚えがある。いったいどこで見たものなんだ? と。

 

 

 

「『ジーガークランツ』——。ヴェルサイユ宮殿の地下保管庫にあった皇帝の王笏……。見た目はただの王笏だが、実はラファエルが持つ『エメラルド』と同じで魔力が篭った一品でな……魔力を解放すればこんなこともできる」

 

 廊下を一つ、王笏で叩くと閃光が迸った。その閃光は先程俺が『流星丸』を出した時や、スカイホテルでベアトリーチェがラファエルの『エメラルド』を変化させて大剣にした時と似たような物で、魔力を形として現出させる物であり、アレンの空虚だった片手に光は『剣』となって握られる。

 

「『ディクタートル』——。『ジーガークランツ』が『守り』というのなら、こいつは『攻める』ための剣だ。攻防一体の皇帝の力、その神威を見せてやろう」

 

 

 

 ここからが本当の『戦闘』だ——。

 覚悟を改めて、どこから攻めても、攻められようとも対応できるように身構える。剣先にも五感があるように意識を研ぎ澄まし、アレンの挙動は呼吸一つさえ見落とさない。

 

 それはアレンも同じであり、絶妙な距離を取ってこちらの動きを見続ける。右手には『ディクタートル』、左手には『ジーガークランツ』を握りしめて俺を睨む。

 

 

 

 ——間合いは若干遠い。これでは居合の動作に入っても、余計に一呼吸が必要となって、それが隙になってしまう。

 

 ——だけど同時にそれはアレンも同じだ。『ジーガークランツ』だか『ディクタートル』だが何だかは知らないが、どんな威厳に満ちた名を持っても所詮は『王笏』と『剣』だ。間合いは俺と対して差がないなら、相手だって攻め手が見えずに攻撃する気を窺うしかない。

 

 

 

 ジリ、ジリと摺り足で互いの間合いを測り続ける。どちらが最初に攻撃するか、目に見えぬ攻防戦だ。身体の動きを極限にまで最小にして隙をなくし、針の穴よりも小さな隙を見出すために精神を研ぎ澄ます。

 

 

 

 一挙一動、見逃さずに距離を詰め——。

 ほんの一呼吸が揺らいだところで、俺は意を決して間合いを瞬時に詰めた。

 

 

 

「——ッ!」

 

 

 

 隙は一瞬よりも一瞬だ。だけど、それを見逃すほど俺は甘くないし、それを補うほどアレンだって戦闘慣れはしてないだろう。何せ俺なんだから、どこまで行っても気が緩い所はあるに決まってる。そこを突いた絶妙にして絶好の詰め方だ。

 

 現にアレンに一切の予備動作も許さずに距離を詰めた。もう居合い斬りの間合いだ。ここからは一呼吸さえもあれば、王笏や剣諸共に一刀両断することも可能だ。

 

 今度は『斬る』——。目標は武器となる『ジーガークランツ』と『ディクタートル』の二つ。これは峰打ちなんて優しい全力では太刀打ちできない。故に斬る、例えアレンがぶった斬れることになったとしても。

 ……まあ、仮に狙いがズレて手とかの関節部位を切断したとしても、幸いこちらには『治癒石』があるおかげで、処置さえ早ければ後遺症もなく付け直すことも可能だ。エミリオが『OS事件』の際に実例となって証明してくれている。

 その際、死ぬほど痛いことにはなるが、そんな事は後で鑑みればいいだけだ。俺はそこまで非道でもなければ外道でもないからな。治療して貰えるだけ有難いと思って欲しい。

 

 

 

 

 

 獲った——。そう確信していたはずなのに——。

 

 

 

 

 

 ——ガァンッッ!!!

 

 と、王笏一つで居合い斬りを止め切り、金属同士がぶつかり合う衝撃音が響き渡った。

 

 

 

 何故どうして——。という思考から答えを導き出すまでに時間は掛からなかった。

 何故なら、刀と王笏の間——。ラファエルが回復魔法を使う時に緑色の粒子が舞うの同様に、そこには『黄金色の粒子』が刃先が食い込んだ王笏から漏れ出て、これ以上の切断を堰き止めていたからだ。

 

 

 

「王笏とは権威の証——。帝国のため、臣民のため、不退転の覚悟を形にした物。故に敗走は許されない、故に傷つくことは許されない。だからこそ輝きを戴く『勝者の冠(ジーガークランツ)』であり、その勝利を『独裁(ディクタートル)』が証明する」

 

 

 

 アレンは高らかに口上を唄うと『ジーガークランツ』から再び閃光が迸る。『黄金色の粒子』も呼応して蠢き、鎧を纏うようにアレンの周囲を包み込んでいく。一見すれば某願いが叶うボール集める摩訶不思議な作品にあるスーパー何とかと酷似しているが……見た目から漂う威圧感については冗談で済まされはしない。あの『黄金色の粒子』は間違いなく甘く見ていい物ではない。

 

 直感で理解した。あれはゲームとかでよく見る『シールド』とか『フィールド』とか呼ばれるタイプの『防御能力』だ。

 俺程度の攻撃は当然として、恐らく戦車装甲を貫くライフル弾や、ほぼ全ての手榴弾の爆撃を無傷で耐え斬る難攻不落の黄金粒子——。あえて名を付けるなら『黄金守護』と言えばいいだろう。あれはそういう類の物だ。

 

 まずい——。まずい——。

 何がまずいって、状況がまずい。SIDの訓練の一つである戦技教導という座学でSIDのエージェント、エミリオやヴィラ、ギン教官が全員揃って口にしていた。

 

 

 

 ——戦場において最も危機なのは『駆け引き』が無いことだと。

 

 

 

 何故なら、それは——。

 

 

 

「ちょっと痛いのが響くぞっ!」

 

 相手との読み合いがなくなってしまうからだ。先程の『間合い』の取り合いも、互いの実力が見えてないから起こりうる『駆け引き』であり、もしも俺に『黄金守護』に対抗する力がないというのなら、その防御力を活かしてゴリ押しするだけで完封できてしまう。

 

 当たり前だ。戦車で歩兵を潰すのと歩兵同士で銃撃戦をし合う、どちらの方がより確実で安全なのか。基本的には前者に決まっている。だからこそ技術というものは進化し、繁栄していくのだから。

 

 そんなものは、もはや『戦闘』にすら値しない戯れだ。

 

 現に俺は為すすべくもなく、アレンが振るう『ディクタートル』によって腹部を切り裂かれた。

 

「がっ、ぁぁ……ぁぁああっ……!!」

 

 激痛に耐えながらも即座に『治癒石』を口に含んで傷口を塞ぐ。麻酔なしの粗治療的な側面もあり、治療中も痛みは引きはしないが、傷口さえ何とかなれば後は我慢すればいいだけのこと。我慢してれば、いずれは痛みは消えていく。

 

 問題はその先だ。難攻不落の『黄金守護』——。

 手持ちの武器となるのは『流星丸』とSIDの支給品しかなく、打開できる手段はすぐに浮かびはしない。手数を増やすために『魂』を呼び起こそうにも、繋いだことのない『魂』を呼び起こすには相応の時間が掛かる。それをアレンが許すはずもない。

 

 

 

 どうする、どうすればいい——。

 

 

 

「汝、皇帝の神威を見よ——ってな。どうだ、いつか体験した皇帝の力……想像以上に強力だろ?」

 

「いつか体験した……?」

 

「忘れてるのか? ……じゃあ、こうすれば思い出すかなっ!」

 

 

 

 ガンッ! と王笏が地に突いた音が響く。それと共に『ジーガークランツ』から漂い続ける黄金粒子は光と影を一点に収束し、回廊の灯りをすべて暗闇へと塗りつぶした。 

 

 混じり合った一点の光と影はアレンの後方へと威光を示すように爆発した。影と光のコントラストが極限にまで反復的に変化して、視界をこれでもかと刺激する。

 

 まるで目の前に、神聖あるいは邪悪的な存在が降臨を迎えてしまったかのような光景にも見えるが……それ以上に感じたのは『皇帝』だ。

 国という存在に必ずある『光と影』——。それら全てを背負うと覚悟を決めた『皇帝』の姿が重なって見えたのだ。

 

 

 

 ——俺はその様を見て、初めて王笏の正体を思い出した。

 

 

 

 …………

 ……

 

《我は天命を授かりしホーエンツォレルン家の末裔プロセインの女王——》

《ドイツ連邦の主席にして、ドイツ全土を統一する皇帝!》

《そして——第四学園都市の最高元首——》

 

 ……

 …………

 

 

 

 あれは、いつか出会った少女——。

 

『オーガスタ』こと『ウィルヘルミナ・オーガスタ・ルートヴィヒ』が持っていた王笏だ。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「無駄な抵抗はよせ。私は人間についてそこまで詳しくないんだ。いくら手加減しても、うっかり殺してしまうかもしれん」

 

「ぁ……ぁっ……!」

 

 一方、その頃——。

 バイジュウは未だにセラエノに翻弄され続け、雪のように白い肌は見るに堪えないほど赤黒く染まって痣となっていた。

 

 鼻の骨が折れて血が溢れ、行動するたびに極小の『ビックバン』現象をセラエノは放つため、眼球の情報も混乱していて色も距離感も正常に認識することができない。度重なる異常な『衝撃』の数々は、ラファエルの『治癒石』など応急手当てにもならずに既に全消費済み。

 

 まさに絶体絶命——。

 これ以上の抵抗は許されないほど、完膚なきにまで叩きのめされていた。

 

 

 

 

 

「っ…………ぐっ……!」

 

『まだ戦うか、ラファエルの力も困った物だな。延命は時には苦痛にしかならないというのに……』

 

 それはソヤも同じことだった。水の反響を利用して、サラウンド感覚で響くガブリエルの声を聞きながら、なすすべもなく回廊にて膝をついて満身創痍な状態だった。『治癒石』で治療済みで見えはしないが、既に関節部には二十を超える氷の矢が襲いかかり、運動神経はガタガタに傷付けられている。

 

 斬撃も爆撃もガブリエル本人に届きはせず、ただ水に映った虚像を弾け飛ばすだけ——。残る『治癒石』は後一つ——。

 

 まさに背水の陣——。

 これ以上の失策は許されないほど、危機に瀕するまで痛めつけられていた。

 

 

 

 

 

「これ以上はやめておけ。本気で戦ったら、人間が私に敵うはずないだろ」

『私は可愛い子が苦痛に顔を歪める姿を見る性癖はないんだ。弓矢を引くのも得意じゃない。互いのために戦うのはやめないか?』

 

 

 

 

 

 両者共々、台詞は違えど降伏を推奨する言葉を告げる。アレンも含め相手に『殺意』はない。ただ強奪した『異質物』を守りきるために、相対する敵を無力化できればいいだけのこと。

 

 降伏さえすれば、諦めてくれさえすれば——。これ以上バイジュウもソヤも傷つかなくて済むのだ。打開する手段が一筋も見出せていないのなら、素直に諦めることが賢明なのだ。

 

 

 

 

 

 だというのに————。

 

 

 

 

 

「嫌だ……と言ったら?」

「クソはケツだけから出してくださります?」

 

 

 

 

 

 両者ともに拒否した。二人とも一歩を踏み出すにも難しい瀕死状態だというのに、不屈の闘志を持って二人は立ち上がって臨戦態勢を取る。

 

 それが何を意味してるのか、セラエノもガブリエルもまだ理解していない。

 

 

 

 

 

「何故攻撃が逸れるのか……その法則を掴みかけてきたので」

「貴方の『水』の攻略法……分かりかけてきましたので」

 

 

 

 

 

 降伏しない理由——。それは反撃への糸口が見出せてからに他ならないからだ。

 セラエノもガブリエルも口を揃えて「何?」と溢す。それに対してバイジュウもソヤも口を揃えて「反撃開始」と高らかに告げる。まるで『皇帝』に反旗を掲げた『奴隷』のような薄汚く笑みを浮かべながら。

 

 

 

 ここからが二人にとっての『戦闘』だった。

『駆け引き』の材料は揃った。後はどうやって相手を出し抜き、その隙を突けるかの勝負。

 

 

 

 退くつもりなど初めからない。

 敗走する気もありはしない。

 

 ただ目的は一つ。

 強奪された『異質物』を取り返す——。

 

 そのために、二人の『魔女』は戦う。

 例え相手が常軌を逸した力を持つ存在だとしても。


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