魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第17節 〜唯一抜きん出て並ぶ者なし〜

「それは……オーガスタの……?」

 

 

 

 ——何故あれがここにあるんだ? 

 

 

 

 俺がオーガスタと会ったのは、修学旅行の際『インペリアル・イースター・エッグ』に触れたことによる異世界転移による物だ。

 

 あそこでは、第四学園都市がサモントンではなく『ベルリン』だったり、第一次大戦以前の服装では存在しないはずのオートマチックリボルバーやトランシーバーを用いた通信装置があったりと、こちらの世界とは歴史も文化も差異があった場所には間違いない。

 

 しかも驚くべきことに『ウィルヘルミナ・オーガスタ・ルートヴィヒ』という名前……あの後、一応気になってドイツの歴史を軽く調べてみたら、似たような名前はあっても同姓同名の人物が該当することはなかった。故にタイムスリップという線も薄く、一番可能性が高いのは以前アレンが口にしていた『並行世界』と言ってもいい。

 

 

 

 こちらにはいて、あちらにはいない人名……それこそアレンが言っていた『ラファイル・デッカーズ』と『ラファエル・デックス』のように……。こちらの世界ではオーガスタは過去・現在において『存在しないはずの人物』なんだ。

 

 

 

 だからこそ横繋ぎの世界ではなく、時間という縦繋ぎの世界としてオーガスタの王笏……『ジーガークランツ』が寸分違わぬ姿で存在してるのが気になって仕方がない。

 

 もちろんドイツ皇帝の権威を示す物だから、オーガスタだけが持つ唯一無二の物という確証はないが…………。

 だけど、その王笏から漂う魔力だけは誤魔化しようがない。あの魔力は、俺が異世界に召喚された際に発していたのと同質の物だ。同じDNAが存在しないように、魔力という物も近しい物はあれど完全に同じ物はない……とか何とかハインリッヒが言っていた覚えがある。

 

 

 

「ああ。正真正銘、これはオーガスタの……『ウィルヘルミナ・オーガスタ・ルートヴィヒ』の王笏さ」

 

 

 

 そしてアレンは認めた。その王笏がオーガスタの物であることを。

 

 …………宮殿の地下から持ち出したと言っていたが、どういう理屈で異世界の物を持ち込んだんだ?

 

 

 

 ——いや、今はどうでもいい。そんなことは予測する必要はない。アレンを捕らえて根掘り葉掘り聞き出せばいいこと。

 

 ——だから考えるべきは王笏が『どうやって手に入れた』ではなく、王笏を『どうやって攻略するか』だ。どんなに前者のことを考えたって、俺の戦況的不利には影響するわけがないんだから。

 

 

 

 刀を握り直して呼吸を整える。

 攻略すべきは『黄金守護』による人型機動要塞。

 だけど反撃の糸口が見えない。あの金城鉄壁を打開する策が思いつかない。

 

 

 

「おっと。押し通すわけにはいかない」

 

 

 

 そして戦いは一瞬の連続だ。呑気に思考を許すほどアレンも甘くはなく、その両手に一つずつ握られている『ジーガークランツ』という王笏と『ディクタートル』という細剣を乱舞してこちらを畳み掛けようと白兵戦となる。

 

 幸いにも防御性能が桁外れに硬い以外はそこまででもない。『ディクタートル』の刺突や斬撃は『流星丸』でいなせるし、アレン自身の機動力はギンと比べたら月とスッポンだ。間合いを見誤る事はないし、予測以上に動いても反応できるだけの反射神経が俺にはある。

 

 だが、それは俺がダメージを受けないわけではない。あくまで負傷や体力の消費を最小限に収めてるだけで、アレンは体力に関しては置いとくして、負傷については『黄金守護』のせいで小石をぶつける程度のダメージさえ与えられない。

 

 

 

 ——このままだと完全に押し負ける。

 

 

 

「他人の権威を振り翳して戦うとか……汚いよっ!? 男として恥ずかしくないっ!?」

 

「勝負に汚いも恥ずかしいもあるか。FPSとかで相手が落とした武器を利用するように、使える手立ては全部使うのが当然だろう。んな女々しい事を聞くな」

 

 

 

 何とかして考える時間を稼ぐために挑発もしてみたが、完全に言い負かされた。口勝負でも負けたら、後は何を持って打開策を見出せばいいんだ。

 

 ……というかマジでどうすればいいんだ? 『黄金守護』の防御性能は間違いなく今まで戦ったどんな存在よりも堅牢だ。黄金色だが、厚さ自体は薄くて頼りないオーラであり、一見するとハリボテみたいな存在だ。だが性能だけは折り紙付きで『流星丸』と俺の技量で対処するには余りにも力不足すぎる。

 

 それでも何とかして『黄金守護』を突破しなければならない。そんな窮地に佇む今の俺に思いつく算段はこの三つしかない。

 

 

 

 

 

 ①かっこかわいいのレンが突如反撃のアイディアロールをクリティカルする。

 

 ②仲間が来て助けてくれる。

 

 ③無理ゲー。ばたんきゅー。

 

 

 

 

 

 ……希望的観測に縋るなら②を選択するしかないが、これはどう考えても現実的じゃない。元々俺がここで一人で戦う羽目になったのは、相手の策略によって個人ごとに分断されたからだ。そうなっている以上は期待する方がおかしい。

 

 となると、やっぱり①しかない。あの攻防一体っぷり…………何かしらの隙がどこかにあるはず……。

 

 

 

「大きいの入るぞぉ!!」

 

 

 

 細剣の純粋な殺傷力を気にしていたせいで、打撃武器となる王笏の警戒を怠って俺の腹部へと襲いかかる。腸内が圧迫されて今にも上からも下からも垂れ流しそうな激痛に耐えながら、観察する集中力だけは怠らずに白兵戦を続ける。

 

 だけど、どんなにアレンの攻撃を掻い潜り、動作自体の隙を見つけて斬撃を試みても『黄金守護』に阻まれてしまう。

 何度も何度も続けて、何度も最初から繰り返す。今度は『ディクタートル』の刺突が右肩部を深々へと貫いた。

 

 

 

「っ〜〜!!」

 

 

 

 本当にギンとの訓練でこういう痛みに慣れておいて良かった。痛みのショックで混乱することなく、瞬時に距離をおいて即座に『治癒石』を口にして手当てを始める。負傷した身体をみるみる回復して右肩も腹部も治るが、これで残る『治癒石』は後一つ。ただでさえない余裕が、少しずつ着実に削られていく。

 

 だというのに相変わらず見えない。『黄金守護』を突破する算段が——。

 

 

 

 必ず……必ずどこかに……。

 付け入る隙はあると思いたいのに……っ!

 

 

 

「コナクソぉぉおおおおお!!」

 

 

 

 もうこうなったら玉砕覚悟のヤケクソだ。攻防を交えて隙が見えないなら、攻め一点に転じて攻めに攻め続けるしかない。攻撃は最大の防御ってやつだ。

 

 ……もちろん、そんなことは危険だって分かってる。むしろ一番危険な行為だとも。

 

 だって『黄金守護』の防御性能は桁違いなんだ。その分、纏っているアレンは『防御』という行為に意識を回す必要がない。『攻撃』という行為に意識をすべて回すことができる。

 

 

 

 ——では『攻撃』とは自分から攻め続ける主体的な物ばかりか?

 

 ——それは違う。『攻撃』にも種類があり、中には受動的な攻撃手段もある。

 

 

 

 ——つまりそれは。

 

 

 

 

 

「——この瞬間を待っていたんだっ!」

 

 

 

 

 

 ——『カウンター』という手段だ。

 

 こちらが転じた僅かな挙動を察して、アレンは王笏を逆手に持ち替えて杖部分を突き出すことで打突の構えとなり、俺の攻撃へと合わせてきた。

 

 

 

 やはりまずかった。これは眼球直撃コースは間違いない。

 下手したら目を貫いた際に頭部に達して、脳味噌をシェイクされる危険性さえ孕んでいる完璧なタイミング。

 

 もう俺の攻撃は止まることはない。せめてもの抵抗ができるとしたら、少しでも身体を逸らして負傷を和らげるしかない。例え和らげても致命傷であると分かりきっているのに。

 

 

 

 極限の状態となって、意識がドンドンと鮮明になって研ぎ澄まされていく。自分の『魂』が透明になっていく最中、世界は少しずつ停滞していく。秒針が1分で1秒を刻むように世界はフレーム単位の小刻みに動き続ける。

 

 そんな妙な感覚になって初めて俺は気づいた。『黄金守護』が誇る難攻不落の性能。そこに付け入る隙が確かに存在しているかを。

 

 そして見落としていた。『黄金守護』と今まで名を打っていたが、あのオーラ自体は『ジーガークランツ』を通して出ていることを。それは『ディクタートル』も同様であることを。

 

 

 

 ——そうか。これが『黄金守護』の弱点か。

 ——攻防一体とは即ち攻撃も防御も常に『同じ』ということ。

 

 

 

 これだ。ここを突けばいいんだ——。

 

 けど、分かったところで意味がない。いくら意識が極限状態という名の暴走をしていても、身体自体はそれに伴って高速化することはない。このままではスロー再生のまま打突してくる『ジーガークランツ』の攻撃を受け、鋭い痛みがゆっくりやってくるのは文字通り目に見えている。

 

 

 

 危機感は募りに募る。それに呼応するように世界はさらに遅くなっていき、フレームがフレームを刻むとしか形容できないほどに、世界はドットのようにガクガクと更なる停滞を起こしていく。

 

 

 

 

 

 まるで……時が止まったかのように……。世界が遅く……。

 

 遅く…………止まって—————。

 

 

 

 

 

「えっ——?」

 

 

 

 

 

 ————違う。

 

 

 

 

 

 ————本当に止まっている。

 

 

 

 

 

 ————世界が止まっている。

 

 

 

 

 

 ————『時』が動いてないんだ。

 

 

 

 

 

「……う、動けるっ?」

 

 

 

 

 

 身体全部が錘をつけて海中に溺れているように鈍重ではあるが、完全停止したアレンと違って、俺は全力で動こうと思えばミリ単位で動かすことができる。

 

 意識が加速しすぎて肉体を置き去りにしてるということはない。かと言ってどこぞの黒い白雪姫みたいに、フィジカルがフル・バーストして肉体が悲鳴をあげてるわけでもない。

 

 

 

 何だかよく分からないけど、これはチャンスだ——。

 

 正解は①でも②でも③でもなく、新しくできた④の『運を味方にする』というご都合主義もいいところだが、これはゲームみたいな完成された物語じゃない。偶然というものはどこでも転がっていて、それを掴んで活かす事も戦いだ。

 

 まあ『時間』が止まるなんてことは常識的にありえない事だから、何かしらの外的要因はあるに違いないが……どうであれ、ここを逃す選択肢だけは存在しないのは確かだ。

 

 

 

「——辛うじて避けたっ!?」

 

「っ——! この瞬間を待っていたんだぁああああああ!!!」

 

 

 

 そして『時』は動き出し、世界は刹那に加速する。それは俺とアレンを『時』も元に戻ることも意味する。

 

 鈍重な身体を捻りに捻って少しでも直撃のコースを外したことで、王笏は俺の頬を掠れ、左腕部に丸々と串刺し状態となって突き刺さる。

 

 とんでもない激痛が走るし、骨と絡んでまともに動かすことはできないが…………これでいい。骨と絡んだってことは、同時にそれは王笏の動きを止めたことを意味し、俺の身体に繋がってるということは『ジーガークランツ』が持つ『黄金守護』という規格外のパワーも俺に宿ることを意味する。

 

 

 

「これで……っ!! イーブンだっ!!」

 

 

 

 王笏に貫かれてはいるが、居合いの勢いは収まることはない。一度抜刀した物は、もう勢いのままに狙い澄ました相手を断ち切るために進み続ける。俗に言う『クロスカウンター』状態だ。

 

 以前とした王笏を掴み続けるアレンに回避する算段はない。互いに『黄金守護』を纏った状態では、攻撃も防御も相殺し合って今までの堅牢さは機能しない。『流星丸』の斬撃を防ぐことはできないんだ。

 

 

 

 そう。王笏を掴み続けてる限り——。

 

 

 

「いっ……てぇ!! まさかそこまでしてくる覚悟はあるなんてな……っ!!」

 

 

 

 瞬時に判断してアレンは『ジーガークランツ』から手を離して距離を置いた。対応が早かったのもあって、傷をつけられたのは左手首だけだ。切断はしてないが、あそこまでの深傷なら出血多量で少なくとも動かせはしないだろう。気絶だってありうるほどに。

 

 

 

 ……いや、むしろ気絶してないとおかしいはず。それだけ我慢強いってことか? 俺にしては随分と根性が据わってるな……。

 

 

 

 だけど王笏から手を離すということは、同時に『黄金守護』の恩恵を無くすことを意味し、左腕に突き刺さる王笏が宿す『黄金守護』は俺に纏うことになる。

 

 とは言っても、これはあくまで『皇帝』の防御性能の権威を一つを手にしただけで、同じく『ジーガークランツ』から出て『黄金守護』の攻撃性能を宿している『ディクタートル』についてはアレンが未だにその右手に持っている。

 

 

 

 …………だけど、もう『ディクタートル』が脅威じゃないのは知っている。あの『時』が止まったことで、『黄金守護』が本当に攻防一体の『皇帝』の名に相応しい最強の力を持つことは理解したから。

 

 

 

 つまり古事記とかにある『矛と盾』なんだ。この『ジーガークランツ』と『ディクタートル』という物は。

 

 盾となる存在が『ジーガークランツ』であり、矛となる存在が『ディクタートル』——-。

 

 

 

 では、ここでその『矛と盾』の話を思い出そう。

 

 内容はこうだ。『どんな盾も突き通す矛』と『どんな矛も防ぐ盾』を売っていた男が、客から『その矛でその盾を突いたらどうなるのか』と問われたら返答できなかったという話。

 

 

 

 なら、この『ジーガークランツ』と『ディクタートル』という最強の矛と盾がぶつかったらどうなるか————。

 

 

 

 

 

「レン……」

 

「出しな……。お前の……『ディクタートル』を……」

 

 

 

 

 

 最後の『治癒石』を口に含みながら『ジーガークランツ』を左腕から取り出し、俺とアレンは互いの『皇帝』の権威を構え直す。

 

 互いに左腕は機能しない。小細工なしの右手に持った『皇帝』の権威をぶつけ合うだけ。

 

 

 

 ——ついに矛と盾は交じり合った。

 

 ——互いの意地とか目的とか関係ない。ただどちらの方が強いかを証明するだけの戦い。

 

 

 

 ——その結果は、予測するまでもない。

 

 

 

「『Noblesse oblige』——。いつまでも『皇帝』の権威を『独裁』するのは、高貴なことじゃないぞ」

 

 

 

 最強の盾である『ジーガークランツ』と、最強の矛である『ディクタートル』の鍔迫り合い——。

 

 その結果は両者ともに『破壊』されるという、皇帝の失墜と解放を意味していた。

 

 もう権威も支配もない。だからといって、それで『皇帝』という在り方は変わってしまうのか。それだけが『皇帝』だというのか。

 

 

 

 ——そんなわけがない。

 

 

 

 …………

 ……

 

《あの頃、私が議事堂の中で泣かずに我慢できれば彼女は私の事を守ってくれると約束してくれた。——その人は、ライオネ・フォン・ビスマルク》

 

《だが、ビスマルクは泣きじゃくる私に告げた。人間は死に方に体裁を選ぶ生き物だ。謀事で暗殺されるか、処刑台で首で落ちるか。戦場で命を落とすか、どれも大差はない。大事なのはいかにして死ぬかだ。まだ陛下には分からない事かもしれない。だが陛下の亡き父に兄の意志を成し遂げるために私は最後まで共に争う事を誓う……と》

 

《ヴェルサイユ宮殿で私は戴冠を授かった。そして、彼女も首相から宰相へとなった。だがそれ以降、全てが変わってしまった……》

 

 ……

 …………

 

 

 

 ——『栄光』だけは、この手の中に。

 ——危険を承知で進むが『勝利』の果て。

 

 ——帝国のため。

 ——臣民のため。

 ——不退転の『覚悟』を。

 

 

 

 …………

 ……

 

《でも、今回の事件が巻き起こってさ? 俺を召喚することもできて。少なくとも自身に高い価値がある事を君は証明できたんだろう? それは議会を説得する材料として、もう充分なんじゃないかな——》

 

 ……

 …………

 

 

 

 ——それこそが『皇帝』の神威だ。

 

 

 

 

 

「がっ——!!?」

 

 

 

 

 

『皇帝』の象徴が砕けると同時、俺は即座に構えて呼吸を終えていた『流星丸』を抜刀した。峰打ちの居合いは見事にアレンの横腹部へとクリーンヒットして、剣先の感覚から骨を通して内蔵器官の奥深くまで届いてるのが伝わってくる。

 

 

 

 ——勝負あり。『治癒石』のないアレンにとって、この一撃は致命傷だ。

 

 

 

 トドメの一撃に言葉が浮かぶほど俺に余裕はない。この一撃を持って証明しよう。

 

 

 

 

 

 ——唯一抜きん出て並ぶものなし、と。

 

 

 

 

 

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