魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

94 / 170
第8節 〜溢れるは神秘の力〜

 ここに私『トマス・デックス』が研究の末に導き出したある信憑性のある仮説を記録する。

 

 異質物研究の再確認及び再発見による高度な技術革新の黎明期——。

 遡れば約20年近く前に2018年ほどから開始され、その時から極めて小規模であるが『異質物』が発見されるのと比例するように一種の能力を持った人類が誕生するようになった。

 

 一部はかの『審判騎士』や『位階十席』に所属する『第二位』と『第五位』と『第八位』などといった先天的な能力であった。

 19年前であれば今では『華雲宮城』であるが、当時は『中国』と呼ばれる国にいた『ある学者』が養子として引き入れた娘もそれに該当するという記録もある。

 

 しかし、そのほとんどが『異質物』の影響を受けた者だった。後天的に得た異能の力を持つ者——『第十位』などの『魔導書』などの影響を受けた者ばかりだ。これを『魔女』と呼び、その果てが『ドール』と呼ばれるのは周知の事実のため、詳細については割愛する。

 

 だが『魔女』であっても個体差はあり、さらには面白いことに『魔女』あるいは『ドール』と呼ばれる存在には特殊な脳波を送受信しており、しかもその脳波には『五種類』ほど存在していることが分かった。

 

 

 

 一つは荒れ狂う『火』のように揺らめき——。

 一つは静かに流れる『水』のように漂い——。

 一つは気ままに渡る『風』のように吹き——。

 一つは動かざる『土』のように佇み——。

 

 

 

 最後は夜空に光る『星』のように瞬く——。

 

 

 

 これを私は形にするために『四元素』の思想の一つである『プリマ・マテリア』の考えも合わせて五つのタイプに分けた。

 

 つまりはシンプルに『火』『水』『風』『土』『エーテル』の五つだ。

 

 これら五種類の脳波が『異質物』や『魔導書』由来の『魔女』から検知された。脳波を『送受信』している以上、情報が絶えず更新されているということだ。だとすれば問題は『何の情報』が更新されていたのか。

 

 それを解明すれば異質物研究は更なる前進を見せる。ここサモントンでは所在不明の『EX級異質物』が教皇庁にいくつも保管されている。これはサモントンにとって貴重な資源ではあるが、同時に今すぐにでも起爆してもおかしくない核爆弾にも等しい。一刻も早く解明して、安全性と詳細を把握して資源として有効活用するために、私は何年もこの研究に明け暮れた。未だに貧困止まぬサモントンの抜本的問題を少しでも正すために。いつまでもXK級異質物ありきの政策から抜け出すために。

 

 そして研究自体は順調に進んだ。『四元素』の考えはあっていた。『異質物』も『魔導書』の力を利用することに成功した。

 それが『位階十席』の残る『第四位』『第六位』『第七位』『第九位』が持つ能力だ。送受信する脳波の核さえあれば『魔女』にならずとも能力を使うことができることを証明した。

 

 その傑作とも呼べる研究成果の詳細については、また別の話題だ。ここに記すべきことではないだろう。話を続ける。

 

 

 

『異質物』と『魔導書』の研究は順調だった。これならばいずれはどの学園都市よりも出し抜いて、サモントンだけが『異質物』の最先端技術を独裁することもできる。

 独占したとしても残る学園都市のXK級異質物で脅威となるのは、こちらとは違って資源難であるマサダブルクの『ファントム・フォース』だけだ。XK級異質物でも最も汎用性と強力さを兼ね備えた華雲宮城のXK級異質物は、唯一サモントンだけには干渉できない。

 

 到達できる——。

 私だけが『異質物』の真なる正体を突き止めることが——。

 

 

 

 

 

 だが『根底』には未だ届いていなかった。

 それを私は『あの日』に思い知らされた。

 

 

 

 

 

 それは私の可愛い孫娘である『ラファエル』が湖で溺れた日のことだった——。

 

 

 

 

 

 ラファエル自身は無事に保護されて命に別状はなかった。そこは喜ばしい事だ。だが問題はそこではない。

 

 救助したラファエルは脳波に異常を来していた。

 魔女の片鱗を見せ、その脳波に『風』を示していた。

 

 そこまでは理解できる。私が把握していた内容だ。

 

 

 

 だが、その脳波は今までと違って『情報』の質量が桁違いにあったのだ。テラバイトとかヨタバイトとかいう容量の多いという話ではない。そもそも『情報の次元』が違ったまま、極大の情報がラファエルの脳を侵していたのだ。

 

 そこで私は察した。『異質物』も『魔導書』そのものが、それらと比べたら極小の欠片にしか過ぎない物だと。私の研究なんて、それらの存在——『神』にも等しい存在からすれば赤子が遊びオモチャに過ぎないことだと知ってしまった。

 

 私はそれを知って『狂気』に取り憑かれた。ラファエルだけは絶対に手放してはいけない。ラファエルだけは真に価値のある人間なのだ。

 ガブリエルのような半端者や、ミカエルのような完全無欠でもない。完璧でないは故に、完璧を超えうる可能性をラファエルから私は感じ取ったのだ。

 

 そうして私の研究は一転した。

 ここから先の研究で重要視すべきなのは『異質物』や『魔導書』の利用できるかどうかではない。

 次元が違う存在である『神格』へと接触できるかどうかが最も重要となる。

 

 

 

 私はその『四元素』の『神格』と呼ぶべき存在をこう呼称することにした。

 

 

 

 ——『五維介質(MEDIUM⁵)』と。

 

 

 

 これらの存在は『四元素』の属性だけで留めて良い物ではない。故に『神格』に該当する『五維介質』にも属性に応じて名称を与えることにした。

 

 

 

 火の神格『赤羽(チーユ)』——。

 水の神格『海伊(ハイイー)』——。

 風の神格『蒼穹(ツァンチョン)』——。

 土の神格『詩岸(シアン)』——。

 

 

 

 星の神格『星尘(シンチェン)』と——。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「————なによ、これ……」

 

 自分の手に広がる祖父の研究記録を見て、ラファエルは絶句した。

 自分の魔法について祖父が最初から知っていたこともそうだが、なによりもその研究記録に知っている人物の名前が明確に出ていることに驚くしかない。

 

 何せそれは人畜無害で無邪気の塊をした幼子である『シンチェン』と『ハイイー』の名前があったからだ。

 確かに『OS事件』を境に2人は情報生命体である『スターダスト』と『オーシャン』によって、SIDでも最上位レベルの保護対象となってレン共々に過ごしている状況だ。SIDが重要視するのは分かる。

 

 だが何故祖父はそれよりも前に、その2人の名を知っているのか——。

 それがラファエルには一切理解できなかった。ほんの一欠片さえも検討が付かない混乱が彼女の思考を曇らせる。

 

「それにこの『養子の娘』って……」

 

 時期的にも丁度思い当たる人物がいて、ラファエルは思わず視線を動かして、その人物である『バイジュウ』を見た。

 

「これは違う、これも違う。これもこれも……生物研究と近しい物ばかりで、地質関係は見当たらないですね……」

 

 当の本人はラファエルの様子に気づくことはなく、膨大な資料を完全記憶能力を活かした速読で瞬く間に閲覧を終えていく。見た感じ、他の資料で『養子の娘』どころか『五維介質』について言及した資料をカケラでも見ている様子はない。仮に前者を見たとしても、該当していないとして流しているのか。

 

 

 

 私の考えすぎか——。

 流石にそこまではまだ憶測に過ぎないと、ラファエルは冷静になって改めて資料を見直す。

 

 

 

 それでも『五維介質』についての記載は一切変わりはしない。『シンチェン』と『ハイイー』の名前は間違いなくあるし、なによりも驚くべきことはデックスの中で最も特別であると思っていたミカエルよりも、自分の方は祖父から特別視されてることだった。

 

「私の中に……『風の神格』……」

 

 何を馬鹿げたことを笑ってしまいそうになるフレーズだ。自分は『風の神格』に選ばれたとか自負するものなら、レンの『女装癖』よりも恥ずかしいことになるだろう。

 

 だが、それでもラファエルには疑問があった。

 祖父曰く自分が『神格』の影響を受けていることは分かった。恐らくそれが自身が持つ『回復魔法』の魔力の源だということも予測がつく。

 

 しかし、それだけで特別視するのはやや疑問が覚える。

 ソヤから既に話は聞いていたが、ガブリエルは『水』の魔法を使っていたし、本人の口から『他のデックスも『四元素』を宿している』と言っていた。

 

 つまりそれはミカエルも、ガブリエルも、ウリエルも自分と同じように『神格』に魅入られた故の対応した属性を持つことを意味している。

 

 ミカエルは『火の神格』を。

 ガブリエルは『水の神格』を。

 ウリエルは『土の神格』を。

 

 どういうことだ——。

 

『神格』を源とした『魔法』を使えるだけなら、別にラファエルだけが特別視されることはない。他の従兄弟も宿しているのだから、それだけでは理由が薄すぎるのだ。

 

 ラファエルは答えを求めて、さらに読み進める。

 祖父が記録した狂気の研究を——。

 

 

 

 ……

 …………

 

 

 

 それからは私の研究は息詰まった。

 今後は『神格』に接触すれば良いことは分かったが、どうすればいいのか見えなかった。試作品は完成したが、いかんせん効果が発揮することはなく、何かが足りない状態だった。

 

 更にはラファエルが民に対して非常にアレな発言をしたせいで、大変面倒なことになった。我が孫娘ながら、あの気性だけはどうにかならなかったのか。

 あの一件以来、素直だったラファエルはじゃじゃ馬気質になって、温厚なガブリエルが「可愛げのある面倒くさい子」と遠慮なく形容するほどだ。理性的で人前で笑うことがないミカエルでさえも、嬉しそうに微笑を浮かべるほどだ。ラファエルの変化は、良くも悪くも2人にも影響を与えるほどに強烈だったのだ。

『神格』から何かしらの影響を受けたのか、それともラファエル自身が何かに気づいて変わろうとしたのか。この際、それはもう置いておこう。過ぎたことだ。

 とりあえずは緊急処置として新豊州に留学させといた。暫くはこれで政策には顔を出すことはないだろう。半年、いや三ヶ月、もうこの際一ヶ月でもいい。頼むから大人しくしててくれ。『黄金バタフライ』の密約もあるのだから。

 

 …………

 ……

 

「おい」

 

「ラファエルさん?」

 

 ……

 …………

 

 まあ、結果としては失敗に終わった。新豊州に少しデカい借りを生んでしまったが、同時に思わぬ収穫もあった。

 ラファエルが偶然接触した少女『レン』が、他の能力とは一線を画す能力を持っていることがSIDから提供されたのだ。『方舟計画』の詳細も伝えられ、そこで私はあることを思いついた。

 

 現在に対応する知識がないのなら、過去の賢人ならば知識がある。レンの能力を利用して、現代に賢人を甦らせることを。

 

 つまりは現代では既に淘汰された『四元素』の考え方の始祖である『錬金術』だ。その中で最もサモントンが手軽に用意ができて、知識が深くて『異質物』に封印されている可能性あるとなれば、生涯の最後が不明瞭のままになってしまった『ハインリッヒ・クンラート』に間違いない。

 

 それも成功に終わったが今度は別の問題が発生した。

 

 なんとハインリッヒは、こちらの言うことを一切聞かないラファエル並みにワガママな女だった。歴史では男性だと明記されていたはずだが、これには多少驚かされた。

 

 まあ、長い目を見て後はご機嫌取りをすれば何かしらの叡智を聴き出すぐらいはできるだろう。ラファエルの面倒を見る時と比べたら楽な方だ。気楽にコミュニケーションを測るとしよう。

 

 …………

 ……

 

「あ゛っ?」

 

「ラファエルさんから夥しい臭いが……!」

 

 ……

 …………

 

 久しぶりに書く気もするが、こうして紙に書くとそういう感じもしない。

 とりあえず度々来訪するハインリッヒのご機嫌取りをして、錬金術において『ある概念』について聞き出すことができた。それは『ミクロコスモス』と『マクロコスモス』の定義についてだ。

 

 錬金術師には『占星術師』と一緒で『マクロコスモス』と『ミクロコスモス』が完全対応してるという思想があるそうだ。錬金術が求める『賢者の石』にもそういう面があるとハインリッヒは使い古した玩具を上げるような態度で言っていた。

 多分『真理』に辿り着いた彼女からすれば、この考えはもう既に古い物なのだろう。だがそれがどうした。枯れた技術や思想は、それがそのまま利用する価値がないという意味ではない。意味を持つのは個人ごとによって変わる以上、私にはその意見こそが大事なのだ。

 

 となれば近いうちに現存している『占星術師』から話を聞くのも面白そうだ。確か華雲宮城ではそういう類の『魔女』がいるという噂を小耳に挟んだことがある。

 あそこは航空技術の問題で行き来するのが面倒な上に手続きも必要だ。私自身が迎えるかどうかは不確定だが、その時はミカエルを向かわせるとしよう。彼ならば私以上の目となり耳となってくれる。

 

 とりあえず分かったことは、大きくても小さくても与える影響は同じということだ。

 これには納得の意見だ。子育ては大きくても小さくても世話を焼く時は世話を焼く。今も昔はラファエルは我儘なのと一緒で、難しく考える必要はないのだ。要は与えたい影響が同じなら、形はどうでもいいのだ。

 

 …………

 ……

 

「あはは〜〜♪ これマジで言ってますわ♪ この資料には色々な臭いがしますが、中でも強烈なのは子煩悩ですわ〜〜♪」

 

「総督であっても孫娘の相手をするのに苦労してたみたいですね……」

 

「そりゃ元々ラファエルは素直ではあったけど、昔から意思は硬い方だったからね。博物館に行きたいと言ったら、後はもう泣きじゃくって駄々こねて、そうしたらもう梃子でも動きはしない。幼少期でさえラファエルの世話は手が焼いたってモリスも言ってたよ〜〜?」

 

「……アンタ達、いつから覗き見してる?」

 

「「「新豊州に留学させた辺りから」」」

 

 ……

 …………

 

 さて、というわけでついに完成した。能動的にこちちから『神格』へと接触する手段を。

 

 その研究には、このサモントンで数少ない『天国の門』を見ており、情報を多く持つ『審判騎士』を抱える修道院の『エルガノ』の協力してもらったことで成し得た成果だ。おかげで少々あることに一枚噛まざる得ないことも起きたが、それはこの成果に比べれば些細なことだ。

 

 それは『天国の門』の模造品だ。『門』というが実際は『門』ではない。ある法則を持った『情報』の塊であり、それはエルガノが持っていた壁画の仕組みと似ていて、ある手段を通すことでその情報を作動するというものだ。

 

 その手段は多岐に渡る。詠唱もあれば、舞踊でもある。あるいは信仰心を持って歌うことでもある。求める『神格』によって変わるのだ。

 

 要は召喚魔術などを行う際に、地面に描くサークルと似たような物だ。六芒星でもあれば五芒星でもあり、あるいは錬金術が用いる属性のマークでもある。モリスの『不屈の信仰』が祈りの形は問わずに効果を発揮するように、魔術の形にも基本的な原則はないのだ。召喚という結果だけ出せれば、そこまでの過程など価値を持たない。それが『神格』の在り方なのだ。

 

 後は実験あるのに。脳波に応じた召喚術式を様々な手段で試す。

 術式もそうだが、地脈などのオカルトに応じた場所も大事だ。しばらくはデックス同士の話し合いもないだろうし、これを機に成熟しているミカエル、ガブリエル、ウリエルに試してもらうとしよう。

 

 …………

 ……

 

「……あの猫丸電気街での事件、デックス博士が一因してたことをセレサは知ってましたか?」

 

「いやぁ〜〜。全くもって」

 

「この匂いは! ……ウソをついてる『匂い』ですわっ!」

 

「はい、正直に言えば詳細は知らんかった。けどラファエルに言伝してくれ、と言われてたから内心『何かあるんだろうなぁ〜〜』とは思っていたけど……」

 

 ……

 …………

 

 結果は大成功だった。

 ウリエルからの連絡はないが、ミカエルとガブリエルは見事に『神格』とこちらから接触して、ラファエルと同じ魔法を得ることに成功したのだ。

 

 2人とも名に恥じない魔法だった。ミカエルは『火』の、ガブリエルは『水』の魔法を確かに宿していた。

 

 だが、2人とも魔法を宿した時に共通点はなかった。というか正確な成功を収めたのはミカエルだけであり、ガブリエルに関しては再現性のない偶発的だったと本人が言っていた。

 

 ミカエルは『マクロコスモス』の定義に従い『旧バイコヌール宇宙基地』で天体観測のレンズを『門の情報』へと加工し、27億光年先の『フォーマルハウト』を見ることで『火の神格』へと接触し宿したと言っていた。

 

 ガブリエルは『ミクロコスモス』の定義に従い『南極大陸』でただひたすらに『門の情報』を持ったカメラを通して、深海の観測をし続けたと言っていた。だが結果が実ることはなく、諦めて南極大陸から移動する最中に頭痛と共に脳波の変化を受け、それによって『水の神格』の力を宿したと言っていた。

 

 奇しくも、その『水の神格』を得たのは新豊州で起きた『OS事件』と同日だったことが後で分かった。

 そこで起きた『何かしら』の影響でガブリエルが目覚めた可能性があるが……これに関して私がSIDに聞くことは自然ではない。何かしらの目的があると悟られてしまう。

 

 仕方ないがガブリエルについては一度ここまでにしよう。『神格』の力は得たのだから、それだけで十分だ。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「これがガブリエルが『水』の魔法を得ていた理由……」

 

 デックス博士の研究成果を見て、セレサ以外の三人が動揺を隠しきれなかった。特にソヤは脳内で点と点が繋がり、納得いく答えを見つけたことで疑問が昇華される。

 

 つまり『魔女』というのは『神格』が持つ『情報』を浴びに浴びた存在なのだ。適応した物が『魔女』となり、暴走したのが『ドール』となる。

 だからヴィラクスは暴走した。そのニャルラトホテプ自身が『神格』の一柱だから『神格』が持つ次元が違う情報を叩き込んだから。

 そして同時に理解する。今まで度々敵対していた『守護者』を囲む『ヨグ=ソトース』という存在も『神格』であると。そしてそれは同胞である以上、ニャルラトホテプと同じで属性の『神格』であることも。

 

 しかし、だからこそソヤは不安を感じた。

 それが事実なら、少なくとも後四つは『神格』がいるということ。

 

 もしそれらもニャルラトホテプと同様に、私達に敵対する存在だとしたら——。今回のサモントンと似たような事変は今後も起こりうるということでもあるのだ。

 

「でもこれで分かったわね。XK級異質物を利用する方法が」

 

「ええ。XK級異質物といえど、結局与える影響は環境そのもの。だったらそちらにアプローチするという考えは盲点でした……」

 

「えっ、マジで言ってますか、バイジュウさん? 私には何も分からないのですが」

 

「マジです」と困惑するソヤにバイジュウは断言する。

 

「ミクロとマクロは互いに影響し合う関係。それは天秤の錘が片方が下がったら、もう片方が上がるように、何もXK級異質物自身に内側から操作しようという考えに固執しなくていいんです」

 

「……すみません。私はIQはあっても学はないので何が言いたいのか、よく掴めないのですが」

 

「つまりXK級異質物本体にじゃなくて、XK級異質物以外のすべてに影響を当てればいいんです」

 

 そう言ってバイジュウは空間を囲むように指を回し、得意気に告げた。

 

 

 

 

 

「この『時空位相波動』で閉じ込められたサモントンそのものに——」

 

「……ものすっっっげぇ、力技ですわ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。