魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

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第9節 〜孤独の世界の只中で〜

 そこは暗黒の世界の只中。

 一週間と少しという時間が経過し、レンの姿を模したニャルラトホテプは退屈そうに横になりながら、絵とセリフで世界を構築する漫画という文化に関心を向けていた。

 

「この身体が多趣味で多感な子だから退屈しのぎは何とかなったが……いや、まあ一週間も引きこもりみたいに漫画見るだけって飽きるな。次はライトノベルでも読むかぁ〜〜」

 

「いったいどこからそんな書物を……?」

 

 サモントンを見下ろせる裂け目から目を離し、ヴィラクスはニャルラトホテプに素朴な疑問を問う。当の本人は「サモントンの図書館から」から欠伸をしながら言うと、新しく本を拾い上げて流すように読み始めた。

 

「大人しくしとけば見た目は普通の少女だからな、このレンという子は。顔が知られてる『位階十席』ならいざ知らず、そこらへんのエージェントや避難民に俺の顔を見て警戒することはないさ」

 

「いつ降りてたのですか……しかも無警戒に」

 

「警戒するほどなら別の誰かになればいいだけだろ」とヴィラクスと視線を合わすことなく、確かめるように自分の身体を撫でて不適に笑う。

 

「ふふ……この身体も馴染んできた。レンも気づき始めて行動を開始するだろうし……その時になったらもう遅い。あいつの全ては俺の物になる」

 

「あらあら……。でしたら彼女もウリエルと同じようなことになると」

 

 その言葉にニャルラトホテプは頷いて肯定した。

 

「……ですが下界の様子も落ち着き始め、モリス達も打開策を見出そうと動いています。それに関してはどうなさいますか?」

 

 ヴィラクスの問いにニャルラトホテプは不敵な表情を更に深くして「もう手は打った」と告げる。

 

「降りたついでに、とっておきの爆弾を一つ仕掛けといた。『不屈の信仰』は確かにXK級異質物である『イージス』に匹敵するほどの堅牢さではあるが……同時に弱点も同じだ。内側からの攻撃には対抗策がない」

 

「なんと……流石はニャルラトホテプ様。大胆不適なこと……!」

 

 賛美するヴィラクスに、ニャルラトホテプは再び笑みで応えると、その手にある本を指を栞代わりに閉じ、現在のサモントンを眺めるために裂け目へと歩いた。

 

「後はラファエルだけだ。一番厄介なミカエルは蚊帳の外。ガブリエルは真の意味で魅入られた存在ではない。となると切り札はラファエルだけとなり、是が非でも頼らざる得ない…………」

 

 異形の目はサモントンを見下ろす。視線の先には『ヴェルサイユ宮殿』——。

 ニャルラトホテプは空いた手に、レンから奪っていた『ジーガークランツ』の欠片を握りしめて嘲笑うように言った。

 

「さあ、悲しい悲しいハッピーエンドまでもう少しだ。見事に無垢な民共々サモントンを救い出してくれよ? どんな犠牲を払おうとも」

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「ねぇ父さん! 母さん! 『ルーシュチャ方程式』をもう一度見せて!!」

 

「どうした急に。お前、そんなに焦燥するほどに勉強熱心だったか?」

 

 あれからさらに数日。違和感を感じる物が『何か』と間違っていると考えた私は、とにかく数日でできる限り知人や友人、それに日常面での部分を根掘り葉掘り探し回って、逆に違和感を感じないものを探して始めた。

 

 だが悉くその全てに違和感があった。

 両親と一緒にいるだけで違和感がある。イルカの言葉は流暢で、アニーとラファエルは私の扱いがどこかいつもと違う。マリルも愛衣もどこか優しい扱いだった。エミリオは読心術を持たないし、ヴィラは私は腕相撲しても完敗しないぐらいには非力だった。ベアトリーチェに魅了されないし、ハインリッヒは服を脱がない。ソヤも犬並みの嗅覚ではなかった。ギン姐はなんか根本が違う気がした。

 学校だっていつも通り御桜川に通っているのに、通うことに違和感を覚えないことに違和感を覚えた。

 

 それに……それに……。

 

 

 

《バイジュウちゃ〜〜ん♪ ほっぺにクリームついてるよ〜〜》

《へっ!? どっちにですか!?》

《私が取ってあげる♪》

 

《お嬢様っ! 走り回らないでくださいっ!》

《いいじゃん♪ 今度はあっちの服屋でも行こうよっ!》

 

 

 

 平和な光景なはずなのにバイジュウはミルクといて、ファビオラもスクルドと一緒にいたことにも違和感を覚えてしまった。

 こんな幸せで満ち足りた光景なのに……違和感を覚えてしまう自分に嫌気が差してしまう。どうしてこの光景を見守っていたいと思わないのか。そんな非情さが何故沸くのか、理解できない。

 

 それに誰か……誰かいない気がしてならない。そこにも違和感があるんだ。いったい誰がいないんだ。何故か無性に『星』と『海』を眺めたくなるほどに、その心には誰かがいないんだ。

 

 

 

「まあ、論文として纏めてる最中の物なら見せてあげよう。コピーを取ってくるから待っていなさい」

 

 だけど、そんな中で唯一違和感を覚えないのが一つだけあった。

 それが『ルーシュチャ方程式』だった。これだけは何の違和感を持つこともなかった。だとすれば、今ここにある真実はこれだけなんだ。

 どういう風に解くかは検討もつかないが、きっとここに手がかりがある。でなければ、私はこれ以上どうしようもない。

 

「お待たせ。はい、これが『ルーシュチャ方程式』の資料だ」

 

 やがて父さんがファイルで整理されてるはずなのに、うんざりするほど山積みな資料を私の前に重苦しそうに置いた。

 

 お父さんに「ありがとう」とお礼を伝えながら資料を開けて見てみるが、やっぱり私には珍紛漢紛な単語が多い。だけど決してその全部が分からないだけではない。

 どういうわけか一部は解読できるのだ。とはいっても『読める』という意味ではなく、英語の文脈などでこういう文法だったら、大体こういうことを意味していると直感するように、何となく『情報』のそういう部分があるのを感じてるだけの朧げな物だ。

 

 後は多様されてる文法だ。こういう部分は大抵日常系の話をしていて、その前後や言語の共通性から少しずつ会話を紐解くことができる。

 

 そう、例えばこの一節。文法の末尾に『■』と非常に多く書かれているが、これは恐らく断定している感じの物だ。人間でいう「〜〜だ」とか「〜〜だろう」に近い言語であり、これについては父さんと母さんが端が記載した付箋のメモにも記されている。

 

 …………うん、大丈夫だ。何故か読める。違和感はない。

 きっとここに、私がどういう状況に陥っているのか知る手がかりがある。

 

「……レン。貴方がどんな道を選ぶとしても、私達は貴方を見守っているわ」

 

「えっ——?」

 

 早速図書館の個室でも借りて解読しようと奮起した時に、母さんは雨よりも静かにそう呟いた。

 

 

 

 どんな道を選ぶか? 将来の話だろうか。

 ……そんな話じゃない気がする。もっと大事なことだと感じている自分がいる。

 

 だとしたらなんだ。いったいどんな道を選ぶというのか。

 分からない。分からない事が立て続けに襲いかかってきて、今にも頭痛が起こしそうだ。

 

 

 

「だって貴方は……私達の自慢の『——』だから」

 

 

 

 ……なんて言ったんだろう。頭が混乱していたせいか、それとも私自身が拒むようにそこを聞くのを拒否したのか。その答えは私には分からない。

 だけど私は直感した。その言葉に私は応えないといけない。

 

 

 

 違う——。

 そうだ——。

 

 私は——。

 ■は——。

 

 

 

 ——父さんと母さんの自慢の『子供』だよ、って。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「はぁ……。XK級異質物を内部ではなく、外側から切っ掛けを与えて成長を促すと……」

 

「可能か不可能か。そこの結論だけを聞かせてください」

 

 再び帰還するのに二日。道中の畑からいくつか食料と資源を持ち帰ったバイジュウ達一行は、帰還して早々にハインリッヒに『モントン遺伝子開発会社』で得た情報から考えついた案を提唱する。

 それに対してハインリッヒは「まあ理論的には可能でしょうね」と若干呆れながらも認めた。

 

「ですが世界そのものに影響を与えるという力技は、当然それに見合った大きな力が必要になります。サモントン都市部だけとはいえ、それを満遍なく覆うとなると、私の錬金術を持っても不可能です」

 

「ならば可能にするには具体的にどれほどの規模が必要なのでしょうか?」

 

 遠回しに『現実的に不可能』だとハインリッヒは口にしたのに、かの聡明なバイジュウは諦める事なく食らいつく。それがハインリッヒにとって不可解だった。

 

 それもそのはず、バイジュウからすれば気が気ではない。何せモリスのいつ倒れるかも分からぬ状況もそうだが、何よりも敵となるニャルラトホテプには、彼女が現代に目覚めてから数少ない個人的交友関係者としているレンとヴィラクスを捕らえているのだ。

 一週間も治療で何もせずに傍観していただけ。しかも状況は維持されてるだけで改善はされてはいない。このままではレンやヴィラクスの身に取り返しがつかないことが起きるのではないかと、バイジュウは予感している。そしてそれは刻一刻と近づいており、今起きても不思議じゃないとも。

 

 だからこそ、打てる手は例え無茶、無理、無謀と呼ばれるような策とも言えない無策でもしがみ付いて実行したいとバイジュウは考えているのだ。

 

 その態度を見てハインリッヒは折れた。

 馬鹿にしながらも、それを好むように笑みを浮かべると「簡潔にお伝えしましょう」と話始めた。

 

「求める規模は先ほども言った通り、世界そのものに見合った力。この場合の世界は何を意味するか? それは分かりますね?」

 

「はい。ここサモントンです。より正確に言うなら『時空位相波動』に囚われたサモントンと」

 

「話が早い。では、これを起こしてる媒体とは?」

 

「セラエノの言うことに間違いがなければ、媒体は『魔導書』で間違いありません」

 

「そうですね。今この世界を作ってるのはヴィラクスさんの『魔導書』による力であり、逆説的にこの世界は『魔導書』そのものと言えます。では、最初に戻って世界に匹敵する力とは如何様な物でしょう?」

 

 そこでバイジュウは少しだけ押し黙る。ハインリッヒが口にする『世界に匹敵する力』とは何かを。その答えはすぐに出た。

 

「世界が『魔導書』というなら——『魔導書』に並ぶ『魔力』が必要、ということですね」

 

「正解。だけどこれが難しいのです。『魔導書』と同等の『魔力』……そんなのがどこにあるのでしょうか? ここまで大規模な『時空位相波動』は未だかつてありません。『OS事件』の時でも、規模としては今回の一割にも満たない……」

 

 バイジュウは考える。『魔導書』と同等の魔力がどう準備するか。

 今この場にいる誰もがそんな魔力は持っていない。そんな魔力を持っているなら『OS事件』で退治した『異形』の存在に苦戦することなく終えることができる。それができない時点で、ハインリッヒが口にした『OS事件は今回の一割未満』という規模よりも、バイジュウ達の個人個人の力はそれよりも下回るのだ。

 

「仮に具体的な指標を出すなら『あの方』……つまり『ヨグ=ソトース』に並びうる力や権能が必要なのは確実でしょう。前提としてこれを解決しなければ絵空事なのです」

 

「そんなの……レンさんか、ギン教官ぐらいしか……」

 

 そこでバイジュウは気づいた。だからニャルラトホテプはレンを無力化したのだと。閉鎖空間として機能している『時空位相波動』を安易に内部から突破させないために。そして『時空位相波動』を展開することで外部から干渉されることを防ぎ、ギンを無力化させる。

 

 改めて戦慄する。ニャルラトホテプは計算高く小賢しい存在だと。

 今まで相手してきた『異形』、『レッドアラート』、『ヨグ=ソトース』、それにサモントンで対峙した『アレン』と『ガブリエル』と『セラエノ』と比べて余りにもやる事が地味に見えるのに、そのどれよりも凶悪な一手を打ってくる。しかも表に出る事なく、高みから見下ろして遊び続ける。

 

 今までに相手した事ないタイプの存在だとバイジュウは感じた。

 しかしセラエノは口にしていた。ニャルラトホテプには必ず『隙』を用意していると。そういう性質があり、隙を用意せざる得ないと。

 

 だとしたら何かしらあるはず。小賢しさのどこかに付け入る隙が。致命的となる隙が。

 

 

 

 それこそ今どうにかして工面できないかと考えている『魔導書』に匹敵する『魔力』を用意できるような————。

 

 

 

「ここにあるぞ——」

 

 思考を目まぐるしく続けるバイジュウの背後から、ある男の声が聞こえてきた。

 

「ガブリエル……!? いつからそこに……?」

 

「その前に物申したい。軟禁状態にするのは良い。信頼できないのは確かだ。だけどセラエノをあんな自由にしといて、私とアレンの動きを制限されるのは非常に納得いかない」

 

「セラエノが自由とは……?」

 

 ガブリエルは仏頂面で外を指さした。指し示す方向には窓ガラスがあり、バイジュウ達はその先に何があるのを覗いてみる。

 

 

 

「セラエノお姉ちゃん、すげー!? サッカーボールが火の渦を噴いたー!?」

 

「ふふん。これがセラエノ姉さんの超次元技だ」

 

「他にもできるの!?」

 

「できるぞ。ゴッドハンドというのがな」

 

 そこには避難民となっている子供達と一緒にサッカーをするセラエノの姿があった。いつもの童話みたいに小綺麗な服装はしておらず、芋感全開の灰色ジャージで、髪も動きやすいようにポニーテールに纏めている。

 驚くべきはその身体能力の高さだった。いかにも血圧低そうで、少し動くだけで貧血で倒れそうなほどに細くて軟そうな四肢なのに、その動きは間違いなく歴戦のエージェントに引けを取らない機敏さであり、子供達から優雅ながらも力強くボールを奪い取り、続け様に「エターナルブリザード」と氷の冷気を纏ったような雰囲気があるシュートをして追加点を取った。

 

 別にセラエノ自身が遊びたいからこうしてるわけではない。むしろ逆であり、この極限状態で鬱憤が溜まっている子供達のストレスを解消するためにセラエノがわざわざ相手をしているのだ。

 彼女の能力はあくまで『情報』を叩きつけるだけであり、すでに発狂状態となっている『ドール』相手にはその能力は何の価値も見出せない。そのことを知っているバイジュウ達からすれば、こうやって避難民の精神的ケアのために尽力してもらっているだけだ。それがガブリエルの癪に触ったのだ。

 

 

 

「あれを見てる私達の気持ちが分かる? 一人だけあんな自由にされたら、こっちも大分精神的ダメージでかいんだ」

 

「そうですね……。確かに……あんな自由に伸び伸びしてると……って、レンさん……じゃなくてアレンくんはどこにいますか?」

 

「この目で確かめたいことがあるって、上空の裂け目を観察してる」

 

 そう言ってガブリエルは『ヴェルサイユ宮殿』の天井——正確に言うならその先にある『時空位相波動』の裂け目を指さした。

 

「今はアレンのことは置いていいだろう。問題は君が先ほど口にした魔についてだ。それは私達が持っている」

 

「私達……?」

 

「ああ」とガブリエルは頷くと、その指先を天井ではなく別の人物へと向けた。

 その指先にいた人物——ガブリエルの従妹であるラファエルは「は?」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いた。

 

「私とラファエルがね」

 

「…………はぁ!?」

 

 衝撃の事実をさも当然のように告げられ、ラファエルは驚愕を口から吐き出した。

 

「私にはそんな魔力持ってないわよ! 私が使えるのは『回復魔法』だけで……!」

 

「祖父の研究記録は見ただろう。『神格』について色々と記載があったはずだ」

 

 その言葉を聞いてラファエルは押し黙る。

 ガブリエルの言う通り『モントン遺伝子開発会社』で、祖父の研究記録には『神格』についての記載があった。特にラファエルが特別視されてること、そしてデックス側から『神格』と接触して魔力を宿したこと。そしてその『神格』を『五維介質』と呼称していることを。

 

「ラファエル。私達……ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四人は星の外側にいる『神格』の力を宿しているんだ。恐らくその最中にウリエルは今回のニャルラトホテプとかいう存在に取り憑かれたんだろう……『神格』の力はそれほどまでに強力だからな」

 

「それがなんだってのよ……」

 

「研究記録にはこうも記載されている。『魔導書』はその『神格』からすれば極小の欠片に過ぎないと」

 

「だから私とガブリエルが『魔導書』を超える力があるとでも言うの? じゃあ、もしも仮に『神格』の魔力を宿してるといっても、それさえも欠片じゃないかしら? それが最低でも『魔導書』に並ぶ保証でもあるのかしら?」

 

「ない。私達自身の魔力で、『魔導書』の魔力に並ぶことは決してない」

 

「ほら、口だけ——」

 

「だけど別の方法で魔力を引き出す方法は存在する」

 

 間髪入れずにガブリエルは自らの首筋に掛けている『青色の宝石』を皆に見せつけるように突き出した。

 

「これはデックス家の家宝。私が所持することを許された『サファイア』だ。これを媒体に魔力を通すことで、私自身が持つ魔力を何十倍にも増幅させて『神格』の魔力を引き出す事ができる。最低でも『魔導書』に並びうるほどに」

 

 魔力を引き出す——。そこでソヤは納得した。

 ガブリエルと戦った時、戦闘行為は絶対に慣れていないガブリエルが、どうしてあそこまで能力を大盤振る舞いすることができたのかを。

 

 確かに戦闘前に『サファイア』に魔力を通して弓矢にしていたが、同時にガブリエルの魔力を爆発的に引き出したのだ。だからこそあんな風に水の空間を生み出してソヤを追い詰める事ができたのだ。

 

「デックス家であれば一人一つは絶対に持っている。私は『サファイア』で、ミカエル兄さんなら『ルビー』で、ウリエルなら『シディアン(黒曜石)』だ。ラファエルなら『エメラルド』を持っている」

 

 ガブリエルの言葉にラファエルは驚愕と共に背筋が凍りついたように動かなくなった。

 

 唯一見え始めた希望の一筋——。

 それがすでに閉ざされていることに気づいてしまったから。

 

「だから宝石に魔力を通せば『魔導書』に並びうる力を引き出すことはできる。一人では不足するだろうが、二人なら話は別だ。幸い『水』と『風』は錬金術では揮発性原質、五行思想でも相剋の関係だ。相性は良いはずだろ、ハインリッヒ?」

 

「……ええ、そうですが……。その前に致命的な部分があるんです」

 

「致命的?」と溢すガブリエルにハインリッヒは説明しようとするが、それをラファエルは止めて「私から言うわ」と覚悟を持って告げる。

 

 

 

 

 

「私の『エメラルド』は——」

 

 ラファエルの『エメラルド』は『OS事件』の時に砕け散った。

 その美しい光沢はレンやエミリオの命を助けるのと同時に、役割を終えたように石ころみたいに光沢を失ってしまった。

 

 

 

 それは何を意味しているのか——。

 

 

 

 

 

「……もうどこにもないの」

 

 

 

 

 

 そう——。

 ラファエルの手に『エメラルド』はないのだ——。


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