魔女兵器 〜Another Real〜   作:かにみそスープ

99 / 170
ストックが尽きたので、今後の更新は最終節が完成するまで週一更新になります。毎度毎度申し訳ありません。


第13節 〜たしかなものは、きっとある〜

「ただいま、お母さん……」

 

「おかえり、レン。今日は唐揚げだから、早くお風呂入ってきなさい」

 

 どちらを選べばいいか分からないまま帰宅して、私は疲弊して玄関に腰を置いてしまう。

 ……何も知らない。私の両親は何も知らない。ここが『夢』だなんて微塵も。自分の存在が泡沫であることを。

 

 ……嫌だ。私自身の手で、この幸せを終わらせてしまうのが堪らなく嫌だ。それは私の手で、私の意思で両親を殺してしまうことを選んでしまう気がして嫌だ。例え相手が夢の存在であろうと……今ここにいる私にとっては夢であっても『本物』なんだ。

 

 

 

 できない。私には『現実』へと向かうことができない。だけど『夢』に続けるのも間違っている。それでも選ばないといけない。

 

 

 

「……元気ないな、レン。何か嫌なことでもあったか? ……まさか男にナンパでもされたのか!?」

 

「あはは……当たらずも遠からずって感じ」

 

 

 

 ——今ここにある幸せを抱いて『夢』に溺れるか。

 

 

 

「気分が悪いなら、早く入ってサッパリしなさい。薬は用意しておくから」

 

 

 

 ——別れを告げて過酷溢れる『現実』に傷つくか。

 

 

 

「……ねぇ、お母さん。今日は一緒にお風呂入ってくれない?」

 

「えっ? 珍しいわね」

 

 正直自分でも何を口にしているのかよく分からない。だけどどっちを選ぶことになったとしても後悔がないように、今のうちに心ではなく『魂』が求めてる事を成したい自分がいるんだ。

 

「父さんとは入らないのか?」

 

「……うん、久しぶりに男同士——」

 

 …………『男同士』? 私は何を言ってるんだ。

 この身体はどこをどう見ても女の子だ。間違っても『男』だと認識するわけがない。

 だけどこの感覚は初めてじゃない。前も自分が『男の子』だったんじゃないかと脳裏で浮かんでいた。そして再びあの言葉が私の思考を巡る。

 

 ——『記憶は思い込みだ。記録じゃない』

 

 混乱が混乱を呼んで、私の中で徐々に『夢』と『現実』の境目が曖昧になっていく。

 

 どこまでが『夢』でどこまでが『現実』で——。

 どこまでが『記憶』でどこまでが『記録』なんだ——。

 

「レンも年頃なんだし父さんはダメ。今日は……今日だけは私が入るから」

 

「そっか……。年頃だもんな……」

 

 気のせいだろうか。混乱で思考が渦巻く中、両親の会話は今までの暖かさを持ちながらも決意に満ちているように感じた。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 互いにタオルとかで肌を隠すことなく、ちょっと狭くもお湯を張った浴槽の中で母さんは私に話しかけてきた。

 親子水入らず、裸の付き合いというやつだ。だけど久しぶりの成果が心臓がドキドキして仕方がない。のぼせたのか、あるいは久しぶりに見る母親のグラマラスに驚いているのか。もしくはまた別の要因か。何にせよ、不思議な高揚感が私の内にはあった。

 

「こうして入るのもいつ振りかしらね〜〜」

 

「小学生より前、かなぁ。そうなると十年以上前か……」

 

「ううん、違うわよ。一緒に入ったのは割と最近。レンは覚えてる?」

 

 割と最近? いつ頃の話なんだろう? 

 ウリエルの話に嘘は言っていない。現実には両親はいない。だとしたらこの『記憶』に間違いがなければ十年以上前のはずだ。

 

 ……まさかこれさえも違うのか? と思ったら、母さんは笑って「それも忘れちゃったか」と言った。

 

「最後に入ったのは、現実では今年の年始。『奇妙な運試し』の時、って言えば分かるかしら?」

 

「現実にはって……母さん、気づいてるの!?」

 

「そうよ。だって貴方の母親で研究者よ。この世界は都合が良すぎるからね。何となく勘づいてはいたんだよ、もちろん父さんも」

 

 知らなかった、そんなこと。そんな気配を一度でも私の前で見せただろうか。少なくとも私は気づいていなかった。

 

「あの時は背中越しでの会話だったわね。まあ、あの時の私はあそこにいたのがレンだって気づいてなかったけど……」

 

「……そんなことあったんだ」

 

「……覚えてないのも無理ないわよね。私や昔のレンからすれば十年以上前だし、今のレンからすれば異質物で起きた一時の夢だったんだもの。こういう深層心理の状態だからこそ、過去と現在の垣根を超えて私だけが覚えていられる。思い出すことができる」

 

 そんなことが……と言われてある事を思い出した。

 確かに年始での記憶があやふやだった覚えがある。何か変な宝くじを引いたことも。

 

 その後のことは曖昧になって、何やかんやでギン教官の鬼指導があって…………。とそこでさらに思い出す。

 そうだ。ギンは教官だったと。意識したら次々と『記憶』が溢れ出してくる。今まで栓でもしていて、それが何かの弾みで外れたかのように。

 

 ——これは私じゃない。『俺』の記憶だ。

 

 私に瓜二つの少女が今まで駆け抜けてきた『記憶』だ。

 だけど私は私で……俺は俺で……。と二つの『記憶』が混乱と共に満たして行く。

 

 最中、そこにどこの見当もつかない断続的に『記憶』が流れてきた。それは断続的ではあるが、大まかに分けて三つの『記憶』だ。

 

 一つは先程母さんが口にした通り、今ぐらいの年齢でお風呂に入っていた『記憶』——。

 一つはどこかで一緒に共闘したファビオラとの『記憶』——。

 

 

 

 もう一つは…………本当に何の見当もつかない『記憶』だった。

 

 その『記憶』には『少年』がいた。背格好は私とだいぶ似ている。とうか私を男の子にしたような…………というか、俺が男だったことの姿だ。

 

 だけど風体は違いすぎる。今までいくつもの戦場を乗り越え、血と死を目の当たりにした歴戦の勇姿は、あまりにも年不相応の悲しいも決意に満ちていた。

 

 そこは『地獄』だった——。

 火中には少年以外は誰1人いない。それどころか死体の山にはアニー、ラファエルと見覚えのある人物が何人もいた。

 

 少年は悲しいはずなのに涙さえ出さずに佇む。

 そんな中、少年の目の前には『黄金の杯』が現れ、何度も口にしたかのように口慣れた『願い事』をした。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 ——■に……も■も……。

 ——『■■』が本当に■■して■れば……。

 ——■■■だ……■■■を■に……。

 

「■■■、■■■■■■■——」

 

 

   ——我が器よ、変革の時は来た——

 

 ——今一度この地獄を生き抜いて見せよ——

 

 

 ……

 …………

 

 

 

 ——これは、どこの『記憶』だ。

 ——いや違う。どこの『記憶』とかじゃない。

 

 

 

 ——これだけは『記録』だ。どこかであった『記録』なんだ。

 

 

 

 ——じゃあ、これはどこの『記録』なんだ?

 

 

 

「それに……本当のレンは『男の子』だもの」

 

「男の子……」

 

 俗に言う『存在しない記憶』に脳内が混乱する中、一度落ち着けと言わんばかりに少しずつ胸中に思い浮かんでいた些細な疑問に対して母さんは当然のように「ええ」と認めてくれた。

 

「今のあなたは現実逃避していて『自分』を偽っているの。つまり貴方自身が『狂気』に取り憑かれてる状態。貴方自身が『ドール』になる一歩手前だったってわけ」

 

 私が『ドール』……。その単語でまた思い出す。

 そうだ。私が本来いた世界……つまり俺がいた世界には『異質物』で誕生した『ドール』が特異災害として世界中で認定されていたんだ。

 

 ……『ドール』になる一歩手前か。それは大変なことだと、自分のことなのにどこが他人事のような認識で受け入れる。

 それはまだ『私』と『俺』の境界がまだあるからだ。『ドール』になろうとしてるのは、正確には『俺』だった頃の話であり、今ここで夢に微睡んで生きる『私』には一切関係ないことだ。最も自分に近いからこそ、最も自分に遠い印象を抱いてしまって他人以上に他人事になってしまう。

 

「……なんでそれを口にしたの?」

 

「ええ。このままにしておけば、レンはきっと私達の元から離れることなく永遠に一緒にいられる……。そう思うと、真実を伝えるのが怖かった。『夢』でもいい……もう一度貴方と一緒に過ごしたくて……」

 

「だけど」と母さんは言い淀む。

 

「これはレン自身の問題。親が決めていい問題じゃない。どんなに悩んでも答えなんか出るわけがない」

 

 何も言えない。今も私は悩んでいる。『夢』と『現実』を選ぶべきか。それは『私』を選ぶか『俺』を選ぶかでもあった。そしてその主体は『私』にある。

 

 …………『私』と『俺』の記憶が何も淀むことなく入り混じる。

 どちらの方が大事か、なんてものじゃない。どっちも大事だ。どっちも大事だからこそ…………何か、小さなこと一つでいい。キッカケがないと、どちらにも見捨てた世界を背負う覚悟ができない。

 

「最低の、母親でしょ。子離れできていないのよ。だから委ねたの。レン自身がこの世界の謎に気づくかどうか……。『夢』から出るか出ないかを…………」

 

「臆病な母親で幻滅したでしょ」と言う母さんに、私は「そっか」と特に何か大きな感情を持つことなく軽く返した。

 

 やっと分かった。何で母さんが一度意味深に「貴方がどんな道を選ぶとしても、私達は貴方を見守っているわ」と言っていたかを。私がどちらを選んでも後悔しないように、覚悟を決めていた。とっくのとうに決めていたんだ。

 

「…………どうする?」

 

「…………あのさ」

 

「ん?」

 

「……なんで母さんと父さんは結婚したの?」

 

 だから両親が自分を理解してくれたように、自分も両親のことを理解しないといけない。どうして両親は結婚したという些細なことさえも。

 

 

 

 それだけは——まだ『私』も『俺』も知らないことだから。

 

 

 

「……理由は些細だったわ。どっちも小学生の頃は知らないことだらけでね。私も夫も負けん気が強いから、互いに負けるもんか〜〜、って感じで高め合ってね……。中高共に成績トップで、同じ大学に入って研究に明け暮れてたら……なんか『研究者』になってた」

 

「ええ〜〜?」

 

「で、そうこうしてる内に結婚もして子供も産まれて……知らないことだらけで慌ただしいのに満ち足りていて……まあ、そんな感じよ」

 

 思っていた以上に普通だ。普通すぎてどう反応すれば分からないけど、返ってそのシンプルさが良かったかもしれない。

 

 私は黙って考える。2人とも『知らないこと』が始まりだったんだ。私と同じように『知らないこと』を知りたくて……前に進んで……。

 

 

 

 ——私の『知らない』ことって何だろう。

 ——俺の『知らない』ことって何だろう。

 

 

 

 …………あった。知らないこと。それは母さんも父さんも知らないこと。

 

 でもそれを『教えられる』のは…………。

 

 

 

「……決めた」

 

「……そう」

 

 母さんはただ頷いて返答を待つ。その答えが何であれ笑って受け止められるように。

 

「…………行くよ、『俺』は」

 

 私は母さんと父さんの子供だ。同時に『俺』は母さんと父さんの子供だ。

 だったら、見せてあげないと。教えてあげないと、親孝行を。母さんが『子離れ』できないと言ったように、いつまでも『親離れ』できない自分自身のために。

 

 

 

 ——もう決めた。覚悟を決めた。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 ——翌日、ウリエルが約束通り家にやってきた。

 

 会話はなかった。視線だけを交わす。それで十分だった。

 聡いデックスの血筋なだけある。ウリエルは察して「家の外で待ってるよ」と言って去っていった。

 

 そして玄関口で父さんと母さんと視線が合う。それは愛する我が子が自ら答えを出したことに誇らしげに思う瞳であり、自分の意思で決めた我が子を自慢するように二人に笑った。それが二人にとって、この世界における『死』も同然だとのに、迷いも後悔もなく。

 

「いつまでも私服だとカッコつかないでしょ。はい、これ。大事な物でしょ?」

 

 そう言って、母親は見慣れた服と物を差し出してきた。

 

 それは始まりのセーラー服。そして始まりのバット。どちらもアニーから受け取った物だ。

 何で今まで忘れていたんだろう。この一張羅から色々なことが始まったんだ。

 

 初めての戦闘をアニーと切り抜けて——。

 SIDに案内されてマリルと愛衣と知り合って——。

 学校でニュクスと先輩後輩として仲良くなって——。

 江森発電所でイルカと出会って——。

 スカイホテルでラファエルと縁が生まれて——。

 そこでベアトリーチェとも運命的な出会いをして——。

 

 まだまだ続く。本当に長い旅路だったんだ。

 

 方舟計画でハインリッヒと遭遇し——。

 南極で囚われていたバイジュウを保護し——。

 スクルドのためにファビオラを助けに行き——。

 猫丸電気街での事態を解決するためにソヤと共に奔走し——。

 船ではシンチェンが突然現れて——

 それにエミリオとヴィラが船に乗船してきて——。

 

 まだ終わらない。長い旅路はやっと中腹だ。

 

 OS事件を機にハイイーと巡り合い——。

 暗闇の空間でミルクが皆のために助力してくれて——。

 事件後にスターダストとオーシャンがやって来て——。

 何やかんやで高崎さんと友達になって——。

 強くなるために霧夕とウズメさんの力を借りて——。

 ギン教官を解き放って、霧吟の力を宿して——。

 

 

 

 そして今はサモントンで事件が起きてるんだ。

 

 

 

 なんで本当に忘れてたんだろう——。

 男の子の時に過ぎ去った過去も大事だけど、女の子になってから歩んだ旅路も大事じゃないか。

 

 この選択は絶対に後悔する——。

 悔やんで悔やんで悔やんで、悔やんでも悔やみきれなくて、泣いて泣いて、渇いても泣き続けて、それでも前に進む。

 

 

 

 いずれ子は親離れしないといけない。それが今なんだ。

 だから、この一度きりの軌跡は神様がくれた本当の幸福なんだ。

 

 親離れさえできなかった関係に——。

 子が育ち、巣立つ瞬間を、両親に見せることができるんだ。

 

 

 

 ——胸を張って、これが自分だと言えるように。

 

 

 

「ほら、レン。リボンが曲がってる」

 

 母さんがリボンのタイを直してくれる。

 手慣れた手つきながらも、長年培った手癖はあるようで、普段とは違い結び方にはネクタイを結ぶような固さがあった。

 

「レン、忘れないで。貴方は母さんと父さんにとって、大切で自慢の子供よ。貴方が男の子でも、女の子でも変わらずに愛しているわ」

 

「うん……うんっ」

 

 

 

 忘れない。もう絶対に忘れない。何があっても。

 それはどっちもだ。これまでのことも、これからのことも。

 この『夢』であったことも。先にある『現実』であることを。

 

 

 

「男なら泣くな。女の子からブサイクな顔するな。胸と背を張って行ってこい。父さんと母さんはいつまでも見守っているぞ」

 

「うんっ……うんっ……!!」

 

 

 

 私は——、いや『俺』は両親の思いを背にドアノブに手を掛け、これが最後なのに、いつも通りの1日のように元気溌溂と俺は一日の始まりと、この世界との終わりを口にした。

 

 

 

「じゃあ——、行ってきます!」

 

「「行ってらっしゃい」」

 

 

 

 あの日、無くした物は———。

 きっとたしかに、ここにあるんだ————。

 

 

 

 

 

 少女は、楽園を去る——。

 明るさに満ちた『夢』よりも、暗く澱む『現実』へと向けて。

 

 少年は、地獄を歩む————。

 果てなき道を振り返らず、暗闇の荒野を進む。

 

 

 

 生ける者は、未来へと走り出す——。

 悲しみを乗り越え、美しい絶望の世界に先駆けて行く。

 

 

 

 

 

 ——人はその『覚悟』を持った歩みをこう呼ぶ。

 

 

 

 

 

 ——『先駆者』と。

 

 

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

 

 

「えっ……!? 『魔導書』の制御が……っ!?」

 

 暗黒の世界の只中にて、閃光が疾る。

 暗闇を輝きが裂き、一瞬にて世界を逆転させる。

 

 黒と白、光と闇が明滅して『魔導書』から二人の人物が解き放たれた。その見目姿を目に入れ、『魔導書』の持ち主であるヴィラクスは戦慄した。

 

 かたや自分が所属している『位階十席』を管理者である『デックス』の一人だった。明るい茶髪なのか、暗めの金髪なのか曖昧な色黒な少年は間違いなく『ウリエル・デックス』だった。

 

 かたや黒髪で赤メッシュの雰囲気ボーイッシュは。作戦前と違って資料で見慣れた戦闘用セーラー服を羽織っており、それは見間違えようもなく『レン』だった。

 

 

 

 ヴィラクスはあまりの驚愕に狼狽えるしかなかった。

 

 両者共に、自分が仕える主人である『ニャルラトホテプ』によって完全に取り込まれたはずなのにと——。

 

 

 

「汚名返上といこうか。レンくん?」

 

「ああ。とりあえず、目の前の事から片付ける!」

 

 

 

 闇を彷徨った少年少女は対峙する。

 自らを貶めた主神の従者へと笑みを浮かべて。

 

 

 

 …………

 ……

 

 

 

「来た来た来たっっ!! 『時空位相波動』に変化が発生中!! 準備はいいかい、ギン教官様!!」

 

「安心せい。——もう既に斬った」

 

 

 

 そういうと同時、サモントンを覆う暗闇の瘴気に一つ、二つ、三つ四つ五つと次々と世界を切り裂くように光が一閃する。

 やがて瘴気は霧散して消え去り、サモントンがようやく世界に現出された。

 

「先駆けの一手『剣気流星』——。どうじゃ、デックスの小僧?」

 

『期待通りだね。それだけさ』

 

「小生意気な」

 

 互いに外見年齢には合わない罵り合う。

 そんな中、サモントンの映像が映ったことで愛衣は居ても立っても居られずに咆哮した。

 

「うっっっしゃぁぁああああ!! 何するものぞ『時空位相波動』!!」

 

「興奮するのは分かるが、落ち着け愛衣。冷静に現在のサモントンの状況を……って、なんだこの『ドール』の数は!?」

 

 観察をし続けるマリルの目には戦慄しかなかった。

 衛生映像から見ても分かるほどに増殖している『ドール』の総数。それが今でも増え続け、しかも見覚えのない『鳥』さえも見えていた。

 

 一体何がどうしてこうなったのか——。

 マリルには何もかも理解が及ばなかった。

 

「数もそうだがこの状況……。サモントン上空には『裂け目』があり、その下には謎の生物……。なのに依然としてレンの生体反応がない……。まさかとは思うが、あの『裂け目』の中に……?」

 

『あの少年の行方は分からないけど、危惧すべきことが起きてしまった。……あれはどう見ても……』

 

 ミカエルの声に悲しみが帯びる。まるで誰かを思うように。

 そう、ミカエルはすでに気づいている。その『謎の生物』が変貌してしまったラファエルであることを、ミカエルだけが気づいていた。

 

『…………ともかく『ドール』を減らさないと話にならない。SIDから『ドール』に対抗できる戦力を総動員してくれ。私もすぐに合流する』

 

『——その話、こちらにも一枚噛ませてもらおうか』

 

 無線機からミカエル以外の声がSIDに響く。

 それは女性だ。女性だが凛々しさや力強さがあり、武士道や騎士道といった精神性を重んじるような口調。ある意味では貴族っぽくもあり、隠しきれない高貴さがその無線から伝わってきた。

 

『私の名はマサダブルクの組織『マルク・アレクサンドリアル』に所属する『パトリオット』——。といっても名を伝えるだけでは今は分からないだろう』

 

「『マルク・アレクサンドリアル』の……」

 

「『パトリオット』ね……」

 

 その単語には、SIDで待機するエミリオとヴィラには聞き覚えがあった。

 マサダブルクの傭兵組織。その組織において対テロ組織として最も頭角を表している内城の守護神。

 

 そのトップ——それが『パトリオット』という名だと。

 

 それ以外は特にエミリオの中には思い当たる節がない。

 だがヴィラだけは知っている。その名には彼女自身に遠からずも縁があるということに。

 

 

 

 何故なら、その組織の出資者の1人が空軍高官である『アトリウム・ダヤン』という『ヴィラ・ヴァルキューレ』改め、本名である『ヴィラ・ダヤン』の父親なのだから。

 

 

 

『状況は既に把握している。サモントンの『時空位相波動』は解除され、今ならば武力介入できるのだろう? ならばこちらには心強い助っ人がいる』

 

「助っ人? …………まさかっ!?」

 

 マサダブルクは傭兵が多いと言っても『ドール』に対抗できる人材は少ない。そのために軍事技術を身につけ、今の今まで武力でどうにかしようと政策していた。ヴィラの武器である『重打タービン』だってその片鱗でもあるし、人型に対抗するために『ハニーコム』や『イエローヘッド』といった無差別殺戮兵器を生み出した。

 

 だからこそマリルは気づいた。何せ、その『助っ人』には一度面倒な目にあったこともあったから。

 

 マサダブルクが誇る『ドール』にも対抗できる兵器——。

 そんなのはもう一つしかない。それは『対魔女兵器』と呼んだ——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『——『レッドアラート』の出番さ』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。