鬼神の世話役〜青年と少女の記録〜   作:誠家

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ドタバタコメディとか言っときながら第1話ちょっと暗めです。すんません


第1話 出会い

建物を、重い足を上げながら進んでいく。

ここ最近の任務で、俺の肉体に疲労はかなり溜まっていた。

だが、それでも仕事は舞い込む。

 

「部隊長!クレイ部隊長、報告であります!」

「アァ?ンだよ。」

「違法薬を取り扱っている集団のアジトを突き止めました!摘発に向かうべきかと!」

「…そうかよ。」

 

俺はまた歩き出す。

 

「如何致しますか。」

「今すぐ部隊の全員を武器庫に招集。さっさと潰すぞ。」

「ハッ!」

かけていく部下を尻目で見ながら、俺は無意識にため息。空を仰いだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふむ、奴らは西側の過激派の集団か。これで今月に入って3つ目の摘発。悩み事は多いな。」

「…」

「とりあえず、第3部隊の活躍、とても感謝している。報告お疲れ様。戻っていいぞ。」

「ハッ!」

「…失礼しやす。」

「…ああ、部隊長は残っててくれ。少し話がある。」

「…ウィッス。ミゼル、書類関係は頼んだ。」

「…分かってますよ。」

「アァ?なんだその嫌そうな目ェ。何のために現場から遠ざけてると…」

「ちょ、分かりましたから短剣しまってください!」

 

部隊長と呼ばれた青年は、後ろの部下に声をかけた。部下は少ししかめっ面を作ったものの、短剣を突きつけられた途端すぐに下がっていく。

 

「相変わらずだな」

「フンッ、妻子がいて戦闘から遠ざけてんのに、書類整理にまで文句言われてちゃやってらんねェよ。」

「そう言ってやるな。お前も家庭を持ったらどうだ?多少は気持ちがわかるかもしれんぞ?」

 

「ハッ、冗談は社交の場でしてくれ。…俺にそんな相手いるわけねぇだろ。あんたみたいな、軍の最高幹部サマとは違ぇんだよ。」

「そんなことは…いや、いい。本題はそれじゃないんだ。…少し座らないか。」

「おぉ、お言葉に甘えて。」

 

2人は部屋の端にあるテーブルに、向かい合う構造で座る。

 

「単刀直入に言うとね。君に、もう1人部下を付けたいと思ってる。構わないか?」

「アァ?またかよ…これで何人目だ?」

「元々君のやり方が乱暴だから抜けていくんだが…?」

「細けえこたァいいんだよ。それで、なんでまた入れるんだ。今でも十分回ってんだろ。」

 

「いや、まだ十分とは言いきれない。なぜならダメージを負うこともあるのだから未だ改善の余地はある。」

「…まぁ、俺頭悪ぃからそこら辺はミゼルの野郎に任せてるからなァ…いいぜ、歓迎してやる。続くかどうかは別として、な。」

「ああ、それでいい。…今夜の8時辺りに向かわせるから。対応はそちらに任せたぞ。」

「アァ、了解した。…話はそれだけか?戻るぞ。」

「ご苦労さん。引き続き頑張ってくれ。」

「アァ。」

 

白髪の男性の言葉に、クレイはそう言うと、席を離れて、扉の方に向かう。しかし、数歩歩いて立ち止まると、また話しかけた。

 

「…にしても、そこまで気にすることかァ?」

「…?何がだ。」

 

()西()()()()()()()()()()()だろ。1年も前によォ。休戦協定が結ばれたってのに、随分と殺気立ってんだな。」

 

「…フッ…」

「アァ?なんか可笑しいことでも言ったか?」

「いや、その通りだなと思っただけだよ。…休戦協定なんて結んでも、結局は疑心暗鬼なんだ。…分からんもんだな、人も。」

「ハッ、知らねえよンなもん。俺ァ小難しいことは苦手なんだ。そういうのはそっちでやってくれ。」

 

「なァ、大将サンよ。」

 

「じゃあな。」

 

部屋から出るクレイを、白髪の男性は見送り、その後おもむろに卓上の受話器を持ち上げた。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「来ねェ。」

第3部隊専用の大部屋。

そこの少しデカい席に座りながら、クレイはボヤく。彼はもう一度時計を確認する。

見ると、時間は8時を優に越えており、今や9時になろうとしていた。

それを確認してから、クレイのこめかみがピクピクと動き怒りを示す。8時に向かわせると言っておきながら全くもって来訪者が来ない。

その様子を見ていたミゼルはため息をつく。

 

「からかわれたんじゃないですか?あの人なら普通に有り得ますし、それに大概退職者の多いうちに割く人員なんてそうそういませんよ。」

 

「アァ!?じゃあ何かァ!?俺はあのジジイのクソどうでもいい茶番に付き合ったおかげでこんな時間まで待たされたとそう言いてぇのか!?」

 

「そう言いたいというかそうでないかと。」

「ハァ!?マジざけんなよあのジジイ!次会ったらあの白髪全部引き抜いてやる!もしくは服全部引き裂いてやる!」

「やる事が何とか一定のラインに収まってますね。」

「っるせえ!帰って寝る!」

「はい、鍵閉めはしとくんで、お気をつけて。僕もすぐ帰ります。」

「知るか!勝手に帰れ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「ああー、イライラするぜ…!」

 

人通りの絶えない長い一本道。

彼の帰路である、その道を歩きながら、彼はブツブツとボヤく。やがて、少し離れたところに歩く少年が声を上げる。

 

「ママー、あの人…」

「しっ、やめなさい!」

 

クレイを、指さしている事をやめさせると、少年の母親は少年を抱えて走り去っていく。

 

「…ったく、聞こえてるっつーの。」

 

誰にも聞こえない音量で呟くと、クレイは頭を掻きむしった。

見ると、彼の周りには一定の隙間があった。

これは、たまたまこうなっている訳では無い。いつもこうなのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

かつて、一年前まで繰り広げられていた西と東の戦乱。これにはあらゆる武勲をあげるもの達がいた。

その中でも、侵略、撃墜に関して多くの武勲をあげたのが、クレイだった。

 

その話題は、瞬く間に市民中に広がった。

国民はそれを称えた。

 

…たが、それも、長くは続かない。休戦協定が締結された後、国民はすぐに気づいた。

 

『彼は、いったい何人の人を殺したのか』

 

そう思い出すと、溢れる疑念と恐怖を抑えきれなかったのだろう。人々は次第に、彼を避けだした。

彼を称えていたもの達はその口を閉ざし、国史上最凶の《大量殺人鬼》の話題はまったく上がらなくなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「ま、元から慣れてたけどな。」

 

元々、劣悪な環境で育ち、軍の中でも異端として扱われていたクレイにとって、それは苦行ではなかった。

所詮、今までと同じこと。周りからチヤホヤされる方が何か気持ち悪い。

それよりも…

 

「クッソあのジジイに一杯食わされたってのが1番ムカつくなァ…!」

 

歯がギシギシと鳴り、クレイは足早に帰路を急いだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「ア?電気点いてんじゃねえか。」

 

家の前に到着したクレイは、そうボヤく。

彼の家は、住宅地にある2階の一軒家。

正直ここまで大きなものにするつもりはなかったが、およそ数ヶ月前、今の軍の大将に命令されて、仕方なく購入したものだった。

実際、ものの置き場所が多いのはいいが、掃除なんかはまったくやっていない。

まあ、アパートですらやることは無いのだが。

しかし、電気が点いているというのはどういうことか。

 

「…ま、大方俺が消し忘れたんだろ。」

 

そう結論付けて、彼は鍵穴に鍵を差し込んだ。

 

「…開いてる。」

 

そこで、微かな警戒心。

彼はそのままドアを開けた。

 

「……」

 

しばらく注意を払うが、何も起きない。

どうやら待ち伏せということは無さそうだった。いつもと変わらない玄関を見ながらドアをくぐると…

 

「アァ?」

 

…予想外のものが、リビングのドアから姿を現した。

ヒョコリと顔を出し、こちらを見つめる青い瞳。薄汚い肌に、髪は長い金髪。しかし手入れはあまりされていないのか所々跳ねていた。体はクレイと比べると棒のように細く、その体は簡素な服に包まれていた。

そして、暗い、湖のような瞳でクレイを見ながら、少女は呟く。

 

 

「…おかえりなさい、ご主人様…?」

 

 

クレイはしばらく固まっていたが、やがて顔を手で覆って、ため息つき、天を仰いでから…

 

「…クソジジイィィィィィイイイイイ!!」

 

そんな怒号が、こだました。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

『おお、クレイじゃないか。どうした?』

「どうした?じゃねえだろジジイ!何勝手に俺の家にガキンチョ連れ込んでんだ!テメェの趣味はテメェン家で発散しろ!」

『おいおい誤解をするな。別に私は幼女は好きじゃない。どちらかというと大きい方が好きだ。胸も尻も。』

「いらねえよその情報!」

『大声を出すな、電話が壊れる。』

「んな事より!マジでなんで俺ん家にガキがいるんだよ!絶対ぇあんたの仕業だろ!」

『決めつけは良くない。まあ、事実だが。』

「ならすぐ認めろや!」

 

『それに、私は言ったぞ。「お前に部下を付ける」と。』

「ハァ!?それこのガキンチョのことかよ!悪ぃが俺もそんな趣味ねえぞ!」

『知ってる。というかお前は女にあまり興味がないだろ。』

「第一、部下って言いながらガキだし、俺ん家に呼ぶなよ!呼ぶなら部隊室に呼べよ!」

『何を言う。その子は部隊に入れんぞ?子供をそんなところに巻き込むわけなかろう。』

「…あんた、18の俺をスカウトしなかったか?」

『18は大人だ。…その子は部下は部下でも部隊の部下ではない。』

 

『お前専属。身辺世話係として雇った。』

 

『ま、執事やメイドに近いかな。』

「アァ!?ンなもんいらねえ…」

『言っただろ。お前はたまにではあるが負傷する。かつて戦場で鬼神と呼ばれたお前がたかだか素人集団に手傷を負わせられるということは、それだけ体に負荷がかかっているわけだ。それは十分な休憩が取れていないからだろう。』

「ンなことは…」

『最近はまともな飯も食ってないだろ。』

「グッ…」

 

言い淀むクレイに、ため息をつく。

 

『お前のことだ。国民に避けられているからなるべく外出しないようにしてるんだろ。おかげで外食もせず、インスタントで済ませてるんじゃないか?』

「…お見通ってか。チッ、ムカつくぜ…」

『元々、こうなったのは我々上層部がお前の功績を国民に大々的に報じたからだ。その責任は私も感じてる。』

「それがなんでこのガキに変換されんだよ。」

『その子は掃除、食事の家事全般でかなりの腕を持っている。お前のいい世話人になると思ってな。』

「ざけんな!なんで俺が子守りまでしなきゃなんねえだ!ドアの前に置いとくから迎えを…!」

『その子は、捨て子だ。』

「アァ…!?」

『しかもタチの悪い、倫理的概念が形成された後に…一定期間成長した後に捨てられた最悪のケースだ。おそらく少女の中にトラウマもあるだろう。…そんな子を、お前はまた捨てるのか?』

「…ンなの、そのクソ親のせいだろうが。俺は…」

 

『なら捨てろ。迎えの車を出そう。凍える少女に、怯える少女に罵声を投げつけ、外に放り出せばいい。その後彼女がどうなっても知らないと、お前は言うんだな?』

 

「…ッ…」

 

蘇る、記憶。

彼の中に鮮明に刻まれた、忌々しい記憶。

悪夢のような日々。

それと同じことを、俺は…

 

『…どうする。』

 

問いかけに、クレイは息を落ち着けた。

 

「…この偏屈ジジイ。卑怯にも程があんだろ。」

『卑怯でなきゃ、この地位に居らんよ。』

「クソが…」

 

唸り、チラリと少女に視線を送り、またもため息。

 

「…わぁーったよ。あんたの策略に乗ってやる。何考えてるか知らんがな。」

『それは良かった。丁重に扱ってやれよ。』

「やり方は俺なりで行くからな。」

『ああ、それじゃ。』

 

ガチャリ。

受話器を置き、少女を見る。

少女はそれに気づくと、ソファを降りて頭を下げた。

 

「なんなりとご命令を、ご主人様。」

 

その歯の浮きそうなセリフに、クレイはしかめっ面を作る。

 

「ご主人様はやめろ気持ち悪い。」

「…?なら、どう呼べばよろしいですか…?」

「俺はクレイ。名前で呼べ。」

「旦那様…?」

「頭悪ぃのか。クレイでいい。」

「…クレイ様。」

「様は要らん。呼び捨てにしろ」

「…クレイ…」

「いいか、普通に生活してもいいけど、俺の命令には従え。それが最低限だ。」

「…了解、しました。」

「あと、敬語も使うな。気持ち悪い。」

「…分かった。」

「よし、まずは…」

 

「お前風呂入ってこい。汚すぎる。」

 

「…お風呂?」

「…まさか入ったことないなんて言わねえよな。」

「…入ったことはある。…と思う。ただ、入り方忘れた。」

「チッ、マジかよ…どんだけクソ親だったんだ…」

「あの…」

「もういい。こっち来い。」

「え…?」

 

クレイは少女の手を掴んで引っ張る。そのまま入ったのは、浴室。

彼は蛇口を捻ると、温度を確認して、少女に向き直る。

 

「風呂ってのはここに湯を張ることだ。それはわかるな?」

「…うん。用意はしてた、から。」

「アァ?用意はさせてたのに入らせてなかったのか?…マジめのクズか。」

「…えと…私…何かした…?」

「なんでもねえ。湯を張ったらここにあるお湯で体を流して、体を洗うだけだ。分かったな?」

「…どうやって、洗うの?」

「………やるしかねえか」

 

「あとは自分で出来んだろ。そこの鏡みて、綺麗になったらここにあるタオルで体を拭いて、服着て出てこい。」

「…分かった。」

 

多少体、髪の洗い方についてレクチャーして、クレイは浴室を後にする。そして襲う疲労感。

 

「…逆に疲れてんじゃねえか。」

 

本末転倒だな、と彼はボヤく。

しばらくして、少女が姿を現す。

 

「…出た。」

「あそ。なら俺は寝るから。お前も寝るなら寝ろ。2階でもなんでも使え。」

「…分かった。」

 

それだけ告げると、彼は眠った。

今日あったことが一気に疲労感として襲いかかり、彼の目を閉じさせた。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「…便所」

深夜、目を覚ます。

微かな尿意と共に覚醒した俺は、ソファから立ち上がった。しかし、背中にかかる重量。

見ると、少女が眠ったまま、俺の背中のシャツを握りしめていた。

そして、開かれた口から漏れる言葉。

「…おと…さ…ん…」

いったい、どんな夢を見ているのか。

俺の事を、親父だとでも思っているのか。

大体、自分を粗雑に扱った人間にまだ未練があるのか。それがほとほと謎だった。

 

「…ったく…面倒臭ェ…」

 

そんな呻きと共に、俺は少女の手を払った。




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