鬼神の世話役〜青年と少女の記録〜   作:誠家

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…主人公の性格安定させんのやっぱムズい。


第2話 少女の家庭と決意

「クレイ、クレイ。起きて。」

「ん…アァ…?ンだよ…まだ5時じゃねえか…も少し寝させろよ…」

「そうはいかない。許可とレクチャーをくれなきゃ、朝ご飯作れない。」

「レクチャーならする必要ねえだろ…たく…」

クレイは欠伸をしながらキッチンまで移動すると、棚を開けた。

「調理器具なんかはここにあるもん使ってくれたらいい。火はここ捻りゃ出るから。水はそこの蛇口使え。あと今日はパンがあるから朝飯はいらん。飯作んのは今日の夜からでいい。」

「…分かった。」

「…じゃ、俺は寝る。」

「…うん、分かった…」

 

「ふぁ…あ…」

昼。

大きなあくびに、隣に座っていたミゼルが反応する。

「おや、寝不足ですか?」

「アァ、ちぃと面倒な案件が昨夜舞い込んで来てな。それの対処に追われた。」

「へえ、隊長が苦戦するということは、総指揮官からの書類整理ですか?」

「どちらかというと身辺整理に近ェ。ガキの子守りを任された。」

「ふむふむ。……ええ!?」

「…ッせぇな。耳元で大声出すなよ。」

「す、すみません…ただ、隊長にそんな趣味があるとは…」

「ぶっ飛ばすぞ。」

「そう言いながら拳を準備しないでください。」

キリキリと握りこまれる拳に、恐怖の目をミゼルは向ける。

ハァとクレイは背もたれに背中を預けた。

「ガキの面倒なんざ見たこともやった事もねぇからやり方が分かんねえ。」

「ええ、僕も子供の世話には苦労して…」

「その話なら何回も聞いた。」

「釣れないなー…せっかくの幸せエピソードを…」

「聞いて欲しいならバリエーション増やしてこい。」

「おや、今度はどこに?」

「大将サマに呼ばれてるんでちょっと離れるぜ。任務あったら無線で呼んでくれ。」

「了解でーす。」

 

「やあ、よく来たな。」

「昨日の電話ぶりだな、大将サン。」

「ははは。ま、座りたまえ。」

総指揮官のススメに、クレイは昨日の座った席に座る。

昨日と同じ構造で、総指揮官は両者の前にコーヒーを置いた。

クレイはガムシロ多量とミルク多量をそれぞれ入れる。

「相変わらず、甘党だな。」

「糖分取らなきゃやってらんねェよ。…で、今日は何の話だ?」

「いや、昨日のことについて少しね。…すまなかった。正直に言うと君は頭ごなしに否定し、受け入れないと思ってな。」

「ま、今もまだムカついてはいるが、俺にも落ち度はあったからそこはさほど気にしてはいねぇよ。…ただ、なんで突然あのガキを引き取った?んで、わざわざ俺に預けた理由はなんだよ。」

「…彼女は、軍人の娘だった。軍人の父と主婦の母。両方から虐待を受けていた。父は母と子に暴力をふるい、母は子に暴力をふるった。…先月亡くなった、二番隊の副隊長を覚えてるか?」

「覚えてねえ。確かミゼルが愚痴ってたってェことぐらいしかな。」

「ま、お前はそうだろうな。ここで言うと、同僚からの苦情が絶えず、いくら処分を下しても、全く動じない。そんな奴だ。…アイツはあの子の父親だった。どうやら妻に殺されたようだ。そして、その妻も夫を殺した後に…」

総指揮官は、首を振った。

クレイはしかめっ面を浮かべる。

「で、自殺したと。…胸糞悪ぃ。」

「いやまったくその通り。…おかげでその現場を見ていた少女は、精神的ストレスで感情を無くしたかのようになった、という訳だ。いやはや痛ましい。」

「俺からすりゃ、浅ましいもんだけどな。」

「…そんなわけで、軍としての失態と上層部は見ている。これを解消するためには、何としても、あの少女を真っ当に生きさせなければならない。」

「つまり、クソみたいな親と軍の尻拭いを俺がしなければならねェと。そう言うことか?」

「理解が早くて助かる。…私からも頼む。これは、重要なことなんだ。」

「悪ぃが、受けようにも俺には子育てなんて言う知識はない。俺が持ってんのは言葉に筆字、多少の軍事知識と、人の殺し方ぐらいのもんだ。…真っ当な生き方をさせたいなら、もっと適任な奴がいる。それでもか?」

「…ああ、それでも、私はお前に頼みたい。…出来るか?」

「…拒否権はねぇんだろ?なら、やるしかねぇ。…めんどくせぇが、これも仕事だ。」

「…感謝する。それなら大丈夫だろう。」

「ハッ、勝手に納得してんじゃねェよ、クソジジイ。…まだ、どうなるかもわかんねぇんだからな。」

もう言って、クレイは部屋を出て、後にする。

残った総指揮官はコーヒーに口を付けて、天井を仰いで、ため息をつく。そして、呟いた。

「大丈夫だよ、お前なら。」

 

ーー弱さと痛みを知ってる、お前なら、な…ーー

 

 

時刻は午後7時頃。

クレイはペンや短剣などを片付ける。

「お、もう帰宅ですか、隊長?」

「アァ、気になることがあってな。先失礼するぜ。」

「えぇ、大丈夫ですよ。」

「…他の奴らは?」

「今日は仕事ないから先に帰らせましたね。基本的に僕らは無線で報告しあってるんで大丈夫でしょ。」

「そりゃそうだ。」

「…ねえ、隊長。」

「ア?ンだよ。」

「女の子襲っちゃダメです…」

シュビッ ストッ!

「悪い手が滑った。壁に刺さったそのペン片付けといてくれ。」

「…ひゃい。」

 

人々を縫わずに、クレイは通りを進んでいく。相変わらず勝手に出来る隙間はこういう時楽でいい。

「らっしゃいらっしゃい!揚げたてのコロッケだよ!美味しいよー!」

「…」

今日ぐらいは飯を買って帰るかと考えるが、そう言えば少女に朝の内に調理器具の場所なんかは教えてあるんだったと思い至る。

「…あのガキ大丈夫かァ?」

台所自体(一応)クレイが使う前提で設計されているため、少女には少し高いだろう。

それに、もしかしたら逃げているという選択肢もある。自分のような粗雑なものと一緒にいたいと思うものは、そうそういないだろう。

「ま、それならそれで仕方ねぇがな。」

彼はいつもの歩調で通りを歩いた。

 

「…電気は点いてねえ。」

家の前で彼は呟く。

見ると、昨日点いていたリビングなど全ての電気は消えていた。空を見ると、夕焼けの赤色はほぼ無くなっており、黒が占領しているため、電気を使わない時間帯はとうに過ぎている。

つまり、結論はかなりの確率で一つに絞られるだろう。

「…ま、元の生活に戻るだけか。」

正直、決意を多少固めてきたクレイにとっては少し肩透かしというか、拍子抜けな話ではあったが。

それを少女が決めたなら、別に追い回すことでは無い。

「…パン余ってたっけなぁ。」

そうボヤきながら、ドアを開ける。

開いていたということは、鍵を閉めずに出て行ったということだ。それもそうだ。彼女に合鍵は渡していない。

「ま、あのガキが逃げたなら当たり前か。」

彼はドアを開けて、くぐる。

…しかしそこで、違和感。

暗い家の中。しかしリビングにあるひとつの気配。

彼は数多の戦闘において、近くの部屋の《人の気配》を読み取れるようになっていた。

勿論勘違いの時もあるが、しかし彼はドアを閉めると、玄関の電気をつけずにそのまま腰に装備していた短剣の柄に手を添えた。

そのまま猛然とダッシュし、電気のスイッチを入れる。灯りが着いた途端、照らし出されるリビングの状況。

…そこに居たのは、金髪の少女だった。

「…ンだよ、いんじゃねぇか。」

少女は首をコテンと傾げる。

「駄目…だった…?」

「別に駄目でもねえし、攻めもしねぇが…ただお前、何してんだ、ソファの上で。」

「…?クレイを、待ってた。」

「まあ、それなら良いけど…なら、なんで電気付けねぇんだ?暗くて何も見えねえだろ。」

「…つけていいって、言われなかった。」

「ア?誰から。」

「クレイに。」

「俺に?いや別に俺から許可を貰う必要なんざ…」

そこでふと、クレイは気づく。

朝の会話を思い出して、少女に問う。

「なあ、ガキンチョ。お前なんで家のドアの鍵閉めなかったんだ?お前1人じゃ危ねぇだろ。」

「…?クレイに、言われなかった、から…?」

その瞬間、ああなるほど、と彼は腑に落ちる。朝の許可という言葉。そして彼女の奇妙な行動。

『…こいつは、人から()()()()()()()()()()()ようになってんのか。…いや、そう育てられたのか。』

ひとつの仮説と共に、クレイは少女にもう一度問う。

「おいガキンチョ。今から少し嫌なことを質問する。答えたくねえなら答えなくていい。いいな?」

「…うん。分かった。」

「お前、前の家で勝手に電気つけたら何された。」

「『お前が電気代を増やすな』って酔ったお父さんに殴られた。」

「ドアを勝手に閉めるとどうされた?」

「『娘が親を閉め出すな』って、同じように殴られた。」

「…母親にはどんな時に殴られた?」

「少しだけおねだりしたら『そんな余裕はない』って殴られた。」

「…それが、どのくらいあった?」

「…?お父さんは優しい時以外は毎週私とお母さんを殴った。お母さんは優しいから数日に1回くらい。」

「なるほどねぇ…」

案の定、いや想像以上のクズだった。

特に父親。元二番隊の副隊長っていうのは鼻で笑いそうになるが、そもそも俺が真っ先に殺すレベルのクズだ。まあ、生きてればの話だが。

母親はまだ救いがある。大方夫の暴力に耐えられずに手を出してしまった口だろう。まあ、それでもクズはクズだ。同情はしてやるが肯定はしてやらない。

「ま、いいや。そこら辺の小難しい対処はミゼル達の仕事だ。俺の案件じゃねぇ。」

「…?」

「いや、こっちの話だ。お前にゃまだはえぇことだよ。…それより、お前なんで逃げなかった?普通なら、こんな男の元去ってくもんだろ。」

「…よく分かんないけど、クレイの元を去るって選択肢はなかったよ。」

「ア?なんで。」

「だってクレイ、朝ご飯くれた。一緒に寝てくれた。色々教えてくれた。…それに、私はクレイに買われたんでしょ?なら、出ていく理由は、ひとつもない。」

彼女は、一切表情を変えず、そう言い切る。

その言葉に、クレイは少しだけ硬直していたが、やがて「ククッ」と喉から笑い声を出す。腕を組み、肩をふるわす彼は確実に笑っていた。

「…なにか、おかしなこと言った?」

「いや、なに…おかしな奴も世の中にはいるもんだなと、そう思っただけだよ。」

「…?どういうこと…?」

「知らなくていい事だ。ンなことより、飯だ飯。用意出来てんだろ?」

「うん…あっちのテーブルに…」

「じゃ、さっさと食うぞ。そんで風呂入って寝る。」

「…うん、分かった。」

「あと、俺ァお前を買ったんじゃねえ。お前を《雇った》んだ。お前は奴隷でもなけりゃ売春婦でもねえ。ただのガキンチョってことは忘れんなよ。」

「うん…でも、未成年の雇用って犯罪だよ…」

「あー、知るか知るか。小難しいのは嫌いなんだよ。ほれ、行くぞ。」

 

 

 

2人の生活は、ここからようやく始まった。




最後はちょっとホッコリした…かなぁ…多分。
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