急襲①
ここはネオアルカディアの一角にあるK-1地区のビル街。
今この場所に一人の男がやって来ていた。
移動用のジープから降りてきた彼は、軽く膝を叩いて活を入れる。
「さあて、始めるとすっか」
威勢よく言って、闘将ファーブニルが前方の奥を見やった。
彼の目的はこの先にあるテナントビルだ。
そこにはとある悪事を働いている者達が居ると予想された。
これは先日のミッションで仲間が得た成果による情報で得たものだ。
部下を派遣する手もあったが、敵の本拠地と思われる以上、また“厄介なボス格”がいる恐れがある。
一定以上の力量を持ったボスが相手では、部下のミュータントレプリロイドではいささか心許なかった。
もし敵に敗れる事があれば、折角発見したアジトから敵幹部が逃げ失せてしまう事になる。
「ま、レヴィアタンの話じゃそこまで強ええ奴らじゃねえみたいだけどな」
そう呟いて彼は視界を天空に向けた。
空には太陽がさんさんと輝いている。
今日は雲一つ無い快晴のようだ。
太陽光が闘将の赤い装甲に反射し、煌めきを帯びている。
「あいつは2人の幹部格とやり合ったらしいが、強さはさほどでもなかったって言ってたな。まあ時間稼ぎされて鬱陶しかったみてえだが」
へへっと笑んで思い出すように彼は独りごちる。
彼は事前にレヴィアタンから前回のミッションでの結果報告を聞いていた。
2週間程前、彼ら四天王は共同でギラテアイトの探索・確保ミッションに取り組んでいた。
そこで候補地の中から妖将が当たりの場所を引き、ギアテライトを発見したのだ。
しかしそこでは敵の幹部格が待ち構えており、彼女との戦闘となった。
だが四天王であるレヴィアタンの前では大した脅威にはならず、ネオアルカディア側が無事ギアテライトの奪取に成功。
――という大まかな経緯を彼は彼女から聞かされていた。
『ま、弱い連中だったわ。でもあの手この手で逃げ戦法を取られてちょっと苛々させられたけど』
肩をすくめて妖将はそう言っていた。
ファーブニルとしては前回外れを引かされる事となったのだが、それを聞いて逆に安堵していた。
「そいつらと当たらなくてよかったぜ。俺は強え奴とやり合いてえからよ。弱い上にちょこまかと逃げ回る奴なんざごめんだ」
へへっと笑って彼は言う。
「そういう小賢しい奴はレヴィアタンが相手をするのが調度いいぜ。俺はもっと熱くなれる強者と戦うからよ」
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ここは、発展したビル街にある一角。
都市で建築された様々な建物が建ち並んでいる。
その中の一つにあるのがこのダイヤモンド・ビルだ。
中には各フロアにそれぞれテナントが入っており、まさに都心の発展を象徴するような建物である。
一見、ビル内には色々な会社が間借りして入っているように見える。
だが、その実態は秘密組織"ミラーアルケミー"のアジトだった。
このダイヤモンド・ビル内全てが組織の物であり、中で勤務しているのも全て彼らの構成員である。
様々なテナント会社で分かれているように見せかけて、その実体は全て同じ組織の者達。
これはネオアルカディアの監査を逃れるためにカモフラージュしているためであり、その裏ではギアテライトの秘密裏の保有・密売業務を行っていた。
構成員の大半はパンテオン型の末端兵であるが、彼らは主に事務雑務等の業務を執り行っている。
ギラテアイトの管理・裏取引の実務を担っているのはほんの一握りの幹部達だ。
ビルの最上階にあたる階層に、その組織の上層部達が居る。
テリトリーであるその空間で、今数人の幹部格の男達が集まって会議を開いている所だ。
彼らはモニター画面を囲み、表示される画像を見ながら会話を交わし始めた。
「皆も知っての通り、先日我々が保有していたギラテアイトが奪われてしまった。ネオアルカディア四天王の介入によってな」
「おかげで貴重なレア資源が全て水の泡だ」
「ギラテアイトは我らにとって資源ビジネスにおいてなくてはならない商品だったんだぞ!」
「あれは相当な儲けを得る事が出来たまさに魔法のエネルギー結晶。それが無くなったんだ。俺達にとっては死活問題だ」
『そちらは大変なようだな。だが買い手のこちらもかなり困っているんだが、わかってるか?』
円卓を囲む幹部達の正面に1台のサブ画面が置かれている。
そこには映像で男の姿が映っていた。
おそらく1人遠方からリモート会議の形で参加しているようだ。
「ライオヌル殿……お得意様のあなた様には本当に申し訳ないと思っております」
「すみませんね。我らの不手際で商材を台無しにしちまって」
『俺達はギラテアイトを必要としている。そちらから定期的に大金をはたいて買っていただけに、それが突然無くなるのは契約違反だろう』
「しかし、こちらとしても予想外の事態だったのです」
「まさか各保管場所に四天王全員がやって来るとは」
「リスク管理はもちろんしていたんだ。だからいざという時のために鏡ネットワークを用意して、貯蔵施設間でブツを好きな場所に移動出来るようにしておいたんだが。その全ての施設に敵が、それも四天王がやってくるなど……」
「彼ら全員を相手にするのはまず不可能でした故、来襲した四天王4人の中でまず相手をする対象を1人にしぼり、ひとまずギアテライトをその四天王がいる一カ所へ移してまとめておく事にしたのです。もちろんターゲットに選ぶのは4人の内で1番何とかなりそうな1名。その四天王1人を狙い打ちして単個撃破する計画を取ったのです」
「だが、倒す事は出来ず逆にギラテアイトを奪われる形になってしまった」
『戦前にサーチアイによって各個体の戦力分析はしていたんだろう?その結果を元に"ターゲット"を定めたはずだ。なのに何故しくじった?』
「サーチデータを鑑みて、四天王の中でもまだつけ入る隙がありそうな妖将を対戦相手に選んだのですが…。しかし結果として目論見は失敗に終わりました。予想以上に強い娘だったのです」
「うちのサーチアイで計測できるのはあくまで殺傷力や筋力に寄った戦闘力だからな。その他の要素の能力値に関しては把握し切れない。その見えない部分で奴は優れていたようだ」
「流石にネオアルカディア四天王の一角か。女とはいえ少々侮ってかかってしまったな」
「我々はあの時、アジトに5人もいたのです。本来ならば全員でかかって多対個に持ち込むべきでした」
「だがあいつらが拒絶したんだ。『いくら四天王とはいえ、たかが女1人に多勢で相手をする事もないぜ』『ほっほ、そうじゃよ。女子相手ならわしら2人で十分じゃよ』ってな」
「それでやられたんじゃ世話がねえな」
「折角鏡の世界に引きずり込んで有利な条件で戦ったはずなのに」
「妖将が“女である”点を利用して上手く鏡の中に取り込んだまではよかったんだがな」
「氷属性のあちらが苦手としているであろう炎タイプのズィール。そして若い小娘を経験で遙かに上回るであろうゾルベームグを抜擢して送り込んだが……」
「結果としてその小娘に2人してやられたのだから情けない限りだ。やはり俺達5人全員で出向いて相手をすべきだった」
「気勢とパワーは強いが地頭に欠けるズィール。そして老練で悪知恵は働くが武力に欠けるゾルベームグ。双方が組む事で上手く欠点を補って相乗効果を生むと思ったが……どうやら1人ずつで1on1を挑んだようだ。あいつらを送ったこちらの判断は失策だったらしい」
「相手がメスだからと舐めたのかもな」
「それが間違っていたんだよ……。女とはいえネオアルカディア四天王の1人なんだから弱いはずがない」
「くそっ、馬鹿共が」
『お前達は後から助っ人に向かわなかったのか?』
「行こうと思っていたんですが、そうもいかなくなりまして」
「闘将がやって来たんですよ。鏡世界の中に」
『なに?何でまた。鏡に引き入れる四天王はターゲットに決めた1名だけだったはずだろう』
「それが、どうもズィールの奴がポカをやらかしたようで」
「陽光の森から鏡世界へ向かう際に使ったゲートを閉じるのをどうやら忘れてやがったみたいなんですよ」
「多分時間が無かったから慌てていたんだろうな」
『そうか……まったく、なら死んでも仕方ないな』
ズィールのヘマにモニターの向こうにいるライオヌルは軽蔑の表情を隠さない。
『おかげで闘将にゲートを使われて侵入され、邪魔されたわけか』
「ええ。まあ奴が入ってきた時にはほぼ決着はついていましたが」
「完全に妖将が優勢で、もはやゾルベームグに勝機は無かったな。闘将の合流はあの勝負の結果には影響がなかった」
「だがその後の事には影響した。奴が来た事で我々は突入に二の足を踏む事になったからな」
『何故だ?』
「本来なら残った我ら3人も向こうへ行って彼女に3対1を仕掛ける予定でしたから」
「先の2人が万が一倒された場合の第2プランだったんだが、それが闘将の登場で頓挫した。流石に奴を相手にしては3人がかりでも勝ち筋が見えない」
『そんなに強いのかその男は』
「強いですね。サーチアイでの計測によると先の妖将をも上回る戦闘値を有しています」
「だから今回奴は戦闘対象から避けたんだ。だがまさかそいつに鏡世界にやってこられては……」
「我らも介入をするわけにはいかず、首をこまねいて見ているしかなくなりましたな」
『そうか。それは惜しい事をしたな。今回はやろうと思えば四天の1人を消せるチャンスだったんだが』
口惜しそうに男が言う。
幹部2名が倒されたとはいえ、それはいずれも個人戦を挑んでのもの。
もし舐めてかからずに集団戦を仕掛けていれば、ホームの鏡世界だっただけに、もっと向こうを慌てさせられた可能性は少なくなかっただろう。
だが既に好機は潰えてしまい、敗北という結果だけが無惨に残った。
もはや済んでしまった事は仕方がない――。
『まあ今回2人がやられてしまったのは残念だが。奴らも"何の収穫も得ずに"やられたわけではないようだな』
気を取り直してライオヌルが言った。
「ええ、ゾルベームグはちゃんとサーチアイで計測していたようですよ」
「部下に持たせていた汎用サーチアイとは違い、ゾルベームグはより詳細なパラメータを解析できる特注のサーチアイを独自に装備していたからな」
「それでズィールの戦闘中はあえて加担せずに計測に回ったわけか」
「さらに自らが戦闘中も奴はサーチを継続していた。もちろんそのデータは遠隔通信で“連合の”マザーコンピュータに送られている」
『ならばレヴィアタンのデータはある程度溜まったはずだな』
「いえ、まだそれほどの量では。最初に部下にサーチさせた時に比べれば、少しは溜まったと言えますが。それでもまだ全体の15%程に過ぎません」
『何だ、まだたったのそれだけか』
「他の四天王に比べればこれでもまだ良い方ですよ。賢将、闘将、隠将の3名に関しては初期サーチのデータしかありませんからな」
『そいつらのデータ解析度は?』
「それぞれ5%程度です」
『……それだけか?それじゃまだ何もわかってないも同然だろう』
「まともに相手を出来る人員を割けませんでした故……致し方ないかと」
『はあ…それもそうか。だがお前達幹部2人を投入したのに女1人からろくにデータを取れなかったのはどうなんだ』
「ズィール達の力量ではその程度が限界って事でしょうな。あの小娘の全てを引き出させるまでには到底至らなかったと」
「まあ四天王相手という事を考えればズィール達はよくやった方か。ゾルベームグの方はまだ少しは粘ったようだしな。おかげで彼女の事が"少々"わかった」
「ひとまず今回は我々の敗北と言っていいだろう。だが四天王のデータ解析が僅かとはいえ進んだという収穫もあった。こうしてデータを蓄積していけば、いずれあちらの弱点や攻略法も見えてくるだろう」
「ところでストックが無くなった以上、これからは我々も積極的にギラテアイトを探して回らなければならない。そうなればおのずとまた彼ら四天王とバッティングする事が増える事が予想される」
「それは厄介だな。出来れば接触しての戦闘は避けたいところだが」
「戦う場合は今回のように上手く有利な状況に持っていくのが必須になるだろう」
「ま、それで奴らと出くわして戦闘する度に四天王達のデータ解析も進行していくから、悪い事ばかりじゃないが」
「もちろん1回や2回の戦闘データでは実用レベルのデータは得られないがな。今回の数値を参考にしても5~6回は計測を繰り返す必要がある」
「いずれ四天王達のデータ解析度が100%に達するのが楽しみだな。そうなれば例え四天王達とかち合ってももう恐れる必要はなくなる」
「まあそれまでに我々全員がやられていなければいいがな」
「おいおい、冗談はよしてくれよ。流石にそれはないぜ」
冗談めかして彼らは含み笑顔を浮かべた。
と、その時だった。
不意に、室内に甲高いブザー音が鳴った。
続けて警報が鳴り響く。
『ALERT!ALERT!侵入者デス!』
これまで投稿された話で好きな話はどれですか?※アンケートの結果で今後の話の展開やキャラの偏りなどに影響が出る事はありません。あくまで皆さんの感想を知りたいために実施するアンケートですので^_^
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第1章:稀少資源ギラテアイトを奪取せよ
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第2章:敵本拠地を急襲せよ
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第3章:エネルゲン水晶発掘所を攻略せよ
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第4章:水没した図書館を攻略せよ
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第5章:スカイビルでの戦い
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第6章:四天王VS暴雪月花
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その他個別に好きな箇所があればこちらへ