四天王の重要任務   作:プレイズ

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新たなるエネルギー②

※27話目【奪われたデータ】の本文内容を一部修正しました。

他に敵四天王の名称をホワイトマン→ファシュロカに変更しています。

それとノッラの台詞の口調を変更しました。以前は敬語調で書いていたのですが、それだと魅力に乏しい感じがしたので修正しています。

27話目以外のページでも敵四天王の名称の部分でホワイトマン→ファシュロカに修正した箇所がいくつかあります。

 

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「――以上がシステマ・シエルⅡの概要です」

シエルが一通りの説明を終えて席に着いた。

彼女の口から明らかとなった新たなエネルギー生成機構の開発。

それは他の参加者を驚かせるのに十分な内容を持っていた。

「な、なんという事だ」

「まさかそんな革新的なエネルギー生成システムが構想されていたとは」

「しかし、今話された構想の実現のためにはかなりの資金と研究設備が必要なはず。ドクター・シエル殿はそんな潤沢な環境をお持ちなのですか?」

「はい、有り難い事にネオアルカディアが私の研究を全面的にバックアップしてくれていますから」

横に居る賢将を流し見てシエルが言った。

それに応じるようにハルピュイアが口を開く。

「彼女は既にシステマ・シエルを開発した実績があります。その成果は誰もが知るところ。システマ・シエルのおかげで都市のエネルギー枯渇問題は大きく改善し、それによって治安も以前に比べ飛躍的によくなっています」

シエルが生み出したシステマ・シエル。

それまでエネルギー不足が死活問題にまでなっていたネオアルカディアにとって、その機構は革新的な発明だった。

多くのレプリロイドに最低基準以上のエネルギーが提供されるようになり、その結果イレギュラー化する者が大幅に減少したのだ。

これまではエネルギー不足からメモリーにエラーをきたす者が後をたたず、それによって一部の地域では治安も悪かった。

だがシステマ・シエルの登場によってネオアルカディアは潤った。

“多くのレプリロイド達にとって”生命活動に支障をきたさない最低限のエネルギー供給が保証されるようになったからである。

「都市の発展に大きく貢献した彼女の功績は多大。その実績を鑑み、我々としても彼女の新たなエネルギー機構開発には協力を惜しみません。十分な予算を用意して資金と設備の支援を行っています」

「おお……ネオアルカディア四天王のお墨付きとは、これは期待できますな」

ハルピュイアの発言でネオアルカディアは全面的にシエルに協力している事が明らかになった。

その事実に参加者は驚きと同時に期待感を得る。

システマ・シエルは革新的な発明だったが、全てのレプリロイドのエネルギー需要をカバー出来るわけではなかった。

あくまで“多くのレプリロイド達にとって”満足たるエネルギーを生み出す機構である。

もちろんそこから“あぶれる”者達も存在していた。

それがここに参加しているステアラーら率いるレクトル・ディンマに所属する面々である。

彼らは自分達がエネルギーシステムの恩恵を受けられない事に不満を持っていた。

満足な支援が受けられない現状がこれ以上続けば、同胞からイレギュラー化する者が増えて彼らの安全が脅かされる懸念がぬぐえないからだ。

故にこうして会合に臨み、“統治者”である賢将に直談判を切っているのである。

ちなみにコピーエックスやバイルが健在であった以前であれば、統治者に対してこのような物言いをするのは考えられない事だった。

意に反する事を言えば即無礼な言動と見なされ、イレギュラーとして殺処分されてしまうからだ。

しかし先の抗争によってネオアルカディアの統治は大きく変わった。

弾圧的な恐怖支配をやめ、民衆の意見に耳を傾ける体制に変わったのである。

ハルピュイアがこうして民衆や特殊レプリロイドの代表の意見を聞く場を設けているのもそのためだ。

故に、レクトル・ディンマの面々も賢将に対して忌憚のない意見を言えるのである。

 

だが、ドクター・シエルの登場が彼らを動揺させた。

まさかあのシステマ・シエルの開発者が同席しているなどとは皆思いもしなかったのである。

それも、彼女はシステマ・シエルに改良を加えて新たなエネルギーシステムを開発しているという。

その機構ならば、現在システマ・シエルの恩恵を受けられないレプリロイド達にも適合したエネルギーを生み出す事が出来るらしい。

彼らからすればそれは喜ばしい事だが、妄想を喋るだけならば誰にでも出来る夢物語である。

責められているハルピュイアを見て庇うためにシエルが嘘八百を言っている、という可能性も十分あり得た。

しかし、先の彼女の説明はシステムの具体的な構想であり、十分に期待を抱かせる内容であった。

それ故に、彼らは困惑しているのである。

怒りの矛をぶつけにきたはずが、その切っ先を逸らされた形だ。

まさか自分達の不満を解消する可能性がある返答がくるとは予想していなかったのである。

「だ、だがねえ。その新システムとやらはいったいいつ完成するんだい?」

「そうですな。確かに話だけ聞けば魅力的なエネルギー機構構想だが……。完成に何年もかかるようなら我々の切迫した困窮には寄与しない話だ」

「完成までの期間は1年もかからないと断言します。“半年以内には”システムを完成させて実用化まで持って行くと約束しましょう」

「な、なにっ!?」

「は、半年で実現させるだと……!?」

シエルの回答にレクトル・ディンマの面々がどよめく。

年内に、それも半年以内に完成させて実用化を達成するというのだ。

これだけの革新的なエネルギーシステム開発をである。

にわかには信じ難い事だった。

「そ、それは本当かね……?」

「この場を切り抜けるためにでまかせを言っているのではないだろうな?」

「いえ、そんな事は断じてありません。この科学者ドクター・シエルに一切の二言はないと約束します」

代表者達に対し、彼女は毅然として断言する。

「ほう……では、それが実現出来なかった時はどうしてくれるんだね?」

「口だけの約束で済ませるのは大人の世界ではあり得ないんだよお嬢ちゃん」

「そうですね……。ならばこうしましょう。」

シエルは横に居るハルピュイアに目配せした。

すると賢将は脇に控えていた屈強なガードマンからアタッシュケースを1つ受け取る。

机上にそれを置いた彼は鍵を挿してケースを開錠した。

開かれた中を見たレクトル・ディンマの面々がざわめく。

「こ、これは……!」

「何て大金だぁ……!」

アタッシュケースの中には大量の紙幣が敷き詰められていた。

優に彼ら全員を合わせた年収を上回る額である。

「こちらを全てあなた方レクトル・ディンマの方々に差し上げましょう」

「こ、この大金を全て我々にだと……!」

「これがあれば、高額なギラテアイトを購入する事も可能になる……!」

「もちろん無条件で譲渡するわけではありません。こちらの金を譲渡するのは半年後の期限までに新エネルギーシステムが実用化に至らなかった場合です。それは忘れないでおいていただきたい」

大金に沸くレクトル・ディンマ達にハルピュイアが釘を刺した。

「あ、ああ。了解した。しかし本当に半年の期限を守ってくれるんだろうね?」

「はい、ネオアルカディア正規の契約書も用意していますので、今ここでサインさせていただきます」

シエルが再びハルピュイアに目配せすると、彼は懐から契約書を取り出して机の上に広げてみせる。

それは真っ当な契約書であり、半年間の期限を守れなければこの大金を全てレクトル・ディンマの面々に譲渡すると文章で約束されていた。

これに双方がサインして印を押せば契約書の効力が発生して契約締結となる。

早速代表のステアラーが席に着き、契約書に目を通して調印する。

同様にネオアルカディアの科学部門代表であるシエルも着席し、契約書を確認して調印。双方が同意した事で契約締結となった。

「これで、我らにとって大きなメリットとなる契約を締結出来ましたな」

「ええ、ネオアルカディア側が新システムの構想を実現しようが出来まいが、我々にはこれで何かしらのメリットが発生する事になる」

「しかしよかったのですかな?我々には得しかないが、そちらにとっては負担にしかならない契約なのでは?」

レクトル・ディンマの幹部の1人がシエルに尋ねてきた。

「いえ、これでいいんです。この新システム構想はあなた達のような長年不利益を被ってきた方々への贖罪でもありますから」

シエルは科学者として出来る限り皆が平等に利益を受けられるようになる世界を創造したいと思っている。

実際彼女が開発したシステマ・シエルは多くのレプリロイド達を救い、たくさんの利益を生んできた。

しかし彼らレクトル・ディンマのようにその恩恵に預かれない者達も少なからず存在しているのだ。

彼女はその事に心を痛めており、生み出してしまった格差を出来る限りなくしたいと考えていた。

今回のレクトルとの契約はその意志の表われでもある。

「…ドクターシエル、あなたのその優しさは光だ。だが、寛大すぎる嫌いもある」

脇に控えているハルピュイアが彼女にだけ聞こえる声で言った。

「全ての者達を平等に扱う精神……私はその考えを否定はしないが、無謀な部分も多々あると思っている」

「ごめんなさいね、無理を言って。でも、この新システム構想だけは、絶対に実現させたいと思っているの。レクトル・ディンマのような方達をなくすために」

科学者としてはもちろん、私個人としてもね、と彼女は付け加えた。

ハルピュイアとしては、革新的なエネルギー開発を可能にするシエルの意志は尊重したいものの、一部のイレギュラー化を避けられない稀少種族まで全て救おうとするシエルには正直無謀さを感じてもいた。だが彼女は本気でそれを実現する気らしい。

この感覚はかつてゼロに対して抱いていたものと少し似ている気がする。

不可能に思える無理難題でもそれに挑み、可能にしてしまう――。

「…どうしたの、ハルピュイア?」

「――いや、何でもない。ではこれで会談は終了だ。そろそろ撤収の準備をしよう」

会談の主目的はひとまず終えたため、彼はここから帰還する準備を始める。

 

しかし、その時だった。

突如、部屋に轟音が轟いた。

エネルギー弾が奥の壁に撃ち込まれたのだ。

 

ドオン!!

 

爆音が響き、壁に大穴が開く。

突発的に起こった事態に周囲の参加者達は動揺した。

「う、うわーっ!?」

「な、何だ今のは!?」

「これは、何事だ…!」

騒然となる室内に、喧噪がこだまする。

刺客による襲撃が今、始まろうとしていた。

これまで投稿された話で好きな話はどれですか?※アンケートの結果で今後の話の展開やキャラの偏りなどに影響が出る事はありません。あくまで皆さんの感想を知りたいために実施するアンケートですので^_^

  • 第1章:稀少資源ギラテアイトを奪取せよ
  • 第2章:敵本拠地を急襲せよ
  • 第3章:エネルゲン水晶発掘所を攻略せよ
  • 第4章:水没した図書館を攻略せよ
  • 第5章:スカイビルでの戦い
  • 第6章:四天王VS暴雪月花
  • その他個別に好きな箇所があればこちらへ

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