迫り来る襲撃者達
スカイビルにて行われたトップ会談は、一騒動あったもののひとまず無事に幕を下ろした。
途中、一組員の1人がクーデターを起こし、武装したテロリスト達に会場は襲われた。
だが四天王ハルピュイアとその部下アステファルコンの活躍により、犠牲者はなく切り抜ける事が出来た。
戦闘の結果、敵リーダーのケツァールは自爆により死亡。レクトルを裏切り反乱を企てたムラトゥスはアステファルコンにより身柄を拘束された。彼はプリズンに送られて調べを受け、然るべき処罰を受ける事になるだろう。
会議に参加した参加者達はアステファルコン、そしてハルピュイアに護衛されながら無事ビルから降り、地上まで生還した。
ここでの会談は混乱もあったが無事一定の成功を持って終了した。
ネオアルカディアを代表してシエルが、レクトル・ディンマを代表して会長ステアラーがエネルギーシステム契約書に調印した。
その意義は極めて大きい。
だが、その事をよく思わない者達も確かに存在していた。
スカイビルのトップ会談から1ヶ月後――。
【ネオアルカディア本部科学棟】
ここは本部の中に建てられた専用施設。
科学分野に関する研究所だ。
科学者達が研究に明け暮れるに十分な設備環境が揃っている。
今、このラボでは大勢の科学者が研究に勤しんでいた。
それは、とあるエネルギーシステムの開発のため。
「シエルさん、第4フェーズのエネルギー生成データが解析完了しました」
「ありがとう。すぐに確認するわね」
研究員から解析結果の報告を受け、シエルが頷いた。
彼女はこの科学棟でシステマ・シエルⅡの開発に取り組んでいるところだ。
開発に取りかかってから今で3ヶ月。
期限まではあと5ヶ月である。これは先月のスカイビル会談にて決まった。
彼女自身が半年以内には完成させると宣言したのだ。
「うん、いい感じね。前回よりも多岐に適合できるエネルギー成分が生み出されているわ」
上がってきたデータを見てシエルは満足そうな笑みを見せる。
「はい…!この分なら次のフェーズに進めそうですね」
「そうね、そろそろ第5フェーズの段階に入れそう」
システムの完成までにはいくつかのフェーズをパスしなければならない。
全部で10ある内の4段階目までをこれで達成した事になる。
多少の足踏みはあるが、今の所開発は順調に進んでいた。
『ピロリロリロ』
「あら、お客さんかしら」
室内のチャイムが鳴り、来訪者が来た事を告げた。
備え付けのモニターを見ると、見知った顔が映っている。
微笑んで見せると彼女はドアロックを解除した。
「シエル、ちょっとお邪魔するわよ」
「レヴィアタン、いらっしゃい」
研究室のドアを開けて1人の少女が入ってきた。
四天王のレヴィアタンである。
「研究の首尾の方はどうかしら?上手くいってる?」
「うん、今の所概ね順調。このペースなら納期には問題なく間に合いそう」
シエルの回答に彼女は肩をすくめてみせる。
「流石天才科学者。正直あと半年で完成させるなんて厳しいと思っていたんだけど」
「ふふ、私だって無謀な期限を設定したりしないわよ。既に開発に取りかかっていたし、このラボの優秀な研究員達の協力があれば十分に達成できると判断したの」
ここ科学棟にはネオアルカディアが誇る優れた科学者達が集められている。
能力の高い人材はハイクオリティに富んだ研究成果に欠かせない。
故にこの施設には選りすぐりのメンバーがスカウトされていた。
シエルも当然その1人である。
過去に、レジスタンスに所属しながら彼女はレベルの高い研究をしてきた。
そしてシステマ・シエルという画期的なエネルギーシステムを開発した。
バイル政権崩壊後、レジスタンスはネオアルカディアと和解。
研究成果が認められた彼女は晴れてネオアルカディア本部に招聘されたのだった。
「もちろん研究員達の質の高さは否定しないけど。でも私はやっぱりシエルの貢献が大きいと思うわ」
「そうかしら?」
きょとんとした顔でシエルが小首を傾げてみせる。
謙遜しているのか、自分ではその凄さをあまり自覚していないのか。
やれやれと再び妖将が肩をすくめた。
「これも天才の性というやつかしら」
シエルは言うまでもなく天才科学者である。
いくら研究員達のレベルが高いとしても、シエルのそれは飛び抜けていた。
若干16歳にして、彼女はプロジェクトリーダーに抜擢されている。
彼女がいなければシステマ・シエルⅡは理論から成り立たず、開発も実現出来なかっただろう。
「ふふ、ありがとう。素直に受け取っておくわね」
おべっかなどではなく、真っ当に評価してくれている。それを感じた彼女はにこりと笑ってレヴィアタンに微笑みかけた。
「半年という期限は私が責任を持って宣言した期間だから。今も困窮で苦しんでいるレクトルの人達へ、1日も早く新システムを完成させて実用化させるつもりよ」
シエルは確かな意志を持った眼差しで決意を新たにした。
『ALERT!ALERT!不法侵入者デス!』
「!」
「!」
その時、不意に室内に警報が鳴り響いた。
危険なALERTを告げるブザーが科学棟中に木霊する。
「な、何……?」
「どうやら本部の施設に許可を受けていない部外者が侵入したようね」
警報内容を聞いて妖将は瞬時にその内容を理解した。
シエルの方はそこまで警備システムには精通していないためすぐに理解は出来なかったが。
「だ、大丈夫なの?」
「ええ。心配しないでシエル。ちょっとした“賊”がやってきたみたいだけど、無問題よ」
不安そうにするシエルの肩に手を置き、彼女は微笑んで見せる。
「その程度なら私達の部下が片付けるし。もし万が一敵が強い奴だったとしても、私達四天王が守ってあげるわ」
「そ、そう。なら安心ね」
妖将に励まされてシエルは少し笑顔になった。
「じゃ、私は本部に戻って状況確認をしてくるから。警備の者を手配しておくけど、シエルはこの科学棟から出ちゃ駄目よ?」
「わかったわ」
警報ALERTの詳細確認のため、レヴィアタンは一度本部に戻る事にする。
彼女は連絡端末を取り出すと、部下に命令を出した。
「スタグロフ。今すぐ科学棟まで来なさい。もしここに賊が来た時のために守護を任せるわ」
『むふー、レヴィアタンさまのお頼みとあらば』
急な呼び出しにもスタグロフは二つ返事で引き受ける。
彼、ブリザック・スタグロフはレヴィアタンの部下である。
レヴィアタンさま一の子分と自称している彼は妖将からの頼みならば内容を問わず従う。
言うが早いか彼はそれから1分と経たずに科学棟前まで到着した。
苛烈な身体能力を持っているスタグロフはかなり遠くまで大ジャンプで一気に飛ぶ事が出来る。
そのリーチの広い広範囲移動を駆使し、彼は短時間で遠距離の地点まで到達可能なのだ。
「よし、来たわね」
いつもながら早い到着に彼女は頷くと、彼に改めて命令を出す。
「あなたは賊が排除されるまでこの科学棟を守ってなさい」
「むふー、了解しやした」
「ここにはシエルが居るんだから、絶対に敵を通すんじゃないわよ」
「御意。お任せをー」
馬鹿っぽい言動をする彼だが、レヴィアタンの命令とあれば適当に流さずに遵守する。
スタグロフが任務を理解したのを確認すると、レヴィアタンは本部へ向けて一度戻る事にした。
「ねえ、さっきのALERT警報は何なの?」
「おお、来たかレヴィよ」
会議用のモニタールームに彼女が到着すると、既に他の3人の四天王達は着座して雁首を揃えていた。
「遅えじゃねえかレヴィアタン」
「何よ、ちょっとシエル達の護衛の手配をしてただけよ」
「なるほど、それで少し遅れたわけか。だがそれは良い足労だ」
ファントムが納得したように頷いた。
「今シエル達科学者選抜チームは大事な研究をしている所でござるからな。もしもの事があってはならぬ」
「ええ、それに個人的にもシエルは大事な友達だから」
シエルはシステマ・シエルⅡの開発という一大案件を手がけている。
それだけで護衛対象として十分な理由だが、レヴィアタンとしてはそれ以前に一個人として大切な存在でもあった。故に本部へ戻るより早く真っ先に警護の手配をしたのだった。
「では、今わかっている侵入者の情報を話す」
彼女が着席したのを確認すると、ハルピュイアがモニター画面を指し棒で示しながら話し出した。
画面上にはそれぞれ別の画像が映っており、まず1つ目の映像には多数のレプリロイドの軍勢が映っていた。
ネオアルカディアの神殿前に敵襲と見られる軍勢が押し寄せており、パンテオン兵達が応戦している。
「ここはネオアルカディアの神殿前だ。先程、敵の軍勢が襲撃を仕掛けて押し入ってきたそうだ」
「おいおい、やけに大量にいやがるな」
「見た所汎用レプリロイドのようだが、敵の数はそれなりにいるようだ」
「多勢で押し入って乱闘まがいな事をするなんて、野蛮な連中だこと」
「今ネオアルカディア配下のパンテオン兵達で迎撃させているが、敵が大量にいるため対処に少々時間を要している。だがこちらはそこまで意識する事はないだろう」
ハルピュイアは敵の思惑を見透かしたように言う。
「これはおそらく陽動だ。こちらの意識を神殿前に集中させるためのな」
「ほう、という事は他に本命がいるという事か」
「そうだ。神殿前が襲撃を受けた直後に別の地点でも侵入者を確認した」
他の3つのモニター画面を彼は指し示した。
そこにはそれぞれ単身の男が映っていた。
「こいつらが本命の“賊”か?」
「そうだ。許可なくネオアルカディア本部の“各神殿”に侵入した男を3名ほど確認した。我らの管理下にある神殿敷地内を闊歩し、歩兵達を殺しながら進軍している」
賢将によると、神殿前が軍勢に襲撃を受けた直後、3名の男がネオアルカディア本部管轄の神殿に潜入したとの報告が上がってきたらしい。
映像に映る男達はランチャーを乱射しながら神殿内をそれぞれ進んでいるようだ。
パンテオン兵達が迎撃しようとするが、まるで歯が立たず難なく倒されていく。
「私達の神殿に勝手に不法侵入して荒らすだなんて、こいつらは一体何が狙いなの?」
「今の所奴らの目的は不明だ。単なるクーデターなのか、それとも別の目的があるのか」
「クーデターか。神殿前の軍勢を覗けばこやつらはたったの3人しかおらぬ。それだけの戦力でネオアルカディア本部を落とせると思っているということか」
「へへっ、面白えじゃねーか。ゼロの時を思い出すぜ」
かつてゼロが単身で攻め入ってきた時の事を彼は思い出していた。
あの時はまさかたったの1人相手に次々と塔内を突破され、最深部のXまで到達されるとは思わなかったものである。
「ま、確かにデジャヴだしあいつの事を思い出さないでもないけど。こいつらにゼロと同じ事は出来ないわ」
「うむ」
だがレヴィアタンとファントムが即座に否定した。
彼は“特別な存在”だった。
ゼロだからこそ普通なら不可能な事も可能にしてしまったのである。
それは彼と幾度も直接刃を交えてきた自分達だからこそよくわかっている。
「暴雪月花だかしらないけど、これまで倒してきた雑魚連中の親玉ってだけよ。ゼロとは比べるのもおこがましいわ」
「敵を侮るのは禁物だ。だが、あやつのような男は早々いるものではない」
「まあ言われてみりゃーな。そう簡単にゼロと同レベルの奴が出てくるとは思えねえ。だがよ。俺は期待したいんだぜ?こいつらが俺を燃えさせてくれる存在かもしれねえってな」
3人の四天王達がそれぞれ私見を述べた。
全員がゼロの事を意識しており、そして敵にその彼を少し重ねてもいた。
だが、その存在と同列視は出来ない。
ゼロは彼らの中では今も特別であり、唯一無二の存在だからだ。
「ふん、くだらん」
ハルピュイアが吐き捨てた。
「いつまでも死んだ奴の幻影を見るなど無為な事。今は敵の殲滅、ただそれだけを考えればいい」
四天王筆頭として賢将が他3人の気持ちの歪みを引き締める。
戦闘を前に四天王たる者が他の事に意識を逸らされるのを彼は嫌った。
「へっ、別に無駄じゃねえ。俺の中であいつはずっと燃えたぎってるぜ」
「はいはい、相変わらずストイックな坊やだこと」
「幻影を見るのは必ずしも悪い事とは限らぬ。思いを馳せるのも時には必要であろう」
だが3人は彼の言う事を鵜呑みにはしない。
あの男はそうおいそれと忘れられるような存在ではなかったからだ。
そして、諫めた彼自身も心の奥底では明確に意識していた。
口で言い放つことで表面上でも思い出さないようにしているのだ。
「ふむ、こやつらの内2人は見覚えのある顔でござるな」
モニター画面に目を戻したファントムが、何か思い至ったように言った。
「青年~壮年の男2人か。拙者の記憶が正しければ――」
「俺も覚えがあるぜ。確か俺が持ち帰った端末にデータが入ってた連中だよな」
「ほう、お前にしては記憶力がいいな。その通りだ」
「お前にしてはっ、て何だよ!俺は普通に記憶力いいっつーの」
賢将の言葉に食ってかかるファーブニル。
まあこれはいつもの事だ。
「3名の内2人は暴雪月花で判明している2名だと思われる」
「暴を司るライオヌル、月を司るムーンフェイズ。この両名で間違いないでござろう」
既に過去に解析した端末データにより2人の顔と名前は割れている。
どちらも青年~壮年の男性で、強力な敵である暴雪月花の2名だった。
ライオヌルは風の神殿に、ムーンフェイズは炎の神殿に侵入しているようだ。
「残る1人は特にデータがないけど、強い奴なのかしら」
「さあな。こいつらの部下かもしれん。その場合は他2人よりも劣るだろう」
「けどよ、もしかしてこいつも暴雪月花の1人かもしれねえぜ」
「確かにデータがないからといって部下クラスだとは限らぬ。他2人と同格の可能性もあるだろう」
四天王達は残る1人の敵について注視する。
見た所、3人の中では1番若そうな男だ。
年齢は13歳前後だろうか。少年のような風貌をしている。
その者は氷の神殿に侵入し、出くわす敵をショットガンで撃ち殺しながら奥へと進出していた。
「ただ、私が以前持ち帰ったデータに載ってた情報とは一致しないのよね」
「あん?どういうこったよ」
「私が水没図書館で見つけたデータがあったでしょ?そのデータの情報に残る2人の暴雪月花のデータが入ってたじゃない。顔写真は載ってなかったけど、花を担当しているのは女性らしいのよ。だから映像の彼とは違うから除外。他に雪を担当しているのはファシュロカっていう男だと書いてあったわ。氷の能力を使う“凍将”と呼ばれていて、イケメンの男だって。モニター映像を見る限りこの男はイケメンっていう感じじゃないわ」
「イケメンて、おい」
「事実データにそう書いてあったのよ。でも、映像の彼はイケメンの男っていうより“この子”って感じの子なのよね。どっちかというと可愛い系って感じじゃないかしら」
「イケメンだの可愛い系だの、敵の判断基準そこかよ」
「いいの!私の勘は確かよ。この子はおそらく暴雪月花ではないわね」
「ふむ、レヴィが言うならそうなのであろうな」
「まあいい。どの道、部下だろうと頭だろうと倒すべき敵なのは変わらん」
ハルピュイアが一度話を切るように言った。
今はとにかく本部施設内に討ち入っている敵に対処しなければならない。
「まさかあちらの最上位に位置する者達が本部を襲撃しに来るとは、解せぬな。何故今ネオアルカディアの中枢機関へ急襲を仕掛ける必要がある?何か魂胆があっての狼藉か」
「さあな。理由はわからん。だが許可無く我らのテリトリーに侵入し、歩兵達を殺して回っている時点で粛正すべき賊だ」
彼らは早速この侵入者達を処理する事にした。
しかし、いきなり彼らが出張る事はない。
「まずは部下達を行かせる」
「俺達が行かなくていいのかよ?内2人は暴雪月花の連中だぜ」
「構わぬ。まずは部下を当てて“どの程度のものか”小手調べしてみるとしよう」
「お手並み拝見ってわけね」
ここは彼らの本拠地であるネオアルカディア本部である。
部下のボス勢が控えており、何も四天王が即向かう必要はない。
これがギラテアイト奪取のミッションならば成功率を上げるために彼らが直々に出向くところだが。
「バーブル・ヘケロット」
「アヌビステップ・ネクロマンセス6世」
「ポーラー・カムベアス」
四天王達がそれぞれの配下ボスに指示を飛ばす。
「今すぐ侵入者の元へ向かえ。お前はライオヌルの所へ」
「おめえはムーンフェイズの元へ」
「カムベアス、あなたは残り物の坊やの所へ行きなさい」
無線通信を通じて彼らは命令を送った。
『ケロー!了解致しました、ケロ!』
『我が主様、ご命令招致しました』
『ボファー、かじごまりまじだレヴィアタンざま』
3体のミュートスレプリロイド達がそれぞれ命を受けて現地へ赴く。
今、ネオアルカディア本部における襲撃者達との戦いが始まろうとしていた。
これまで投稿された話で好きな話はどれですか?※アンケートの結果で今後の話の展開やキャラの偏りなどに影響が出る事はありません。あくまで皆さんの感想を知りたいために実施するアンケートですので^_^
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第1章:稀少資源ギラテアイトを奪取せよ
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第2章:敵本拠地を急襲せよ
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第3章:エネルゲン水晶発掘所を攻略せよ
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第4章:水没した図書館を攻略せよ
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第5章:スカイビルでの戦い
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第6章:四天王VS暴雪月花
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その他個別に好きな箇所があればこちらへ