カツカツ、と小気味いい足音が城の通路に淡く響く。
床に敷き詰められた紫硝子の面にヒールの踵が触れる反響でこの音は鳴っていた。
音の主は四天王のうちの誰か?それはこの状況証拠だけで推理する事が可能だ。
何故なら音の元であるヒールを身に付けているのは4人のうち1人だけだからである。
「フフ、私が思った通り凄く綺麗な所。紫硝子の廊下なんて洒落てるじゃない」
楽しそうに微笑む少女の声は偽りなく本心を語っていた。
彼女は美しいものを好む習性があり、美の感性に感銘を受けると嬉しそうにそれを褒めるのだ。
すらっとした細い脚を止めて青き四天王が改めて辺りを見渡す。
「気に入ったわ。この紫硝子の城って所、凄く良い場所ね」
満足そうに笑う彼女の名は妖将レヴィアタン。氷を操る美の四天王だ。
唯一の紅一点でもあるため、他の3人に比べてこういう要素には敏感である。
少しでも小汚い汚れが目につくと彼女はあからさまに不快な表情を見せるほどの綺麗好き。
その彼女の目を持ってして、この場所は美しいと誇れる格式があるようだ。
「でも残念ね。折角こんなに綺麗なお城なのに、汚い雑魚の残骸が目障り」
彼女は脇に転がっている残骸を見てため息をつく。
そこには倒された敵が身体をえぐられて転がっている。
ついさっき、彼女は一戦闘終えた所だった。
到着して早々に彼女は真後ろから視線を感じた。
振り返ると、パンテオンエースが2体おり、こちらを伺っていた。
伺っていた、といっても近い距離からではない。
優に50m近くは離れていたのだが、彼女は鋭敏な警戒心で察知し、遠距離からの気配でも感づいたのだ。
彼らは振り返った妖将に一瞬驚いたが、すぐに攻勢へと転じる。
ホバーを使って上空へと飛び、彼女へと迫った。
しかし彼女は慌てず、ホーミング弾の連弾を発射。
パンテオンエース達はその間を縫って躱そうとするが、一部かすってダメージを負ってしまう。
そして、躱し切った所でさらに間髪入れず、追撃の氷の輪が放たれた。
レヴィアタン得意のミサイル&氷の連技である。
これは流石によけ切れず、彼らはモロに喰らってしまう。
そして数秒後にはとどめの切っ先が首元を貫いていた。
「まったく嫌になっちゃうわ。この私に変な目を向けるなんて。こんな弱くて汚い連中なんかに興味はないのよ」
ふう、と吐き捨てて彼女は彼らの顔を見つめた。
「でも、おかしいわね。なんでこいつら変なゴーグルみたいな物つけてるのかしら」
レヴィアタンは違和感に気付いていた。
倒された彼らは目に何かのパーツをつけている。
パンテオンエースはパンテオンが強化された個体だが、通常こんな補強パーツは標準装備されていないはずだ。
(もしかして何かを調べるための機具……?)
彼女は不審な装備に疑念を抱く。
だが、別段それほど気にも止めない。
(ま、別にどうでもいい事だわ。こんな雑魚が私をサーチした所で相手にもならないもの)
くるり、と踵を返して彼女は歩き出す。
気を取り直して彼女はまた城内散策を再開する事にした。
ここは紫硝子の城。
その名の通り、紫の硝子で作られたお城だ。
壁や床は紫硝子と紫水晶が織り交ぜられており、歩くだけでその美しさを実感する事が出来る。
「本当に素敵な場所。やっぱりここにして正解だったみたい」
フフ、と楽しそうに微笑むレヴィアタン。
己の美意識に相応しいこの城を彼女はすっかり気に入っていた。
どこを見ても綺麗でつい見入ってしまうほどだ。
「でも景観に感心してばかりもいられないのよね。さっきからずっと探してるんだけど、未だに何の反応もないのは困りものだわ」
はあ、と頬に手を当てて彼女は憂いた顔を見せる。
ここはライズ地区に昔からある中世のお城らしく、部屋数が結構あった。
階段や廊下も所々に存在しており、なかなか探索も一苦労であった。
「ふぅ、意気込んで私一人で来ちゃったけど、失敗したかしら。これなら1人よりもスタグロフ達を連れてきて探させた方がよかったかも」
まるで要塞、とまでは大げさだが、この紫硝子の城は結構な広さがある。
それに比例して作りも凝っており探し場所もたくさんあるのだ。
怪しそうな小物も色々あるため、どこから探していいものか迷うくらいである。
「ま、でも地道に進めていきましょ。これでももう1/3は終わったしね」
既に1時間ほど経ったが、彼女は城全体の35%ほどを調べ終えていた。敷地面積の広さを考えれば十分なスピードを持って探せているといってよいレベルだ。
彼女はこの手のコツコツとした地道な細かい作業は得意な方なため、効率よく探す事が出来る。
レーダーをかざしながらの根気のいる作業だが、彼女は淡々と作業を遂行していった。
それから約1時間30分が経過。
彼女は音を上げることなく黙々と探索を続けていた。
レヴィアタンは一度集中すると例えなかなか成果が出なくても飽きっぽくはならず、集中力を持続させられる長所がある。
これはぜひともファーブニルに見習ってもらいたいところだろうか。
「PiPiPi………!」
「あっ………」
不意にレーダーの探知音が鳴った。
端末の画面には目標物のエネルギー反応が出ている。
これは付近50m以内に特殊エネルギーが存在しているという事だ。
「ビンゴだわ。この近くにそれがあるのね」
彼女は目当てを引いて嬉し気に微笑む。
辺りを見回し、怪しそうな物がないか周囲を確認した。
ここはちょうど部屋のドアの前である。
ドアの周囲や後方には特に何も物はなく、ただ紫硝子の廊下と壁があるだけだ。
という事は、目の前のドアを開けた先に何かある可能性が非常に高い。
「ゴクリ」
あえてわざとらしく唾を飲むレヴィアタン。
この先にある未知の存在にドキドキしつつ、その実ワクワクもしていた。
彼女は念のため室内に“敵”が潜んでいる可能性に備えて武器のフロストジャベリンを構える。
この武具は槍として鋭い突きを見舞う事も出来れば、氷を発現させて様々な技を繰り出す事が出来る便利な武器である。十の光る武具の一つであり妖将愛用の相棒だ。
『ガチャリ』と僅かにドアノブの音をさせ、レヴィアタンは部屋の中に足を踏み入れる。
無音。
室内は幸い誰もいないようで、敵の気配も殺気も感じられなかった。
部屋内には物はあまりなく、必要最低限の物だけが備えられている感じだ。
机と椅子のセットが一脚とクローゼットがある。それと壁に大きな鏡が1つかけられているくらいか。
(どうやら敵はいないみたいね。気になるといえば、このクローゼットかしら)
机の右横に鎮座している小さなクローゼット。
両扉は閉じられているため、中は確認できない。
クローゼットの中にエネルギーが保管されている、とは考えにくいが、その可能性は少なくない。
何せこの部屋の中に反応の元があるのはまず間違いないからだ。
「……………」
再び彼女はフロストジャベリンを構える。
中にあるのはエネルギーかもしれないが、敵が潜んでいる可能性もある。いやむしろそっちの可能性の方が高いか。
敵が飛び出してきても即戦闘に入れる体勢を整えて彼女は気を見計らう。
数秒待ってから、彼女はクローゼットのとってに手をかけて勢いよく開けた。
「…………なーんだ残念。スカみたいね」
扉を開け放った中はもぬけの殻であった。
クローゼットだというのに衣服の1つすらも入っていない。
拍子抜けしたレヴィアタンは息を吐いて扉を閉める。
「うーん、でも変ね。この部屋にアレがあるのは間違いないはずなんだけど」
レーダー反応を鑑みればこの部屋の中にブツがあるのは間違いなかった。
しかし、このクローゼットがスカとなると、残る隠し場所は見当たらない。
「…………まさかこの鏡、じゃないでしょうし」
壁にかけられている大きな鏡が妖将の目にとまる。
紫のフレームで覆われたアンティーク風情の鏡。
古めかしそうな年代物らしく、サイズも相まってなかなか不思議な感じを抱かせる鏡だ。
「綺麗ね……流石このお城の調度品って感じ」
一見異様ではあるのだが不思議な魅力を纏う大鏡に彼女は少し見入った。
部屋内の隠し場所として考えられるのは、残すはこの鏡くらいしかないのだが、この鏡にエネルギーが隠されている事はまず考えづらい。
無意識に怪しい警戒心を緩めてレヴィアタンは鏡の美しさを鑑賞する。
昔はこの部屋に住んでいた住人がこの鏡の前で髪をときながら化粧をしていたのだろうか……などと考えつつ彼女は自身の顔をまじまじと見つめた。
「フフ、私ってやっぱり可愛い顔してるわよね」
無意識に彼女の口から感想が漏れる。
自然に出た、率直な言葉だ。
これは驕りではなく自然な本心であった。
妖将、と呼ばれているだけあって彼女は容姿のレベルが高い。
客観的に見てもそうなのだが、彼女は主観的に見てもそのように思っていた。
「さすがは私、妖将レヴィアタン。我ながらうっとりするわ」
のろけ気味になり彼女は自分に酔う。
陶酔、と言っていい行動だが、彼女は羞恥心を捨てて頬に手を当てて酔っていた。
こんな傍目から見て恥ずかしい言動を取れるのは周囲に人目が無く、ここが外から隔離されているからだった。
人が見ている前ではもちろんこのような醜態行動は彼女はしない。
しかし、緩んでのろけているのはまずかった。
彼女は僅かな時間ではあるが、自分が今特殊エネルギー探しをしている事を忘れていた。
そのエネルギーが大変稀少で価値がある事。
つまりそれを保持している者はかなり慎重にブツをわかりにくい場所に隠しているという事。
目に見えない場所―――。
それは、何かで覆っているとか、壁で遮っているとか、床下に隠しているとか、死角の真上に保管しているとか、物理的にどうにか隠すとかいう場合だけに限定されるわけではない。何も、物理的に隠さなくてもやりようはあるのだ。
例えば影の力を使って闇の中に紛らわせるなど。それならば物理的には無理でも特殊能力で隠す事が出来てしまう。
この部屋の場合も同じ事だった。
これがもし闇に紛れる事を得意としている陰将ファントムならば、状況は違っただろう。
おそらくここの違和感を見逃さずに目ざとく気付いたはずだ。
だが、運悪くこの部屋に当たったのは妖将。彼女は美の意識が高いが故に、そちらに気が削がれてしまった。そのために危険な兆候を見逃していたのである。
いつの間にか、鏡面に波紋のような揺らぎが生まれていた。
僅かな変化だが、鏡の映写をゆらりと揺らす拍動。
(あら……?今、一瞬何かぶれたような)
ようやく彼女は異変が起こっている事に気付いた。
しかし、のろけていた分察知が遅れてしまう。妖将が違和感に気が付いた時には既に手遅れであった。
大鏡の奥から、何かがすっと音もなく表出した。
気配もなく、ほんの一瞬の出来事。
鏡から出てきたのは大きな腕であった。
「え」
ガシり
【挿絵提供はりこのま様】
彼女が気付いた時にはもう大きい腕に手が捕まれていた。
(しまった――!)
そう思った時には足が宙に浮いていた。
次の瞬間、レヴィアタンの身体が強い力で引っ張られる。
強烈な磁石に引き寄せられたように妖将の身体は鏡に吸い込まれた。
「なっ!ひゃァ……!?」
抗おうとするも時既に遅し。
完全に両足が地面から離れ、踏ん張る事も叶わない。
引っ張られるがままに妖将の身体は大鏡の中へとダイブした。
これまで投稿された話で好きな話はどれですか?※アンケートの結果で今後の話の展開やキャラの偏りなどに影響が出る事はありません。あくまで皆さんの感想を知りたいために実施するアンケートですので^_^
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第1章:稀少資源ギラテアイトを奪取せよ
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第2章:敵本拠地を急襲せよ
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第3章:エネルゲン水晶発掘所を攻略せよ
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第4章:水没した図書館を攻略せよ
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第5章:スカイビルでの戦い
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第6章:四天王VS暴雪月花
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その他個別に好きな箇所があればこちらへ