賢将の身体は高い高度に位置する飛行船へ向けて接近していた。
もう目と鼻の先ほどまでに距離は近付いている。
「PiPiPi……!」
「む……!レーダーの反応有りか」
半径50m以内に入った事で、レーダーの探知機能が効くようになった。
反応が出たという事は“当たり”という事だ。
「やはり俺の読みは正しかったようだな」
確信を得てハルピュイアの目が鋭く光る。
彼はソニックブレードを構えて一気にブーストをかけて加速した。
飛行船の入り口を見つけると、彼はそちらに巧みに旋回して降り立つ。
「ここが搭乗口だな。早速開けさせてもらうぞ」
言うが早いかソニックブレードが一閃される。
ロックがかかっているのもお構いなしに入り口のゲートは切り開かれた。
「何奴!?」
船内に入って早々、来客が現れた。
顔を黒ずくめのナプキンで覆った賊のような輩が。
手にはバズーカを所持している。
しかしそれを見ても狼狽する事など微塵もなく、ハルピュイアは逆に質問を投げかける。
「俺か?言わずともわかるだろう」
「何……?………!?き、きさまは」
賢将に指摘されて初めて黒ずくめの男は潜入者をよく見てみた。
すると、時間差ラグの後、ようやくそれが誰だかに気付く。
「け、賢将ハルピュイア……様、、!」
「理解したか?ならば道を開けよ」
「く、、!は、ははあ………!」
バズーカを放とうとするも苦悶の表情を浮かべた後、彼はひれ伏した。
ネオアルカディア四天王の権威はここライズの地にも轟いており、賢将ハルピュイアの名を知らぬ者はいない。
彼がそれを認識した時点で反抗するなどあり得ない選択肢であった。
一般兵クラスの賊を素通りし、ハルピュイアは船内を歩いて進み始める。
他にも同じような賊が銃を向けていたが、彼の正体を理解した事で先の者と同じように戦意を喪失して皆頭を垂れていた。
最初の部屋を過ぎ、彼は次の号室へ入る。
そこでもさっきのデジャヴのように賊が襲ってこようとしたが、彼は同様に黙らせるとまたも頭を垂れさせた。
まさに四天王の威厳による無言の圧力である。
さらに長い廊下を進み、次の扉を開けるハルピュイア。
そこからは階段になっていて上に上がれるようになっている。そのまま階段を上ると、視界が開けた。
そこは少し様相が異なっており、天井は無く天空が覗いている。
部屋というより飛行船の上部に作られた外に面したテラスといった所か。
「ほう、ここでブツを保管しているわけか」
ハルピュイアの視界は奥のボス格の男を捉える。風貌・そして目に見えない“気”で彼が大将格であるとハルピュイアは察して話しかけた。
「こ、これはこれは賢将ハルピュイア様。よくぞお越しくださいました」
奥に立っていた初老とおぼしき男のレプリロイドが、彼に向けて挨拶する。
黒いサングラスに葉巻をふかした、見るからにボス風情の男だ。
だがその態度はへこへこしていて威厳は感じられない。
「お前が責任者か?」
「へ、へい。あっしがボスのピラギアでさ」
過度にへりくだった様子で彼は賢将に尋ねる。
「こんな辺境のライズに来られるとは、きょ、今日はどういったご用件で……?」
「皆まで言わせないとわからないか?ここに“ギラテアイト”があるだろう」
ソニックブレードの刃先を彼に向けてハルピュイアが詰問する。
「そ、そんな物、、持ってやしません」
「ほう?しらを切るというのか」
「、、いや、だってそんな物ありゃしませんから」
男はたどたどしい口調で弁明した。
「先程私の持つ探知レーダーに反応があった。嘘を言っても通用しないぞ」
「そ、そんなに仰るなら探してみたらいかがで、、?」
「何?」
ギロリ、と賢将の目が睨む。
「ヒィっ……!」
「いいだろう。ではそれが出てきたらお前らは監獄行きだ」
おののくピラギアを尻目に彼はレーダーを再び取り出した。
そしてもう少し詳細な場所を調べようとする。
音が大きくなるほど近くに対象物があるという事だからだ。
「む……?」
しかし、彼はおやっとなった。
レーダーが一切反応を示さなかったからだ。
音一つ鳴る気配がない。
(どういうことだ?さっきは反応していただろう)
彼はレーダーの調子が悪いのか、と思った。
だが距離的にはさっきより近付いているはずで、反応が遠くなるはずはない。
何より、ネオアルカディアの技術部が作成した最新鋭の機具だ。壊れて反応が切れるなど考えにくい。
「お前達、ブツをどこかへ持ち去ったな?」
「へっ……!」
ビクウ!とピラギアの肩が跳ねる。
リアクションの態度からするに、どうやらそのようだ。
「な、何を言ってなさるんですかね。そんな事するわきゃないでしょう」
「正直に言え。さもなくばここで始末するぞ」
「ヒィぃ!」
ブレードの切っ先を彼の鼻面に突きつけるハルピュイア。
嘘である事はもうわかっているのだ。
「あ、あなた様が飛行船に乗り込む直前に、上官が転送装置を使って外部へ運び出したんでさあ」
「なに……?」
賢将の恫喝に負け、彼は白状した。
どうやら彼が飛行船内に立ち入る寸前に何者かがギラテアイトを持って外部へ持ち去ったらしい。
(なるほど。それでさっきはレーダーが鳴っていたのに今は反応しないわけか)
「やはりな。で、その転送装置を使ってそいつはどこへ行った?」
「そ、そこまでは知りやせん。向こうもいきなり転送装置でおいでなすって……。『強敵の四天王が近くに来ている。今すぐにここにあるギラテアイトを移動させる』とだけ言って、そそくさと回収して行っちまいやした」
「ほう。本当に行き先は知らないんだな?」
「へ、へい…!」
凄まれた彼は尻込みした。
彼の話を信じるなら、下っ端の彼らには詳しい情報までは教えられていないのだろう。
(しかし、妙だな。私の接近に気付いてから転送装置で逃げるまで、間に合うとは思えんが)
ハルピュイアは疑問を感じた。
飛行船に乗り込む直前に上から降りてきた雑魚を片付けたが、それからここに乗り込むまでには2分とかかっていない。
もっと前の時点で気付いていないと、ブツを回収しにやって来てそこから再度転送で逃げるのは難しいはずだ。
(もしや、もっと前の段階で気付かれたのか?)
彼はとある可能性に気付く。
ここへ近付くよりももっと前に察知されたのではないか。
(……まさかとは思うが)
ここへ来て早々に、彼は2体のパンテオンを片付けている。
その者達を通じて連絡が行ったのかもしれない。
(連絡する暇など与えなかったはずだが。どうやって――)
気配を察知してすぐ、彼はパンテオンを切り倒している。
敵は連絡端末なども持っていなかったはずだ。
(もしや、あの目につけていたパーツか……?)
はっと彼は違和感に思い至る。倒した彼らは目に補助器具のようなパーツを付けていたのだ。
もしかすると、単なる補助器具ではなく外部との情報通信機能があったのかもしれない。
(ちっ……つまり、俺は到着早々に敵にそれを知られてしまったという事か)
ギリ、と彼の眉間に皺が寄った。
雑魚相手とは言え、その可能性を失念して放置してしまった。
もっと早く気付いていれば、みすみすギラテアイトを持ち逃げされる前にここへ押し入って防げていただろう。
己の不始末に苛立ちつつ、彼は気を取り直して眼前のピラギアに言った。
「そうか。状況は理解した」
「へ、へえ。で、ではあっしはこれで」
「待て」
立ち去ろうとする彼の肩をハルピュイアが掴む。
「っ!な、何でさあ……?」
「まさか何もお咎め無しと思っているのか?」
鋭い眼光で彼は男を射貫く。
「貴様らには監獄へ連行して詳しい話を聞かせてもらう」
「ま、末端のあっしらは、上からは何も知らされてやせん……!聞いても何も出やせんぜ」
「確かに機密の最重要情報までは知り得ないだろう。だが、多少のやりとりはあったはずだな。今も上からの伝達でブツの移動に立ち会っている」
「ぐ……!」
「お前達は立派な幇助罪だ。大人しくお縄についてもらう」
賢将によってジャッジが降された。
この飛行船における関係者達は密売人であり、特殊エネルギーの無断保有・無断売買・虚偽をしている罰則対象であると。
「ぐううう、、!」
「貴様らを独占禁止罪の疑いで一斉検挙する。ネオアルカディアのプリズンへ強制収監だ。いいな?」
四天王によって断罪され、逮捕が決定された。
強制収監、という命令を受けてしかしあちらのボスであるピラギアは様子が変わる。
「へへ………バレちまったか。こうなりゃ仕方ねえ、監獄行きは困りやすぜえ」
男は片手を高く頭上にかざした。すると、背後から舎弟達が姿を現す。
1人、また1人と現れ、その数は増していく。
いつの間にか20体ほども手下達が集まっていた。
彼らは皆バズーカを構え、ハルピュイアの周囲を取り囲む形で包囲している。
「おめえら、よーく見てみな。あいつは賢将じゃねえ。よく似た格好で擬態しているだけの影武者にすぎん。恐れる事はねえ。あれは所詮偽物の軟弱者よ。俺たちの商売にケチをつけてきやがったあのろくでなしを許すな。であえであえ!蜂の巣にして撃ち殺しちまいな!」
本性を現したピラギアはマフィアの顔を覗かせる。
彼らは闇組織の一派であるブラックホーネスト。
裏世界の闇商売で希少価値の高い特殊エネルギーを秘密裏に取引し、無断で保有・売買を企む悪の組織だ。
その闇商売の隠蔽・極秘進行のために、空港の上空にて死角となる飛行船内部にて船腹し企みを進めていた。
しかし今回賢将の茶々入れによりその企てが明るみに出てしまう事になり、それではこれまでのやりくりが水の泡になってしまう。
それを阻みたいピラギアはこの飛行船内で賢将を暗殺してしまおうと考えたのだ。
ここは高度20kmの上空であり、外界からは完全に隔離されている。ここで賢将を殺しても犯行がバレる恐れはないと言っていい。
だからこそ彼らは賢将相手でも強気になれた。
「愚か者ども。悪事が判明してもなお荒事に臨もうか」
「悪人に悪事を改めて更生させようなど所詮綺麗事よォ。この場を見られちまった以上、もはや貴様を生かしてはおけねえ。ここで散りな!!」
ボスであるピラギアの合図と共に、一斉にバズーカの引き金が引かれた。
無数の弾丸が賢将の身体を襲う。
「どこを狙っているんだ」
次の瞬間、いつの間にかハルピュイアの身体は20mほど左に移動していた。
つい今し方までいた場所からは忽然と姿が消えている。
放たれた幾多の弾丸は虚空を通り抜けて外れた。
「なに、いつの間にあんな所に……!?」
「馬鹿な!たしかに今そこにいたはず…!」
舎弟達は目で認識できないほどの早さで動いた賢将のスピードに対応出来ず面食らった。
所詮はヤクザのごろつきである。四天王の1人である賢将と同じレベルの景色など認識できるはずもない。
「今のですら“見えない”のか。話にならんな」
呆れたように言い残し、またハルピュイアの姿が消えた。
今度はさっきと違い、他の場所にも姿が見えない。
「ま、また姿が見えなくなりやがった」
「ど、どこへ行きやがった!?」
「わからねえ、どっかに消え――――」
舎弟の1人が言葉を最後まで言えず倒れた。
「ど、どうした!?き、気絶してやがる……!」
「いったい何が………ぐあっ!?」
続けざまに別の舎弟も呻き声をあげて崩れた。
後ろから一瞬のうちに殴り倒されたのだ。目にも止まらぬ速さで。
「ハ、ハルピュイアか………!」
10秒ほどで舎弟達はようやく事の状況が理解できてきたが、それが出来た頃にはもう8割の船員が倒されていた。
「く、くそ……!何という強さだ……!」
「あれが賢将の真の力か……!」
圧倒的な力差に畏怖する舎弟達に、しかし賢将は冷めた様子で言った。
「この程度は5割の力にも満たん。お前達など切り伏せるのもおこがましい」
その言葉が終わったが早いか残る4人の手下達も後頭部を殴られて卒倒する。
見る間に全ての舎弟達は賢将によって戦闘不能を余儀なくされてしまった。
「ぐぐううう…………」
残ったのはボスのピラギアただ1人。
「どうだ。これで理解出来たか?大人しく観念して投降しろ」
お前達にはエネルギーの密売情報に関して色々訊きたい事が山ほどあるのでな、とハルピュイアは言った。
ピラギアはこの状況でもなお反逆の意思がある。
たとえ1人でも奴さえ殺せればこの犯罪は明るみにならず、まだまだ闇商売が続けられるのだ。
上からの信頼もいっそう増し、彼には多くの返礼が送られる事だろう。
しかし賢将を前にしたこの場を上手く切り抜けるビジョンは彼には全く描けない。
あまりにも戦力差が違いすぎる。ピラギアは彼らのボスとはいえ、あくまで彼らの中での長というだけ。
“ヤクザ風情”では戦闘に長けたレプリロイド相手には無力と言ってよかった。たとえバズーカを撃っても軽く躱されてしまうだろう。
「ぐ、くそ、くそおぉお」
彼は跪いてバズーカを落とした。
勝ち筋が見えず、勝機を失ったのだ。
ハルピュイアの前では、ピラギアの力では抵抗しても敵わない。それを否が応でも彼は理解させられた。
こうして闇組織ブラックホーネストのボスは降伏し、このライズ空港でのミッションは終了した。
特殊エネルギーの回収という目的は達成できなかったが、末端の者達とはいえ関係組織の情報源を得た。
「さて、あとは本部まで転送してすぐに帰還したいところだが。あいにくこいつらを全員移送しなければならん」
まだ彼にはブラックホーネストの団員達をネオアルカディアのプリズンまで届ける任務が残っていた。
彼らを個別に転送する事はできないため、このまま飛行船を操ってネオアルカディアまで向かう事になりそうだ。
気怠そうな顔を見せるハルピュイアだが、四天王のリーダーとして疎かにするわけにはいかない。
ため息をつきつつ賢将は飛行船の舵を取り、ネオアルカディアへ向けて運転を開始した。
これまで投稿された話で好きな話はどれですか?※アンケートの結果で今後の話の展開やキャラの偏りなどに影響が出る事はありません。あくまで皆さんの感想を知りたいために実施するアンケートですので^_^
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第1章:稀少資源ギラテアイトを奪取せよ
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第2章:敵本拠地を急襲せよ
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第3章:エネルゲン水晶発掘所を攻略せよ
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第4章:水没した図書館を攻略せよ
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第5章:スカイビルでの戦い
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第6章:四天王VS暴雪月花
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その他個別に好きな箇所があればこちらへ